歯科経営者に聴く - 高輪歯科医院 創立者 深井眞樹先生

歯科経営者に聴く ~第一線で活躍する院長から学ぶ~

医療法人社団 高輪会 高輪歯科医院 創立者 深井 眞樹 先生先生

医療法人社団 高輪会 高輪歯科医院

医療法人社団高輪会は1979年に東京都港区高輪に第一号となる歯科医院を開業した。1890年に高山紀斎が創立した高山歯科医学院が高輪にあったことから、高輪は日本の歯科医学教育発祥の地であり、高山歯科医学院はのちに東京歯科大学となり、現在は東京歯科大学によって「歯科医学教育発祥之地」の記念碑が残されている。
高輪会でも、教育には力を入れ、設備力や技術力とともに人材育成に傾注してきた。現在は高輪の本部を中心に、20カ所の診療所を運営している。
また、全国の歯科医院に先駆けて、専用の訪問診療車を導入し、訪問歯科を開始し、これまで通院が不可能であった人たちから多くの支持を集めた。現在では5,000人ほどの訪問診療先を抱えているという。
今回は高輪会の創立者深井眞樹先生にお話を伺った。

医療法人社団 高輪会 高輪歯科医院 創立者 深井 眞樹 先生

プロフィール

  • 1949年 東京都 生まれ
  • 1979年 日本大学 卒業
  • 米国インディアナ大学客員講師
  • 米国インディアナ大学医学部解剖学 顎顔面頭蓋部臨床解剖 認定医
  • マニラセントラル大学客員教授
  • ナショナルユニバーシティ大学客員教授
  • 日本口腔インプラント学会評議員・専門医
  • アジア口腔インプラント学会 国際事務局長
  • アジア口腔インプラント学会 日本支部 会長
  • バイオインテグレーション学会 理事
  • 一般財団法人野口英世医学研究所 歯科部会 理事長
  • 2015年8月27日 逝去

【学会 他】

  • 米国インディアナ大学客員講師
  • マニラセントラル大学客員教授
  • 日本口腔インプラント学会評議員・専門医
  • 日本口腔インプラント学会関東甲信越支部副支部長
  • アジアインプラント学会事務局長
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【開業に至るまで】

■歯科医師を目指されたきっかけをお聞かせください。

中学高校と日本大学豊山付属校に通っていましたので、そのまま日本大学に進学した先輩たちを見ていたのですが、先輩たちは勉強していなかったのです(笑)。私としては折角、大学に行くのだから、勉強する学部に行こうと思い、歯学部を選びました。私の世代は人数が多く、30倍の倍率がありましたよ。大変な受験戦争でした。

■大学時代のエピソードをお願いします。

歯学部に入ったものの、授業の内容は嫌いでしたね(笑)。大学はもっとアカデミックな場所だと思っていたのに、職業学校という印象でした。座学よりも入れ歯を作るなどの「作業」が多かったのです。当時、入れ歯を追放しようと思ったことがその後のインプラント治療へのきっかけになったかもしれません。

医療法人社団 高輪会 高輪歯科医院大学時代はヨットに熱中していました。大学のヨット部はオリンピックの競技になっているような小さなヨットなので興味が持てず、クルーザーを持っている方々のところにお邪魔し、修行させていただいていました。石原慎太郎さんの船のクルーも務めました。クルーは15、6人いましたが、石原さんからは男としてのあり方、船乗りとしてのあり方を学びましたね。石原さんの船以外でも、その頃に学んだことは全てに渡って今も染み付いています。夜のレースは怖いものだらけなのですが、そこで動じないことを学んだのは経営者としては役に立っていますし、集中力やチームワークの大切さも海で教わりました。海の男たちはただかっこいいだけではなくて、本当に素晴らしい人たちなのですよ。

■勤務先を選ばれた理由をお聞かせください。

大学の小児歯科の教授のプライベートオフィス的な歯科医院に就職しました。私は大学時代、入れ歯が嫌いで、大学を辞めたかったほどなのですが、その先生の授業を聴いて、歯だけを診ずに、子どもの成長を診ることが大事なのだと分かりました。あるべき姿の噛み合わせが完成するまで、阻害する要因を取り除かなくてはいけませんし、顎など、身体全体の中での歯なのだと気付かせていただいたのですね。
その歯科医院は小児歯科を標榜していたのですが、保険外診療を行っていました。当時は小児の保険点数が低く、「子どもは泣いたりするし、帰ってほしい」という時代だったのですよ(笑)。だからこそ、教授は時間をかけて、きちんと診療していこうと考えておられ、親御さんからも高いニーズをいただいていました。簡単な矯正などもそこで学びました。
私は卒業後すぐに開業しましたが、開業当初は自分の歯科医院での診療は夜間や休日だけで、ほとんどの時間を勤務医として過ごしました。行ったり来たりしながら、徐々に自分の歯科医院での診療時間を増やしていったのです。

■分院も次々に開設なさったのですね。

医療法人社団 高輪会 高輪歯科医院品川や旗の台などに分院を出しました。分院に関しては一般診療メインです。城南地区に6軒の分院を出したのですが、城南地区に集中させた理由は歯科医師が集まって勉強会を開催しやすいからです。週に1回か2回、多いときはさらに開催したこともあります。

【経営理念】

■経営理念

医療と経営は分けた方がいいと考えています。私どものメインは訪問診療ですので、本部が主体となりますから、結果として、経営主体となりますね。効率化を図って、広域に展開していきたいです。それには技術力を伴った、しっかりした医療が必要ですし、人に奉仕する気持ちがあることが前提です。夜6時に診療時間が終わっても、そのときにいらした急患を断るようではいけません。患者さんの立場にいかになれるか、患者さんの話をいかに聞けるか、患者さんが口に出せずにいることをいかに感じ取れるかが重要なのです。
私どもの理念は「思いやりのある診療、高度で総合的な医療、スタッフ全員の人的な成長をめざす」ことに加えて、より良い環境を作っていくことも挙げられます。これらは30年、変わっていない理念ですし、私どもの考え方の基本です。

■訪問診療

医療法人社団 高輪会 高輪歯科医院約20年前に国内の歯科医院の中で、他に先駆けて法人として組織的に歯科訪問診療を開始しました。
現在はご家庭、施設などを訪問しています。大学卒業直後の先生方は摂食嚥下を学んでいるので、訪問診療では存分に活躍してもらっていますし、チャ ンスは 十分にあります。大学で摂食嚥下を学んでこなかった世代の先生方も私どもできちんと教育していますので若手の先生方同様に活躍できています。





医療法人社団 高輪会 高輪歯科医院 また昨今、口腔ケアの重要性が一般的に広く認識され始めている一方で、要介護高齢者の口腔環境は厳しく、口腔内細菌によって引き起こされる(誤嚥 性肺炎)深刻な問題を抱えています。
口腔は生きる活力を生み出す器具であると同時に感染症の原因ともなっていることを踏まえ、要介護高齢者の口腔感染予防を啓発することは重要です。

しかしながらこのことの重要性が専門職はもとより一般国民には十分知られていません。
高齢者の口腔機能低下の原因である疾病(脳卒中、パーキンソン病等)認知症、老化、内服薬の影響等で摂食・嚥下障害がおきると食べ物が口から食べ られなくなり、低栄養や脱水症状を引き起こします。また誤飲、窒息する危険が高まります。
私たちはこうした問題を起こさないために嚥下内視鏡検査(VE) 等を使用し、嚥下の状態を確認して食事形態の改善・変更や口腔機能低下改善・維持のための口腔リハビリを行っております。  
歯科治療で食べる、噛む、話をするという口腔環境を整え、口腔ケア・口腔リハビリで口腔感染予防、口腔機能維持、改善、回復を支援することは誤嚥性肺炎の予防にもつながります。口腔ケアの機会を通じて全身の健康管理を行っていくことは、現在の歯科医に期待される重要な役割になっていると考えられます。患者さまが少しでも快適に過ごしていただけるように日々努力しております。

■院内での診療

担当医制を採っており、患者さんの治療に責任を持って、基本に忠実な診療を心がけています。1日の担当患者数は歯科医師の実力によりますね、1人に1時間かかる歯科医師ですと、1日に7、8人の患者さんを診ますが、ベテランになると、1日に20人から25人ぐらい診察しています。「患者さんが自分の家族ならば、これでいいのか」、「これは家族にはやらない診療なのではないか」など、常に患者さんを家族に置き換えた振り返りを行うことを、患者さんへの心構えとして話しています。

【スタッフ教育】

■高輪会の教育

私どもはスタッフを管理するのではなく、スタッフを尊重し、優しく、自由に育てていこうと思っています。一方で、勉強会、研修会などの開催は積極的ですね。法人全体で200人のスタッフを抱えていますので、スタッフ間の連携を取ることが難しいのですが、勉強会で情報を共有することで、その後の連携をスムーズにする効果も生んでいます。様々なところからご相談をいただけるように、そして、患者さんがどの高輪会診療所やグループ歯科医院に行っても高輪会としてのケアを受けられるように、皆でレベルを上げていこうと頑張っています。

■接遇

ANAラーニング株式会社の「医療現場の接遇研修」を定期的に受講してもらっています。ベーシックな講義と講師による現場チェックの2回セットになっていまして、スタッフからは毎回、「良かった」との声がありますね。最近では訪問診療のスタッフにも対象を広げているところです。

■歯科衛生士

訪問診療では歯科衛生士の役割が大きいので、かなり頻繁に勉強会を開催しています。歯科医師の勉強会に出席することもありますし、歯科衛生士だけの場合もあります。歯科衛生士だけの場合は私どもの歯科衛生士である大塚博子が講師を務めています。

■訪問診療

一般の歯科診療についての勉強会とは別に、訪問診療専門の勉強会を行っています。摂食嚥下をご専門にしていらっしゃる大学教授によるセミナーを毎月、開催しています。症例をもとにお話をされるので、スタッフにも好評です。

■インプラント

医療法人社団 高輪会 高輪歯科医院私どもに入職後、希望者のみですが、4日間のベーシックコースを無料で受けることができます。インプラントを希望する歯科医師はこのコースを受講しないと、治療することはできません。それ以上に学びたい先生方は私が以前、会長を務めていた日本口腔インプラント学会の認定医制度にチャレンジしていますね。これは学会認定の施設で100時間の勉強をし、試験を受けるもので、5年ぐらいかかります。費用も80万円ほど必要なのですが、私どもでは資金のサポートを行っています。
また、さらなるアドバンスとして、インディアナ大学歯学部と提携したインプラントコースも受講できます。私どもで5年以上勤務し、インプラント症例をかなり手がけ、その先も期待できる先生方にお勧めしているコースです。
海外での学びの機会としてはグアムで行われる解剖の学会にも出席可能です。
私どもでは学会などで発表する場合は休みではなく、全て出張扱いとしています。

【今後の展開】

医療法人社団 高輪会 高輪歯科医院昨年から全国展開を行っているところで、北海道釧路市や神奈川県小田原市、大阪府豊中市、兵庫県神戸市などに分院を出してきました。今後は愛知県の名古屋市や豊田市など、ほかの地区へ展開していく予定です。そのため、地方在住や地方出身の歯科医師のご応募をお待ちしています。
私どもでのメインである訪問診療では摂食嚥下に積極的に取り組んでいますが、摂食嚥下は歯科領域のみならず、医科との関連も非常に深いので、医師の採用も考えています。
介護分野では5月に東京都世田谷区上野毛にデイサービス施設を試験的に開設し、軌道に乗れば、本格的にサービスを開始する予定です。

【開業に向けてのアドバイス】

医療法人社団 高輪会 高輪歯科医院まずは歯科技術の実力をつけることが肝要です。井の中の蛙になることなく、広く、色々な人を見ましょう。歯科医師はついつい自分中心に物事を考える傾向にあり、患者さんに対しても、自分の都合を譲れずに、「この日のこの時間に来て」と言いがちです。しかし、忙しい患者さんも少なくないのですから、患者さんの立場に立って考えるようにしてください。

開業にあたって、どこまで投資するのかは自己資金にもよります。親御さんが資金提供してくださるのでないなら尚のこと、新しい機材をどこまで入れるのか、しっかり考えるべきですね。自己資金が不十分であれば居抜き物件での開業を勧めますが、そういった開業こそ、高い実力が求められると思います。