やさしい心理学から学ぶコミュニケーション術

チーム医療!患者さんが信頼を寄せるクリニックづくり ~やさしい心理学から学ぶコミュニケーション術~【第1回】 こんな時どうする?!患者さんの対応を考えよう!――多弁な患者さんへの対応

坪野慶明 医療法人社団 桜実会 おおど歯科クリニック 理事長

水木さとみ (Mizuki Satomi)

オフィシャルホームページ
http://www.mizuki-satomi.jp/
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はじめまして。2013年という新しい年に、1年間、コラムの連載をさせていただくことになりました水木さとみと申します。どうぞ宜しくお願いいたします。
このような貴重な機会をいただきましたとともに、コラムを読んでいただける皆様とのご縁に、深く感謝いたします。

このコラムでは、患者さんとの良好なコミュニケーションと組織力向上を目指したテーマについて、やさしい心理学を交えながらお伝えさせていただきます。

私は長年、医療の中で、心理的・社会的ストレスが要因となって誘発する疾患(ストレスが原因となって生じる様々な症状を伴う疾患)を持つ患者さんに向けて、心理カウンセリングを実践してきました。それにあたり、数多くの心理療法を習得してきました。

世の中には多くの素晴らしい心理療法が存在します。臨床を通して学んだことは、どんなに素晴らしい心理療法であっても、患者さんとの信頼関係がなくては通用しないということです。逆に、患者さんとの強い信頼関係が築かれていると、心理療法の効果はこちらの期待以上に発揮され、予想以上に症状が改善していくことを経験しました。

これはどの分野でも同様のことが言えると思います。たとえ素晴らしい歯科技術や多くの知識を習得しても、患者さんとの信頼関係なくしては、残念ながらその力を最大限に発揮することができません。しかし、逆に患者さんとの信頼関係が築かれていれば、患者さんはこちらの話に耳を傾けてくれるようになります。
患者さんへのモチベーションはここから始まります。皆様が持っていらっしゃるスキルや知識を最大限に患者さんに発揮できる手段としてコミュニケーションがあると言っても過言ではないでしょう。

今は大学病院での心理カウンセリングを終了し、自身の経験を活かして、心理学を交えたコミュニケーションやストレスマネジメントに関する数多くの講演や研修を展開させていただいています。
本コラムでは、「医療に基づいたホスピタリティとは何か」、「患者さんが信頼を寄せるクリニックづくりとはどのようなことなのか」などのテーマを皆様とともに考えるために、臨床に携わっていらっしゃる皆様から寄せられたご質問に基づき、やさしい心理学を交えて、効果的な対応やコミュニケーションについて解説していきます。明日からの診療にお役立ていただければ幸いです。

第1回目:こんなときどうする?!患者さんへの対応を考えよう!

【こんな患者さんはいませんか】
とても明るく、人柄は良い印象を受ける患者さんですが、話し出すと止まりません。患者さん本人に悪気はないのですが、待合室が混み合ってしまうときや予約が詰まっている状況では困っています。患者さんに悪い気分を与えず、話を中断するよう促す方法はないでしょうか。

診療をスムーズに行うためには、予約時刻を厳守し、限られた時間の中で効率よく進めていきたいものです。しかし、臨床では思うようにいきません。話し始めると止まらない患者さん、世間話にまで話題が展開していく患者さん、楽しそうにおしゃべりをしてくる患者さんを見ると、こちらも話を中断してしまうことに抵抗を感じてしまいます。
だからといって患者さんの話をずっと聴き続けるわけにはいきません。満足のいく治療や予防ができなくなるばかりか、次の予約の患者さんにも迷惑をかけてしまいます。
さて、こんなとき、患者さんの気分を害さない効果的な方法はないものでしょうか。

こうした患者さんの多くは人と接することが好きで、社交的、友好的です。対人関係の中でのコミュニケーションは気持ちを重んじるのが特徴です。患者さん自ら「自分はどのように扱われているのだろうか」、「自分の気持ちは理解してもらえているのだろうか」ということに意識が向きます。そのため、こちらの事務的な対応を誰よりも冷たく感じてしまうのがこうした患者さんの特徴でもあります。

例えば、長々と話し続ける患者さんに対して、治療時間が押し迫ることを懸念し、「はい、それでは、お口を開けてください」といきなりユニットを倒し、治療に入ろうとすると、患者さんは不満を抱きます。

この対応はタイムマネジメントを考えるにあたっては非常に大切な方法ではありますが、この患者さんは「自分の気持ちを無視されている」と感じてしまうため、信頼が薄れます。
では、どのような対応をしたら良いのでしょうか。次のような対応が効果的です。

◆時間枠の設定と意識づけ

ユニットに座った直後の患者さんに予め時間枠の設定を促します。
「本日は3時から3時半までの30分間、お取りしていますが、よろしいでしょうか。その中で、まずはお口の中を綺麗にしていきたいので、20分間は清掃の時間にしたいと思います。残りの10分間はご質問や気になることなどを伺いたいのですが、いかがでしょうか」

この方法は、患者さんに向けて所要時間(治療・予防の時間)への確認をしています。さらに、時間の配分を提示し、患者さんに了承していただくことで、患者さんの気持ちを重んじた姿勢が示されています。多弁傾向にある患者さんへは「時間への意識」をしていただくことが非常に重要であり、このように予めお伝えしておけば、後になって誤解が生じません。

◆共感とフォーカシング

時間枠を設定しても、話が脱線していくようであれば、患者さんの気持ちを共感したうえで、本題に戻します。
これをフォーカシングと言います。
【例】
患者さんが辛い話をしていたなら、「そうでしたか、それは大変でしたね」、「お気持ちをお察しします」と患者さんの思いに共感し、「ところで、そろそろお掃除のお時間となりましたので、始めてもよろしいですか」、あるいは「先程のお話の続きをしてもよろしいですか」と、本筋に戻すために“気づき”を促します。こうした対応は、患者さんの気持ちを理解し労う姿勢を示した上で話を中断していただいているため、不快感を与えることなく、本題(治療・予防)にスムーズに入ることが可能です。

コミュニケーションは量より質!
患者さんとの良好なコミュニケーションは量(時間)ではありません。むしろ、限られた時間の中で、有効に患者さんと共有することこそが信頼関係の鍵となり、質の高いコミユニケーションへと展開し、患者満足度を高めます。

是非、明日からの診療にお役立て下さい。