歯科経営者に聴く - エルアージュ歯科クリニックの加藤俊夫理事長

歯科経営者に聴く ~第一線で活躍する院長から学ぶ~

ベルデンタルラボラトリー株式会社 志田正陽 社長

「免許だけの技工士なら技工士にはなるな!」と厳しい言葉を発したと思えば一転して、「技工士はカッコイイと言われる職業にしたい。」と笑顔を見せる社長。
今回はJR蒲田にあるベルデンタルラボラトリー株式会社、志田 正陽社長にインタビューを依頼した。現在社員20名で運営される技工所だ。

ベルデンタルラボラトリー株式会社 志田正陽 社長

最初から社長になりたくて技工士になった。

ベルデンタルラボラトリー株式会社志田さんはS28年、大田区生まれ。日本大学経済学部を卒業し、数年間のサラリーマン生活を送った後、技工士になる。
「1970年代と言ったらいわゆる第一次脱サラ時代ですよ。独立したいと考えていました。サラリーマン時代は歯科とは関係のない仕事をしていましたが、高校時代の友人で医学・歯学部に行った人が多かった。その付き合いの中で技工に興味を持ちました。今の技工学校の現状をよくは知りませんが、学生の数は多かったですね。日大技工学校の夜間部に通いました。昼間は技工所でアルバイトをしていた。(現在は許されていません。)当時アルバイトをしていた技工所は世田谷区奥沢にあり、そこで3年勤めました。」

S53年に技工学校を卒業後、独立開業。大田区大森のマンションを借りて1人でスタート。

「一人といっても交友関係には恵まれていました。技工学校時代の友人が仕事帰りに顔を出しては普段触る機会が少ない技工物を作っていたものです。特殊な技能を必要とするものも早く習得したいという熱意のある仲間が集まっていました。当時は陰で練習を積み重ねて、自分で講習会に出て、自分で模型を作るということを事前に準備して、チャンスがあったときに自分の実力を表現出来れば「よし、やってみろ」と任されるというのが当然の時代でした。チャンスを何とかものにしよう、そのために準備しようという気持ちは強かった。今のように2年目はこれをやる、10年目はポーセレンをやるのは当たり前というような段階、順序はありませんでした。」

その後、志田社長のもとに数人が集まり株式会社化する。今でも開業当時からずっと一緒に仕事をしている仲間もいる。そこから規模が拡大し、現在20名の社員を抱えるベルデンタルラボラトリーに成長する。

「最初から社長になる為に技工の仕事を始めたので、本当の意味でのスタートでした。成功の秘訣?運がよかった(笑)。業界だけでなく、他業界の方々ともお付き合いする機会に恵まれたことですね。今より歯科技工士の社会的信用は高かったということも手伝って、他業界の人との会話の中で私の仕事のことが話題になり、それを契機に親しくなることも多々ありました。」

保険でも自費でも同じ一つの技工物、同じく患者さんの口に収まるもの

現在、当社で作っている保険のもの、自費のものの製品割合は半々です。何かに特化していくことは良いことだと思いますが、自費、保険を問わず一つの技工の製品としてとらえているので全てにおいてバランスを大切にしています。会社の理念は変わりませんが、そのバランスが時代の流れによって変化することは当然あります。

免許だけの技工士なら技工士にはなるな!─ 若い技工士のみなさんへ

ベルデンタルラボラトリー株式会社「厳しいことを言えば、技工士の免許はその人の技工スキルを認めるものではない、ということを認識して欲しい。それは車を運転しても良いということであって、車の運転が上手いということではないのです。また、なりたくて技工学校に入って技工士の資格を取るのと、そういった資格が取れたから技工士になったというのでは、意識のうえで随分違いがあると思います。以前は学校に通いながら技工所で手伝いをすることが出来たので、在学中でも技工所ってこういう場所なのか、学校を出た後も学ばなければついていけない、やっていけないということを理解していた。今は学校などのポーセレンの実習を少し齧っただけで、自分は十分にポーセレンも出来ると錯覚してしまう人も多いのではないか思います。」

「歯科医療がどのように変化しても技工物の需要が無くなることはないでしょう。技工士のなり手が減っている現在、より技工士の需要も増えると思います。資格さえ取れば誰でも技工士にはなれる。しかし、資格を取ることを目的とせずに、歯科技工という仕事を何かしらの目標をかなえる為の手段にして欲しい。仕事の時間を仕事に使うのは当たり前、就業時間中に手技を先輩から教わることは当然あるでしょうが、自分で勉強して次のステップへの準備をしていて欲しい。」

患者さんの“はてな?”を取り除く為のサポートをしたい

ベルデンタルラボラトリー株式会社「今後、別法人を立ち上げてクリニックの経営サポートもやりたいと考えています。具体的には増患です。患者さんのはてな?を少しでも解決するお手伝いができるようにしたい。それぞれの技工物のメリット・デメリットだけでなく、自分の口の中のこと、単純に歯医者さんの診療にかかるということに対する患者さんの価値観の認識を高めて行きたい。」

ベルデンタルラボラトリーは白壁に窓枠がイエロー、ドア枠がレッド、ブルーという変化のある色調でまとめられている。室内には音楽が流れ、最上階の談話室では休み時間にほっと一息ついている社員もいるのだろう。

「技工士はカッコイイと言われるようにしたいね。」

というラボ内を案内しながらの志田社長の一言が印象的だった。色んな意味でのこれからへの期待が込められていそうだ。