歯科経営者に聴く - 医療法人社団 政宗会 ハート歯科クリニック 千葉貴大 院長(前編)

歯科経営者に聴く(前編)

~第一線で活躍する院長から学ぶ~

医療法人社団 政宗会 ハート歯科クリニック 外観

 西武立川駅は西武拝島線の駅であり、西武新宿駅までのアクセスの良さから、駅周辺は人気のある住宅街になっている。

 ハート歯科クリニックはその西武立川駅の南口のヤオコー西武立川駅前店、北口のダイエー武蔵村山店で開業した歯科医院である。ハート歯科クリニックでは患者さん全員に医療用ナースコールの準備をするなど、「痛みの少ない治療」を目指している。

 今月は、ハート歯科クリニックの千葉貴大院長にお話を伺った。

千葉 貴大 院長

医療法人社団 政宗会 ハート歯科クリニック 千葉 貴大 院長

【プロフィール】

  • 2002年  3月 日本大学松戸歯学部卒業
  • 2002年  4月 東北大学歯学部付属病院咬合回復科入局
  • 2006年  4月 東北大学大学院歯学研究科口腔システム補綴学分野非常勤講師
  • 2006年  4月 埼玉県の大型医療法人勤務
  • 2011年  6月 ハート歯科クリニック開設・管理者就任
  • 2013年12月 歯科医師臨床研修指導医取得
  • 2017年  8月 日本口腔インプラント学会 専修医取得
  • 2018年  4月 東北大学大学院歯学研究科口腔システム補綴学分野入学
  • 2022年  3月 東北大学大学院歯科研究科口腔システム補綴学分野博士課程修了
  • 2022年  4月 東北大学大学院歯学研究科口腔システム補綴学分野 研究生

【開業に至るまで】

歯科医師を目指されたきっかけについて教えてください。

私は仙台市で育ち、幼稚園から大学まで地元で過ごしてきました。父が歯科医師だったのですが、特に医療関係の職に就けと言われることもなかったので、大学は教養学部に進みました。将来のことを考えているうちに、いつの頃からか、父が歯科医師として患者さんに感謝されている姿を思い出し、父のような人の役に立ち、喜ばれる歯科医になりたいと考え、歯学部に編入しました。このときの思いは今でも変わりません。歯科診療を通して、患者さんの役に立ち、喜ばれる歯科医師であり続けたいと思っています。

理事長が卒業後の勤務先を選ばれたポイントを教えてください。

受付写真

当時の教授が父の高校の後輩だったこともあり、東北大学の咬合回復科に入局しました。今では歯学研究科の中でも指折りの規模の医局に成長していますが、当時はまだ立ち上げから3年目だったので、こじんまりしていて、教授との距離も近い環境でした。研修医時代は多くの臨床経験を積み、技工物の製作にも携わりました。本来、被せ物は歯科技工士が作るものですが、東北大学ではカリキュラムの一環として、研修医に作らせていたのです。ここで学んだ技術は実際の治療でも使われるほどの高いレベルでした。技工物が作れるようになったことで、「ゴール」を強く意識するようになりました。例えば補綴物を入れるとき、最終的なゴールを見据えながら、色々な治療方法を考えていくことができるのです。また、歯の削り方や型取りなどの細かな部分にも気を配れるようになりました。今でこそ自分では作りませんが、とても貴重な体験をさせていただきましたね。ほかの研修医は携わることがなかった局部床義歯にも携わる機会をいただき、国内をはじめ、タイやギリシャでの学会で研究発表もさせていただきました。周囲の皆はとても優秀な人たちで、他大学出身の私にも良くしてくれました。歯科医師としての基礎を作る時期にレベルの高い人に接することができたことも良かったです。今も年に1回集まって忘年会をしていますが、いまだに良くしていただいています。

それから埼玉県の大型医療法人に転職されたのですね。

色々な新しいことを取り入れていくクリニックでしたので、患者さんとの接し方、開業医として知っておくべきシステムやマニュアル化などを学びました。開業に向けて、一般歯科全般を学べる環境でもありましたので、大変勉強になりました。今でも何かあれば院長や事務長さんに相談させていただいています。

開業の経緯を教えてください。

埼玉県の歯科医院に勤務する中で、開業医に求められるレベルに達したと思えたタイミングで開業を決めました。

設計やデザインのこだわりについて、お聞かせください。

武蔵村山市にも昭島市にも土地勘があったわけではありませんが、私自身も仙台市育ちですので、東京都内でありながらのどかな雰囲気であり、ファミリー層が多い地域ということで、この場所で開業することに決めました。ハート歯科クリニックという名称は父が開業していた歯科医院名であり、それを継がせてもらいました。ハートというと、赤やピンクのイメージがありますので、内装は赤や白を基調としたポップなものにしました。

【理念・治療スタイル】

経営理念を教えて下さい。

治療の写真

もともと「地域で一番の笑顔の多い歯科クリニックにしていく」という理念があったのですが、「ママとこどものはいしゃさんグループ」に加盟したので、以下の理念も追加しました。「安心・安全、そして誠実な治療を提供する」「医療人として誇りを持ち、常に最先端医療を追求する」「未来を担う子供達の健康な笑顔を創造する」「仕事を通じて人間的に成長し、豊かな人生を歩んでいく」です。

診療方針を教えて下さい。

患者さんとの対話を大切にし、ニーズを引き出してさしあげたいです。そのうえで、ご本人が気づいていない問題点に気づき、それに対してどんな提案ができるのかということを診療方針として大事にしています。

他の医院との差別化についてお聞かせください。

「小児歯科・矯正」「審美歯科」「予防歯科」が得意な歯科医院として、ママとこどものはいしゃさんグループに加盟させていただいたことやインプラント専門医、専修医などの専門資格をもった歯科医師による高いレベルの医療を提供できているところがアドバンテージとして大きいと思っています。

開業後はどのような苦労がありましたか。

人材確保にやはり苦労しました。退職者がいたときは運が良く、何とかなってはきましたが(笑)、これからもさらに長く続けてもらえるように、スタッフ皆の働きに見合った、頑張ろうと思えるような給与や学びやすい教育環境を与えられるよう、工夫していきたいです。

【増患対策】

どのような増患対策を取られていますか。

一番はしっかりと患者さんと向き合うことを大切にしています。それから当院はホームページのみならず、キュレーションサイトも持っています。当院に勤務していただくと、MEO対策、リスティング、SEOなどの当院での実際の運用とその手法を共有することにより、一般論ではない本当の知識を習得することができます。当院では野立て看板5個、駅看板8個、電柱広告30個を掲出していますが、できるだけ費用を抑えるにはポイントがあります。そうしたブランディング確立手法や開業地の選定相談、開業シミュレーションの読み取りなどもお伝えしています。

【スタッフ採用・教育】

スタッフが働きやすい環境づくりのために注意されていることはありますか。

プライベート写真

教育に関してはカリキュラムに沿って学んでもらいます。歯科医師には私か妻が指導し、歯科衛生士には歯科衛生士の先輩スタッフが細かいアドバイスやチェックを行っています。他院でいうブラザーシスター制度のような感じで、相談しやすい環境づくりを意識しています。
採用に関しては当院に合わないような方は採用しないよう気をつけています。人手不足だからと妥協して採用してしまうと、歯科医院内の和を乱しかねません。そうなると、もともといるスタッフにストレスを与え、退職することになってしまうこともあるので、そういったことはできるだけ避けるようにしています。もちろん面接の段階で全てわかるわけではないので、入職してから迷惑をかけているような人がいたことに気づいた場合はきちんと注意するようにしています。優しいふりをして見逃し、見て見ぬふりをすると、周りでフォローしてくれているスタッフが離れていきますし、結局は自分の首を絞めることになりますので、皆がストレスなく働けるように努めています。
育児中のスタッフが働きやすい環境づくりにも力を入れていますので、産休育休からの復帰率も高いです。歯科衛生士は2人体制でのシフト調整をしているので、例えばお子さんの体調不良でお休みしたいときも問題ありません。そういった育児サポートにも積極的に取り組んでいるので、安心して働くことができます。私も子どもがいますが、自分の子どもを通わせたいような歯科医院にしたいと思ったことで、環境の大切さをより強く実感するようになりました。

【今後の展開】

今後の経営の展開について、お聞かせください。

ママとこどものはいしゃさんグループ加盟医院の良いところを積極的も取り入れていきたいです。特に経営面では、これまで売上に関してスタッフと共有することはなかったのですが、スタッフにも売上意識を持ってもらうことで右肩上がりになった歯科医院もあることを知ったので、少しずつ取り入れようと思っています。
また、予約システムなどをデジタル化し、患者さんにとってさらに通いやすいクリニックづくりを目指しています。

【開業に向けてのアドバイス】

転職・開業を考えておられる先生方へアドバイスをお願いします。

ユニットの写真

開業するときは勢いも大事ですが、やはり慎重に検討した方が良いですね。すぐに移転することはできませんので、まずはどんな患者さんの層を診たいのか、それは自分の技術と見合っているのか、開業したい土地の土地柄と自分の開業したい歯科医院のイメージが合っているのかなどを順番に考え、将来を見据えたうえで決めていきましょう。都会で自費専門でしていた人が地方で自費を中心に頑張ろうとしても、その地域にその治療を求める方がいるのかというと、現実的にはなかなか少ないですし、経営的にも難しいです。もちろんニーズ自体を開拓していくという考え方もあるでしょうから、最終的にはどういう歯科医院にしたいのかということをよく考えてみることをお勧めします。

【プライベート】

趣味や余暇の過ごし方について、お聞かせください。

私は休みがない状況です。休みの日も事務作業やなどで時間が潰れますし、来年は専門医の試験を受けようと思っているので、その勉強などをしなくてはいけません。子どももまだ小さいのですが、なかなか遊びに連れていけていないですね。たまに家族皆で近くのイオンに買い物に行くことがささやかな楽しみです(笑)。

気になる後編はこちら