歯科経営者に聴く ~第一線で活躍する院長から学ぶ~
医療法人社団 緑香会 むとう歯科医院 武藤勝 院長
神奈川県横浜市泉区の相鉄線緑園都市駅前の「むとう歯科医院」は、地域の総合的な歯科医院を目指して、歯科医師・歯科衛生士は担当制とし、長期的な視点から診療・予防を行っています。
平成4年11月、テナントビル4Fにて院長とスタッフ2名、ユニット3台からスタートした「むとう歯科医院」は、平成13年9月には同ビル2Fへ拡大移転をしてユニットを8台とし、現在1日90~110人の患者様が来院されています。
「むとう歯科に行ったら、なんか元気になっちゃった!」と患者さんに言われるくらい、いつも明るく元気なスタッフのモットーは「明るく元気に前向きにそして楽しく」。そんなスタッフに囲まれている武藤勝院長先生にお話を伺いました。
開業に至るまで
歯科医を目指された経緯について、お聞かせください。
歯科医を目指された経緯について、お聞かせください。
私の両親は歯科・医科の家系ではなく、ごく一般的な会社員の家庭でした。高校時代にはどちらかというとスポーツに打ち込んでいたので、体育教師になろうと思っていましたが、当時通っていた整骨医の先生が「医者は一生の勉強である」とおっしゃっていた言葉がずっと心に残り、また、何より人の役に立てる仕事である医師という職業に憧れるようになりました。そこで歯科医師に進路を変更して、神奈川歯科大歯学部に進みました。
卒業後に勤務されたのはどちらでしょうか?
>大学時代も柔道部に所属していましたので、柔道つながりで横浜市内の開業医の先生のところに勉強にうかがっていましたので、お願いして入職させていただきました。最初は保険診療をメインにしながら、徐々に自費診療の技術を覚えていく予定だったのですが、とにかくいらっしゃる患者さんが多くて、朝から晩までただひたすらに治療していました。
勤務先で学ばれたなかで、大きかったことはどんなことでしょう?
最初に勤務した医院の院長先生はある意味強烈なキャラクターの持ち主で、とにかく患者さん達からめちゃくちゃモテました。それというのも患者さんとの会話が巧みで、患者さんの悩みや困っていることを聞き出すのがよどみなく、適確な診療を行なっていたからです。ですから、これは使えるなという文言はできるだけメモして忘れないようにしていましたね。
診療自体は保健診療が中心でしたが、自費だけでなく予防にも力を入れている医院でしたので、当然子供の患者さんは多かったのですが、一緒に来たお父さんやお母さんも治療しているのを見てこれからは予防も歯科経営では大切だと気づかされました。予防に力を入れている何軒かの医院に勉強に伺って、いいところ取りさせていただいたのが今役立っています。
平成4年11月開業
開業地はどうやって選ばれたのですか?
もともと地元での開業を考えていましたが、JRの駅前ですと競合も多く、またテナント料も高かったので、私鉄の、宅地開発が進んできているようなところはないかと物色していました。そんな時、勤務先に出入りしていた治療材料屋さんから相鉄線の駅前にいい物件があると教えられました。
実際に行って見ると、まだ建物は建っておらず更地でしたが、周囲にはマンションも建ち始めており、相当数のファミリー層の入居が見込まれました。予防にも力を入れていくという基本方針に合致すると思いましたので決めました。
ところが、決めたのまでは良かったものの、銀行には苦しめられました。それまで全く交渉ごとをしたことがなかったので、最初につくった計画書は手書きのレポート用紙2枚だけ。当然、連続ノックアウト状態です。ほとんどの金融機関を巡った後、最初に訪れた銀行の融資担当者とバッタリ街であった時に近況について話したところ、その後なぜか融資してもらえることになって助けられました。
本当は1階か2階で開業したかったのですが、既に借り手がついており、残っていたのが4階しかなく、どうしようかと思いましたが、考えてみると駅のホームと同じ高さだと気づきました。わざわざ看板をつくるよりも効果があるだろうし、経費節約にもなると思えて最終的なゴーサインを出しました。開業の時は、私と家内とスタッフ1名の合計3人でのスタートでした。
開業初日はどうだったのでしょうか?
初日の来院数は15人でした。当初なぜか100人くらい並ぶんじゃないかと思いこんでいたのですが、開院時間にドアを開けたら、親子が1組だけ。そのお母さんの奥歯の治療が初仕事でしたが、普段しめないネクタイをしていたせいか、柔道の試合とは違う緊張感のためか、なかなか印象が取れず、「自分、大丈夫か?」と一瞬不安がよぎりましたが、その後はちゃんといつも通りにできましたので、一安心でした。
競合も増えてくるエリアだと思いますが、増患対策はどうされたのですか?
増患にはやはり口コミが最も重要だと感じていました。自分の子供の通う幼稚園や小学校のお母さん達に話を聞くと、どこそこの歯医者さんはうまいとかあそこは高いとか、そういう口こみネットワークみたいなものでどこの医院に行くか決めることが多いとのことでした。
ですから「患者さん本位」の姿勢でインフォームドコンセントを重視して、患者さんがどのような歯の悩みで来院されたかをじっくり聞きました。そしてその悩みを解消する治療計画を患者さんと話し合いながら一緒につくっていくことで、患者さんに安心して治療をまかせていただけるように心がけています。もちろんいくつかの選択肢がある場合にはそれぞれの治療方法のメリット・デメリット、必要な費用についてもきちんと説明し、患者さんに本当に納得していただいたうえで治療を施すようにしています。
患者さんの反応はいかがだったですか?
とにかく治療してくれという患者さんも、いろいろお話を聞くことで信頼していただけるようになって、家族の歯の悩みについて相談をもちかけられるようになり、一家揃って来院されることが多いようです。定期的に通っていただいていますので、感謝のお手紙などもいただけるようになり、院内でご紹介させていただいています。あわせて歯のメンテナンスに関する手作りの資料なども展示しています。
医院経営
平成13年に2階に移転されたのですね?
開業してほぼ10年が経ち、ユニットも5台に増えて手狭になり、しかもお陰さまで患者さんも増えていたため、別のテナントか戸建てに移転しようかと考えていたところ、2階のテナントが空くことを知りました。移転するにしても同じビルですし、患者さんへの案内もスムーズにでき、何よりエレベーターや階段を使わずに患者さんがいらっしゃれますので、移転することにしました。幸い管理会社ともうまく話しがまとまり、平成13年9月に移転しました。スタンス自体は変わらず、「町医者が大きくなった」ようなものです。現在、医師5名を含めて合計20名のスタッフが頑張ってくれています。
予防にも力が入りますね?
以前はユニット5台でしたので、予防の患者さんと治療の患者さんがどうしても並んでしまうことになり、タービンの音を気にされることが多かったのですが、2階に移転した際にフロアを大きく2つに分けて、できるだけ音が響かないようにしました。患者さんにも好評で、現在予防・治療あわせて1日100名近い患者さんに来ていただいています。
競スタッフ教育も重要ですね。
柔道は礼に始まり、礼に終わるとされていますが、それは柔道に限ったことではなく、スタッフが礼節を尊び、挨拶を大切にすることで良い雰囲気をつくることになります。スタッフのチームワークが良ければ患者さんも心地よく治療を受けていただけます。ですから「自分が行きたくなるような歯科医院」を目指して、「明るく元気に前向きにそして楽しく」をモットーに雰囲気づくりに力を入れていおり、スタッフもみんな、元気で明るい性格で、私の気持ちをくみとってくれています。独自に作成したマニュアルもありますが、毎日スタッフが改善点を書き込んだりしていますので、完成するのは当分先になりそうです。
院長は経営セミナーなどにも積極的に参加されていると聞きました。
歯科医師同士だけの付き合いだけではどうしても視野が狭くなるような気がしていましたので、異業種の経営者の方たちと積極的に交流を図ろうと各種の経営セミナーに積極的に参加しています。異業種で活躍されている方のお話には医院でも使えるアイデアがありますし、医院の経営状態の向上にも活かせます。それが結局のところ、患者さんへのサービス向上につながると思います。
開業に向けてのアドバイス
一般の保健診療でも自費治療でも、とにかく患者さんと話すことが大切です。そのうえで適切な治療計画を提案して、適切な治療やメンテナンスをする。単純ですけどそれが大切ではないでしょうか。
ハード的にはマーケティングや資金計画、立地なども重要ですが、ソフト的には「誰とやるのか?」ということも大切です。プロとして患者さんから報酬をいただくのですから、当然患者さんに満足していただくことが大前提で、それをスタッフの頑張りに応じて配分することで、患者さんもスタッフもみんな満足してもらえるようにするのが一番ですね。あとはこの「笑顔」です!