歯科経営者に聴く ~第一線で活躍する院長から学ぶ~
医療法人健栄会 門司歯科医院 門司 健 理事長
今月紹介する門司歯科医院は佐賀県鳥栖市に位置し、最寄り駅はJR鹿児島本線田代駅である。田代町は富山・近江・大和とならび「日本4大売薬の地」と称されるなど、多くの製薬会社が存在し、医療関係者が多いクラスター地域である。
門司歯科医院には、患者様の絵画などが飾られ、地域に密着した医院で暖かい雰囲気を醸し出している。患者様は佐賀県や福岡県のみならず熊本県や長崎県といった九州全域、さらに東京都といった遠方からも来院し、幅広いマーケットポジションを保持している。“挨拶に始まり 挨拶に終わる”というスローガンをかかげ、“予防から治療、そしてリハビリまで”の診療方針に基づき、ホスピタリティーを重視することで患者様満足度を追求している医院である。
門司健理事長はとても気さくに歯科医院のことのみならず、様々な方面のお話をしてくださった。
医療法人健栄会 門司歯科医院 門司 健 理事長
プロフィール
- 1932年佐賀県で生まれ、1957年福岡県立九州歯科大学卒業、日本炭鉱高松病院歯科に勤務の後、1959年門司歯科医院に勤務し、1972年県内初の医療法人健栄会を設立、1974年2代目門司歯科医院理事長兼院長を継ぐ。
- 1981年から2003年の22年間にわたり佐賀県歯科医師会会長、1990年からは社団法人全国国民健康保険組合協会理事、1985年には日本歯科医師会事務理事と歴任する。
- 1998年に東明館学園を創立し、初代理事長に就任する。
- 1994年には文部大臣表彰、1995年には佐賀県知事表彰、藍綬褒章を授かる。
歯科医院の沿革
門司理事長の家系は教育医療関係者が多く、先祖の門司玄益は三養基鳥栖地区の初代の医者であり、門司理事長は17代目当主だという。お父様が歯科医師となり、1934年に開業した。門司理事長はその後を継ぎ、それだけに留まらず、3つの歯科医院(もんじ歯科医院ゆめタウン久留米・さつきデンタルケア)を経営する。
さらに、学校法人九州アカデミー学園 九州環境福祉専門学校で歯科衛生士や歯科技工士、鍼灸師、介護福祉士や社会福祉士などの育成にも努め、社会福祉法人健翔会 ひまわりの園・コスモスの園では新型特別養護老人ホームやケアハウスなどの介護事業にも携わっている。
少子高齢化にも関わらず、昨年からレインボー保育園を運営し、地域社会に貢献している。
経営ビジョン
門司歯科医院で診療を始められた頃はどのような状況でしたか?
「門司歯科医院に勤務を始めた当時、受付のスタッフと二人体制でした。1959年当時、多いときで1日70~80名の患者様の診療を一人で行い、受付のスタッフに患者様の顔と氏名を覚えさせました。患者様の待ち時間を少しでも減らし、一人一人の患者様の顔と口の中を暗記することによって、患者様に合わせた診療を行おうとしていました。患者様は次第に増加していき、スタッフの数も増え、1978年頃には200人を越える患者様を診療することもありました。現在はカルテの正確性を加味しながら、カルテだけに頼らず、個々の患者様の顔と口の中を暗記することも重要視し、患者様の満足度向上に努めています。」
病院の特徴(コアコンピタンス)
コーンビームX線CT装置
「最新式の医療機器を導入し、技術革新に努めていると聞きました。」
「高精細画像を表示するコーンビームX線CT装置を設置しました。コーンビームX線CT装置は九州で数台でしか入っていない最新式のCTで、これにより歯科だけではなく耳鼻科などとの病診連携も可能です。」
「コーンビームX線CT装置の特徴は4点あります。一点目は患者様に苦痛を与えず、安全に短時間で検査が行える画期的な歯科用CTであること、二点目はコーンビームスキャン撮影により、最小画質サイズ0.1mmの高精細立体画像が得られ、病変の形が容易に把握できるようになり、精度の高い画像診断が可能になったこと、3点目は診断の目的に合わせて、撮影範囲・解像度を設定できますので、患者様の負担が軽減できること、4点目は実際の撮影画像をもとに、患者様の病変の説明を行えることなどです。」
完全個室
診療室は完全個室システムと聞きましたが?
「予防診療を7~8年前から開始し、個室型の診療スタイルを始めました。それが現在では完全個室タイプになり、14部屋を配備しています。小児歯科、矯正歯科、審美歯科、口腔外科、インプラントなど、それぞれの分野のプロフェッショナルが一体となり、一人一人の患者様に対応しています。1回の治療に充分な時間をとっていますので、治療終了までの通院回数は少なくなります。」
「落ち着いたインテリアの完全個室で診療することにより、患者様の安心感・安全感・安定感を与えることに努めています。さらに、患者様に治療を開始する前にディスクローズ(情報公開)し、患者様が充分納得するインフォームドコンセントを欠かしません。治療方針が決定すれば、初診時に、治療終了までの予定をお話することが出来ます。また、メンテナンスやアフターケアにも責任ある治療をしており、患者様に安心感や安全感が向上するように行っています。また、予約優先システムを導入し、患者様を診療前にお待たせしないように心がけています。」
手術室
先ほど、立派な手術室を案内していただきました。
「当院では手術室を整備しており、歯科医療用レーザーをはじめとした最新の機器を備えております。これらの機械設備により、従来よりも少ない痛みでの外科的治療が可能となり、苦痛や負担が軽減されます。口の中は食道・胃・腸につながる最初の入り口であり、話すことにより意思を伝えるスピーカーです。これらは日常生活に密着しており、口の中の病気は食べる楽しみはもとより、会話の楽しみすら奪ってしまう場合もあります。よりよいQOLを目指し、治療に取り組んでいます。」
「歯科では他科と重複している病気もあり、必要に応じて各専門医との連携をとり、一人一人の方に適切な医療をできるような体制をとっています。また、当院では病院との病診連携を行っており、歯科インプラント時の骨移植や、全身麻酔下での抜歯手術など様々な症例に適応しています。」
インプラント
インプラントも早くから取り組まれていると聞きましたが?
「1984年から行っております。インプラントの実績総数は1,913件にものぼります(2006年12月現在)。早くからサファイア製のインプラントを取り入れてそれなりの成績を収めていましたが、最近の技術の進歩に歩調を合わせて1995年よりITIインプラント(スイス製)、ブローネマルクインプラント(スウェーデン製)に代表されるチタン製のインプラントを採用し、高い成功率を上げています。」
「コーンビームX線CT装置を導入したことにより、インプラントを行う際により正確な施術が可能になり、患者様にとり安心・安全の診療を提供できるようになりました。」
訪問診療
訪問診療を行っていると聞きましたが?
「高齢者ほどセルフケアに限界があり、歯科医師や歯科衛生士によるプロフェッショナルケアが必要になります。当院ではご本人、ご家族と十分に話し合い納得されたうえで、当院所属のケアマネジャー資格を保有した歯科衛生士が中心となりホームヘルパー、医師、看護師らと連携を密にし、必要な治療ケアを行います。高齢の方や、障害をお持ちの方も無理なく、普段の生活空間の中で治療を行います。お口の中のトラブルを解決することで誤嚥性肺炎の予防につながります。往診車を使って自宅のみならず、病院や特別養護施設や老人保健施設やケアハウスなどにおいても治療を行っています。」
口腔予防センター
「口腔予防センターでは歯科衛生士がブラッシングを中心に、歯肉マッサージ、歯石除去、口臭測定、ヤニ取り、など健康なお口を保つための継続管理を行っています。予防に対する処置は一部例外を除いて保険で行います。当院では予防医学を重視しており、従来の治療に加えて地域の人々の虫歯や歯周病を予防するという重要な役割を担っています。QOLの向上のためにも8020運動を実施し、地域住民の皆さんにさらに貢献をしていきたいと思います。」
経営方針
患者満足度の追求
経営方針で重要視しているものは何ですか?
「何よりも人間関係を重視しており、歯科医師と歯科衛生士と患者様のトライアングルでチームを作り、日々患者様の満足度の向上に努めております。プロフェッショナルであるからには仕事は上手くて当たり前であり、日々技術の修練にいそしんでいます。」
「患者様を診療する際に、①痛くない診療を行う②患者様を待たせない③患者様の社会復帰をなるべく早く行う、という3点を重視しています。患者様の満足度を図るのが最良の増患対策です。」
医科との診療ケアミックス
医科との連携を図っていると聞きましたが?
「歯科技術や知見を持つ歯科医師と医師との一体化を図ることにより、患者ニーズに合わせた患者ケアミックス体制を整備していくことが重要となります。医科と歯科のT.T技術移転(TT:テクノロジートランスファー)が必要となり、歯科医師と医師との連携が不可欠になっていくと思います。歯科と医科のボーダーを外すことにより、国民に対してより良いQOLを提供することが可能になります。」
「当院では開放型病院との病診連携を行っています。また高精細画像を表示するコーンビームX線CT装置を設置しました。このCTは最新式のCTで当院だけではなく、耳鼻科の医院とも連携をとっており、医科と歯科との診療ケアミックスとして実践しております。」
人材教育
人材教育には特に力を入れていると聞きましたが?
「人材は最も重要なものとして努めて投資してきました。当医院では歯科衛生士が事務局長を務め、従業員の労働環境の整備にも力を入れてインセンティブの向上を図っています。30~40年という長い勤務歴を持つ従業員もおり、年功序列制度や終身雇用制度に酷似した労働環境を整備しています。また、当院から独立開業をした歯科医師も30人以上おり、当院が開業のサポートも行い、ほとんどの歯科医院は成功していると自負しています。」
歯科医師臨床研修施設
歯科医師臨床研修施設指定の診療所と聞きましたが?
「当院では九州大学・九州歯科大学・福岡歯科大学の3大学の歯科医師臨床研修施設指定の診療所となっています。香月武 佐賀医科大学名誉教授(口腔外科インプラント)、境脩 福岡歯科大学名誉教授(予防歯科)、松本光生 福岡歯科大学名誉教授(矯正歯科)、一木数由(小児歯科)が指導医となり、臨床研修を行っています。また、九州環境福祉医療専門学校の歯科衛生士臨床実習指定医院として指定されています。」
プライベート
門司理事長はスポーツが大好きな方であり、特にゴルフが趣味である。現在でも週に3回もラウンドを行うときもあり、文武両道な一面も持ち合わせる。
「仕事をすることが一番のプライベートです。常に従業員や患者様のことを考え、地域社会または国際社会全般にいかに貢献していくかを考えています。」
以前に本を出版されたと聞きましたが?
私は医療=福祉=教育の連携をしていくことをゴール(目標)としており、その理想の追求を邁進しています。私の理念をアウトプットしたものを“私が歩いた医療・福祉・教育の道(光樹社、1997年)“という本にして出版しました。」
将来の歯科医院に対しての提言
若い歯科医師にアドバイスをお願いします。
「これからはグローバルな時代ですから、歯科医院もグローバル・スタンダードの視点を持つことです。日本は地形的な面から特に東アジアや東南アジア等の諸外国に目を向けることが大事でしょう。また、人はみんなで生きており、歯科医院もCSR(企業の社会的責任)を果たすことが重要だと思います。」
「将来的には歯科医院同士でアライアンスを組むことによって連携を図り、財務内容や経営成績内容をディスクローズしていき、経営革新を図っていくことも考えられます。しかし、様々なボトルネックが考えられるため、そのような経営は難しいと思いますが、これからの歯科医院の経営にあたっての大きな課題であり、目標になっていくでしょう。」
将来への展望
門司理事長は門司歯科医院のみならず、地域社会や国際社会などを大局的に観ている。「常に向上心を持って、理想を追求していく」と語るように、これからも医療や福祉や教育など様々な分野で社会貢献を行っていくだろう。