歯科経営者に聴く(後編)
~第一線で活躍する院長・理事長から学ぶ~
東京都武蔵野市吉祥寺南町は「住みたい街ランキング」の上位の常連になっているエリアである。街の中心である吉祥寺駅にはJR中央線、中央・総武線、京王井の頭線が通り、利便性に優れた一方で、井の頭恩賜公園が近くにあるなど、自然環境にも恵まれている。
吉祥寺総合歯科クリニックは吉祥寺駅南口から徒歩1分の吉祥寺マルイ(丸井吉祥寺店)2階に2024年に開業したばかりの歯科医院である。予防歯科を充実させ、「原因療法」で治療後の再発を防ぐなど、全世代型の歯科医療を提供している。
今月は先月に引き続き、吉祥寺総合歯科クリニックの村上英理事長にお話を伺った。
吉祥寺総合歯科クリニック 村上 英 理事長
【プロフィール】
- 1983年東京都 生まれ
- 2008年昭和大学歯学部 卒業
- 2008年昭和大学総合診療科 勤務
- 2009年白金台のインプラントセンター 勤務
- 2011年銀座の審美治療クリニック 分院長 勤務
神奈川県内の総合歯科医院 勤務 - 2014年クローバー歯科クリニック(埼玉県志木市) 開業
- 2017年医療法人社団 優英会 設立
- 2024年吉祥寺総合歯科クリニック(東京都武蔵野市) 開業
【理念・治療スタイル】
経営理念や診療方針を教えてください。
「医療とは優しさである」ということを一番に考え、患者さまファーストで優しく接する歯科医院であることを意識しています。抜くことに抵抗がある方や早く治療してほしい方など、それぞれご要望があるので、患者さんのお話をしっかり聞いたうえで、「こうしたほうがいい」ときちんと説明します。「優しさ」は歯科医師同士やスタッフに対しても必要であるため、治療だけをしていればいいということではありません。スタッフが長く働きやすい環境づくりが大事なので、より質の高い歯科医療を提供できる歯科医院づくりを目指しています。
ほかに歯科医院との差別化のために工夫していることをお聞かせください。
私どもは本院も分院も商業施設の中にありますので、利便性が良く、通いやすい場所です。土曜日、日曜日、祝日も診療していますので、困ったときにはいつでも診てもらえるという患者さんの安心感に繋がっているようです。また、本院も分院も幅広い治療を一つの歯科医院内で済ませられるということが強みであり、かなり専門性の高い治療以外は全て当院で受けられます。さらに静脈内鎮静法を取り入れていますので、歯科恐怖症の方の不安も取り除きながら治療をすることが可能です。
開業後に苦労されているのはどのようなことですか。
求人の面はやはり苦労しています。結婚や出産のタイミングで退職される方もたまにいますが、そういったタイミングで求人を出しても以前のように多くの問い合わせが来ることが減りました。また、私どもに合う良い人材を採用したいと思っても条件が合わないなど、以前よりも求人が難しくなってきましたね。
どのような増患対策を取られていますか。
吉祥寺の分院は地域の方々に新しい歯科医院ができたということをまずは認知していただくことが大切なので、オープニングのタイミングでチラシを配布したり、内覧会をしたりというアピールを行いました。
【スタッフ採用・教育】
最初にスタッフを採用するときはどのような点を重視されましたか。
スキルはもちろんですが、やはり人柄ですね。私どもで働いている姿をイメージして、既存のスタッフたちとの相性などを考慮しています。入職しても馴染めなさそうな方でしたら、お互いにとって良くないので、そういった点を重視しています。
スタッフの育成や教育はどのように行っていますか。
それぞれの職種別に先輩スタッフが教育しています。歯科医師に関しては私が教える機会ももちろんあります。
スタッフとのコミュニケーションで、最も大切にしているのはどのようなことですか。
スタッフそれぞれのキャラクターや考え方を理解するためには情報共有をすることが最も大切だと考えています。お互いに声をかけ合うことはもちろんですが、私どもではコミュニケーションツールの一つとして、ノートを利用しています。私が出勤していない日の状況などの情報共有のために、言葉で伝えるだけではなく、共有ノートへ記載しています。このノートにより、スタッフがどんなことを考えているのか、どんなことを見ているのかなど、スタッフの様々な視点を知ることができて、とても役に立っています。
スタッフが働きやすい環境づくりのために注意されていることはありますか。
問題などがなくても、スタッフと面談する時間を作っています。スタッフは私が忙しいのだろうと気を遣ってくれますので、私のほうから些細なことでも気になっていることがないかなどを確認しつつ、スタッフ皆が働きやすい環境づくりを意識しています。また、私どもでは勤務医の皆さんが自分が開業している歯科医院のように運営することをテーマとしていますので、皆さんの望みをできるだけ叶えたいと思っています。今後、開業するにあたっては治療だけではなく、マネジメントのように、しなくてはいけないことが多くあるので、私どもに勤務している間は治療に専念できるようにしています。そのため、雑務のシフト作成などはスタッフ皆でカバーし合って、残業をなくしています。そういった環境を気に入ってくれて、私どもで勤務医として長く働きたいと言ってくれている人もいます。
【今後の展開】
今後の経営の展開について、お聞かせください。
分院展開などは考えていません。2つの歯科医院がありますので、そこに勤務してくれているスタッフ皆の夢が叶うよう、手助けしていきたいです。そのためには私が集患や良い人材の確保に注力し、歯科医師や歯科衛生士には治療のスキルを磨くことに集中してもらえる環境を整えていきたいと考えています。
今後の歯科医療の発展において、歯科医院として特に力を入れたい分野はありますか。
本院のクローバー歯科クリニックは開院して10年以上になり、リピーターとなってくださる患者さんが増えていますので、今後は医療の質をキープしながら時代に合わせて、新しいスキルを身につけ、患者さんに提供していくことにより力を入れたいです。分院の吉祥寺総合歯科クリニックは開院してまだ間もないので、まずはどういった歯科医院なのかを知っていただけるように、周知の仕方に工夫をしていかなければならないと思っています。
今後、歯科業界はどのように変化していくと想像されますか。
町の青果店や鮮魚店などが頓挫して、大きなスーパーが生き残るようなイメージで、大きなところやサービスの良いところ、医療技術が高いところが残っていけると思っています。周りからの情報を得られないところ、成長や変化がないところはこれから厳しくなっていくでしょうし、そういった格差のようなものがこれからの時代はより顕著に表れてくるのではないかと想像します。
転職や開業を考えておられる先生方へアドバイスをお願いします。
転職する場合は何か違うものを求めて転職されるのでしょうが、それがしっかり得られるのかということをまずはしっかり考えてみてください。長く勤めることで条件が良くなることもあると思いますし、小さな不満で転職を繰り返すと結局、何も手元に残らなくなります。転職にしろ、開業するにしろ、かなり大きな転機なので、きちんと情報を集め、メリットやデメリットを検討し、ご自身のためになる行動をしてほしいです。
休日やオフの時間に行っているリフレッシュ方法や趣味を教えてください。
40代になって、より健康に気を遣うようになりました。身体が資本だなと思う年齢になったので、ストレッチをし、汗をかくようなことをするようにしています。最近はプールに行って泳いだり、身体を鍛えたりしています。