歯科経営者に聴く - なかの歯科クリニック 中野浩輔院長

歯科経営者に聴く ~第一線で活躍する院長から学ぶ~

医療法人 なかの歯科クリニック 中野 浩輔 院長

今月ご紹介するなかの歯科クリニックは岡山市矢坂東町にある。JR岡山駅からタクシーで15分ほどの立地ながら、周囲には田園風景が広がるのどかな場所である。中野浩輔院長は岡山市で生まれ育ち、大学も岡山大学に学んだ。卒業後は大学に残り、補綴を専門とする。
1991年に現在の場所に開業するが、開業地はお父様が所有する水田であったという。マーケティングでは集患は見込めず、現に1年目にはマーケティング通りの結果が出てしまった。しかしながら2年目から状況は好転し、開業16年目の現在ではチェア11台、スタッフも30人を超える規模のクリニックとなる。
中野院長に成功へのステップ、経営理念などをお伺いしてきた。

医療法人 なかの歯科クリニック 中野浩輔 院長

医療法人 なかの歯科クリニック 中野 浩輔 院長

プロフィール

  • 1963年岡山市生まれ。
  • 1987年に岡山大学を卒業後、岡山大学歯学部第一補綴科文部教官助手となる。
  • 1991年に岡山市になかの歯科クリニックを開設する

開業に至るまで

歯科医師を目指した経緯をお聞かせください。

医療法人 なかの歯科クリニック祖母も私もずっと歯が悪く、昔から歯科医院に通っていたんです。祖母が総入れ歯の調整に行くときに、私もついていったのですが、院長先生が祖母に「あんたの顎は特別に出来が悪い。もううちには来んでくれ」と言ったことがありました。その経験が私が歯科医になろうと思ったきっかけの一つですね。そして高校生のときに地元の岡山大学に歯学部が新設されたことも大きく、2期生として入学しました。

開業までは大学にいらしていますが、これはどうしてですか?

卒業後は第一補綴科に4年間いました。もともと開業志向で、開業後のことを考えたときに大学とお互いに紹介やフォローなどを行える関係でありたかったので、強力なパイプを作っておきたいというビジョンがあったんです。ただ私は2期生ですから、先輩も1学年上の人たちしかおらず、情報が全くなかったんですよ。そういう情報が集まっているのが大学だけだったという面も少なからずありましたね

開業地をこちらに選ばれた理由をお話しくださいますか?

私の実家は兼業農家で、父が新聞社勤務をしながら農業もしていたんです。ここは父の所有する田んぼで、土地の取得が簡単だったという理由につきます。しかし国道との間には川もありますし、後ろは山です。また前の道路も朝と夕方には進入禁止になり、昼間人口も少ないなど、歯科医院としての条件はあまりにも悪かったですね。事前のリサーチでも「1日17人」という結果が出ました。

開業1年目は相当な苦労をされたとか。

最初はチェア3台で始めたものの、本当にリサーチ通りの結果が出たんです。苦労して作った建物ではありましたが、よそに移転したいと思ってしまったこともあります。でも私には「絶対に患者さんは来る」という信念がありました。そこで「患者さんを待っていても仕方ない、こちらから出ていかないといけない」と考え、動き始めました。

具体的にどういう取り組みをなさったのか教えて頂けますか?

国道の向こう側には内科、産婦人科、老人保健施設があります。まずは産婦人科の山下クリニックさんに「虫歯ゼロの育児をしましょう」という企画書を持参し、妊婦さんの歯科検診を始めさせて頂くことにしました。それから老健のすこやか苑さんには補綴を学んできたことをアピールし、「入れ歯はお任せください」というスタンスで協力をお願いに行ったんです。それから妊婦さんや老健の入居者の方だけでなく、そのご家族の皆さんに口コミで広まっていきましたね。   2年目からは順調に増患し、ユニットもすぐに5台にまで増えました。3年目には代診の先生にも来て頂けるようになりました。

スタッフマネージメント

経営にあたり、悩まれたことはありますか?

医療法人 なかの歯科クリニック4年前に当時の副院長から「このままではスタッフが分裂してしまう」との報告を受けました。当時、私は大学の同窓会の役員や市の歯科医師会の理事などで忙しく、スタッフとの十分なコミュニケーションの時間を持てていなかったんです。でも仕事には一生懸命であり、その姿勢はスタッフに伝わっているものだと思っていました。まず拡大路線ありきで、歯科医師、衛生士、チェアが増えていけば皆がハッピーになれると信じていたんです。だからこそ「院長は私たちのことを何も考えていない」などと話が出ていることにショックを受けましたね。

そういった事態をどのように改善されたのですか?

それまでは患者さん第一主義で、患者さんの立場に立った診療を心がけてきたのですが、スタッフのことをもっと認めていこうと、スタッフの方へシフトしていくようにしていきました。具体的には、それまで形式的だった朝礼のあり方を変え、終礼も新たに行うようにしました。朝礼では私が話すことなく、スタッフ主導で行い、情報の共有に努めました。 また診療時間を30分、昼休みを30分削り、ミーティングの時間を設けたのです。昼食としてお弁当を取り、同じお弁当を食べながらコミュニケーションの時間を共有し、改善事項、報告事項を挙げていったのです。

プロジェクトチームもあるそうですね。

モチベーションアップ、スキルアップ、ニュースレター発行、訪問診療、口腔ケアなどのチームがあります。それぞれのチームで今行っていることを報告しています。最近ではクリスマスイベントについての報告がありましたよ。

中野院長ご自身はどういったことをお話しされているのですか?

朝9時から午後1時までのロングミーティングのときに院長としての方向性を話しています。私が歯科医院を作った理由、していきたい診療のこと、目標を立てる意味など内容は多岐に渡っています。ときには外部から講師を招いて、講演をして頂いてもいます。4時間のミーティングは長いでしょうが、話を繰り返し伝えていくことではじめて、私の考えが浸透していくのだと思っています。

経営について

チェア11台のうち、衛生士専用は何台ですか?

医療法人 なかの歯科クリニック 3台です。補綴を学んできたからこそ、衛生士の重要性を認識していたのです。衛生士とのパートナーシップを組むために開院当初も4人在籍していました。今や15人ものメンバーを入れています。私どもの衛生士は非常にプロ意識が高く、国家資格を持っていることを誇りに思っているんです。したがってレベルの高い予防歯科が行えていると自信を持っています。

個室もありますね。

私どもでは11台のチェアを飛行機のように、エコノミー、ビジネス、ファーストといったクラス分けで考えています。ファーストクラスは自費診療の患者さんではなく、予防専用です。予防にいらした患者さんこそ最高のおもてなしをするべきで、タービンの音が聞こえない個室でBGMやアロマでくつろいで頂いています。窓を大きくとっていますので、季節によっては田んぼの緑に癒されますよ(笑)。 ビジネスクラスは2席でホワイトニング専用で、残りがエコノミーです。エコノミー席の角にインプラントなどの高度治療用チェアを置いています。

補綴ご出身ですから、インプラントには積極的でいらっしゃるのでしょう?

開業当初から行っています。安易に取り組むのではなく、勉強していくことが大事ですね。きちんとした診断は他の歯を守ることにもつながります。今のところ9割の割合で問題ありません。

矯正については、いかがですか?

矯正は週に1回専門医に来て頂いています。私もやっていたのですが、気持ちの切り替えが難しかったので、今は専門医にお任せしています。過去には大学から派遣して頂いていたのですが、大学だと2年ぐらいで担当が変わってしまいます。矯正は長いスパンで診ていかなければいけないので、スタディグループを作り、そこからの派遣に変えました。そうすると材料や方針も変えることなく進めていけますね。

自費診療比率を教えてください。

現在、自費の割合は35%です。今後は40~45%にまで上昇すると見込んでいます。保険に頼ってしまうと、スタッフへの給与や設備投資など経営的な部分でマイナスになりがちです。患者さんに丁寧な説明をして納得して頂いたうえで、良いものをお勧めできればと考えています。

経営理念

なかの歯科クリニックの信条10条(クレド)

  • なかの歯科クリニックは「ありがとう」の言葉と「笑顔」があふれる日本一の歯科医院です。
  • 私達は安全を第一に考えます。診療室では常に患者様への「気配り」を心掛けるよう細心の注意を払います。スタッフ間でも「敬語」を使い、必要なことも小さな声で笑い声にならないよう、そして患者様に誤解を招かないようにします。
  • 私達は待合室にも常に注意を払います。患者様の履物、プレイルーム、雑誌など散らかっていないかどうか自ら確認し、進んで揃えます。特にトイレは清掃清潔を心掛けます。
  • 私達は忙しい時でも診療室では一人一人の患者様に「笑顔」で接し、必ず3回以上はお名前でお呼びします。「笑顔」「挨拶」「返事」はなかの歯科クリニックの基本です。
  • 私達は一人一人の患者様の要求に合わせ、決められた時間の中で、より効率的に仕事を進めます。今、自分がすべきこと、自分にできることは何か常に考え、患者様へ誠意ある対応を心掛けます。
  • 私達は身だしなみ、立ち振る舞い、歩き方、言葉使いなど、常に自分自身を見直します。私達には、いつもプロとして患者様と接する役目があります。
  • 私達は「プラスの言葉」を積極的に使います。「プラスの言葉」を使って、自分だけではな他のスタッフのモチベーションも上げられるように心掛けます。
  • 私達はお互いのスタッフを尊敬し、悪い所があれば注意しあいます。信頼し協力しあえる良い人間関係を築きあえるように常にお互いに気を配ります。
  • 私達は人間性と技術力を高める努力をして行きます。自分の知識や教養を高めるために、素直な気持ちで明るく前向きに常に勉強をします。
  • あなたには、チームメンバー一同フレンドリーに笑顔で接します。

当院はヘルスケア型の歯科医院です。予防を重視した診察をします。予防型の医院の特徴はチームメンバーが明るいことです。
私達はなかの歯科クリニックのスタッフとして誇りを持ち、世界中の人から愛し愛される人間になります。

このクレドはスタッフが作られたそうですね。

最初に私が作って読み合わせをしたのですが、スタッフから「これだと心に響かない、私たちに作らせてください」と言われてしまいました(笑)。そこでスタッフが作りましたが、最後の「世界中の人から愛し愛される人間に…」という文言などは女性ならではの感性ですよね。毎週水曜日には1つずつ読んで、その項目について思うことをスピーチしています。またクレドはカードに印刷し、常に携帯しています。

今後の展開

今後の展開について、お聞かせください。

医療法人 なかの歯科クリニック院内設備についてはチェアを1台増設する予定です。マネージメントに関しては、スタッフ満足度をさらに向上させたいですね。スタッフに感動してもらえる何かを提供できるようにしたいんです。近くバスをチャーターし、スタッフ全員で大阪へのバス旅行を計画しています。USJコースと吉本コースに分かれているんですよ(笑)。また2月には香港への医院旅行も計画中です。   院外では、「日本の歯科を元気にしたい」との思いから、歯科医院経営マーケティング協会を立ち上げています。他業種の方々、特に一般企業の経営者やビジネスマンの方々対象のセミナーは閉塞を感じがちな歯科業界には必要ですね。先日はレストランカシータの高橋滋オーナーに講演をして頂きましたが、次回はワタミの渡邉美樹さんの講演を予定しています。また「看板を考えよう」という趣旨でのセミナーも開催します。

開業に向けてのアドバイス

>医療法人 なかの歯科クリニックオフィス街なのか、住宅街なのかといった場所の選定から、患者さんに何を提供していきたいのかということまで、きちんとした方向性を持つことが大事です。厳しい時代だと言われていますが、きちんとしたことをすれば患者さんはいらしてくださいます。自分が喜ぶのではなく、患者さんとスタッフに喜んでもらえる歯科医院にしていってほしいですね。マニュアルだけでなく、情熱を持って取り組めば、必ず成功します。

プライベート

長期の休みは家族で海外に行きます。日曜日には料理を作っていますよ。イタリアン専門です。以前、イタリアに旅行したとき、コモ湖の近くで狭いリストランテに行ったのですが、そこで頂いたポモドーロがとても美味しくて、自分で作ってみようと思ったのが料理に目覚めたきっかけです。あとはホテルに泊まることも好きですね。

タイムスケジュール

  • 医療法人 なかの歯科クリニック 中野浩輔 院長 タイムスケジュール
  • 医療法人 なかの歯科クリニック平面図