歯科経営者に聴く - エルアージュ歯科クリニックの加藤俊夫理事長

歯科経営者に聴く ~第一線で活躍する院長から学ぶ~

松本誠二 院長先生/梅原信彦 事務長

医科ではあたりまえの診療である訪問診療であるが、歯科ではまだその歴史は新しい。しかし、高齢化社会が進捗する中でそのニーズは急激に高まっている。今回は、その訪問診療の充実を掲げ、大阪府東大阪市に先月開業したばかりのかわち歯科をご紹介する。松本院長と梅原事務長にお話を伺った。

松本誠二 院長先生 梅原信彦 事務長

医科ではあたりまえの診療である訪問診療であるが、歯科ではまだその歴史は新しい。しかし、高齢化社会が進捗する中でそのニーズは急激に高まっている。今回は、その訪問診療の充実を掲げ、大阪府東大阪市に先月開業したばかりのかわち歯科をご紹介する。松本院長と梅原事務長にお話を伺った。

松本誠二 院長先生/梅原信彦 事務長3年ほど前、福岡市東区にコスモ歯科を開業され、一般外来診療のみを行っていた。そのうち急に外来に来ることがなくなったお年寄りの存在に気付き、電話をしてみると「歩けない」状態と言う。そこで、訪問診療を始めることを決意した。文字通りゼロからのスタートと言えよう。
梅原事務長は語る。

「あくまで民間のサービスとしてやっていこうと思ったのですが、どういうところに患者さんやお困りの方がいらっしゃるのかも分からなかったので、医療器械の取次店などに声を掛けて教えて頂いたりして、試行錯誤のスタートでした。ちょうど介護保険制度も始まったところでしたので、特別養護老人ホーム、グループホーム、介護支援事業所、訪問看護ステーションなどの事業所に協力を取り付けていきました。」

ヘルパーやケアマネージャーが持つ情報も大きかった。その頃既に「どこに往診をしてくれる歯医者さんがいるのか」を尋ねてくる患者さんの数は少なくなかったようだ。そして、実際に訪問診療をする歯科医には「順番待ち」の現象まで起きていた。
コスモ歯科においても、すぐに口コミで評判が広まり始めた。1つの施設を訪れ、1人の患者さんを診ていると「私もしてほしい」と他の患者さんから声が掛かる。すぐに福岡市内、郊外部で30ほどの事業所と契約を交わすこととなった。また医師不足の事態にも陥ったので、訪問診療に興味のある歯科医師を集い、木村歯科、小郡歯科とのネットワークを構築した。そのネットワークの広がりで、このほどかわち歯科の開業につながっていく。

松本誠二 院長先生/梅原信彦 事務長梅原事務長は知己の歯科医を頼り、大阪への進出を模索した。ただ、大阪市内には既に訪問診療を同じような形態で始めているところが多く、市場という意味では魅力はなかった。そこで、人口分布図調査、高齢者数や施設数の調査といったマーケティングから東大阪市に開業の地を定めた。

「東大阪市は医療行政の面では若干の立ち遅れを感じていました。私どもが入り込む余地は十分にあったわけです。こちらは8年ほど前まで内科で開業されていた物件なんですよ。少し駅から歩きますし、間口が狭いのが気になりましたが、ハコより中味にこだわりました。」

開業地は東大阪市高井田本通2丁目に位置し、近鉄奈良線布施駅から延びる柳通りに面している。柳通りは近鉄バスが通るこのあたりのメインストリートであり、中央大通へと接続する。中央大通と並行して運行する地下鉄中央線の高井田駅も徒歩圏内である。マーケティングの結果、布施駅から中央大通までの間に競合物件がないことも分かった。東大阪市は全国でも有数の中小企業の街として知られ、開業地付近も準工業地域であり、町工場が並び立っている。ところが昨今、町工場の撤退や移転が相次ぎ、跡地に建て売り住居やマンションが建設され始めた。当然、人口の急増が見込め、将来性も十分との見通しが立った。
開業地の選定と並行して、「かわち歯科」の院長職も公募した。決定した松本院長は28歳の新進気鋭の歯科医師である。神戸市出身で、朝日大学卒業後、岐阜県や滋賀県、大阪市内で勤務医としてキャリアを重ねていたが、訪問診療には携わったことがなかっと言う。
松本院長にお話を伺った。

松本誠二 院長先生/梅原信彦 事務長「大きな信念を持たれているところだ、というのが志望動機ですね。大学時代、親戚が経営する特別養護老人ホームでアルバイトをしたことがあります。そのときに施設に入られていた方の独特の孤独感のようなものを感じました。また、卒業後、すぐに岐阜県で研修したこともあって、高齢の方の診療に関しては勉強させて頂きました。一般歯科では<患者さんが来てくださる>というイメージでしたが、訪問診療だと<医師から出向く>わけですから、患者さんの反応はどういうものなのかという興味がありました。訪問診療の経験こそありませんでしたが、患者さんの言葉を直接聞きたいという強い思いがありました。痴呆症や障害のある患者さんはご家族や周りの方が代弁されますが、話はできるけど外来には来られないという患者さんには医師に訴えたいことがきっとあると思います。そういう患者さんと直接のコミュニケーションを取りたかったのです。」

訪問診療に備えて、器材も揃えた。口腔ケアだけでなく、入れ歯の治療、修理、虫歯の 治療から、麻酔、抜歯まで可能な本格的なものである。訪問診療というと簡素な治療をイメージするが、実際は外科的治療以外の分野に関しては何でもこなせる。
開業にあたっての告知活動はポストへのビラ配りのみといういたってシンプルなものであるが、開業準備をしている中にも、近隣の町工場の社長が「助かるわあ」と医院を見に来てくれたこともあったそうだ。
取材時点で、開業から10日余りであったが、既に訪問診療先の事業所を3軒ほど抱え、梅原事務長はさらなる展開を「開発中」と表現する。かわち歯科ならではのサービスは居宅、事業所どちらでも「無料の予防検診」ということだろう。また、患者さんだけでなく、ご家族やケアマネージャーを招いての口腔ケアの講習会も無料で開催している。

「皆さんから喜んで頂いていますね。わざわざ歯科医に行かなくても、自宅で出来るケアというものはありますから。確かに直接の報酬にはなりませんけれど、私どもが採算のことばかり考えていたら、社会からは認められませんよ。サービスは社会に認められてこそ、のものです。」

松本誠二 院長先生/梅原信彦 事務長松本院長は「信頼して頂ける歯科医になり、私自身を気に入ってくださる、私のファンを増やしたいですね。そこから地域に根付いたネットワークが出来ると思うのです。」と語る。
一方、かわち歯科は、コスモ歯科、木村歯科、小郡歯科とともに「高齢者歯科介護研究会」を組織し、年内のNPO法人取得に向けて準備中である。梅原事務長も歯科医療におけるサービスとは何であるかということを常に念頭に置いている。

「医療ネットワークでは、ひとりひとりの歯科医師が、治療技術や意識を高めようとすることが必要です。中味の濃い、そして誰からも愛される存在になっていきたいですね。」

現在、かわち歯科では、訪問診療に興味のある歯科医師・歯科衛生士 からのお問い合わせも歓迎します。