歯科経営者に聴く ~第一線で活躍する院長から学ぶ~
上本町ヒルズ歯科クリニック 永井 美也子 院長
今月ご紹介する上本町ヒルズ歯科クリニックは2007年4月に大阪市天王寺区に開業した。クリニック名に冠した上本町は近鉄のターミナルの一つであり、地下鉄谷町線、千日前線谷町9丁目駅とも連結しているため多くの乗降客数を誇る。また上本町は多くの教育機関が集まるなど、文教地区としても知られている。院長である永井美也子先生もかつて近くで学校生活を送り、上本町に懐かしい思いを抱き、2年前からこの街の住人となった。そして上本町に「桃坂コンフォガーデン」という新しい街が誕生するのを機に開業を決意する。この「桃坂コンフォガーデン」はコンセプトの一つに「医療連携のある街づくり」を打ち出し、街の中に高齢者施設、子育て支援施設、診療所モールを開設している。上本町ヒルズ歯科クリニックはこの診療所モールに入居する7科の診療所のうちの一つである。さらに診療所モールは大阪赤十字病院にデッキで連結し、スムーズな病診連携の体制がとられている。
永井美也子院長にお話を伺ってきた。

上本町ヒルズ歯科クリニック 永井美也子 院長
プロフィール
- 1973年に奈良市で生まれる。
- 1998年に岡山大学歯学部を卒業後、大阪市内の開業医に入職する。
- 2002年から東大阪市のヨリタ歯科クリニックに勤務する。
- 2007年4月に上本町ヒルズ歯科クリニックを開業する。
開業に至るまで
歯科医を目指された経緯について、お聞かせください。
「父が建設会社に勤めていたこともあり、高校時代は建築士を目指していたんです。ところがセンター試験で失敗してしまいまして迷っていたところに、父が歯学部を勧めてくれました。建築は男社会ですので、もともと父は反対だったんです。医師や歯科医の仕事は父の憧れでもありましたので、背中を押してもらいました。」
大学卒業後に大阪市内の開業医で勤務されていますね。
「研究には興味が持てなかったので、臨床を早く始めたいと思い、患者さんの多そうな梅田の開業医にお世話になることにしました。こちらでは診療技術ももちろんですが、医療人としての心得を学べましたね。今も私は『プロ意識』という言葉が好きなんですが、その言葉を初めて意識した場所でした。担当制でしたので、半年経った頃に任せて頂くようになり、30分の枠で1日16人の診療にあたりました。売上などについては全く言われませんでしたが、どんなに難しい症例でも患者さんを満足させて帰って頂くことに苦労しました。」
4年目でヨリタ歯科クリニックに移られたのは、どうしてですか?
「寄田幸司院長は大学の先輩で、私が入っていたテニス部のOBでもあったので、以前から知ってはいました。梅田の歯科は朝8時から論文の抄読会があったのですが、私は奈良市内から通っていたので、もう少し近い職場で働きたいと思い、友達に相談したところ、ヨリタ歯科クリニックを勧められました。そのときは募集はなかったのですが、ちょうど院長の奥様が奈良で開業されることになり、そちらにお手伝いに伺うことになったんです。ところが開業当初は患者さんの数も少なかったので、東大阪の本院の方に移ることになりました。」
その頃から開業を考えていらっしゃったんですか?
「いいえ、ずっと勤務医をしたいと思っていました(笑)。夏に皆が後輩たちのテニスの大会の応援に行くので、留守番の私が一人で診察していたのですが、本当に忙しかったのです。それで勤務医の方がよかったんですね。ただ勤務医は地位が低いんです。歯科業界全般に『院長でないと…』という雰囲気があり、私は勤務医の地位を向上させたいと考えていました。しかし同級生が続々と開業し、皆が成功しているのを見るうちに私も経験したい、ほかの歯科医院ではできないことをやってみたいという思いが募るようになりました。」
開業地を上本町にされた理由をお聞かせください。
「桃坂コンフォガーデンができると聞き、その街づくりのコンセプトに惹かれたというのが大きな理由です。ほかに中学、高校時代に鶴橋で乗り換えて、天王寺区の学校に通ったということ、父の会社が上本町にあるということ、2年前から上本町に住んでいるということなど個人的な思い入れもありましたね。教育熱心な家庭が多く、健康意識が高い地域であることも良かったです。」
内装も素敵ですね。
「ヨリタ歯科クリニックの改装やパートナー医院であるゆめはんな歯科クリニック登美ヶ丘の開業を経験していましたので、迷わずに作っていけました。チェアは当初は3台でしたが、これから1台増設します。」
桃坂コンフォガーデンのコンセプトを教えてください。
「大きなコンセプトとしては『快適で一体的な屋外空間の創出』、『医療連携のある街づくり』、『サスティナブルな街』、『クリーン&セーフティー、環境にやさしいオール電化の街づくり』などが挙げられます。街はⅠからⅣまでの4つの街区に分かれ、診療所モールは高齢者施設、子育て支援施設などとともに、ウェルライフ上本町としてⅠ街区に配置されています。ウェルライフ上本町は医療連携というコンセプトのもと、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ街区にお住まいの方のためのかかりつけ医療を提供するほか、デッキで隣接する大阪赤十字病院との病診連携、健康セミナーの開催などを行っています。」
診療所モールの入居にあたって、競合もあったんですか?
「歯科は競合になりましたよ。メ-ルマガジンの発行など、私のこれまでの取り組みやヨリタ歯科クリニックでの実績などが評価して頂けたのではないかと思っています。私としても、ここでは自分がやりたかった医療を存分にできると感じていました。」
先生がなさりたかった医療はどういったものですか?
「健康情報を地域の方々に伝えていくということです。売上にはなりませんが、健康な人をもっと健康にしていきたかったんです。これまでもメールマガジンのほかに子育てサークルでの講演などもボランティアでやってきました。桃坂コンフォガーデンには保育施設もあり、そちらに健診や歯磨き指導にも行っています。」
標榜に「マタニティ歯科」とありますが、珍しいですね。
「私の造語です(笑)。最初は梅田の歯科にいたので、患者さんはほとんどサラリーマンでしたから小児歯科の経験がなかったんです。次のヨリタ歯科クリニックでは子どもさんがとても多いんですが、最初は乳歯と永久歯の区別もつかなかったんですよ(笑)。そこから小児の予防歯科を勉強し始めたんですが、もっと早い段階からの予防を…と突き詰めたら妊婦に行き当たったわけです。そこでマタニティ歯科と称し、妊婦の歯科健診を行うことにしました。近くの聖バルナバ病院と連携して、妊婦さんへお話もさせて頂いています。厚生労働省も医療費の削減を政策課題としていますが、妊娠性歯周炎は流産のリスクが高まり、低体重児などのハイリスク分娩にもつながりやすいです。妊婦への歯科健診は医療費削減にも意味のあることではないでしょうか。」
大阪赤十字病院との連携はどのように進められているのですか?
「大阪赤十字病院は急性期に特化していますので、該当しない患者さんを積極的に紹介してくださっていますが、きちんとした連携という意味では今のところはまだ不十分ですね。患者さんの方も歯科に行くべきか、口腔外科に行くべきか分からないようで、私どもでできることは私どもでやりたいとは思っています。診療所モールの他科も大阪赤十字病院との連携には手探り状態のようですので、大阪赤十字病院の医療連携科と連絡を取り合いながら適切に進めていければと思っています。口腔外科だけでなく、小児科、産婦人科、内科とも連携していきたいですね。」
診療所モールの中での連携に関しては、いかがでしょう。
「上階の介護施設からは口腔ケアの患者さんが毎日いらっしゃるほか、辻賢太郎クリニックさんからの紹介患者さんが多いです。そちらは消化器を専門としていらっしゃる内科なのですが、摂食障害などの患者さんもいらっしゃいます。私どもの口腔外科の非常勤医師が摂食・嚥下障害に取り組んでいますので、良い連携が取れていますよ。また来春には小児科もオープンするのですが、院長は女性で、高校の先輩でもあるので楽しみにしているところです。」
経営理念
アワクレド(私たちの文化)。
「私たちは、アワ クレドに表現された価値観を自分のものとして受け入れます。そしてアワ クレドに基づき判断、行動します。アワ クレドとは、上本町歯科クリニックのチームメンバーの信条です。
私たちは、全く変わることのない医院理念(ミッション)を尊重し、実践します。当院のミッションは、患者の皆様の心の健康につながる医院作りをすることです。私たちの最高の幸せは、より多くの笑顔に出会うことです。
私たちは、来院された患者様に満足して頂けるよう、最大限の努力をします。私たちの使命は、初めは困り事があって来院された患者様が、再び患者様として来院されないことです。健康な人が、もっと健康になるために、来院して頂きたいと考えています。このため、私たちは常に期待を越える、一流のサポートをします。
私たちは、健康創造型医療を実践します。このため、むし歯や歯周病の原因論を患者様へ分かりやすくお話し、さまざまな型で健康学習を行います。カムカムクラブ(子供の歯を守る会)、スマイルクラブ(歯並び矯正)、カムカムフェスタ、ウェルカムサロン(予防サロン)、マザー教室、ミニマムインターベーション(最小限の介入)、などを積極的に行います。また私たちは、患者様が少しでも安らぎと心地よさを実感して頂けるよう、誠意ある対応を心がけます。同時に個々の能力の向上のため、常にチャレンジ精神を持ち続けます。
私たちは、日々健康のすばらしさについて患者の皆様にお話しし、一緒に学習します。健康学習では、患者様自ら“知ること”“感じること(気付き)”を重視し、私たちは話し上手から聞き上手、返し上手になります。健康学習を行うときは、患者様が抱えている問題に対して、本人がどのようにとらえ、 感じているかを把握することが重要です。
- 大きな声で挨拶をします。
- 否定的な意見は言いません(前向きに物事を考えます)。
- 与えられることではなく、与えることに喜びを感じます。
- 他人の批判は言いません。
- フラストレーション、怒りの感情を顔に出したり周りに振りまきません。
- いつも感謝の気持ちを持ちます(ありがとうの一言を添えます)。
- 自分の非を認めて、素直に謝ります。
- 嫌なことがあっても、プラス発想で解決します。
私たちは「できない」「分からない」とはじめから諦めるのではなく、アプローチを変えて対応します。「こうすればできるのでは」「この部分は分かる」と発想を変えます。私たちの能力は無限です。できる方法は必ずあります。私たちには無限の可能性があります。
私たちは問題が起こったときに喜びます。その理由は、問題のない組織は成長が止まってしまうからです。それは医院を成長させるための素晴らしいシグナルです。私たちはすばやく問題を解決します。特にクレームは全員で解決し、翌日まで持ち越さないようにします。ピンチをチャンスに変える。私たちにはできます。
私たちは、頻繁にチームメンバーとミーティングを行ないます。ミーティングは医院や自分自身をより良い方向に改善していくために必要です。私たちは変化することを楽しみます。また、楽しみながら成長していきます。
私たちは積極的に自らの目標(今年の目標など)を具体化し、メンバーの前で発表します。また、紙に書いていつも目の届く所に貼っておきます。また、ことあるごとに再確認をし、進行状況をチェックします。これは人生で成功するために最も重要な習慣です。また私たちは、上本町歯科クリニックにおける個々の存在価値を明確にし、その価値を高めるために常に努力します。私はここで何ができるのか、また何がしたいのか、何を要求されているのかを常に意識します。
私たちは患者様に感動を与えるおもてなしをします。そのため、いつも患者様が何を望んでいるのかを考えます。初めは小さなことから行い、確実に実行できるようになれば少しずつ改善していきます。私たちは次に何ができるのかをいつも考えています。なぜなら、患者様のニーズと要求は常にかわるからです。患者様の手助けをし、またそれが周囲に認められることは、本当に楽しくやりがいのあることです。
私たちは、少数精鋭の選ばれたメンバーです。高度な治療技術、最高のケアを提供します。治療中のてきぱきとした動きや、優れた電話対応を見て、患者様は私たちの医院を判断します。私たちは、言葉使い、立ち振る舞い、顔の表情を含め、患者様から憧れられる人間です。
私たちは、患者に皆様のヘルスプロモーションを実践します。ヘルスプロモーションとは、患者様の皆様一人一人が自らの健康をコントロールし改善する事が出来るようにするプロセスです。私たちは、患者様の健康の坂道を登り、セルフケアの確立ができるよう、さまざまな型でお手伝いします。最終のゴールは、健康ではなく、QOLの向上です。
私たちは、異論、感情的な行き違いがある場合には、直接本人に話します。その際私たちは、円滑なチームを運営していくために、言葉遣いに気をつけます。人の嫌いな面が見えたとき、それは自分の嫌いな面を教えてくれるシグナルです。あらゆる面でチームメンバーの良い点を見つけ、ねぎらうようにします。人生は鏡です。そして赦すことと愛することをそこから学びます。
私たちは、自分で判断できる能力(リーダーシップ)を持ちます。院長に「どうすればいいですか?」と聞くのは、新人スタッフです。私たちは「いろいろな選択肢を考えてみましたが、このようにしたい。その理由は・・・」と言います。
私たちは、上本町歯科クリニックの文化を尊重します。すなわち、全ての人に親切で礼儀正しい態度で接します。いつも医院が活気にあふれ、そこで働く私たちは、やりがい、夢を持ち続けます。私たちの心にきれいに保つため医院全体を常に清潔にします。私たちは仕事を通じ自己成長を続けます。そのためには仕事を楽しむことが大切です。私たちはいつも文化に沿った判断、行動をします。
私たちはチームワークを重視します。そのため仕事を通じ、ともに笑い、喜び、お互い理解し、認め、励ましあいます。チームメンバーは尊敬できる友人です。そしてここで知り会えたことを共に感謝します。
私たちはスマイル アンド コミュニケーションを大切にします。笑顔は楽しいから出るのではありません。笑顔を作ることで楽しくなるのです。そしてコミュニケーションは笑顔のあいさつから始まります。どんな時でも私たちはスマイル アンド コミュニケーション、忘れることはありません。
私たちは患者の皆様を心からおもてなしする“魔法の言葉”を使います。
「ようこそお越し下さいました」
「私たちにお任せ下さい」
「あなたの思いを私たちにお聞かせ下さい」
「よく頑張って頂いて本当に有難うございます」
言葉は癒しです。そして自分自身にも声がけします。
「明るく、楽しく、個性的に、やさしく、かわいく、かっこよく」
私たちはいつも輝いています。
私たちは、アワクレドを自分のものとして受け入れられない場合、上司に相談します。上司はメンバーの要望に対して誠実に耳を傾け、そしてベストな選択のため一緒に考えます。ただし、ミッションに対する妥協はしません。またそれ以外にも、2ヶ月1度定期的に個別面接を行います。これはアワクレドやマイゴールの実行に必要不可欠です。
この「クレド」を朝礼で読んでいらっしゃるとか。
「これはリッツカールトンホテルのサービスの精神を参考にして作ったものです。クレドをカードに印刷し、それぞれの名前を入れ、常に持ち歩いています。朝礼では1人1項目を読んで、自分の考えを話します。これは人前で話す訓練になりますし、考える力もつきます。また他の人がその人の考えを知る機会にもなります。電話やカウンセリングなど誰も助けてくれません。一人で対応していかなくてはいけないので発表の機会を通してスキルアップしてほしいです。そして、このクレドに基づいた行動をとれば、何も問題ないのです。」
終礼ではどんなことをされているのですか?
「終礼は5分程度の短いものです。絵が描いてあるサイコロを振り、スピーチする人を決めます。スピーチでは『good and new』を話してもらっています。楽しいことで仕事を終えるというのはいいですね。」
経営について
増患対策について、お聞かせください。
「若い世代にはやはりホームページが有効ですね。増患だけでなく情報発信のツールとしても有効です。高齢の方は口コミが中心となります。時間がおありの方が多いので、時間をかけたカウンセリングを行っています。お話を丁寧に聞いてさしあげることが一番の増患対策になるようです。」
経営者として、開業してからの日々はいかがですか?
「ヨリタ歯科クリニック時代にゆめはんな歯科クリニック登美ヶ丘の開業に携わったので、2回目の開業という気がしています。それで自分にゆとりがあるためか、毎日面白いですよ。女性は安定志向が強いらしいですが、私は変化が好きなタイプですので、一つのところに留まらず新しいことに積極的にチャレンジしたいですね。経営すると自分の成長が見られます。努力が数字に表れますし、スタッフが輝いていく過程もいいものです。スタッフに関してはヨリタ歯科クリニックというグループに支えられている面は大きいですね。チーフが2ヶ月に1回面接をして、スタッフとのコミュニケーションをとってくれています。」
今後の展開
今後の展開について、お聞かせください。
私どものコンセプトは『豊かなライフスタイルを提案する』というものです。上町新聞の発行もそのコンセプトのもとで行っているのですが、よりよいものを提供するという点で自費診療を増やしていければと考えています。現在は50%ぐらいですが、月によってばらつきがありますので、もう少し安定させたいです。さらに常勤医師も増やし、それぞれの専門を生かしたクリニックになればいいですね。口腔外科、矯正、審美、補綴といった分野を考えています。また歯科衛生士も小児、審美、矯正中の予防など専門性を高めていけるような体制を構築したいです。」
開業に向けてのアドバイス
開業したいから開業するのではなく、自分がやりたいことをするための開業であってほしいと思います。自分の専門性に特化した開業が理想です、何でも一人でやらないといけないので大変ですが、後輩に『こういう歯科医院なんだ』と言えるような開業ができればいいですね。」
プライベート
「旅行が趣味だったのですが、最近はなかなか行けませんね。ゴールデンウィークにはスウェーデンとフィンランドに研修に行ってきました。夏はテニス部の後輩の応援で軽井沢に行きました。私が学生の頃とは様変わりしていて驚きましたよ(笑)。」