やさしい心理学から学ぶコミュニケーション術

チーム医療!患者さんが信頼を寄せるクリニックづくり ~やさしい心理学から学ぶコミュニケーション術~【第6回】 こんな時どうする?!患者さんの対応を考えよう!――問診票を活用したコミュニケーション術

坪野慶明 医療法人社団 桜実会 おおど歯科クリニック 理事長

水木さとみ (Mizuki Satomi)

オフィシャルホームページ
http://www.mizuki-satomi.jp/
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どのクリニックでも、初診の患者さんが来院された際、必ず問診票の記入をお願いしているかと思います。
周知の通り、問診票は患者さんへの最的な治療や予防を提供するにあたって、適切な情報を得る手段となっています。

患者さんの全身状態および歯科既往歴、来院動機および主訴など、治療には欠かせない情報ばかりです。

さて、こうした多くの貴重な情報を、皆さまはどのように活用されていらっしゃいますか?
問診票の用途には、上記に挙げた目的の他にも、患者さんとの信頼関係構築とモチベーションへのコミュニケーションツールとして有効な手段となります。

今回は問診票を活用して患者さんの心理的ニーズを理解し、診療に役立てるコミュニケーションについてお伝えします。

尚、ここでのご紹介は、その一部となりますが、さらに、ご関心のある方は、クインテッセンス出版月刊誌「歯科衛生士」に、実践に役立つノウハウを記載しましたので、合わせてご参照頂ければ幸いです(本文最後に紹介)。

注)本文にあたり、重要な注意事項と活用目的を下記にお知らせします。

◆重要事項
歯科医師でない者が歯科医業を行ってはならない。すなわち、問診は診断・診療に役立つ歯科医療行為であり、歯科医師以外の者が行ってはならないと判断されている(判例あり)。
←歯科衛生士に問診させることはできない。【歯科医師法17条より】

◆本文の目的
重要事項に記載してありますように、問診はあくまでも医療行為であり、医師・歯科医師以外は行ってはいけません。
ここでは、患者理解を深め、信頼関係の構築に役立てるために、問診票を通して得られる初診時の患者さんの心理的ニーズを把握し、歯科医師との連携に役立てることを目的にします。

患者さんの来院動機を確実に理解できていますか?

最近では、下記のような患者さんの“来院ルート”に関する質問項目が記載されている問診票をよく目にします。

○当院にいらして下さった理由には、どのようなことがありますか?

1)家または職場が近いから  
2)広告を見て(広告の種類:          )  
3)HPをみて  
4)友人・知人・家族の紹介
5)その他(                          )

こうした情報は、患者さんが来院してくれるまでのルートを把握することができ、統計処理を通して、情報発信の分析にも繋がります。

「1)家または職場が近いから」「4)友人・知人・家族の紹介」という回答が多ければ、地域に密着した歯科医療を重視し、近隣の多くの患者さんとのコミュニティを大切にしながら、サービス向上を目指したプランを考えることができるでしょう。
「2)広告をみて」「3)HPをみて」という回答が多ければ、クリニックの特徴やメッセージを、より多くの患者さんに伝えるために、様々な工夫と対策が取り組まれ、発信を強化していくことが可能です。
クリニック側からみると、統計処理から得られる結果を通して、より効果的な手段を考えることができます。

一方、患者さん側はどうでしょうか?
数多くの媒体や口コミを通して、それぞれの患者さんが様々な思いを描き、クリニックへの印象を抱きます。
どれも魅力的な内容から、迷いに迷って、ひとつだけクリニックを選んで来院するのです。

「このクリニックなら期待に応えてくれそう」「このクリニックなら問題を解決してくれそう」「このクリニックなら自分にマッチしていると思う」など、それぞれの患者さんが独自の「期待」をもって来院するのです。

こうした患者さんの期待こそが“心理的なニーズ”となり、最も強い来院動機となります。
つまり、その患者さんは、他のクリニックではなく、このクリニックに来院した理由がここにあるのです。

患者さんとの信頼関係構築にあたって、先ずは、患者さんの「期待」を理解しなくてはなりません。
さらに、そうした期待を患者さんと共に共有し、期待に応えるために、こちらは何をすべきなのか、何ができるのだろうか・・・ということを考えていく姿勢がのぞまれます。
そうした姿勢こそが信頼関係の鍵ととなり、その後のモチベーションにも繋がっていくのです。

では、これらを踏まえ、実践に入ることにしましょう。

問診票から心理的ニーズを読む

問診票に印がある患者さんからの回答を通してコミュニケーションを深めます。
下記は初診時の患者さんの記載です。「3)HPをみて」に○をつけました。

○当院にいらして下さった理由には、どのようなことがありますか?

1)家または職場が近いから  
2)広告を見て(広告の種類:          )  
3)HPをみて  
4)友人・知人・家族の紹介
5)その他(                  )
来院した患者さんの“心理的ニーズ”を把握するための効果的な質問法を下記にご紹介します。
<質問例1>
HPをご覧になって来院して下さったのですね。
それは有難うございました。
1)差し支えなければ、お聴かせ頂きたいのですがHPのなかで、どの内容をご覧になって来院されようと思われましたか?
または・・・
2)差し支えなければ、お聴かせ頂きたいのですがHPのなかで特に印象に残った内容はございましたか?
患者さんは「HPをみて」来院しました。
つまり、HPの中で、患者さんにとって最も印象づく内容が記載されてあったはずです。
それを探ることで、患者さんが当院に何を期待して来院されたのかを理解することができます。患者さんの回答は次のようなものでした。
<患者さんからの返答>
感染予防の管理もしっかりされていることも、技術面でも安心なことも伺えました。
お写真からもとても雰囲気の良いクリニックである感じ受け良かったです。
中でも一番安心できたのは「患者さんの声」でした。
歯科治療が苦手な患者さんのメッセージでしたが、そこには、スタッフの方が、治療前にリラックスする方法を患者さんに教えて差上げていたこと。
そして、実際の治療の時には、スタッフの方が適切なサポートをしてくれたので、治療がスムーズに進み、治療への不安がなくなった・・・と書かれてありました。
実は、私は歯科治療が非常に苦手で、とても怖がりなんです。
HPに書かれてあった患者さんのようにして頂けるといいなぁと思って受診しました。

患者さんの言動には、来院目的の最も大切なキーワードがあるのがおわかりでしょうか?
来院する一番の理由としては、HPに記載されていた「患者さんの声」が挙げられました。
つまり、自分と似たような患者さんの治療を受けた感想を読んで、心が動き、来院したのです。
ここに、他のクリニックではなく、このクリニックを選んだ理由が存在しています。

*チーム医療として取り組む効果的な対応
では、次に、歯科治療が苦手で怖がりな初診の患者さんへの、適切な対応を考えることにしましょう。
こうした情報は、院内の全てのスタッフが共有し、各役割分担の中で、適切な対応を心がけることから信頼関係が強化されます。

例えば、受付スタッフは、この患者さんが来院された際、「きょうの体調はいかがですか?」「ご心配されていらっしゃることはありませんか?」と、その都度、患者さんの状態を把握し、主治医との連携を図ることで、治療の際、患者さんへの配慮が整います。

アシスタントは「治療を始める前に、一緒にリラクセーションしましょうか?」と、予め呼吸法を促すことで治療への緊張が和らぎ、治療がスムーズに流れます。
*リラクセーション法に関しての詳細は、本稿の【第2回 恐怖心の強い患者さんへの対応】に記載されてありますので参照下さい。

歯科衛生士のメインテナンスの際には「最近はいかがですか?治療への不安は何かありますか?」とフィードバックする機会をもつことによって、主治医との連携を図り、治療計画に反映していくことが可能です。

患者さんが信頼を寄せるクリニック、安心できるクリニックづくりを目指して、院内で患者さんの心理的ニーズを共有し、チーム医療の一環として臨床に役立てていかれることをお勧めします。

是非、明日からの実践にご活用下さい。

◆本稿では量的にも全てをお伝えすることができませんでしたが、さらにご関心がございましたら、下記の月刊誌をお読み頂ければ幸いです。

クインテッセンス出版 6月10日発行 
月刊『歯科衛生士』2013年6月号Over 20特集

記入だけで終わっていませんか?
問診票で患者さんともっともっとコミュニケーション

水木さとみ著