歯科経営者に聴く ~第一線で活躍する理事長から学ぶ~
イターナル歯科クリニック 院長 岩永 英隆
佐賀県佐賀市白山はJR長崎本線の佐賀駅と佐賀県庁を結ぶ中央大通りの中程に広がるエリアである。イターナル歯科クリニックは2007年にこの地に開業した。
「佐賀の痛くない歯医者」をキャッチフレーズとし、いかに楽しく、健康な生活を送れるかを考えたうえでのサポートを行っている。
一般歯科のほか、昨今ではセレックにも力を入れている。
今月はイターナル歯科クリニックの岩永英隆院長にお話を伺った。
イターナル歯科クリニック 院長 岩永 英隆
プロフィール
院長 岩永 英隆
九州大学歯学部卒業
医療法人 歯友会 赤羽歯科クリニック 上尾診療所 勤務
帰郷後、福岡県博多区 特定医療法人芳香会 博多歯科クリニック勤務
医療法人英峰会 イターナル歯科クリニック開設
開業に至るまで
歯科医師を目指されたきっかけについて教えてください。
パソコンなどが好きでしたので、昔は理工学系の工学部のようなところを目指していたのですが、叔父が歯科医師でしたので、小さい頃から叔父の歯科医師としての姿を見て徐々に興味を抱いて・・・、といったところでしょうか?叔父の影響は大きかったですね。叔父は現在も長崎県佐世保市で開業しています。
大学卒業後に勤務先を選ばれたポイントを教えてください。
私は臨床研修制度が必修化される直前に卒業したので、研修医は必須ではありませんでした。研修医になることもできたのですが、私は一人前の歯科医師になるため、なるべく手を沢山動かして少しでも早く成長したいと考えていたので、できるだけ多くの患者さんを診られるところを探しました。
当時、日本で有数の規模だったのが東京の赤羽歯科でしたので、そちらに就職しました。赤羽歯科は東京を中心に、多くの支部を持っていましたが、私は埼玉県の支部に勤務していました。
勤務先ではどういったことを学ばれましたか。
赤羽歯科には3年ほど勤務しましたが、非常に大きなグループでしたので、多くの患者さんがお越しになり、多くの先輩方のもとで様々な患者さんを診せていただく機会を得て、多様な症例を経験することができました。インプラント、矯正、審美など、幅広く見せていただき、講習会や勉強会でも勉強してきました。本当に多くのことを経験させていただきましたね。
関東から帰って来られて、すぐに開業されたのですか。
福岡でさらに3年ほど勤務をして、それから開業しました。2017年7月に開業10周年を迎えたところです。
開業地を選ぶにあたっては、どのように探されたのですか。
当院が所在する場所は私の実家の土地なのです。開業するときにはこの土地でしようと思っていましたので、場所探しなどはしていません。ただ、この場所は非常に分かりにくいので、開業には全く向いていないところでした。大通りに面していないし、目立たないし、分かりやすい建物が近くにあるわけではありませんが、ここでやろうと決めていましたので、割り切っていました。
ご実家がスーパーマーケットをされていたそうですが。
はい、歯科医院の隣で両親がスーパーマーケットをしていました。私はここ(現別館)で最初にユニット3台で開業したのですが、患者さんが徐々に増えてきて、4台、5台と拡張していきました。ところが5台で院内は拡張の余地がなくなってしまいました。これ以上、患者さんをお受けできないということになりそうだったときに、スーパーマーケットの土地を半分ほど崩させてもらって、隣(現本館)に移転しました。本館でユニットを8台に増やしたのですが、それでも一杯になってきたので、再度こちら(現別館)をオープンし、今は両方でユニット計13台で診療を行っている状況です。
設計などのこだわりについて、お聞かせください。
院内を完全動線分離の作りにすることは最初から決めていましたので、設計士の方にユニットの配置やドアの位置などをお伝えしました。そのうえで、色々な雑誌やホームページを見ながら、「こういう感じのデザインがいい」という相談もしましたね。
開院されて10年、うまくいかなかった時期もありましたか。
開業して最初の2カ月ぐらいは患者さんがあまりお越しになられず、自分の親だけ治療した日もありました。その後、地元のフリーペーパーのようなものに載せていただく機会があり、ようやく患者さんが集まってくださるようになりました。それからはありがたいことに順調に患者さんにお越しいただいています。ただ、患者さんが増えれば、スタッフも増えますが、人数が多くなると人間関係などの苦労もありました。そこで、スタッフ同士の交流を深める場を作ったりして解決し、職場で働くスタッフ同士の絆も深まっていったように思います。10周年の際には私には当日まで内緒で、ドクターやスタッフ全員が準備を重ねてお祝いをしてくれる嬉しいサプライズもありました。
経営理念
経営理念をお聞かせください。
「イターナル歯科クリニックに関わる全ての人に対して、どのようにしたらその人にとって一番の幸せなのか」を考え抜くことです。患者さんに限らず、スタッフも全てですね。皆にできるだけ幸せになってもらいたいと願っています。
診療方針
診療方針をお聞かせください。
患者さんにしっかり理解していただいたうえで治療することを最初から考えていましたので、患者さんととことんお話をして、納得のいく治療を受けていただくことに尽きますね。ご本人が一番望んでいる治療をできるようにしたいと思っています。そのためには様々なオプションも必要です。こういう方法を使うと、患者さんの希望が叶えられやすいというときのために、豊富な手段や新しい技術道具を極力、揃えるようにしています。設備投資にあたっては、自分が見ていて、「これは便利そう」、「使えそう」と感じたものをできるだけ取り入れるようにしています。
他院との差別化はどんなところにあるのでしょうか。
最新の機材などを使ったとしても、審美治療などをなるべく低価格で行うようにしています。どのような診療のメニューであれ、患者さんは治療の質だけでなく価格もやはりリーズナブルであればあるほど喜んでいただけるのではないでしょうか?歯科医院も他の業界と同様に医院側が努力をしてコストダウンを図り、その恩恵を患者さんに還元すべきと私は考えています。
審美歯科で来院される方の年齢層はいかがですか。
30代から50代の働いている女性が多いですね。私どもではセレックを非常に低価格で行っていますので、男性の方も多いですよ。セレックは皆さんが好まれて、遠方からも多くの方が治療を受けにお越しになられています。
患者さんからの問い合わせはどういったものが多いですか。
ホームページを見て、「セレックをやってみたい」、「矯正をやってみたい」という問い合わせが多いです。また、私どもではホームページで「痛くない歯医者」を謳っていますので、「痛くなく治療をしてもらえるのでしょうか」という問い合わせもあります。
増患対策
増患対策について、お聞かせください。
ページ数が非常に多いホームページを作り込んで、多くの情報を出しています。もともとのホームページは昔、私が作ったもので、今はホームページ制作会社に管理をお願いしています。一方で、私自身もブログを書いています。開業してから今まで10年以上、ほぼ毎日ブログを書き続けているのです。治療のことや歯科医院のこと、私の身の回りのことを書いていますが、常に最新の情報や院内の情報を発信することに努めています。最近はスタッフブログも始め、スタッフも発信しています。
スタッフ教育
スタッフの採用や教育はどのように行っていらっしゃるのですか。
当たり前のことですが、歯科医師の教育はドクターそれぞれのスキルやコミュニケーション能力によって変わります。スキル・経験のある人ならすぐに担当をもって診療にあたっていただきますが、技術的に不安がある人には私どもで作っているチェック項目をもとに、達成した部分をお願いするという基準があります。
歯科衛生士についてもマニュアルを作っており、先輩スタッフが指導する仕組みがあります。歯科衛生士にはチーフとサブリーダーがいますので、担当を決め、その役割に従ってほかのスタッフでフォローする形をとっています。
環境づくりの工夫について、お聞かせください。
最近は特に交流が大事だと考えるようになりました。以前はたまに飲み会を開いていたのですが、夜はなかなか来られない人もいますので、最近はランチ会をしています。毎日、院内のスタッフ総当たりで一組ずつランチに行きます。スタッフ20人以上の総当たりなので、2、3週間に1回は自分の番が回ってきます。毎回、メンバーは変わりますね。費用は私どもが負担し、仕事は関係なしに楽しく食べて、お話をして帰ってくるというものですが、これでコミュニケーションを深めようという試みです。
それ以外ですと、院内ミーティングや院内SNSですね。院内SNSをつかって、院内で気がついたこと、改善した方がいいことを月に1回、上げてもらいます。それを全員が見られるように情報共有して、「皆で〇〇の部分について気を付けてゆきましょう」といった確認など、院内の環境づくりの改善を行っています。
今後の展開
今後の展開について、お聞かせください。
スタッフがより働きやすい職場にするために「働き方改革」、具体的には診療時間の短縮を実施する予定です。今は夜20時までなのですが、今年の4月から18時半までになります。それから訪問診療を開始する予定で、準備を整えているところです。訪問専門に必ずしもこだわっているわけではありませんが、訪問歯科のできる歯科医師や歯科衛生士の雇用も検討中です。
歯科医院自体もレベルアップをするために、私も色々な講習会に行っているのですが、よりきちんとした治療をできるようにしたいですね。自費のものを単純に被せて終わるというのではなく、歯周外科を行ってから、歯の状態を整え、きちんと被せ物を作って、メンテナンスを行っていく体制、患者さんを適切に管理していくことを目指します。
開業に向けてのアドバイス
転職や開業を考えていらっしゃる先生方に対してのアドバイスをお願いします。
開業にあたっては自分がやりたいと思ったコンセプト通りの歯科医院を作ることです。
私どもの場所は目立たず、人も少なく、決して開業に向いている場所ではありませんでした。私は審美などをメインで行いたかったのに、このあたりは高齢者が多く、地域的にも向いていなかったのです。でも、ならば高齢者向けの歯科医院にしようというようなことを一切考えず、自分がやりたいと思ったことに信念を持って開業しました。そうすると、次第に患者さんがいらっしゃるようになったのです。特にインターネットは大きいですね。インターネットを見てから来院される方がほとんどですから、自分の信念やコンセプトを曲げずにいると、自ずとそういう方々が集まってきます。やりたいことを追求して、開業や転職を考えましょう。
下積みについては、私の経験から言わせていただくと、5、6年は必要でしょうね。転職をするにあたってもやはり今の自分にないスキルを得られる場所への転職をお勧めします。
インプラントなどは今でもスキルとしては目立つのですが現在の動向を考えるとインプラントをメインにして診療を成り立たせられるのは一握りでしょう。それよりも多くの患者さんが望んでいることは何か?患者さんが望んでいる診療のスキルを得られる場所はどこなのか?といったより広い視点で転職先も考えていただきたいと思います。
プライベート
余暇の過ごし方について、お聞かせください。
家族と過ごす時間がほとんどです。私一人で過ごす時間はほとんどなく、家族と近くに買い物に行ったり、たまの長い休みには旅行に行ったりするのが楽しみです。
趣味としては中学3年のときから大学までバンドを組んでいました。家にドラムセットもあるのですが、卒業後はさすがにそういう機会がなくなりましたね。少し叩くとうるさいですしね(笑)。機会があればいつかはバンド活動を再開したいですね。