歯科経営者に聴く ~第一線で活躍する院長から学ぶ~
医療法人社団 白美歯会 五十嵐歯科クリニック 五十嵐 一誠 理事長
日本でも有数のファショナブル・ストリート、横浜・馬車道に、ハワイワイキキの天国に一番近いホテルといわれる「ハレクラニ」をイメージしたクリニックを構えて2年。「ハレクラニはハワイでも最高級ホテルの1つですが、フレンドリーな接客が心地よいホテルです。私たちのクリニックもそのような空間でありたいと願っています」。五十嵐一誠理事長の言葉通り、患者さんが五十嵐歯科クリニックで治療を受けると期待以上の成果に満足し、また行きたくなるクリニックになる。それだけでなく、友人、知人に「こんなステキなクリニックを見つけた」と、つい話したくなり、積極的に友人・知人に紹介するloyal customerが育つ。customer satisfaction(顧客満足度)とloyal customerをキーワードに成長を続ける五十嵐歯科クリニックは日本における審美歯科のフロントランナーである。
医療法人社団 白美歯会 五十嵐歯科クリニック 五十嵐 一誠 理事長
プロフィール
- 1957年 神奈川県横浜市生まれ
- 1984年 神奈川歯科大学卒
- 1985年 五十嵐歯科クリニック継承〔本牧〕
- 2004年 (有)ハナナチュラルホワイトニング代表取締役
- 2006年 マイスター春日歯科クリニック 開設
- 2007年 五十嵐歯科クリニック開業〔馬車道〕http://www.igarashi-shika.jp/
- 2009年 自由が丘院開業
開業に至るまで
審美メインのクリニックを軌道に乗せるまでにはご苦労も多かったことと思いますが。
大学を卒業して、横浜の本牧で親がやっていた歯科医を継いでから26、7年になりますか。横浜市立みなと赤十字病院の前身である横浜港湾病院口腔外科勤務などの勤務医経験はありますが、ほとんどを開業医として過ごしてきました。本牧時代は、どこにでもある街の小さな歯科医院でしたが、僕は人のやらないことをやりたい性格だったので、ずっとどうしたらきれいな歯がつくれるだろうかとばかり考えていました。
当時は審美歯科の概念が日本にありませんでしたので、教わるところがないのが最初の苦労でしたね。
それでも医院をリニューアルして審美歯科をスタートさせたら、バブルがはじけて銀行にもいじめられて相当な苦労をしました。今の私を見ている人は、順風満帆できたように見えると思いますが、苦労はずいぶんしました。インターネットが普及するまでは一番辛い時期でしたね。ホームページを立ち上げたら、すぐにネット時代が到来して効果的な宣伝ができるようになり、苦労が報われ始めたかなって思いました。
きれいな歯にこだわったのはなぜでしょうか。
もともと空間デザインの仕事をしたかったのです。実は中退したのですけど、日本大学生産工学部建築学科で勉強していたんです。子どものときから精密なプラモデルをつくったり、自転車にさまざまな工夫を凝らして自分だけの自転車を乗り回したり、本来の資質としてデザインや創造的なことが好きだったのです。ですから歯科医になってからも、さまざまな工夫を凝らし、きれいな歯をつくるために新しい素材を使うことに熱心でした。
審美歯科の勉強はどこでされたのですか?
世界的にみれば、日本の歯科医療は先進国の中で最も遅れていると思います。具体的に言えば、アメリカはもとよりマニラ、シンガポールでも主流はコンポジットレジンのノンメタルです。メタルを使っているのは日本くらいのものです。
アメリカのドクターと僕の考え方は根本的に異なっています。アメリカ人ドクターで審美歯科をやっているドクターは一部のアッパークラスしか相手にしないので、治療費を気にしないで最高のものを提供しようとします。しかし、僕は美しくなりたいすべての女性に最高の審美歯科を提供したかった。20代、30代のOLが、ヘアサロンやネイルサロンで使う程度の料金で白くて美しい歯を提供したかったのです。そうした根本的な違いがあったので、方法論も私とは相いれないものだったのです。ですから、デンタルエステティックを目指して、独学で学びました。
横浜・馬車道での開業はどのような理由によるのですか。
今年の7月に開業した自由が丘院もそうですが、最高のロケーションで最高の審美歯科を提供することが重要だと考えています。僕のクリニックを受診される方は歯が痛いから来るわけではありません。美しくなりたくて受診するのですからロケーションは重要な問題です。その点、馬車道のロケーションは歴史と文化の香りが漂い、若い女性にも受け入れられやすいと考えました。
クリニックというよりホテルのロビーのような空間ですね。
全体のコンセプトはハワイです。僕はいろいろな国に行きましたが、ハワイは日本人にとって最も癒されるリゾート地だと思うのです。そのハワイの中でもハレクラニホテルは最高級ホテルの1つですが、とてもフレンドリーな空間を用意して宿泊客を迎えます。僕が一番心に残ったホテルだったので、 ハレクラニをイメージしたインテリアとホスピタリティ、フレンドリーで
ありながら細部まで行き届いた接客をしようと思った訳です。気持ちのよい時間と空間を過ごしていただくために室内の香りにはマウイ島から買い付けたハワイアンアロマが漂いプルメリアやアンセリウムなどの香りを楽しんでいただけます。歯科医院の臭いを一切させない心配りもしています。美しさを求めるすべての女性のためのエステティックデンタルクリニックの完成度を高めています。
五十嵐先生の創造性がいたる所に発揮されているように感じられます。
白を基調にしたクリニックとユニットはくつろいでいただけるよう配慮しました。その上で各ユニットは完全なパーテーションによって仕切られているのでプライバシーは保護されます。
ドクターも含めて男性はアロハシャツ、女性はアロハをイメージしたワンピースと白いパンツです。これは僕のクリニックのオリジナルです。
経営理念
「患者」という言葉がとても少ないように感じますが。
僕は、受診される方を「患者」という概念でとらえていません。お客さまだと思っています。お客さまに最高のサービスを提供して十二分に満足していただく。すなわち、CS(顧客満足度)とloyal customerが、僕の経営理念を表すキーワードです。
ご承知のように、loyal customerとは、ある企業や商品・サービスに対して忠誠心をもった顧客のことですが、loyal customerを育てる鍵は、徹底してカスタマーサービスを磨き上げることです。一流のホテルやレストランに見られるような洗練されたサービスと技術を提供することで顧客満足度を高め、それが僕やクリニックのファンを増やすことにつながります。ですから、受付には徹底して接客態度を指導します。
施術中あるいはカウンセリング中の会話術も重要です。フレンドリーでありながら、受診される方のニーズに最もふさわしい治療の選択肢を提示し、治療が終了するまでの会話術はとても重要です。
身だしなみからスタッフの佇まい、会話にいたるまでカスタマイズされた顧客サービスがあって、さらに審美歯科の優れた技術を持つことで顧客満足度は向上します。
一流の企業人にとっては当然のことですが、従来の歯科経営には決定的に欠けていた部分です。率直に申し上げて、僕の経営方法は従来のクリニックにはない方法です。
診療方針
すでに申し上げたように、美しくなりたいすべての女性にとって、また行きたくなるような審美歯科。これが最大のポイントです。そのために受診される方のために癒されるような空間をつくり、スタッフにも接客マナーを徹底しています。そして、歯科医として誇れる技術で審美歯科を提供することです。
世界的にみれば審美歯科医はグレードの高い地位を確立しています。その理由は、美しい歯をイメージする能力、イメージした歯を再現する技術があるからです。優れたデザイン感覚と専門家として優れた技術がなければ審美歯科はできないのです。
僕は本来、アーティスティックな仕事をしたいと思うような感覚を持っていたので、スタッフ・ドクターにはバランス感覚とセンスが重要だということを言います。そして美しいものをイメージできるイマジネーション。審美歯科はアートです。僕たち審美歯科医の技術は、受診される方が最も美しく見える歯すなわち作品をつくるためにあるのだと思います。
顧客満足度を満たすような診療についてお聞かせ下さい。
保険診療の範囲でやって欲しいと言われれば、その範囲内で最高のものを提供する自信があります。「でも、こちらの素材を使えばもっときれいになりますよね」と言われても、「無理をされないで、今回はたとえば2本だけやって次に来られるときにまた考えましょう」と言います。「これでなければできない」というのは僕のクリニックの禁句です。受診される方の希望をかなえるこのことを徹底しています。
「歯をきれいにしたい」夢として歯がきれいになったら・・・という潜在ユーザーは非常に多いのですが、実際は「歯をきれいにしたい」と願っている方の10分の1くらいしか審美歯科を受診していません。その理由の第一は高額であることです。僕は高額であるがゆえに受診できない方のニーズに応えたい。
会話をしているとき、相手の口を見ているとわかりますが、日本人の口角は下がっており、そのために下の歯がよく見え、上の歯はほとんど隠れています。なぜか?歯に自信がないからです。そのような方の歯並びを整え、真白できれいな歯にすると、その瞬間から口角があがり、下の歯が見えなくなり、上の歯が見えるようになります。そのときの笑顔はとても美しいですよ。
現在、うちでは、歯へのダメージが少ないセラミックスラミネートが主流ですが、実際に施術する前にシミュレーションします。その段階で全身が見える鏡で見ていただくだけでも口角があがります。
リーズナブルな価格で驚いています。
「よくこんな価格でやっていけるね」と言われますが、僕は一部の高額所得者ではなく、若い女性が支払える金額で、それぞれが無理なく美しい歯を手にいれていただきたいと思っていますから受診者のニーズに応えられるような価格設定にしました。
需要に比べて審美歯科受診者が非常に少ない現実の背景には高額な料金設定があります。僕は歯科院長を対象にしたセミナーをやっていたことがありますが、
そこで院長に今の価格設定の根拠を聞くと、多くの院長が「以前、勤務していた歯科医院にならった」「近隣の歯科医院の価格設定に合わせた」という答が返ってきます。
原価計算をして、広告料金などを差し引いて利益率を出すという経営者として当たり前のことをするとこのような価格設定が可能になります。
「ホームホワイトニング」「オフィスホワイトニング」も、どこよりも安い金額設定になっています。
馬車道で開業してまる2年たちますが、3100人の治療を行いました。自由が丘院は2カ月で、ホワイトニングだけで約500人です。これまで何千、何万という歯を治療してきましたが、その実績にもとづく技術の裏づけが受診者数に結びついていると思います。
顧客(患者さん)のニーズを的確につかむコツはなんですか。
井の中の蛙にならないことです。僕は若い頃、苦労もしたけれど遊ぶことも人一倍でした。そして異業種の人との交流もたくさんあります。
そういう経験があるから若い女性のニーズをつかむことができる。もし僕が学会と自分のクリニックしか知らないような歯科医だったら、今の経営理念は生まれなかったでしょう。
増患対策
効果的な広告戦略を立て、徹底したカスタマーサービスで顧客満足度を高めることに尽きます。
僕は人の何十倍も増患対策、僕流に言えば集客と宣伝に力を入れてきました。それは本牧時代の苦労があったからです。受診者はそれなりにあるのに経営が苦しいという時期を経験しているからより効果的な広告戦略を考えた。今あるのはその結果に過ぎません。
今、多くの企業がホームページを立ち上げ、効果的な広告戦略を打ち出していますが、全国8万件の歯科医院の中で、どのような形であれホームページをもっている施設がどのくらいあるかご存知ですか?
ホテル業界は100%、レストランなど飲食業も100%近くがホームページをもっているのに歯科医院はわずかに40%です。歯科医院は苛酷な競争にさらされているにもかかわらず、ただひたすら患者さんが来るのを待っているだけの歯科医院がいかに多いことか。
CSあるいはloyal customerを考えて経営している院長はおそらくほとんどいないでしょう。歯科経営者が旧態依然とした経営しかできないのは、彼らだけの責任ではありません。保険医療制度と医師薬事法が彼らを縛っている側面があります。国民皆保険は横並びの医療を推進し、医師薬事法で広告規制をかけられていたので、改正されるまで、効果的な広告戦略をもてなかった。ところが、僕は異業種の経営者に知己が多く、彼らから効果的に利益を出すための考え方を聞くことができる。異業種の優れた経営者からは、歯科という狭い業界では得られない貴重な話が聞けます。
歯科医療に限らず医療はサービス業である側面に、ようやく気づきはじめたというのが日本の医療の現実ですね。
ところがサービス業だと認識している歯科院長は少ないですよ。サービス業であることを全否定する方もあまりいませんが、多くの院長は、30%くらいはサービス業としての側面があるくらいの感覚です。
しかし、僕は100%サービス業だという認識で経営しています。どのような業種にも共通していることですが、客がいなければ成立しないのです。どんなに優れた技術、商品があっても買ってくれる顧客がいなければ成立しません。だから、どうやって顧客の心をつかむか、必死にみんなやっている。
それを理解すれば、院長のファン、クリニックのファンになる患者さんを増やす方法論もおのずと見えてくるはずです。
スタッフ教育
現在11名のドクターがスタッフとして働いています。そのうち女性ドクターが7名です。彼らを面接したとき、歯科医としての技術はもちろんですが、ファションセンスをみました。ファッションセンスのない者には僕のクリニックで働いてもらいたくない。
美しいものをみきわめるセンス、自分に合った洋服選びができるということは、受診される方に最もふさわしい歯をデザインできるセンスにつながります。
それから言葉使いは、接客マナーの基本ですから厳しく指導します。インフォームド・コンセントなど臨床で必要な説明はもちろんですが、それ以外のフレンドリーで細部まで行き届いた会話のセンスが大切です。その意味で、東京で人気ナンバーワンのヘアサロンのような会話もできる医師であってほしい。
また、スタッフもときには失敗します。しかし、そのときこそ、逆にチャンスでもあると考えています。
僕はスタッフの技術的な失敗は叱りません。失敗をどう処理するか。そこが重要です。そのかわりカスタマーサービスの不徹底やチャンスを逃したことに対しては厳しいですよ。
技術的なミスは取り返せますが、サービスに不満を抱く方を、再度振り向かせるのはとても難しいからです。
今後の展開
他人が見れば、功なりなったと考える人がいるかもしれませんが、僕としては道半ばです。まず現在の経営形態を全国に広げたい。スタッフを徹底的に教育していますから、彼らをトップにしたクリニックを全国展開したいと考えています。そして、美しくなりたいすべての女性に僕の審美歯科を提供したいですね。
開業に向けてのアドバイス
若い歯科医師へのアドバイスとして僕が言えることは3つあります。
第1は、人のやらないことをしなさい、第2は、人の何十倍も努力せよ、第3は、まず行動しなさい。
人の後追いで、先人を追い越すのは大変です。よくて2番手、3番手で終わるでしょう。それより人のやらないことをやれば1番手になれる可能性は高い。人と同じ努力をしていたのでは抜き出ることはできません。成功するためには誰よりも努力することが必要です。それから、考えているだけでは何も生まれない。行動力こそ力の元です。
これは、どんな業種にも言えることですが、歯科クリニックを経営者の視点で運営していこうと思ったらとても重要なことです。
プライベート
昔は、ずいぶん遊びましたが、今は朝から晩まで働いています。僕はスタッフの誰よりも早くクリニックに来ます。それで気づいたところを自分でチェックしてお客さまを迎えます。
ただ、異業種の人達との交流は欠かせませんので、時間があれば出かけて行きます。第一に楽しいから。そして実のある話が聞けるからです。いずれにしても、失敗を恐れずに行動して、仕事を楽しんでいます。