歯科経営者に聴く - 医療法人社団 ひだまり会 土井寛則 理事長(後編)

歯科経営者に聴く(後編)

~第一線で活躍する理事長から学ぶ~

医療法人社団 ひだまり会 外観

 千葉県八千代市は日本初の大規模団地である八千代台団地が1956年に入居開始となったことから、住宅団地発祥の地として知られている。現在では東葉高速鉄道の影響もあり、年少人口が再び増加に転じるなど、さらなる発展が見込まれる住宅都市である。2020年には人口20万都市の仲間入りを果たした。

 ひだまりファミリー歯科医院は京成本線の京成大和田駅から徒歩3分の場所に2005年に設立された。ベビーシッターが在籍するキッズルームやカウンセリングルームを完備し、予防歯科に力を入れた「定期管理型予防中心歯科医院」を掲げている。

 今月は先月に引き続き、ひだまりファミリー歯科医院の土井寛則院長にお話を伺った。

土井 寛則 理事長

医療法人社団 ひだまり会 土井 寛則 理事長

【プロフィール】

  • 1969年 千葉県 生まれ
  • 1996年 松本歯科大学 卒業
  • 2000年 東京歯科大学大学院 修了
  •               東京・銀座の歯科医院 勤務
  • 2005年 ひだまりファミリー歯科医院 開業
  • 2006年 東京歯科大学非常勤講師(歯科理工学)就任
  • 2007年 ひだまりファミリー歯科医院 ユーカリが丘分院 開業
  • 2011年 ひだまりファミリー歯科医院 健康タワー分院 開業
  • 2016年 松本歯科大学非常勤講師(歯科理工学)就任

【理念・治療スタイル】

経営理念を教えてください。

「ファミレスのような誰でも気軽に来やすい歯医者さん」を理念としています。2つの分院を含め、3つの歯科医院が近隣にあるため、私がたまに顔を出し、3歯科医院合同ミーティングをすることで、理念をスタッフ全員に伝えやすい環境になっています。

診療方針を教えてください。

「保険でも手を抜かない、定期管理型予防中心歯科医院」を目指しています。毎月数百名の患者様に定期健診に来ていただいています。「悪くなる前にあらかじめ、かつ定期的に来ていただき、定期検診が当たり前の歯科医院を目指すこと」「患者さんの口の中を守ること」、これらの開業当初からのコンセプトが実現しているのは有り難い状況です。従来のような、「一通り治療したらそれで終わり」というのではなく、「そこからが始まり」の「定期管理型で予防中心主義の歯科医院」というコンセプトをさらに強化していきたいと考えています。

他院との差別化になっている点を教えてください。

診察室の様子

基本的なことを徹底して、あえて保険診療を中心に行っているというところでしょうか。保険をおろそかにしない、と言ってもいいでしょう。お陰様で保険診療だけで十分に経営が成り立ち、分院まで作ることができました。私の診療を見学に来ると、「保険ばっかり、別に普通の治療じゃん」と思われるかもしれません。それはその通りで、そこにこだわっているからです。難しい治療、専門的な治療はあえて専門の機関に任せています。昨今では保険から自費まで、多種多様な症例を扱っている歯科医院が増えていますが、私どもでは埋伏やインプラントなどの症例は専門の大学病院にお願いしています。そのため、自費診療などにあまり自信のない歯科医師の方々に対しても、「うちでは基本を一通りしっかり習得でき、保険診療だけでも分院が持てるほどの技術、ノウハウなどの経験が積めますよ」ということを売りにできていますでしょうか(笑)。

開業してから苦労したことを教えてください。

私どもの医院はとても入りやすい雰囲気があるためなのか、稀に対応が難しい患者さんが来院されることがあります(笑)。私は経験上なんとか対応できるのですが、若い先生には、流石に荷が重いときがありますよね。そこで、そういった難しい患者さんへの「対応の仕方」や「クレーム処理の方法」もご指導するようにしています。若い先生には、「この手の難しい患者さんへの対応、処理ができないうちは開業しない方がいいよ」とよく言っていますね(笑)。

患者さんからはどのような問い合わせが多いですか。

私どもの医院の患者層はお子さんから高齢の方まで幅広いので、お問い合わせも様々なのですが、「今から診てもらえますか」という急患依頼が多いですね。コロナ禍になる前は無理にでもその日のうちに診ていたのですが、今は予約患者さんの中にねじ込んでしまうと、院内が密になってしまうため、以前ほど対応できなくなったことを残念に思っています。

【スタッフ採用・教育】

スタッフの育成や教育をどのように行っていますか。

診察室の様子

歯科医師に関しては慣れるまでは私の後ろについて、私の診療を見てもらうようにしています。もちろん全てに関してというわけではありませんし、その必要が全くない先生もいらっしゃいます。ただ一緒に回ってもらった方が院内の雰囲気なども含めて早く慣れるとは思っています。歯科衛生士や歯科助手に関しては総主任が教育の指揮をとっています。

スタッフが働きやすい環境づくりのために工夫されていることはありますか。

以前はスタッフ専用キッズルームで保育士がスタッフのお子さんたちを預かっていましたので、ママさん歯科医師やスタッフの方には大変好評でした。コロナ禍になってからはクラスターなどを危惧して一時的に閉鎖しているのですが、コロナ禍が落ち着いたら再開し、スタッフにとって働きやすい環境づくりをまた整えていきたいと思っています。

【今後の展開】

今後の展開について、お聞かせください。

これまで通りの患者様に寄り添った「誰でも通いやすいファミレス的な歯科医院」、「定期管理型・予防中心の歯科医院」であり続けたいと思っています。ただ、既に開業して18年近くになり、私もだいぶ年を取っちゃいましたので(笑)、分院を継承してくださる方がいたら是非お願いしたいです。今は開業にはリスクがあると思われるドクターも多いようなので、基盤がある私どものような歯科医院を継ぐことをお勧めしたいですね(笑)。

【開業に向けてのアドバイス】

転職や開業を考えておられる先生方へアドバイスをお願いします。

廊下の様子

皆さんそれぞれに個性や得意分野があり、その得意分野を伸ばしたいと考えていらっしゃるかもしれません。仮に「これからの時代はインプラントだ」と思ってらっしゃる先生がいたとします。しかし開業にあたっては、それ以前に土地柄に合わせた治療(ターゲットを絞ること)も大事なのです。私が勤務していた銀座の歯科医院は、やはり自費診療を希望される方が多い印象でした。ところが、私どもが開業した千葉県八千代市や佐倉市はファミリー層が中心です。結果、メインは保険であり、自費を希望される方は少ないですね。その地域の特徴を理解する必要性を痛切に感じます。例えば、いくらデジタル化が進んでいる昨今とは言え、ご高齢の方に最新のアプリを使ってもらおうとしても、なかなか難しいですよね。それを無理に推し進めれば、逆に通いにくい歯科医院になってしまいます。そうなると本末転倒で、私の目指す「誰でも通いやすいファミレス的な歯医者さん」ではなくなってしまいます。時にはアナログも重要なのです。したがって、開業される場所(地域性)に合わせて、それに見合った分野を伸ばしていくことも重要ではないでしょうか。私のように、自費診療をあえてやらず、保険診療中心でも、「基本をしっかり行い、ニーズにしっかりと応える」と言った手法で、やり方さえ間違わなければ、分院展開をすることも可能だと思います。

【最後に】

趣味や余暇の過ごし方をお聞かせください。

休みの日も分院へ行っているので、ほとんど休みはない状態なのですが(笑)、空いた時間には創作小説を書いています。と言いましてもコロナ禍になってから始めた趣味ですが、それでも昨年、アマチュアコンテストに応募したら、佳作入選を果たしました。他にも、実は-30kgのダイエットに成功しまして、その経験を鹿石八千代というペンネームで本にまとめて自費出版したりもしました。鹿石八千代は八千代市の歯科医師という意味のダジャレです(笑)。ただの趣味なので、もちろん素人の範囲ですが、少しずつでもレベルアップすることを目指して、創作活動に励んでいます。

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