歯科経営者に聴く ~第一線で活躍する理事長から学ぶ~
医療法人社団 雄清会 おだ総合歯科クリニック 小田 雄太郎 理事長
東京都江戸川区は東京都の東端の区で、23区の中で最も区民の平均年齢が若い。葛西臨海公園や葛西臨海水族園が有名であるが、それらのほかにも区のあちこちに公園が広がっている。おだ総合歯科クリニックは江戸川区瑞江に2007年に開業した歯科医院である。東京都営地下鉄新宿線の瑞江駅から徒歩4分の立地で、地域に根ざした歯科診療を行っている。
今月はおだ総合歯科クリニックの小田雄一郎院長にお話を伺った。
医療法人社団 雄清会 おだ総合歯科クリニック 小田 雄太郎 理事長
プロフィール
小田 雄太郎 理事長
1978年 東京都 生まれ
2002年 日本大学松戸歯学部 卒業
2002年 日本大学松戸歯学部付属病院 勤務
2003年 箱崎デンタルクリニック、聖 恵インプラントセンター 勤務
2006年 亀戸ステーション歯科クリニック 勤務
2007年 おだ総合歯科クリニック 開設
2014年 立石ファミリー歯科 開設
開業に至るまで
■歯科医師を目指されたきっかけはどのようなものだったのですか。
父が医師で、整形外科の医院を開業しています。私も父の影響を受け、自然に医師を目指していたのですが、先に歯学部に合格したので、歯学部を選びました。浪人するのが嫌で、「歯学部に行きます」と宣言したのです(笑)。私は3人兄妹なのですが、私だけが歯科医師になり、ほかの2人は医師になりました。
■学生時代に思い出に残っていることはありますか。
体育会のサーフィン部に入り、ずっと海にいました。大学が千葉県にありますので、房総半島の海が主な活動場所でした。かなりヘビーな部活動でしたよ。一方で、大学の近くの歯科医院で歯科助手のアルバイトもしていました。
■勤務先を選ばれた理由をお聞かせください。
最初の1年間は大学病院で研修を行いました。その次の年に箱崎デンタルクリニックに勤務したのはサーフィン部の先輩に勧められたからです。箱崎デンタルクリニックは仕事好きな人が多く、じっくりやれば面白そうだと感じました。研修医時代に決めたのですが、周りからは「そこは虎の穴だから止めておけ」と言われましたね(笑)。
それだけ厳しいということなのですが、箱崎デンタルクリニックの勤務医の先生方は実力が飛び抜けていましたし、退職後に外の世界で活躍されている姿を見ていたので、私もそこで修行したいと思いました。箱崎デンタルクリニックに併設されていた聖恵インプラントセンターにも勤務し、インプラントなどの自由診療を学びました。
■勤務先で学ばれたのはどういったことですか。
箱崎デンタルクリニックはやはり厳しく、途中で何度も辞めたいと思うことがありましたが、基礎から応用まできちんと教育していただいたので、結果としては良かったと感謝しています。臨床好きな先生方に囲まれ、勉強会などにも積極的に参加していました。
■亀戸ステーション歯科クリニックに転職されたのはどうしてですか。
開業を見据えていましたので、ほかの歯科医院でも経験を積みたかったからです。亀戸ステーション歯科クリニックでは保険診療を中心に取り組ませていただきました。
■開業しようと決断されたいきさつはどんなことだったのでしょう。
もともと開業志向が強く、大学卒業直後からなるべく早く開業したいと考えていましたので、卒後5年目というタイミングで開業することにしました。私としてはさらに早くても良かったのですが、歯科医師の妻に「もう少し勉強しておきなさい」と、急いで開業しないようにアドバイスされたのです(笑)。
■開業地はどのように選ばれたのですか。
開業を決めた頃は調子に乗っていましたので、港区などの都心部で自費診療中心の歯科医院を開業したいと思っていました(笑)。しかし、開業医の先生方を見ていると、郊外や地方でなさっている先生方の方が楽しそうだったのです。開放感のある建物で、患者さんが笑っていて、院長先生も楽しそうに釣りに行ったり、飲みに行ったりと自分の世界を持たれていることに驚きました。そこで私もサーフィンやゴルフを楽しめそうな茨城県などの物件を探すようになりました。探すうちに相場感が養われていきましたね。しかし、物件を探す元気が徐々になくなっていきました。そんなときに出会ったのがこの物件でした。
■開業地の第一印象をお聞かせください。
お得感のある物件ではありませんでしたが、新築でしたし、適正だと感じました。土地勘もなかったのですが、それはやっていくうちについていくものですし、立地はそこまで重要ではありませんでした。誰かに任せるのなら立地は重要ですが、自分がプレイヤーなら集患は歯科医師次第です。
駅前で開業すると集患は容易かもしれませんが、患者さんが来院される理由は駅前だからなのか、歯科医師が良いからなのかが分かりません。私としては「こんな場所なのに、患者さんが来ているんだ」と言われる方がかっこいいと思いました。
■開業にあたってはどんな苦労がありましたか。
世間知らずでしたから、不動産契約にしろ、銀行への融資依頼にしろ、人を雇用することにしろ、あらゆることに苦労しました。振り返ってみれば、恐ろしいことばかりでしたね(笑)。
経営理念
経営理念をお聞かせください。
私どもで働いているスタッフの家族や親族が「いい職場ね」と言ってくださるような職場環境にしていきたいと考えています。労働時間、休日などを全てクリアにし、スタッフを本気で守っていきたいです。そうした取り組みをしていれば、仮にスタッフと関係が悪化したとしても、スタッフから責められることがなくなるはずです。
診療方針
診療方針をお聞かせください。
患者さんが「あの歯科医院に行って良かったわ」と喜んでくださるような診療を行うことです。開業したのが2007年ですから、私も変わってきたところがあります。「きちんと説明します」というのはどちらの歯科医院でも言うことですし、差別化するならソフト面しかありません。患者さんが困ったときに頼っていただき、「あそこに行けば、絶対に何とかしてくれる」という安心感を持っていただけるなら、町医者としては十分ではないでしょうか。一方で、難しい症例は本領発揮できるところですし、さらに難しければしかるべき医療機関にお繋ぎしています。
患者さんの層はいかがですか。
高齢の患者さんが少なく、1割もいらっしゃらないのが特徴です。子どもさんが4割、子どもさんの親御さんの世代から50代ぐらいの方々が半分ぐらいです。男女比は圧倒的に女性で、8割を占めます。サラリーマンが少ないのは診療の最終受付が17時30分だからかもしれません。労働世代の男性の方は土曜日にほぼ限られていますね。
自費と保険の割合について、お聞かせください。
矯正歯科やインプラントを含めた自費が7割です。ただ、メンテナンスは保険がほとんどですから、売り上げ全体の中では自費は5割未満となっています。
増患対策
どのような増患対策を行っていらっしゃいますか。
ホームページのほかは何もしていません。看板などの広告も行っていないです。
スタッフ教育
スタッフ教育について、お聞かせください。
症例検討会を行っています。若手の歯科医師に自分が担当した患者さんの現状を説明させ、どう考えて治療計画を立てるのかを確認し、アドバイスをします。患者さんとの信頼関係があり、予習がきちんとできていて、治療計画が私の承認を通っていれば、何でも行っていいと言っています。私自身もそのように育てられてきましたし、私どもでは雛のように口を開けて待っているだけでは症例は来ないのです。
歯科衛生士、歯科助手への教育はいかがですか。
日本語の使い方や一般常識などの座学にかなりの時間を取っています。新聞一面の記事を読んでも意味が分からないでは困りますし、言葉遣いも一朝一夕には改善されませんが、少しずつ取り組んでいるところです。私どもを退職し、ほかの仕事に就いたときに「前はどこで働いていたの」と言われることがないよう、ほかの職場で誉めていただけるような存在になってほしいと願っています。
今後の展開
今後の展開について、お聞かせください。
スタッフがより安心して長く勤めていけるような歯科医院でありたいです。あくまでもスタッフをメインにして考えていますし、そのための規模の拡大なら検討してもいいと思っています。
開業に向けてのアドバイス
開業に向けてのアドバイスをお願いします。
迷うくらいなら、さっさと開業しましょう」と言いたいです(笑)。開業前に経営者としてどうあるべきかを3年勉強するよりも開業後の3カ月の方が得るものが大きいです。歯科医師は職業柄、技術重視になりがちですが、開業後に評価される要素の中で技術は1割ぐらいでしょう。ただし、自分の技術を客観的に把握することは大切です。歯科医師全体の中でベスト10に入る技術力があると他者から評価されているのなら、技術を売りにできる歯科医院を開業できますが、ほとんどの人がそうではありません。今の若い先生方は否定されることに慣れていません。
しかし、経営が傾きかけたときに立て直すにあたってはメンタルやフィジカルの強さが求められます。若い先生方は年配の先生方を物足りなく思っているかもしれませんが、年配の先生方はできる範囲でやりながらも、それを10年も20年も続けているのです。開業してみると、そうした先輩方の苦労も分かるからこそ、早めの開業をお勧めします。
プライベート
プライベートの時間はどんなことをして過ごしていらっしゃいますか。
子どもが4人いますので、子ども中心に過ごしています。今年の夏休みは家族でオーストラリアに出かける予定です。私は自分だけの空間がなくても平気なのです(笑)。家庭と職場を往復する毎日ですが、充実しています。