歯科経営者に聴く - 船洲会 船木毅理事長

歯科経営者に聴く ~第一線で活躍する院長から学ぶ~

医療法人社団 船洲会 船木毅 理事長

医療は、医師1人の力ではまかなえない。衛生士・技工士の協力が必要だ。そう考えたときには、すでに医師の思い上がりが始まって入るのかもしれない。
歯科医の仕事は、「スタッフとの共同作業です」と、船木理事長は言う。スタッフの協力を得た医師の仕事、とは言わないのだ。
今回は、医者とスタッフ、より広くは社会とのあるべき関係について伺うことにする。

医療法人社団 船洲会理事長 歯学博士 船木毅 先生

医療法人社団 船洲会 船木毅 理事長

プロフィール

  • 医療法人社団 船州会 理事長
  • 日本歯科大学 保存学講座 非常勤講師
  • 日本歯科保存学会 保存治療認定医
  • 歯学博士
  • 神奈川県 診療報酬支払基金審査委員
  • 元 神奈川県 歯科医師会理事
  • 元 神奈川県 歯科技工士試験委員

1.歯科医療にかかわる全業種を豊かに

Q. 技工は、別会社にしていらっしゃるんですね。

医療法人社団 船洲会A. この診療所だけでなく、広く仕事ができるようにと思いまして。これは、経営的な部分も大きいのですが、技工士を含め、歯科医療にかかわるすべての業種が豊かになるように考えるべきだと思うのです。

Q. この不況の中で、技工士が、下請け的しわ寄せを受けることも多いようですね。

A. それはまずいのです。歯科医だけで良い治療ができるはずが無いのですから。技工士が作ってくれた義歯の具合が良ければ、歯科医の評判が上がるし、悪ければ下がる。これを忘れてはいけません。

Q. 患者さんには結果が全てですからね。

A. 私自身は、技工も勉強するのが当然だった世代ですが、世の中が進むと分業も進みます。これは当然のことだと思います。しかし、お互いのやっていることを理解したほうが、良い結果を出しやすい。この点は変わりません。技工指示書を書くにしても、良いものを作ってもらうには、何をどう書けば良いか。それが分かっているのといないのでは、大きな差が出るのです。

Q. 具体的には、どのようなことを書いていらっしゃるのですか?

A. 患者さんの年齢や体格、お顔の形、職業や趣味や特にお好きな食べ物などを書くことが多いですね。できあがりの良し悪しは、結局、その患者さんの要望にぴったりと合っているかどうかですから。極端な場合、その患者さんにとって、うまく噛めるかどうかより重要なことが、他にあるかもしれない。

2.社会、受診者の利益を

Q. 患者さんから要望を聞き、スタッフに伝える。どちらの方向へも、コミュニケーションが大切なのですね。

A. それは、これから開業する若手のみなさんにも、医師会にも言いたいことです。自分や会員のことだけ考えて、人の話を聞かないようでは、いずれ社会に見放されるでしょう。まず、患者さんや社会のことを考えないと。

Q. 相手を生かすことで、自分も生きる。職業倫理の基本ですね。

A. 私は、昭和一桁の最後、9年の生まれなんです。美学というか、格好をつけるのが好きな世代で(笑)それがないと落ち着かない。戦国武将だと、上杉謙信が好きなんですよ。損得抜きで、やらなければならないことをやった武将だというイメージですね。歯科医の経営にしても、今、目の前にあるおいしいものを全部たいらげてしまったら、明日はどうなるのか。それは本当に、考えないといけない。甘いものばかり食べていると、虫歯になります。

Q. 不況だとかえって、おいしい分野や治療法に飛び付きたくなります。

A. 2~3日間の講習を受けただけで始めてしまうと、いわば、患者さんを実験台にしているようなものです。前回、患者さんに育てていただいて経験を積むとは言いましたが、二度も三度もというのは、ちょっと違うんじゃないかという気がしますね。患者さんを、二度は実験台にしないこと。やはり、休業して学校に行きなおすなり、自分でもそれなりの努力と投資をして、充分な技術を身につけないと。それまで、自分が築き上げた評判も台無しになります。

Q. 開業していれば、逃げるわけには行きませんからね。

A. 患者さんの利益って言うのも難しいですけれど、「ここに来て良かった」と思っていただけるようなものを、まず提供すること。すると、患者さんからご紹介をいただくと云う、利益がかえって来る。それが一番のベースだと思っています。

Q. 相談室のような、直接お金にならない部屋を作ったのも、フロアをバリヤフリーにしたのも、その気持ちがあってのことなのですね。

A. 昨年末には、治療後に利用できるよう、パウダールームを作りました。これはかなり好評です。医療機器も、できるだけ良いものを導入したい。赤字になると事務長に怒られるでしょうが。

3.感謝と奉仕の心で

Q. こちらに伺ったとき、到着がアポイントの3分前だったと思うのですが、すでに受付のかたがエレベーターホールに出迎えに立っていらしたのには驚きました。接遇というレベルで考えていたら、ありえないことではないかと思いまして。

医療法人社団 船洲会A. そうですか?きちんとお迎えして、満足して帰っていただくのが当たり前だと思うのですが。私の格好つけが影響しているのかな(笑)。

Q. 今日だけ特別のお出迎えだという気配があれば、これほどには驚かなかったでしょう。いつもどおりに自然にしているだけという感じで、だからかえってびっくりしたのです。
最後に、理想の病院像についてお聞かせください。

A. 私と考えを一つにする人間集団の診療所を作ることが目標です。大切なのは、自分の仕事に誇りを持てることと、感謝と奉仕の心ですね。