歯科経営者に聴く ~第一線で活躍する院長から学ぶ~
医療法人社団弘宣会 鈴木歯科医院 鈴木 理事長
鈴木歯科医院は東京都新宿区、都営新宿線曙橋駅前ビルの1階と好立地にある。鈴木歯科医院の理事長である鈴木高弘先生は、審美歯科をメインに歯科治療を通じて幸せな人生を送れるような治療を提供していきたいと考えている。現在は医療法人弘宣会として鈴木歯科医院、芝大門歯科クリニックを経営している鈴木理事長にお話を伺った。
医療法人社団弘宣会 鈴木歯科医院 鈴木 理事長
卒業後3年で開業
鈴木高弘理事長は1957年東京新宿区に生まれ、1981年に明海大学歯学部を卒業すると、口腔外科をメインにした北新宿歯科に3年間勤務した。84年4月、若干27歳の若さで、都営新宿線曙橋駅前のテナントビル1階に鈴木歯科医院を開業した。
歯科医を志した理由をお聞かせ下さい。
父親は会社を経営しており、歯科医ではありませんでしたが、母親の親類関係に歯科医が多くいました。幼いころから母方の親類の仕事を身近に見ていましたので、自分も歯科医師を目指そうと決めて、埼玉県にある明海大学歯学部に進み、1981年に卒業しました。
大学卒業後3年間勤務した北新宿歯科は、どのような歯科医院だったのでしょうか?
私は歯学部6年生の病院実習で口腔外科に籍を置いていました。そのため総合的な歯科医院のなかでも口腔外科に力を入れている北新宿歯科を選びました。また勤務医をしながら週1回、大学に通って補綴や歯周病の勉強をしていました。
転職されたきっかけはどんなことでしたか。
大学院や大学病院で歯周病を専門にしてきましたので、歯周病に力を入れている歯科医院に勤務したくて、求人を探したのです。その中で、多摩市のカリヨン歯科クリニックにお世話になることにしました。
都営新宿線の曙橋駅前のビルを開業場所に選んだ理由は?
私は生まれも育ちも新宿区四ッ谷なんです。ですからいざ開業しようと考えたとき、やはり土地勘のある四ッ谷近辺が第一希望でした。開業した曙橋の周辺は小学生の頃から自転車で遊んでいた場所です。開業したテナントビルは、当時建てられたばかりで、ちょうど1階が空いていました。実は代官山など、何カ所か候補の場所もありましたが、「ここが良い」とひらめいたので決めました。縁があったんだと思います。また自分が生まれ育った地域の皆さんに、歯科医療で貢献していきたいという気持ちもありました。今でも知り合いの店の前を通ると声をかけられたりする環境なので、安心感があります。私が開業した1984年当時は都営新宿線しか通ってなくて、河田町村と言われるほど交通の便が悪かったんです。でも今は大江戸線が開通して便利になりましたね。
開業医として
開業当初の宣伝はどうなさったのでしょうか?
当時はもちろんホームページがありませんでしたから、多少チラシをまいたり、DMを出したりしたくらいです。ほとんどは地元の友人・知人とその紹介で来た患者さんでした。
1989年6月に分院となる芝大門歯科クリニックを開業されていますね。
歯科医院以外にも歯科技工所を経営していたこともあり、銀座に分院を開業したいと考えていました。でも当時はバブルの絶頂期で、家賃が今の3倍から5倍くらい高かったんです。自分の希望する条件を満たす物件の家賃は坪単価10万円、10坪だと100万円になってしまうので、どうしようかと悩んでいました。そんなとき、知人から銀座から近い芝大門の物件を紹介されて、ここでも縁を感じたので決めました。
本院の鈴木歯科医院と、分院の芝大門歯科クリニックの違いについてお聞かせください。
本院の鈴木歯科医院は広さが約30坪、ユニット数が6台(治療4台、予防歯科2台)。患者層は住宅地から50%、オフィス街から50%です。スタッフは常勤医師4名、歯科衛生士5名、受付1名、事務1名です。
分院の芝大門歯科クリニックは広さが約35坪、ユニット数が5台。患者層はほぼ100%オフィス街からです。新年度となる4月に新しい患者さんが増えますが、移転、定年、転勤などで患者さんの入れ替わりが激しいので、住宅街のかかりつけ医院とは違いますね。子どもは去年1年間で2名だけでした。また企業の検診を行っていますが、最近は歯科の福利厚生にあまりお金をかけない傾向にあります。スタッフは常勤医師4名、歯科衛生士5名、受付1名、事務1名です。
理事長として治療に当たるかたわら、衛生士学校の講師もされているそうですね。
はい。現在は新東京歯科衛生士学校で教えています。また、この歯科医院では他の歯科衛生士学校の臨床実習も受け入れています。さらに歯科医師の臨床研修施設の指定も受けましたので、来年からは歯科医師の臨床研修も受け入れることになりました。
理事長先生の診療方針をお聞かせください。
当院のホームページにも書いていますが、経営理念として「For Your Happy Dentalife」を掲げています。一人一人の患者さんが当院での歯科治療を通じて、幸せな人生を歩んでいただけるような治療をしていくことが大前提にあります。幸せな人生というとちょっと大げさに聞こえるかもしれませんが、全身と歯科の関わり合いは大きいですから、包括的な医療を目指しています。
開業後20年以上が経過した現在の問題点はいかがでしょうか?
小さい問題点はいっぱいありますが、常に改善を図り、解決するようにしています。最初はユニット3台で、私が院長、歯科衛生士1名、歯科助手1名、受付事務1名でスタートしました。現在は鈴木歯科医院と芝大門歯科クリニックに院長先生をおいて、私は理事長として包括的に見ています。例えば新規の患者さんが来たとき、だれが診るかもほとんど院長先生に任せて、現場の意見を非常に重要視しています。特に1990年に弘宣会として法人化してからは、本格的な組織体制になりました。
現在、増患対策についてどのようにされていますか。
増患対策は何がというより、治療技術や口コミなど、すべてを含むと思います。歯科医療業界は広告規制が大きいですが、可能な範囲内での広告戦略は非常に重要だと思います。当院の場合、新患の半分以上は、すでに通っている患者さんからの口コミです。とはいっても対外的にPRできるものはしておかないと難しい時代になってきたと思いますので、ホームページを作ったり、雑誌の取材も受けたりしています。また来院した理由の統計を分析して、どの媒体にPRすればより効果的なのかを検討しています。またホームページも毎日、毎週、毎月、どのページから当院のホームページにアクセスしてきたのかを調べて(アクセス解析)、アクセス解析レポートを見ながらスタッフでミーティングを開いています。ホームページは6月下旬に全面リニューアルして、本院と分院のアドレスを別々にとりました。ホームページを見る方は、一般の患者さんがほとんどなので、専門的で難しいことを書くよりも、写真を多くして治療の前後が一目でわかるようにしました。また私は患者さん向けの本(鈴木高弘著『美歯革命』創芸社)も出版していますが、「何で歯は白くなるのか」といった、トレンド的な治療法をわかりやすく説明しています。
今後の展望についてお聞かせ下さい。
今は審美歯科に非常に力を入れていて、5月にホワイトニングの最新器械を導入しました。またインプラントも年間100症例以上やっていますので、ホワイトニングやインプラントをアピールしていこうと思っています。また予防歯科にも力を入れていきたいと考えていますので、2004年秋、本院にユニット1台を追加しました。予防歯科は歯科医師と衛生士との共同体制が非常に重要になると思います。当院は歯科衛生士を担当制にしています。予防歯科で来た患者さんは、私と顔を合わせないまま帰ることもありますし、治療行為がある場合だけ、歯科医師が呼ばれるような体制になりつつあります。本院は1日60~70名来院していますが、そのうち予防のため来院する患者さんは20名です。分院は1日50~60名の来院で、予防は12~15名くらいですね。
歯科経営についてのアドバイス
基本がしっかりしていなければ応用はできませんから、若手の歯科医師への教育は基本となる技術が中心です。できないところ、苦手なところは手取り足取りという感じで教えています。私自身の技術や経験を伝えていきたいですね。院内の勉強会は月に1回、行っています。診療技術を伴わないと患者さんは喜ばれないものですが、その勉強会では患者さんへの対応についても教育しています。
リピーターの患者さんを作ることや、患者さんに信頼される歯科医院になることが大切です。重要なのはホームページ、PR、広告などを見て来院する患者さんよりも、長期にわたってずっと通ってくださる患者さんをいかに増していくかです。これは20年以上やって初めてわかったことです。もちろん最初はPRや広告に力をいれたりすることも当然必要なことかもしれません。しかし特にオフィス街では、最終的に患者さんの口コミに勝る広告はないと思います。患者さんに良い治療をして、その患者さんが広告塔になってもらうという形がベストです。