歯科経営者に聴く ~第一線で活躍する院長から学ぶ~
COCO DENTAL CLINIC 島 優子 院長
歯学部の男女別学生比は男性59.8%、女性40.2%となっており、今後ますます女性医師が増えていくと予想される。しかし、女性の場合、男性と違って、仕事だけに邁進できるわけではない。開業を考える時期に結婚、出産、子育てというイベントが重なるからだ。それでも開業したいという志の高い女性歯科医師も多いため、今回は女性院長にインタビューした。大阪市旭区のCOCO DENTAL CLINICの島優子院長に、開業に至るまでの葛藤や現在の診療方針、将来の目標を伺った。
COCO DENTAL CLINIC 島 優子 院長
プロフィール
朝日大学歯学部を卒業する。大阪大学歯学部附属病院に10年近く所属しながら、大阪市の四ツ橋と兵庫県川西市に歯科医院を構える医療法人に長く勤務した。
開業に至るまで
2015年6月に開院してから1年半ですね。開業するまでの経歴や、勤務医として感じておられたことを教えてください。
朝日大学を卒業してから2年間、大阪大学歯学部附属病院の総合診療科で研修医として勤務しました。その後、ある医療法人に入職し、開業までそこで勤務を続け、一から十まで教えていただきました。その医療法人は基本的なことに基づいて、最新の設備を使いながら最先端治療を行っていくというクリニックでした。基本的な軸となる治療方法をしっかり教えていただきましたね。セミナーにも積極的に参加していましたので、枝葉のスキルはセミナーなどで学んでいました。とても良い歯科医院でしたが、女性が働きやすい職場ではなかったような気がします。それは雇用条件といった意味ではなく、メンタルな部分です。良く周りでも「女性の歯科医師だから、スタッフとうまくいかないよね」、「女性だから難しいよね」と言われていましたがそういう言葉を耳にするたびに、何か違和感がありました。そういう日々の中で、「女性が働きやすい職場を作りたい」、「女性が働いているのだということを常に意識して、人生のバランスを取れる場所を作っていきたい」と思ったことが開業の原動力となりました。
開業をされて感じたこと、勤務医時代と変わったことをお聞かせください。
勤務医時代は「女性だからね~」と言われることに違和感が抜けず、男性も女性も変わらないと思っていました。おそらく女性の勤務医にはこの気持ちが分かっていただけるでしょう。でも開業してみると、「男性と女性は違うのだ」ということが良く分かりました。女性だということを受け入れ、納得したうえで、自分自身の腹に落として働けばうまくいくことが多いですね。
勤務医時代はとても孤独でした。院長とはコミュニケーションが取れないし、スタッフとはやはり一緒にはなれません。よく「院長は孤独」だといいますが、私は逆に「勤務医は孤独」だと思っていました。精神的に病んでしまったこともありましたね。「女性だから」と気遣われたり、かばってもらうたびに、男性も女性も同じだと必死に抵抗していたのかもしれません。勤務医時代はそこの所を無視しようとしていました。でも開業してからは女性なのだということをしっかり受け入れたうえで働く方法を考えたのです。素直になれば、身内はもちろん、スタッフも皆が助けてくれます。そういう意味で、勤務医時代に比べて孤独ではないと感じるようになりましたね。
院長という立場になった今、女性院長として、スタッフとどのような関係を築いていますか。
女性院長だからこそできることなのですが、スタッフに切り込んでいくようにしています。スタッフのそばにいつもいますし、小さな問題があったときに早めに情報共有しておけるようにしています。スタッフとは皆でできる限りのことを共有するというスタンスです。私どもは6割が人徳、4割が仕事という考え方です。私を含め、世の中には色々な人がおり、それぞれが良いところもあれば、悪いところもあります。だからこそ、皆で情報共有をして、皆で理解して、お互いにサポートし合いましょうと言っています。
女性は男性と違って、結婚や出産の問題が出てきます。まさに開業を考える時期に結婚や出産が重なってきますよね。そのあたりについて、どうお考えですか。
女性歯科医師なら分かっていただけることでしょうが、ある時期に自分の立ち位置が分からなくなります。男性は歯科医師としての仕事や立場が常にバックボーンにあるライフスタイルですが、女性は仕事か、結婚や出産のどちらかを選択しなくてはいけないという意識にとらわれてしまうのですね。時代は変わってきましたが、それでも男性と同じように仕事をしながら、家庭と子育てを同時にするのは難しいです。その点、歯科医師と結婚した女性歯科医師はご主人の開業に伴い、一緒に働くこともできますし、勤務時間も比較的、自由が利くようです。そこでの役割や道が与えられるのでしょうね。しかし、男性歯科医師の中にも結婚したら家庭に入ってほしいと希望する人が少なくありません。結婚や出産を機に、歯科医師を辞めた友人も多くいます。周りがそういう状態になったときに悩みが出てしまいますが、自分の立ち位置は自分で作るしかありません。
開業は意外に簡単な道です。子どもを産むよりも簡単ですから、重く考えなくて大丈夫です。女性であることを意識して働けばいいだけです。男性と同じだと思い込んでいると、歪みが起こります。まず大きな問題は治療です。保険診療で量を診るとなると、男性や次々に輩出されてくる若手にいつか太刀打ちできなくなります。自分の力を発揮できるスタイルは何かを考えてみましょう。私は女性であることを最大限に活かした自費診療に力を入れようと決めました。「一人の患者さんを丁寧に診る」のは女性が得意とすることです。自費診療をして、歯科医院経営を楽にするという考え方ですね。患者さんが「先生、本当にありがとうございました」と言ってくださるような時間と空間を作ることを心がけています。また人にもよりますが、女性は基本的に「家族を養う」必要が少ないと思います。極論を言えば、お金の心配をする必要がありません。全て自分のものなのです。その分、設備にお金をかけたり、スタッフのお給料を高くすることが可能です。
私は開業後に結婚しましたが、結婚や出産があることは想定内でした。そのため、勤務医やスタッフを育てることに注力しましたし、現在はMS法人を設立し、スタッフ用の託児所運営なども行っています。「結婚して子どもができたら、どうしよう」ではなく、いつ子どもができてもいいように準備しておけば良いのです。
妹さんとご一緒に開業されましたが、そのあたりのお話を聞かせて下さい。
妹と私は性格も全然違います。妹は淡々としたところがあり、基本的には姉を立ててはくれますが、ときには私以上にしっかりしたところもあります。親の教育のお陰か、もともと仲はとても良く、妹が歯学部に入ったのも姉である私の影響と聞いています。勤務医時代は妹も同じ歯科にいました。開業したときに同じ目線で考えたり、話し合ったりできるように、敢えて同じところを選んだのです。だから、今でも「あのときのあのやり方」と言えば、お互いにすぐ分かるので、やりやすいですね。開業準備をする約半年の間に、二人の関係がある程度、確立されました。院長である姉の立場、院長とも勤務医とも違う副院長としての妹の立場を確立できたことによって、問題なく働いていますし、スタッフもやりにくい部分などはないと思います。開業当初は一度だけ大喧嘩をしたことがありました(笑)。趣味も楽しみたいですし、セミナーにも行きたいので、妹と二人で役割分担して、仕事をしています。
一人で全てをやらない、無理をしない意味でも一つの形を確立されたのですね。先生のプライベートな面も教えてください。
休みの日は趣味のゴルフや旅行を楽しんでいますが、スキルアップのためにセミナーなどにも積極的に参加しています。診療のある日は仕事が終わったら、買い物をして、ビールを一杯飲んで帰っています(笑)。ペットに餌をやって、映画を見ながら、料理を作ります。夫が帰ってきたときに「今日、私は仕事をしてきました」みたいな顔をしないようにしています(笑)。そこはちょっとしたこだわりでしょうか。仕事をプライベートに持ち込まないように心がけています。でも夫には仕事の話も頻繁にしていますね。歯科業界とは違う仕事をしている夫からのアドバイスは新鮮です。
とても落ち着いていて、シックでありながら、女性らしい優しさあふれる内装ですが、どんなことに気を配っているのですか。
「歯科医院らしくない」ことを心がけています。そして、スタッフにここで働いていることを誇らしく思ってもらえるクリニックであることです。お花は毎月2回、変えています。衛生面にもかなり気を配っていますし、白衣は毎日、変えています。開業を考えている女性歯科医師にアドバイスが一つあるとしたら、当院はカメラを各部屋につけています。これは色々な意味で自分自身を守ることになります。患者さんとの揉めごとなどがあれば、すぐに映像を見てチェックすることで、対応できます。
マイクロなども完備され、治療にこだわりを持たれていますね。
今の所、マイクロは2台入っています。腰をかがめて、辛い姿勢で治療するよりも、マイクロを通して行う治療は外部から見たときにとても美しく、優雅です。その姿勢に惚れたのがマイクロ導入の始まりです(笑)。でもマイクロでの治療は歯髄を守れる確率が高くなります。それは「歯を守れる」、「患者さんを守れる」ということに繋がります。当院では歯肉移植などのマイクロサージャリーの症例が大変多いのも特徴です。雑になったら終わりだと思っています。マイクロによって、女性らしくきめ細やかな治療ができることを患者さんにアピールしています。
将来の展望をお聞かせください。
今後の展開について、お聞かせください。
患者さんのために働ける女性歯科医師を増やしたいし、育てたいです。色々な面でサポートしていきたいと思っています。趣味もパートナーも大切にして、親の介護も安心してできる、そんな働き方を確立していきたいですね。