やさしい心理学から学ぶコミュニケーション術

チーム医療!患者さんが信頼を寄せるクリニックづくり ~やさしい心理学から学ぶコミュニケーション術~【第7回】 こんな時どうする?!患者さんの対応を考えよう!――気難しい患者さんへの対応

坪野慶明 医療法人社団 桜実会 おおど歯科クリニック 理事長

水木さとみ (Mizuki Satomi)

オフィシャルホームページ
http://www.mizuki-satomi.jp/
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患者さんは30歳代・女性・職業はOL / 主訴はホワイト二ングを希望して来院しました。
Drによる口腔内診査も終わり、ホワイト二ングに関する説明を終了したところです。
下記は歯科衛生士(DH)と 患者さん(Pt)との会話です。

DH:以上で(ホワイト二ングに関する)ご説明は終わりました。何かご質問はありますか?
Pt:ホワイト二ングに使用するお薬は強いものなのでしょうか?
DH:大丈夫ですよ、お薬に害はありません。
Pt:歯に当てる光は、特殊なものという説明がありましたが、何らかの害はないのでしょうか?
DH:はい、光も害はありませんのでご安心ください。
Pt:何ごとも“完全”ということはないと思いますがいかがでしょうか?
DH:そうですね・・・でも、今までも特に問題はありませんでしたので大丈夫です!
Pt:・・・今まで、何人くらいの患者さんが(ホワイト二ングを)なさったのですか?
DH:そうですねぇ~、数えたことはありませんが多くの患者さんがなさいました。
Pt:・・・先ほど「しみるような痛みが生じることもある」というご説明でしたが、実際には、どの位の割合でそのような患者さんがいらしたのでしょうか?
DH:そうですねぇ(考えながら)、そんなに多くはなかったと思います。あまりご心配なさらなくても大丈夫かと思います。
Pt:・・・ホワイト二ングはドクターがやってくださるのでしょうか?
DH:申し訳ございません、当院では歯科衛生士が担当することになっております。
Pt:もし、希望すれば、ドクターに担当して頂くことは可能ですか?
DH:そうですねぇ・・・(困った様子で)大変申し訳ございませんがDrは治療が入っておりますので、やはり歯科衛生士が担当することになるかと思います。
でも、ご安心ください。当院では熟練した歯科衛生士が携わりますので、安心して受けて頂けますので。

Pt:・・・・・・
DH:他にご質問はありますか?
Pt:・・・いいえ、特にありません。少し考えさせて頂きましてから、またご連絡します。

患者さんは、ホワイト二ングが主訴で来院したのですが、結局、患者さんの意思決定には至りませんでした。この日は、ホワイト二ングの予約をとることなくお帰りになりました。

さて、この両者のやりとりから、あなたはどのようなことを感じましたか?
どのようなことに気づいたでしょうか?
もし、ご自身がこの患者さんのコンサルテーションを担当したなら、どのようなコミュニケーションを展開していきますか?ケースを通して一緒に考えてみることにしましょう!

【動因と誘因の関係】


患者さんへの動機づけを考えるにあたって「動因」と「誘因」のお話をしたいと思います。そもそも患者さんの動機には「動因」と「誘因」が存在します。

動因とは、内的な要因となるものを示し、患者さん自ら発する「欲求」です。
ケースの患者さんで言えば「ホワイト二ングをしたい」という患者さん自身が発する欲求がそれに当たります。

一方、誘因とは、外的な要因となるものを示し、動因を強化する外からの力や影響を意味します。
例えば、ホワイト二ングのパンフレットや広告を見て、ホワイト二ングへの欲求が強化したり、ホワイト二ングをした友人の口元を見て感動し、“自分もそのようになりたい”という思いから、ホワイト二ングへの欲求が強まるなど、外からの影響力を示します。

患者さんのモチベーションは、こうした「動因」に加えて「誘因」が大きく関わることで、意思決定が強まることが知られています。

このことは、私たちにも日常的に経験していることだと言えます。
【例】
◆英語を学びたい(動因)という気持ちがあるものの、日々、仕事が忙しくて思うように時間がとれない。そんなある日、海外の友達ができたことがきっかけとなって(誘因)、「もっと話せるようになりたい」という気持ちが強まり、英会話教室に通うようになりました。

◆もっと痩せたいなぁ(動因)、でも、間食はなかなかやめられないし・・・
ある日、友人がダイエットに成功した姿を見て(誘因)、「私もあんなふうになりたい」という気持ちが強まり、ダイエットを開始しました。

◆感動する書籍を読んで深く感動し(誘因)、考え方が広がりました。

いかがでしょうか?誰もが似たような経験を一度はしたことがあるのではないでしょうか。
このように患者さんのモチベーションを考えるにあたって、私たちの役割、つまり「誘因」は、とても重要な位置づけになっていることをご理解して頂けたでしょうか。

【患者さんが意思決定しなかった理由】

引き続きケースの患者さんを考えてみたいと思います。
患者さんの心理は複雑です。
「ホワイト二ングをしたいなぁ・・・でも、使用するお薬に害はないのかしら?」
「ホワイト二ングをしたいなぁ・・・でも、歯に照射する特殊な光には害はないのかしら?」
「ホワイト二ングをしたいなぁ・・・でも、しみたり痛かったりしないのかしら?」
「ホワイト二ングをしたいなぁ・・・でも、どこまで白くなるのかしら?長くもつのかしら?」

このように「~をしたい」という思いとは逆に、そこには「迷い」が存在しています。
こうした患者さんの迷いが解決されない限り、ホワイト二ングへの決定には至りません。

ここで考えたいのはDHの対応です。
果たして患者さんの迷いを解決するために、適切な回答をしているでしょうか?

患者さんは、使用するお薬と照射する光の安全性を心配し、しみるような痛みがどの位の割合で起こるのかを明確に知りたがっていました。

患者さんの質問に対して、DHの返答は楽観的で曖昧であったため、かえって患者さんを不安に導いてしまったのです。
また、「お薬も光も特に害はないので大丈夫です」と、一見、安心させようとするDHの発言は、かえって患者さんの疑問を膨らませてしまいました。

ケースの患者さんは、何事においても多少なりともリスクがあるということを前提で、DHに質問を繰り返していました。そこには、ホワイト二ングへの不安や疑問を解決したいという心理がはたらいていたからでした。

残念ながら、DHの回答は、いたって曖昧で不十分であったために、患者さんがもつ不安や疑問は解決されず、“迷い”も解消されなかったため、このクリニックでホワイト二ングをすることは避ける結果となってしまったのです。

【対応を考える】

コンサルテーションにあたっては、十分な知識をもち、患者さんが理解しやすいように、丁寧に誠実に解説をしていかなくてはなりません。
さらに、患者さんは何に不安をもち、どのような疑問や迷いがあるのか・・・患者理解を深め、患者さんの抱える「問題」を共有し、解決していくためのサポートが求められます。

本ケースでは、患者さんの質問に対し、適切に回答するべきでした。
知識不足から、患者さんの質問に回答できない場合は、曖昧な返答は避け、素直にその旨を患者さんにお伝えすることが大切です。

例: 「そのご質問に関しては、只今、正確に認識しておりませんので、お調べ致しまして追ってお応えさせて頂きたいと思いますがよろしいでしょうか?」
誠実な姿勢で対応することこそ、患者さんとの強い信頼関係が築かれます。

治療を受ける患者さんの多くは、曖昧な回答やいい加減な回答を嫌います。
事実に基づいた正確な情報を提供することこそが、信頼の近道となり、患者さんの意思決定もスムーズにいきます。
患者さんが安心して意思決定をするために、こうしたサポーティブなコミュニケーションを、是非、院内でとり組んで頂くことをお勧めします。
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水木さとみ著