やさしい心理学から学ぶコミュニケーション術

チーム医療!患者さんが信頼を寄せるクリニックづくり ~やさしい心理学から学ぶコミュニケーション術~【第5回】 こんな時どうする?!患者さんの対応を考えよう!――信頼関係が築けていたと思っていた患者さんが!

坪野慶明 医療法人社団 桜実会 おおど歯科クリニック 理事長

水木さとみ (Mizuki Satomi)

オフィシャルホームページ
http://www.mizuki-satomi.jp/
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【エピソード】

ある歯科衛生士さんのお話です。

患者さんは、待合室で長時間待たされても、不満を訴えることもなく、いつも穏やかで控えめで、やさしい雰囲気をもつ60歳代の女性です。

TBIも歯科衛生士のアドバイスに従ってくれて、非常に協力的な患者さんでした。
担当歯科衛生士も、患者さんの歯周病の症状を改善するために、一生懸命取り組み、何の問題なく進行していました。

ところが・・・!!!
あんなに一生懸命頑張ってくれた患者さんが、ある日、突然のキャンセル、「また後日電話します」と言ったまま、来院することはありませんでした。

一体、患者さんに何が起こったというのでしょうか?!

そんなある日のこと、クリニックの同僚スタッフが、ショッピングモールで、偶然、患者さんの娘さん(この方もクリニックに通われている患者さんです)に遭遇しました。
娘さんはお母さんが来院しなくなった理由を話して下さいました。

「母(患者さん)は、担当の歯科衛生士さんにはとても感謝していました。
最初は、歯科衛生士さんに言われた通り、歯ブラシを一生懸命していたのですが、年齢のせいでしょうか、次第に歯ブラシをするのに疲れてしまったようです。
母は担当の方ががっかりするのをとても気にしており、何とか頑張って通院していたようでしたが、次第に歯科医院へいく足取りが重くなってしまったようです。」

【患者さんの心理を読む】

娘さんの話から、患者さんは担当の歯科衛生士さんの期待に応えるため、がっかりさせないために頑張り続けてきたことが予測されます。

患者さんは、口腔内清掃にストレスを感じていたものの、一生懸命に自分のために取り組んでくれている歯科衛生士さんのことを思うと、頑張らなければならないと感じたのでしょう。そうした頑張りに限界を感じた時、患者さんは、静かにドロップアウトすることで、歯ブラシのストレスから解放されることとなったようです。

患者さんの行動パターンを分析すると、人との関係性は、常に安定した状態を好みます。同時に、その関係性が崩れるのをとても恐れるため、相手に協調していくことでより良い関係性を維持しようとする患者さんです。
ですので、自らの気持ち(歯磨きに対するストレス)を抑え、担当歯科衛生士の気持ち(熱意)を優先してきました。

歯磨き行動は、自分のためというよりも、むしろ、担当歯科衛生士さんががっかりしないために頑張り続けることとなってしまったわけです。
臨床ではこうしたケースは珍しいことではありません。

【ケースから学ぶ患者対応】

このような事態を招かないために、日頃から、患者さんの状況に応じた温かいサポートが不可欠です。そのポイントを下記に示しましょう。

◆患者さんの表情の変化に気づく
このタイプの患者さんは感情を表に出したり、積極的に発言することはありません。 些細な患者さんの表情の変化(困った表情・不安な表情など)に気づいたらフォロ―すると良いでしょう。

例)
「何か気になる事はありませんか?」
「具体的にはどのようなことが気になりますか?」

◆フィードバックをする
常に患者さんが発言しやすい環境を整えましょう。さらに、その都度、フィードバックすることが効果的です。

例)
・清掃用具が増えた時
→「本日、清掃用具が増えましたが、なにか負担はないでしょうか?」

・前回のアドバイスのフィードバックをする
→「ご自宅でやってみていかがでしたか?」
→「試されてみて、気になる事はどのようなことでしたか?」
→「実際にやってみて難しく感じたのはどのようなことでしたか?」

◆一方的なコミュニケーションは避ける
発言が消極的な患者さんの場合、ついこちらが一方的に話しを進めてしまいがちです。そのため、患者さんが発言する機会を失います。段階的に確認をします。

話の切りの良い状況になったら・・・
「ここまでで何かご質問はありませんか?」
「ここは大切な内容ですがよろしいでしょうか?」
と段階的に確認しながら話を進めると効果的です。

臨床では、患者さんの口腔内の症状ばかりに意識がいってしまいがちですが、患者さんの目線に立ち、患者さんの立場に立って理解すること、考えることを習慣づけて下さい。
歯科医療における本来の“ホスピタリティ”は、こうした姿勢の元に生まれます。