歯科経営者に聴く ~第一線で活躍する理事長から学ぶ~
しみずデンタルクリニック 院長 清水 裕之 先生
埼玉県さいたま市浦和区は文教都市として知られている。JR京浜東北線の北浦和駅は埼玉県立浦和高校やさいたま市立浦和高校の最寄り駅であり、埼玉大学行きのバスが出ていることから高校生や大学生の活気が伝わってくる雰囲気がある。
しみずデンタルクリニックは北浦和駅西口のほぼ正面にある歯科医院である。開業以来、「自分の歯は自分で守る」をコンセプトに、予防歯科に力を入れた診療を行っている。 今月はしみずデンタルクリニックの清水裕之院長にお話を伺った。
しみずデンタルクリニック 院長 清水 裕之 先生
プロフィール
院長 清水 裕之 先生
1994年 東京医科歯科大学 卒業
1994年 東京医科歯科大学歯学部附属病院 勤務
1998年 しみずデンタルクリニック 開設
2007年 しみずデンタルクリニック東口オフィス 開設
2013年 しみずデンタルクリニック 移転
開業に至るまで
■歯科医師を目指されたきっかけはどのようなものだったのですか。
小学5年生になる直前に溶連菌感染症になり、3カ月ほど入院したことがありました。その入院生活の中で、難病の子どもを含めて、色々な子どもに出会ったのです。そのときに医師になろうと思いましたね。私はもともと手先が器用で、プラモデルや工作が好きだったのですが、母が「歯科医師の方がその器用さを活かせるんじゃない」と言ってくれたこともあり、歯科医師を目指すことになりました。最終的に歯学部受験を決めたのは浪人しているときでした。
■学生時代に思い出に残っていることはありますか。
アルバイトが思い出に残っています。大学の近くの塾で講師をしたり、家庭教師をしたりしていました。大学の授業では座学が嫌いで、模型実習などの臨床に即したものが好きでした(笑)。
■勤務先を選ばれた理由をお聞かせください。
高齢社会が到来することは分かっていましたので、それを見据えて大学に残り、高齢者歯科を専攻しました。高齢者歯科の教室の先生方がいい方ばかりだったというのも大きかったですね。
大学病院と並行して、夜間や土曜日などの週に2日は大学の先輩が開業されている歯科医院で非常勤勤務をして、一般歯科を学びました。
■勤務先で学ばれたのはどういったことですか。
歯科医院で学べたのは診療やほかのスタッフのマネジメントです。患者さんが急に大勢いらっしゃるときもありますし、そのようなときは優先順位をつけて診療にあたらないといけません。また、人の使い方にしても、大学病院だと一人ですることが多いのですが、歯科医院だとアシスタントがいますので、何を自分がして、何をアシスタントに任せるのかといったことも学びました。
■開業しようと決断されたいきさつはどんなことだったのでしょう。
卒業したときから開業志向があったのですが、歯科材料の会社の方が物件を知らせてくれたので、この場所なら開業したいということで決めました。現在地と同じ北浦和駅の近くで、私の中学時代の通学路沿いでした。
■開業地は北浦和と決めていらしたのですか。
私は生まれも育ちも北浦和ですし、地元がいいなとは思っていましたが、このエリアでと限定していたわけではありません。たまたま出会えた物件が良いところだったのです。ただ、18坪と手狭でしたから、5年前に現在地に移転してきました。今は45坪あります。
■開業にあたってはどんな苦労がありましたか。
スタッフ集めですね。特に歯科衛生士の確保に苦労しました。広告を出して募集しても、なかなか集まらなかったのです。今は東京歯科衛生専門学校の実習先になっていることもあり、毎年8人ほどの実習生が来ますから、安定的に雇用できるようになりました。教育システムも完備しており、学校の先輩がいて、きちんと教育してくれる歯科医院だとなれば、入職を希望する人が集まってきますね。一方で、集患には苦労はなかったです。
■開業にあたってのコンセプトなどをお聞かせください。
予防歯科を中心にしていきたいというコンセプト以外は特にありませんでした。ただ、最初は歯科衛生士が足りなかったので、予防歯科を具体的に進めることは難しかったのです。歯科衛生士が充足するまでの1、2年間は治療を中心に行わざるをえませんでした。そのうち、歯科衛生士が集まったので、予防歯科に打ち込めるようになり、チェア3台のうち、2台を治療、1台をメンテナンスなどの予防歯科に使うことにしました。移転後はチェア6台の体制で、そのうち3台が予防歯科用です。
また、2007年には北浦和駅の東口に分院を出しました。本当は本院のチェアの台数を増やしたかったのですが、場所を確保できなかったので、分院という形にしました。
■移転後の設計、レイアウトの工夫などをお聞かせください。
治療と予防歯科のエリアを分けたことです。明るく、広い受付や待合スペースも特徴です。同級生がオジデザインワークスで設計してもらっていたので、私もお願いしたのですが、基本的には橋本亮介社長にお任せでした。
経営理念
経営理念をお聞かせください。
歯科医師一人、歯科衛生士一人が頑張るのではなく、歯科助手や受付スタッフまでも含めたチームとして、コミュニケーションを密に取り合いながら、一人一人の患者さんに対応するということです。そうした対応について、外部講師を呼んでセミナーを開催することもあります。
また、チーム力を高めるために、飲み会やボウリング大会をしたり、日帰り旅行に行ったりもしています。
診療方針
増患対策について、お聞かせください。
家族で来ていただける歯科医院でありたいと思っています。子どもさんが来て、お母さんも来るようになって、土曜日にはお父さんも来てという形が理想ですね。このあたりは土地が出るとマンションが建つので、世代交代が進んでいますが、高齢者も多く、人口のバランスの取れた街だと感じています。
患者さんの層はいかがですか。
子どもさんが3割、高齢の方が2割といったところでしょうか。さいたま市内の小学校の校医も務めていますが、少し離れているせいか、そこからの子どもさんは少ないです。それでも子どもの患者さんが多く、三世代でいらしているご家族も多いのが特徴だと思います。
自費と保険の割合について、お聞かせください。
自費が4割です。予防歯科メインの診療内容ですが、インビザラインを始めたことにより、矯正歯科の患者さんが増えているので、このぐらいになるのかなと思っています。矯正歯科もホワイトニングも予防歯科に繋がるものとして始めました。ホワイトニングすることで、歯に興味を持つようになれば、綺麗にしておこうという意識が芽生えますし、矯正をしたことで、その歯を綺麗に残そうと思えば、きちんと噛み合わせを治しておこうとなるので、結局は予防歯科になるのです。
増患対策
どのような増患対策を行っていらっしゃいますか。
以前はポータルサイトでの増患対策をしていたのですが、今はホームページぐらいです。しかし、来院動機はほぼ口コミとなっています。
スタッフ教育
スタッフ教育について、お聞かせください。
私が行ったセミナーで良かったものに行ってもらったり、私が習ってきたことを教えたりしています。院内勉強会は活発に開催しています。研修医はアシスタントとしてつかせ、やり方や器具の使い方を見てもらっています。
歯科衛生士、歯科助手への教育はいかがですか。
トゥモローリンクの濱田智恵子代表はフリーランスの歯科衛生士なのですが、濱田さんによる勉強会を月に1回、行っています。手術などでの技術や知識面の両方を強化できるのがいいですね。そうした勉強も全て勤務時間内に行っています。
今後の展開
今後の展開について、お聞かせください。
今の状態をより充実させたいと考えています。患者さんの満足度を上げるために、知識や技術、力をつけていきたいですね。また、歯科助手や受付スタッフには相手の気持ちになった接遇を心がけてほしいです。
開業に向けてのアドバイス
開業に向けてのアドバイスをお願いします。
私が開業した時代とは違い、今は開業自体が難しいですね。一方で、大学に残る場合もぬくぬくしているわけにはいかず、以前よりも強く業績を残すことが求められるようになりました。どちらにしろ厳しい時代だからこそ、開業にあたっては自分がしたいことやコンセプトをしっかり持っておくことが大事です。
しかしながら、開業することだけが歯科医師の目的ではありません。私自身は仕事が趣味ですし、マネジメントも好きなので、そこに苦労を背負うことが負担ではありませんでしたが、マネジメントが得意でない方もいます。開業後は自分の時間もなくなりますし、マネジメントが得意でない方や自分の時間を確保したい方は勤務医でも十分なキャリアを積めるのではないでしょうか。開業はあくまでも一つの選択肢なのだと思います。
プライベート
プライベートの時間はどんなことをして過ごしていらっしゃいますか。
特に趣味などはありません。新たな知識、技術、道具などを見に行くことが多いですね。取り入れてみて良くなかったものもありますが、そうした勉強をする時間を大切にしています。勉強会に出席することもあります。最近は九州の歯科医院で行われている子どもの矯正に関する勉強会が良かったので、私どもの若手歯科医師にも勧めました。