歯科経営者に聴く(後編)
~第一線で活躍する院長から学ぶ~
茨城県古河市は茨城県の西端に位置し、古河駅からJR東北本線で上野駅まで1時間というアクセスの良さからベッドタウンとして発展してきた街である。
吉田歯科医院は古河駅からバスで13分、国道354号線沿いの古河市釈迦に立地し、患者さんの「生活の質の向上」を目指して、外来診療はもちろん、訪問歯科診療にも力を入れている歯科医院である。
今月は先月に引き続き、吉田歯科医院の吉田清美理事長にお話を伺った。
吉田歯科医院 吉田 清美 理事長
【プロフィール】
- 1983年茨城県 生まれ
- 2008年日本大学松戸歯学部 卒業
- 2009年東京都内の歯科医院 勤務
歯周病・インプラント治療の第一人者である宮田隆氏に師事 - 2014年吉田歯科医院で在宅・訪問診療部門 設立
吉田歯科医院 理事長就任 - 2022年日本大学大学院松戸歯学研究科 修了
博士(歯学)取得
【理念・治療スタイル】
経営理念や診療方針を教えてください。
経営理念は「年齢問わず、継続的な健康を提供する」ことです。
診療方針は、第一は患者様の希望、第二は専門的な治療、双方を組み合わせ、オーダーメイドの治療を進めていくことです。
今後の歯科医療の発展において、理念に基づき、歯科医院として特に力を入れたい分野はありますか。
今、一番力を入れたいと考えていることは訪問診療を大きくすることです。訪問診療にはマンパワーが必要ですが、これがまだ足りていない状況なので、まずはそこからですね。それからマンパワーあっての話にはなりますが、小児歯科も導入していきたい分野です。私どもの理念は「年齢問わず、継続的な健康を提供する」であり、患者様の健康に長く携わることができるよう、計画しております。
現在は成人からご高齢の方までの患者様が来院してくださっております。お子様のメンテナンスをご希望される方も多くいらしておりますので、ご期待に応えられる診療所を作りたいと思っています。
歯科医院を運営するうえで苦労されていることはありますか。
第一に人材の確保ですね。今でこそ歯科衛生士はまとまって在籍していますが、本当に大変な時期がありました。土地柄、歯科医師の確保もむずかしく、出身大学へ度々リクルートに出かけております。やはり、歯科医師でも営業が必要ですね。
第二に診療の難しさです。中には応急処置のみをご希望の方もいらっしゃいます。私としては、お口の中全体が気になりますが、そこはご本人の希望を尊重します。
ご本人のご都合や考え方を抑えてまで、歯科医師の考えを通すことは厚かましいと思うからです。
ただやはり、どの方にも健康でいてほしいなと思うのが本心です。伝える力を伸ばしていきたいと思っています。
どのような増患対策を取られていますか。
ホームページを患者様にとって分かりやすく、ストレスがないようシンプルなものへと改善しました。訪問診療を中心に新患の方が増えておりますので、今はリコールの患者様の人数を減らさないよう対策をしております。人数のみでなく、リコールがストレスにならないよう、これからも改善を続けていきます。
【スタッフ採用・教育】
スタッフを採用するときはどのような基準がありますか。
応募者の方とは直接お会いして面接するスタイルですので、まずは身だしなみを確認させていただいています。人材が足りていないからと妥協して採用してしまったときはやはり失敗しました。今は1週間ほどのトライアル勤務をしてもらい、こういうスタイル、ルーティンで生活していくことになるということを体感し、納得してもらったうえで、双方が良い印象であれば採用しています。
スタッフの育成や教育はどのように行っていますか。
歯科衛生士業務に関しては主任歯科衛生士が仕事内容を確認し、育成に携わります。歯科医院全体は私が確認し、育成、教育をしていきます。歯科医院内で2~3カ月に一度は勉強会を開き、新しい分野の知識や技術を皆で学んでいく機会を作っています。
スタッフとのコミュニケーションではどのようなことを大切にされていますか。
スタッフには感謝の気持ちをきちんと伝えるようにしています。歯科衛生士から「先生はありがとうときちんと言ってくださるので、私たちも頑張れます」と言われたことがあります。私は無意識に言っていただけでしたので驚きましたが、私の気持ちがスタッフに伝わっていることが実感できて、とても嬉しかったですし、言葉で伝えることの大切さを実感しました。
スタッフが働きやすい環境づくりのために気をつけていることはありますか。
有給休暇を自由に取得してもらうことです。ご自身のこと家族のことなど、人生において大切にするべき時間をしっかり確保してもらいたいということが、私の考えです。有給休暇を利用し、しっかり休んでいただき、改めて仕事と向き合っていただきたいと思っています。
【今後の展開】
今後の展開について、お聞かせください。
やはり訪問診療を広げ、より多くの方がご自宅で医療が受けられる環境を作りたいと考えております。また、経営理念である「年齢問わず、継続的な健康を提供する」を現実的にするためには、子どもからご高齢の方まで、安全に通院できる診療所にしていく必要があると思っています。診療所のバリアフリー化をまずは短期的な目標の達成として目指しています。
今後、歯科業界はどのように変化していくと想像されますか。
第一に、デジタル化が進み、業界の流れに合わせて、最新機器を導入されている先生方も多くいらっしゃいます。最新機器の導入は若手の先生方が勤務したいと思うきっかけにもなるので、そういった意味では最新機器の導入は大切です。一方で職人技術や手作業への価値も高くなってきております。歯科医師や歯科衛生士さんはもちろん、歯科技工士さんは機械ではどうしてもできないミリ単位の調整が行える技術を持っています。双方が同時に活躍する時代になると思っております。
第二に、今以上に予防意識の高い方が増えると思います。当院のリコール患者様の年齢や人数を分析すると、30-60代の方が多く見えております。さらにお若い方は、ご家族と一緒に来院されることが多いです。要は、予防歯科が当たり前の時代になってきているということです。実際、今までのような、「虫歯になったから」「歯が抜けたから」のような理由で治療にいらっしゃる方は徐々に減少しております。当院はご家族で通院される方が多いので、患者様のご希望にかなう治療ができるよう、アンテナを張る必要がありますね。
転職や開業を考えておられる先生方へのアドバイスをお願いします。
私は父の歯科医院を継承しましたので、一から開業した先生方とは基本的には違いますし、本当の意味での大変さは分かっていません。これは私の意見ですが、開業して一人の患者さんと末永く付き合っていくことで、技術が追加されて磨かれていきますので、悩んでいる方は挑戦してみた方がいいですね。私が勤務医の頃はもちろん色々試行錯誤しているつもりでした。しかし、今は経営者の立場にいますので、目に見える形で技術力を伸ばさないと患者さんはついてきてくれません。また、健全な経営をすることは当たり前に求められます。したがって、診療所を経営することで、歯科医師としての技術、人間力、経営力など、色々なことが身につけられ、磨かれていくと思います。私の周囲の開業医の先生方も同様なことをおっしゃっています。
海外勤務のご経験がある先生ならではのアドバイスもお願いします。
最近は海外求人も増えてきているので、気になっている方も多くいらっしゃるでしょう。そこで海外勤務の経験がある私が感じたことをお伝えしたいです。海外での勤務は有意義で、日本では体験できないようなことも多々あるので、とても良いものです。若くて体力のある方、身軽な方は是非挑戦してみてほしいです。ただ、「若くて」と言いましたが、25歳ぐらいから海外で仕事をするのか、何かの専門医を先に取得するべきかのどちらに邁進した方がいいのかと聞かれたら、専門医取得の方がいいのかもしれません。なぜなら、専門医や指導医資格を取得したうえで、改めて海外での仕事を拡げていくと、将来的に仕事として安定するからです。もちろんご自身の人生ですし、後悔のないように選択してほしいというのが一番の気持ちなので、あくまでもただのアドバイスだと捉えていただけたら幸いです。私は今でも海外での勤務を少し名残惜しく感じていますので、将来、次のステップとして考えるときには海外での仕事は選択肢として大きな影響力があると思います。
休日やオフの時間に行っているリフレッシュ方法や趣味を教えてください。
結婚前はマラソン大会に出たり、国内、海外問わず一人旅などをしたり、身体を動かすことが好きでしたね。割と一人行動が好きだったのですが、今は子どもと過ごすことの一択になりました。子どもたちを連れてあちこち出かけています。以前に比べるとかなり運動部不足気味ですが、子どもたちと体を動かすように心がけています。