歯科経営者に聴く ~第一線で活躍する院長から学ぶ~
医療法人 こだま歯科医院 児玉 高明 理事長
山口県山口市は山口県の県庁所在地であり、県のほぼ中央に位置している。市の南北をJR山口線が走っており、島根県益田市の益田駅と結ぶ。矢原駅は快速の「通勤ライナー」の停車駅であり、近隣には湯田温泉や維新百年記念公園などがある。
こだま歯科医院はその矢原駅から徒歩5分ほどの場所にある歯科医院だ。開業して30年が経つが、最新の機械を完備し、インプラントから予防歯科まで、幅広い診療に対応している。
今月はこだま歯科医院の児玉高明院長にお話を伺った。
開業に至るまで
歯科医師を目指したきっかけをお聞かせください。
私の両親は小学校の教員でした。それで、私も中学生になるぐらいまでは学校の先生になるのだと思っていたのですが、祖父の勧めがあり、歯科医師を目指すようになりました。
最初に勤務された歯科医院を選ばれたのはどうしてですか。
予備校生の頃にお世話になった歯科医院の院長は母方の親戚でした。
以前からお世話になっており、親孝行も兼ねて勤務しました。
そこで学ばれたことはどんなことですか。
保険診療が中心の歯科医院でしたので、歯を削って詰め物をしたり、神経を取ったり、抜歯、義歯といった保険診療の基本的な技術及び知識を身につけました。
来院患者数も多く症例も多かったので、開業後に役に立ちましたね。
開業を決意されたのはいつですか。
卒業後御礼奉公を6年間行いましたので、卒後7年目です。両親が退職後、開業用の土地を準備してくれたのが開業のきっかけですね。
近くの歯科医院からは競合するということで反対されましたが、大きな問題にはなりませんでした。
設計や内装はどのように進めていかれたのですか。
勤務医時代に技術や咬合学の勉強の機会を通して、歯科用ユニットのメーカーである株式会社ヨシダの支店長さんと懇意になり、福岡の設計士さんを紹介して頂きました。
山口まで何回も足を運んでいただき、その設計士さんにほとんどお任せの状態でした。
開業して30年ですが、その間に2回の増改築を行いました。ユニットも増やしましたし、間取りなども開業当初とは全く違います。
開業にあたって、苦労なさったことはありますか。
特になかったですね。当時は資金調達も今ほど困難ではなかったのですよ。私どもも土地と建物などで1億円以上かかりましたが、全て返済しました(笑)。
ただ、開業して5年目までは順調だったのですが、6年目から右肩下がりになってしまったのです。2人の娘が大学に入学する頃が経済的には辛かったですね。
その時期を何とか乗り越え、娘たちは歯科医師と薬剤師になっています。
経営理念
経営理念をお聞かせください。
地域の皆さんのための歯科医院であることです。患者様、スタッフ、こだま歯科医院という三本柱がバランス良くなるように、いつも考えているつもりです。
患者様には「予防歯科」の重要性を理解して頂けるよう啓蒙活動・診療を行い、またより満足し、幸せになって頂けるよう最新の技術・設備を整えています。
スタッフに関しては、働きやすく、また学べる環境づくりをし、長く勤務してほしいと考えています。
診療方針
診療方針をお聞かせください。
予防歯科を中心に診療したいと思っています。患者様にも予防という概念が根付きつつありますし、私どもも「痛くなってからではなく、痛くならないようにするためにいらしてください。
虫歯や歯周病を予防するために私たちと関わるようにしてください」とお伝えしています。
予防歯科に取り組むきっかけはどんなことでしたか。
10数年前に経営の勉強をし始めた頃に出席したセミナーがきっかけです。そこで学んだことを現実にするには予防歯科だと思いました。
保険診療の点数は下がってきていましたし、毎年2,000人の歯科医師が誕生し、歯科医院も増えています。
このまま”歯を削ってつめる”治療ではなく、予防歯科中心のブルーオーシャン経営が必要だと考えました。
予防歯科専用の個室もありますね。
日本は国民皆保険制度の国ですから、歯が痛くなったときに保険証を持っていたら、いつでもどこでも診てもらえます。そして、日本人は特有の習慣なのか、歯が痛くならないと歯科医院に行かないのです。その習慣を払拭するための予防歯科といっても難しいので、まずは来やすい環境やリラックスできる雰囲気を作りました。
個室ですから、サウンドフリーです。歯科医院独特のキーとか、ガーといった音を遮断し、いい音楽を流して、アロマオイルを炊いています。
美容院や理容院に年に3、4回、行くような感覚で、「あそこに行ったら、昼寝ができるよ」という空間を目指しています。
患者様の層はいかがですか。
予防歯科には1カ月で500人の患者様がいらしてくださっています。
デンタルエステルームには若い方もいらっしゃいますが、そのほかは地域柄か、40代から60代の方がほとんどです。
個室は何部屋ありますか?
5部屋です。
それぞれの個室に決まったスタッフがおり、患者は担当制にしていますので、患者様のお口の中の環境変化が分かりやすくなっています。
指導もしやすいですし、コミュニケーションを取りやすいのも担当制のメリットですね。
インプラントも年間300本以上の実績があるのですね。
私がインプラントを始めた25年前はまだメジャーな治療ではなく、「インプラントするやつはろくな歯科医師じゃない」などと言われていたのです(笑)。最初は隠れてするような状態でしたね。
1年間に10回のトレーニングを受けるセミナーのために名古屋まで行ったりしていましたが、当時は保険診療がメインでしたし、インプラントの成功率も低かったのです。それで、患者様に頑張って勧めるということもありませんでした。
その後、シリンダータイプのインプラントが出たことで、成功率が急激に上昇したのです。セミナーにも頻繁に行くようになり、知識と技術を向上させてきました。
それからトリートメントコーディネーター(TC)を育成したこともあり、症例数は年々増えてきました。インプラントを終えた患者様からは「タコやアワビを食べられるようになった」と喜びの声を聞くと「早くからインプラント治療を取り組んできて良かった」と感じます!!
増患対策
どのような増患対策を行っていらっしゃいますか。
ユニットを増やしたり、駐車場の倉庫を取り払って、患者様の駐車場にしたことなどでしょうか(笑)。ユニットを増やすことはスタッフを増やすことであり、それが一番の増患対策かもしれません。
ホームページも私はあまり関わっていないのです(笑)。スタッフや娘が主に担当しています。
ホームページの中に無料相談コーナーを設けており、インプラントの不具合やホワイトニングの相談、自費診療でかかる金額の質問などをお受けしています。
ブログはスタッフで担当を決めて、週に1回、更新しています。
スタッフ教育
歯科医師の教育はどのように行われているのでしょうか。
私どもでは新卒の歯科医師を雇用したことがなく、経験者ばかりなのです。したがって、私はあまり口を出さず、好きなように仕事をしてもらっています。
ただ、セミナーにはよく行かせていますね。今年の2月にはハワイの学会に私どもの歯科医師を連れていき、インプラント認定医の資格を取得させました。
私どもでは設備投資にお金をかけてきました。ハード面ではマイクロ以外のものは何でもありますので、試すことができます。
レーザーもダイオード、YAG、痛みを止めるためのソフトレーザー、CO2レーザーなどを完備しています。
機械に関しては最新のものを入れたいと思って、色々な機械を購入してきましたが、「これは駄目だ」とか、「これはうちには向かない」などでボツになったものもかなりあります(笑)。
自由診療では歩合制なのですか。
歩合制はとっていません。
歯科衛生士やほかのスタッフへの教育はどのようになさっていますか。
以前は外部の講師を呼んで、接遇マナーのみならず、オーラルケアの院内セミナーなどをしていましたが、今は接遇マナーを中心に、ほとんどビデオで勉強してもらっています。
経験が浅い歯科衛生士が入職したら、先輩の歯科衛生士からの技術指導もあります。
今後の展開
今後の展開について、お聞かせください。
『地域一番の歯科医院』を目指していますので、新しいものを積極的に取り入れていきます。
今後、特に力を入れていきたいのが予防歯科とインプラント治療です。歯を削り続ければ、歯はなくなるのです。30年前に開業した頃にお見えになっていた患者様の中には次々と歯をなくし、総入れ歯になった方もいらっしゃいます。そういった経験が予防歯科を始めたきっかけの一つです。しかし、歯を残すための手段としてはインプラントがベストです。ほかの歯を削ったり、負担をかけないで済み、欠損補綴ができますからね。
今後は予防歯科と同様に、インプラントも頑張っていきます。年齢的に分院の展開は考えていませんが、娘が出したいと言えば、堂々と出します(笑)。
開業に向けてのアドバイス
開業に向けてのアドバイスをお願いします。
私どもでの勤務を終えて開業された方は何人もいらっしゃいます。私どもでは経営ノウハウの全てをお伝えしています。
受付のスタッフが年間の売上を表にしており、スタッフ全員で共有しています。ガラス張りの経営をしていますので、私どもに勤務していれば、開業後の経営についてはほぼ理解できると思います。
私どもの隣で開業されるのはご遠慮いただきたいですが、開業されるのなら地方の方がいいですよ。
地方だと、競争率をそこまで考えなくてもいいのです。都会は競争率が高すぎるので、インプラントだったり、1日で全ての治療を完結できるなど、何かに秀でていないと難しいでしょう。
私としては地方に来て、地方のやり方を勉強し、地方で開業することをお勧めします。
卒後どのぐらいでの開業がいいのでしょうか。
3年から5年は勉強した方がいいです。開業するのであれば大学病院ではなく、開業医の歯科医院で勉強しましょう。
卒後3年で技術面はほぼできるようになりますが、失敗したときのリカバリーなどを学ぶためにはあと2年ほど必要です。