歯科経営者に聴く - かめいどファミリー歯科 関根 伸行 院長(前編)

歯科経営者に聴く(前編)

~第一線で活躍する院長・理事長から学ぶ~

かめいどファミリー歯科

 東京都・亀戸駅周辺は、都心へのアクセスの良さに加え、昔ながらの下町情緒と人の温もりが感じられる、利便性と暮らしやすさを兼ね備えた魅力的なエリアである。駅直結の商業施設や再開発による発展もあり、ファミリー層から高齢者まで幅広い世代が安心して暮らせる地域として注目を集めている。
 そんな亀戸駅から徒歩7分の場所にある「かめいどファミリー歯科」は、地域に根ざした歯科医院として、お口の健康にとどまらず、全身のバランスや健康寿命の延伸まで視野に入れ、患者様一人ひとりが笑顔で過ごせる未来を支え続けている。
 今回は、今月と来月の2回にわたり、院長・関根伸行先生にお話を伺った。

関根 伸行 院長

かめいどファミリー歯科 関根 伸行 院長

【プロフィール】

  • 1971年東京都 生まれ
  • 2001年日本大学松戸歯学部 卒業
  • 2001年やまもと歯科医院(江戸川区西葛西)勤務
  • 2003年森嶋歯科医院(江東区亀戸)副院長として勤務
  • 2011年かめいどファミリー歯科 開院
  • 2019年シュミテクト Web CM出演
  • 2020年覚悟の瞬間 出演
    医療人百科 出演
  • 2021年Doctors Film 出演
  • 2022年雑誌「Hanako」掲載
  • 2023年ポリデント デンタルラボ Web CM出演
  • 2024年ポリデント Web CM 出演
    アジア歯科鍼灸統合学会(AIDAS)専務理事
  • 2025年東京歯科鍼灸統合勉強会(TIDAS)講師・インストラクター
    日本歯科東洋医学会 関東甲信越支部 学術理事

【開業に至るまで】

歯科医師を目指されたきっかけについて教えてください。

物心がついた頃から、祖母に「歯科医師は収入も安定していて、夜勤もなく、日本でもっともステータスの高い職業の一つ」と勧められていたことが影響しています。気づけば自然とその言葉が頭に刷り込まれ、歯科医師という道を目指すようになっていました。

院長が卒業後の勤務先を選ばれたポイントを教えてください。また、そこでどんなことを学ばれましたか。

実は、就職活動らしいことはあまりしていなかったんです(笑)。先輩の紹介で「やまもと歯科医院」を勧められ、「今から2時間後に来てください」と言われて突然訪問し、そのまま採用という、割とノリで決まった感じでした(笑)。

そんな中でも、非常に多くのことを学ばせていただきました。多くの歯科医院では、患者さんの主訴に応じた治療をして、次回はメンテナンスへという流れが一般的だと思いますが、やまもと歯科医院では、初診時にP処、C処、根治、メンテナンスまでを含めた包括的な治療計画を立ててから診療に入る方針で、非常に勉強になりました。

開業しようと決断した時期 いきさつはどんなことでしょうか。

開業を意識するようになったのは、友人たちが次々と開業したことがきっかけです。私自身も、また大学時代の仲間たちも親が歯科医師ではなかったため、開業についてはあまり現実的に考えていませんでした。しかし、友人たちが“居抜き物件”で開業しているのを見て、そういう方法もあるのか、自分のやりたい治療ができる環境をつくれるかもしれないと思うようになりました。そんな中、当時副院長として勤務していた森嶋歯科医院の院長先生が急逝され、後継者も未定という状況になり、急遽医院を引き継がせていただくことになったのが、実際に開業へ踏み出す大きな転機でした。

開業前に一番不安だったことは何ですか? どう乗り越えましたか。

医院を引き継ぐにあたり、2か月ほど一時的に閉院して準備を行いました。患者さんもそのまま引き継ぐ形だったので、お待たせしている状態に焦りを感じていました。自分の意思で一から計画して開業したわけではなかったため、時間的な余裕もなく、迷っている暇もありませんでした(笑)。実はそれ以前に、多摩市で別の居抜き物件の開業話もあり、契約書に実印を押すかどうかという段階で祖母が倒れてしまい、その話は一旦保留になっていたんです。その直後に森嶋歯科医院の院長先生が亡くなられたこともあり、これはもう“運命”だと感じ、譲り受ける決心をしました。

開業後、理想と現実のギャップを感じた瞬間はありましたか。

勤務医の頃からある程度数字は見ていましたが、開業してからはより一層、経営面を意識するようになりました。保険診療の範囲で必要なこと、やりたいことを丁寧にやろうとすると、どうしても採算が取れない場面が多く、葛藤することもありました。前院長の体調の影響で勤務医として森嶋歯科医院に来た頃は1日5〜6人ほどの来院数でしたが、私が勤務するようになってからは30人ほど来院いただけるようになり、その状態からの開業であった為、本当にありがたかったです。ただ、そのぶん診療だけでなく事務作業や運営全般の負担もあり、両立の大変さを痛感しました。

【理念・治療スタイル】

経営理念や診療方針を教えて下さい。

何より大切にしているのは、患者さんのことを真剣に考え、自分と同じ方向を向いて、一緒に喜びを分かち合える仲間と働いていくことです。来年で50歳を迎えるにあたり、これからの歯科医師人生をより深く考えるようになり、単に多くの人を雇うのではなく、志を同じくするメンバーと共に、本当に患者さんに喜んでもらえる医療を追求したいという想いが強くなりました。

大手医療法人が悪いわけではありませんが、時に個々の裁量が失われ、歯車の一つのように働かざるを得ない場面があるのはもったいないと感じています。だからこそ当院では、スタッフ一人ひとりが裁量を持ち、主体的に患者さんのために働ける環境づくりを大切にしています。その場を提供するのは、自分の使命と考えております。

治療スタイルに影響を与えた特定の経験や出会いがあれば教えてください。

般歯科や審美、小児、外科、インプラントといった分野に加え、歯科医師の資格を活かしてできるアプローチは、実はもっと幅広く存在します。近年では特に、東洋医学や歯科鍼灸の学びを深め、実際の診療に取り入れています。たとえば、顎関節症の治療では、14本の主要な経絡(気や血が流れる通路)に鍼を打つことで、全身のバランスを整えることができます。筋膜は全身でつながっているため、鍼による刺激で顎関節だけでなく胃腸や肝機能などにも良い影響が表れることを知ったときは、大きな感動がありました。

実際に鍼を使うと筋肉の緊張が緩み、補綴や入れ歯の調整の精度にも変化が出ます。口腔内だけでなく、全身の健康にアプローチできることは、歯科医師としての可能性を広げてくれました。まだマニアックな分野ではありますが、テレビやニュースでも東洋医学や漢方、ツボ押しが注目されており、海外では特にアメリカやアジアで日本式の鍼灸の人気が高まっています。

当院でも、私が講師を務めるコースで学んだ勤務医たちが実践に取り入れており、全員が鍼を扱えるようになりました。今後この分野は、歯科界でも注目が高まっていくと感じています。

今後の歯科医療の発展において、理念に基づき医院として特に力を入れたい分野はありますか。

今後は、東洋医学や歯科鍼灸の分野にさらに力を注いでいきたいと考えています。身体の歪みや免疫、自律神経を整えるところから始まり、全身の健康につながる歯科医療を提供していくことを目指しています。

他の医院との差別化するために工夫している点をお聞かせください。

最大の特長は、やはり東洋医学・歯科鍼灸を取り入れている点です。加えて、当院では「担当医」「担当衛生士」「患者さん」の3者でチームを組み、共に治療計画を考えるスタイルを採用しています。こうすることで、患者さんのご要望にしっかり寄り添った納得のいく治療が可能になります。

また、スタッフ全員が心理学のコーチングを学んでおり、コミュニケーション能力の向上にも取り組んでいます。患者さんのタイプを短い会話から把握し、その方に合った伝え方(先に結論を伝える/順序立てて説明する等)を工夫することで、より安心していただき、満足度の高い診療につなげています。

開業・運営するうえでの苦労話、ピンチなどはありますか。

一番の課題は「人」だと思います。医療に携わる多くの方が、最初は「誰かの役に立ちたい」という思いでこの道を選んでいるはずですが、忙しさや疲れからその気持ちを忘れてしまうこともあります。武田信玄の「人は城、人は石垣、人は堀」という言葉があるように、医院の看板となるのは院長やスタッフ一人ひとりです。だからこそ、思いやりを持って人のために尽くす気持ちを大切にできる職場をつくりたいと考えています。

経営的に厳しい時期もありましたが、なんとか乗り越えてきました(笑)。コロナ禍でも多くの歯科医院が苦戦する中、当院はむしろ純利益が最も良かった時期でもあります。患者数を絞ったぶん、一人ひとりにじっくり時間をかけて、健康や隣接医学について丁寧に説明することで、「自費でもいいからやってほしい」と言ってくださる方が増えたのです。健康への意識が高まる中で、しっかり伝えれば患者さんは応えてくれる──そのことを実感した出来事でした。

どのような増患対策を取られていますか。

以前はネット予約を活用して増患対策もしていましたが、現在は取りやめています。本当に当院の治療スタイルに共感してくださる方は、ご家族や大切な人に自然と紹介してくださるからです。紹介で来られる方はすでに当院の診療方針や雰囲気をご存知なので、一から説明する必要がなく、よりスムーズな関係性を築くことができます。そうした方がまた次の方を紹介してくださる、という良い循環が生まれています。

全国には数多くの歯科医院があるので、「この治療だけをしてほしい」という方には、他院をご紹介する方がその方のためになると思っています。当院では今後も、スタイルに共感してくださる患者さんを同じ気持ちでいるスタッフたちと大切に診ていきたいと考えています。

続きは、8/1公開の後編で!