歯科経営者に聴く ~第一線で活躍する院長から学ぶ~
医療法人社団 弘快会 小野瀬歯科医院 小野瀬 弘記 理事長
関東鉄道竜ヶ崎線『竜ヶ崎駅』より徒歩5分、茨城県龍ケ崎市で三代90年にわたって診療している、医療法人社団 弘快会 小野瀬歯科医院がある。近年では、県北部や埼玉・千葉県から来院する患者様も多く、地域医療の向上に尽力されている。
歯科従事者として、常に患者様の歯と健康を考えて診療し、「歯を抜いてください」といわれた場合でも、それが患者様の歯や健康に悪影響を及ぼすのであれば抜くことはない。歯は大事な体の一部、"いくつになっても、きれいで健康な歯でいて欲しいから"それを使命とされている小野瀬理事長にお話を伺った。
医療法人社団 弘快会 小野瀬歯科医院 小野瀬 弘記 理事長
プロフィール
- 1962年 茨城県生まれ
- 1987年 東京歯科大学歯学部 卒業
- 1987年~1988年 都内歯科医院 勤務
- 1994年 小野瀬歯科医院 副院長勤務
- 2003年 (医)弘快会 小野瀬歯科医院 開設
- 2004年 (医)弘快会 バリュープラザ歯科クリニック 開設
- 2011年 (医)弘快会 新宿オークタワー歯科クリニック 開設予定
【開業に至るまで】
■歯科医師を目指されたきっかけをお聞かせください
祖父がこの地で歯科医院を開設し、地域医療に貢献して早90年を超え、私で三代目になります。
父、亡くなった祖父ともに東京歯科大学を卒業し、現在に至りました。小野瀬家としては、私で17代目にあたり、四代前までは筆屋だったそうです。小さい頃から歯科医になることについては何の疑問もなく、そのまま歯科医になってしまいました。
■学生時代のエピソードをお願いします。
中学時代はテニス部と美術部に入っていました。美術部に入るきっかけは、芸術大学の美術の先生が私の絵の才能に興味を示してくださったことです。ですから、半ば強制的に入部させられました。当時、私が描いたポスターや絵画がその筋の専門家の目に止まったこともあり、歯科医を目指していた私に進路転換のアドバイスをいただいたこともありました。今から考えたら、それも良かったかなと思うことも多々ありますね(笑)。
しかし、現在、歯科医に対しては、原状回復からより綺麗に、より白く、より美しくというふうに、自然観以上の回復を求められることも珍しくなくなりつつあります。その場合、その歯科医師の美的センス、手技のセンスが問われることとなってきます。そういう意味では、美術部での色々なトレーニングも私自身にとってはとても大切な財産であり、今、患者様にフィードバックできていると感じています。
高校時代は特に何もやっていませんでした。大学ではサーフィン同好会とゴルフ部を兼部していたこともありましたが、ゴルフが好きだったこともあり、途中からゴルフにのめり込みました。ゴルフは父の影響で幼い頃から遊びで練習していましたので、大学に入ってからすぐにシングルになり、数年で69というスコアが出ました。卒業してから、単身でアメリカにでも行って、語学の勉強とゴルフアカデミーに入って、数年の間でもチャレンジすれば良かったなと今では後悔しています。
■勤務先を選ばれた理由、学んだことはどんなことでしょうか。
最後に就職した先の院長先生はとにかく滅茶苦茶な人でした(笑)。ただ、色々なことに理解があった人でしたね。時代背景もありますが、長期の旅行をさせていただいたり、お酒を浴びるほど飲ませていただいたり、今ではできない、多くの経験をさせていただきました。
その院長先生は患者様を満足させることを常に考えていたように思います。例えば、古い話になりますが、ウォークマンが発売されると、すぐにユニットに付け、タービンの音で恐怖心を与えないような対策を講じたり、常に笑いのある医院の雰囲気を醸し出しておられました
■歯科医院を継承されるとき、どのようなことをお考えになったのですか。
常にアンテナを高くして、頭を固くせずに、色々な固定観念にとらわれず、良いとされていることは試しながらも、患者様にメリットがあることなら取り入れる柔軟さを持っていたいと思いました。その時々の時代背景で、人の価値観は目覚ましく変化するものだと理解していますし、学術に関しても、昨日まで良いとされていたことが一夜にして覆されることも珍しくありません。将来的な歯科医院の方向性やビジョンをはっきりさせる必要はありますが、細かい方針については誰の真似をすることもありませんし、ある意味、流動的に考えています。
■郊外型の歯科医院ならではの患者層の特徴はありますか。
保険診療では社保の家族、国保の方が多く、世帯主は少なく感じますね。世帯主は労働力として、都心へ通勤しているケースが多いのではないでしょうか。
■医院を継承した当初の患者数は多かったですか。
20年ぐらい前なので、歯科医師の数も今よりは約20,000人少なかった時代です。予防という概念も今ほどはありませんでしたし、子どもの数も多かったので、単純に考えても、患者数は多かったですね。今では地方の小都市は過疎化が進みましたので、患者数も少なくなっています。
■開業にあたってのコンセプトやこだわりなどをお聞かせください。
コンセプトは、あくまでも患者様主体にこだわり、審美治療を中心に美しい笑顔を引き出すこと、患者様のご要望によりスマイルコーディネーターとしてご提案させていただくことです。良い品質のものを常に迅速に提供できるようにブランディング化を図っていきたいと思っています。
内装については、特に明るく清潔感と解放感がある内装を目指しました。医療機器の購入は価格の問題はありましたが、できる限り最新の機器を揃えました。
昨今、医療機器にはコンピュータが入り、レセプト、CT、セレックなど、モニターに映し出すことにより、ビジュアルによる説明の重要性が高まっていますので、各ユニットに40インチのモニターを備えました。
スタッフの採用に関してですが、今回、スタッフを採用するにあたって募集をしたところ、予想を超えるほど多くの反響があって驚きました。そのため、グループ面接を導入したのですが、この方法は応募された方の能力や雰囲気を知るには非常に良いですね。
【経営理念】
■経営理念をお聞かせください。
患者様の満足感の向上とコストパフォーマンスを上げることに尽きますね。そのため、歯科従事者として、常に患者様のオーラルヘルスケアーを考えて診療しています。そこには、本人の要望を第一に考えながらも、さまざまなエビデンスから予知性をもった治療を提供できるように、探究を惜しまなく続けていきたいとおもいます。歯は大事な身体の一部です。「いくつになっても、きれいで健康な歯でいてほしいから」というのが私どもの使命です。
【診療方針】
診療方針をお聞かせください。
患者様からは「いつまでかかるの」、「いつになったら、歯を白くしてくれるの」、「いくらかかるの」、
「どんな歯科医院なの」などという疑問が聞こえてきますが、セルフホワイトニングシステムが一つの解答としての役割を担っているでしょう。どういう意味があるのかと申しますと、自分のペースで行うことができるのと同時に、患者様が歯科医院の敷居をまたぐことにより、院内の雰囲気やコンセプトがある程度リサーチできるし、不安感も払拭できます。一番、大事である人の流れができるということに繋がるのですね。
また、私どもでは高度治療も取り入れています。なかなか白くならない歯でも、CAD/CAMシステム(セレックAC)により、1時間足らずでオールセラミック治療を行うことが可能ですし、そもそも歯牙自体に問題があり、治療ができない場合でも、オールフォスXG3D(シロナのCT)により確定診断を行います。その結果、EXTしてもイミディエイトにより、その日のうちにインプラントの埋入の手術をして、仮歯を入れることも可能になります。
最も難しい手術は審美領域のインプラント治療です。そこで、私どもの歯科医院のサブタイトル的なものを「エステティック&インプラント」に決めました。
【増患対策】
■増患対策として、どんな取り組みをなさっていますか。
患者様の要望を第一に考え「セルフホワイトニングカプセル」という提案をします。医院に入っていただくためだけの環境を整え、医院の様子を誰でも容易に見れるようにきっかけづくりをして、また、それによるキャンペーンを行います。医院はセレックACとコラボレーションできるCTを完備することにより、「クイック&クオリティー」という概念を大切にしています。「何でも出来る歯科医院」から「何が得意な歯科医院」への明確なコンセプトを打ち出し、特殊性に秀でていることも分かりやすく伝える事で他医院との差別化がされ、患者様のニーズを取り込み易くします。
【スタッフ教育】
インディアナ大学(IU)、南カリフォルニア大学(USC)、UCLAなどの教授陣、学長とも親交がありますので、私どものスタッフにも最も進んだ歯科医療のレクチャーを受ける機会を与えられる事があります。また、勤続年数や私どもへの貢献度によっては、育成プログラムの一貫としてインプラントの講演参加、修了証など習得する用意もあります。
スタッフの間では些細なことでも常に情報を共有し、大事に至る前に時間を作って、それぞれに話を聞くようにしています。また、食事会などを開催し、どのようにしたらスタッフが同じベクトルを向くのか、いつも考えています。
■スタッフに求めることはどのようなことですか。
歯科医師は直接的な治療以外に、患者様の身になり、対応できる方ですね。
歯科衛生士は嫌な仕事でも率先して行い、イレギュラーなことが起こっても、表情に出さず、まずは患者様のこと、そして職場のこと、仲間であるスタッフのことを優先して行える方を望みます。
歯科助手は親切心があり、明るく、笑顔で、気が利いている方がいいですね。
私どもで働いて、スタッフが成長していく過程を見ると、この仕事をやってきてよかったと思います。感無量ですね。
【今後の展開】
■分院を開設しようと決断されたいきさつはどのようなものだったのでしょうか。
私どもの法人組織は初年度から30%、10%、10%、10%と事業成績を伸ばし続けています。2年前ぐらいから税理士の先生の勧めもあり、東京都の東京駅付近、汐留、青山などの大手の不動産ビルの1階にターゲットを絞って、物件を探していました。そのため、1年前から歯科医師を増員したのです。私が患者様全員に関わっていきたいという気持ちに変わりはないのですが、なるべく特化した治療だけに留め、いつでも分院に行けるように準備していたところ、御縁があり、2軒目の分院を新宿に開業できる運びとなりました。オフィス街ですので、時間がない患者様が多い一方で、審美治療に対して意識が高い方が多いので、遣り甲斐がありますね。
1軒目の分院は埼玉県上尾市の商業施設の中に入っています。そのため、患者様は多いのですが、90%が保険診療です。本院はほとんどが予防に移行していますので、きめ細やかな歯周メインテナンスが必要であり、ご要望にお応えできていると確信しています。
■保険、自費の比率や主流の治療法などをお聞かせください
所と診療スタイルで保険と自費の比率は変わってしまうと思います。新宿ではなるべく多くの会社にお勤めの方に利用していただきたく、「これで!」という決め方をするよりは、柔軟性をもって、患者様の望まれる治療の幅を広げていければと思っております。それが、保険の範囲なのか?自費の領域なのか?は「ニーズが決めてくれれば。」というのが正直なところですかね。ただ、ニーズがあるのに提供できない事の無い様にしっかりとした準備は怠らないようにいたしますし、できているつもりです。
【開業に向けてのアドバイス】
開業に向けてのアドバイスをお願いします。
私が開業するころは好景気で、患者様に携わる機会も多くあり、保険のみでも生計を立てられましたが、今は歯科医の人数ばかりが多く、しかも医療費が抑えられていることから、保険による収入だけでは辛いのではないでしょうか。したがって、若い先生方がインプラントの技術を早く習得され、開業されたいとする気持ちは分かりますが、「急がば回れ」という諺があるように、近道はないと思います。地道に信用を構築していくことが大事でしょう。
【プライベート】
ゴルフが趣味で、3、4年前は休みとなるとゴルフ場にいましたが、多分野に渡る勉強会も多くなり、ここ数年はあまりできなくなりました。そのため、下手になってしまい、最近ではゴルフをやることがむしろストレスになりますので、ストレス解消法はゴルフをやらないことかもしれません(笑)。そうすると、趣味といえば映画を鑑賞することぐらいですね。