歯科経営者に聴く ~第一線で活躍する院長から学ぶ~
戸畑駅前なかお歯科クリニック 中尾 院長
福岡県北九州市戸畑区はかつては近隣に八幡製鉄所があったことから工業地帯であり、昼間人口が夜間人口を大きく上回っているのが特徴である。しかし、現在は住宅街としての再評価が進み、マンション建設が活発に行われている。
戸畑駅前なかお歯科クリニックは「みなさまがハッピーになれる歯科医院」をモットーにしており、戸畑区のみならず、北九州市内全域から患者さんを集めている。2階にはメンテナンスルームを設け、虫歯・歯周病などを防ぐ予防歯科にも力を入れている。
今月は戸畑駅前なかお歯科クリニックの中尾伸宏院長にお話を伺った。
戸畑駅前なかお歯科クリニック 中尾 院長
プロフィール
- 1973年 福岡県北九州市 生まれ
- 1998年 九州歯科大学 卒業
- 1999年 福岡県内の医院 勤務
- 2001年 福岡県内の医院 勤務
- 2003年 戸畑駅前なかお歯科クリニック 開設
- 2011年 移転開院
- 2015年 2階部分にメンテナンスフロア開設
開業に至るまで
歯科医師を目指したきっかけについて、お聞かせください。
通勤したくなかったということでしょうか(笑)。最初から開業志向がありました。両親は歯科関係者ではありません。医学部よりは歯学部の方が開業しやすそうだということで、予備校に通っている頃に歯学部に決めました。
勤務医としての経験をどのぐらい積まれましたか。
5年間で、2軒の歯科医院に勤務しました。最初の歯科医院を選んだ理由は見学時の印象が良かったからです。院長先生は親切そうな方でしたし、先輩方もよく教えてくださいました。実際に勤務してみると、スタッフ教育などが勉強になりましたね。そちらに3年ほど勤務して、次の歯科医院に移りました。次の医院は担当制で、また、歩合制でもあったので、スキルアップに繋がると思いました。
勤務医生活は5年だと決めていらしたのですか。
歯学部を選んだのも開業したかったからですので、5年を区切りだと考えていました。
開業地をどのように選定されたのですか。
北九州市内で開業することにしていたのですが、北九州市内のどこにするかということには迷いがありました。駅の近くで、かつ、長く続けられそうな場所を探し、戸畑駅の近くに見つけました。開業ではやはり立地が大切ですね。戸畑駅は特急も停まりますし、車でも来やすいです。イオン戸畑ショッピングセンターもあり、商業圏だということも気に入りました。戸畑駅は1999年に150メートルほど移転したばかりでしたので、しばらく移転しないだろうとも思いましたね。
開業当時のスタッフはどのような体制でしたか。
私のほかは歯科助手が2人です。歯科衛生士もいませんでした。開業して3年が経った頃に非常勤の歯科衛生士を雇用する余裕ができました。ようやく軌道に乗ったのでしょうね。あまり時間がかかると運転資金が続かないかもしれないという危機感がありましたので、きつかったです。
軌道に乗った理由はどんなことだとお考えですか。
歯科診療については地道に努力を続けましたが、そのほかはネットや看板などでの宣伝が功を奏したようです。最初に開業したテナントでは決まっている部分でしか宣伝できなかったのですが、交渉して看板を出させていただけるようになったことで好転しました。ホームページは12、3年前に自分で作りました。業者に頼むお金がなかったので、毎晩、仕事が終わってから作業していました。
移転の理由をお聞かせください。
前のテナントは4台しかチェアを置けず、器具を置くスペースもなくて、手狭になったからです。6、7年前に歩いていたら、この土地が売り出されていたので、買おうと思いました。ずっとテナントのままなのは嫌だったので、ビルを建築し、2階にもチェアの増設を行いました。
内装にもこだわっていますね。
最初の開業のときは資金に乏しかったので、機材は新品でしたが、内装はこだわれませんでした(笑)。今はお洒落な感じにしています。
経営理念
経営理念をお聞かせください。
患者さんからも、スタッフからも「なかお歯科に来て良かった」と言われる歯科医院を目指しています。患者さんが歯で困ることがないように、虫歯にならないように、虫歯になってしまった方にはしっかりとした治療で対応することを心がけています。
診療方針
診療方針をお聞かせください。
治療の質にこだわることです。来やすい歯科医院であること、全般的に対応できることも方針です。他院へのご紹介もしますし、患者さん第一の姿勢を持って、患者さんがどんな悩みでいらしても困ることがないようにしています。
増患対策
増患対策にはどのように取り組んでいらっしゃいますか。
ホームページには治療風景の動画を載せるなど、力を入れています。やはり認知をしていただくことが重要だと考えています。
スタッフ教育
歯科医師への教育はどのようになさっていますか。
マニュアルを作成していますし、勉強会も活発にしています。マニュアルは講習会で知り合った歯科医師に伺って、私どもでも作るようにしました。技術指導を繰り返し、スキルアップさせることを重要視していますね。新卒で入った歯科医師に担当制で患者さんを任せることができるまでは3年かかると考えています。勉強熱心な歯科医師にとっては知識を吸収できる環境です。私自身も月に2、3回は勉強会に行き、内容を全てデータにして、若手歯科医師に伝えています。若手歯科医師対象の勉強会は年に3、4回のペースで開催していますが、今後は他院からの見学も歓迎していきたいですね。私どもでは勤務医が頑張って成果を上げれば、待遇を改善しています。
歯学生の見学も多いですか。
就活フェアのような場所に出向いたり、採用サイトを充実させているので、6年生の見学はかなりあります。今週も4人来ますよ。見学の歯学生にも勉強会の情報をお伝えしています。歯科医師として頑張ろうという志のある人、目標を持っている人と一緒に働きたいですね。新卒者は最初の1年間は研修医という立場です。その後の入職に関してはお互いの希望で決定します。
採用されるときに気をつけているポイントはどんなことですか。
第一印象は大事ですね。きちんとした服装で来て、普通に敬語が使えるかなどを見ます。歯科医師の仕事の中では技術は一部です。自分が興味ある仕事しかしないと言ってクイントを読んでいる歯科医師や技術だけを学ぼうとする歯科医師もいますが、気配りや目配り、仕事の段取り、カルテの書き方の方が重要なのです。どんな仕事であっても技術だけというのはありえませんから、そういう人には注意しています。手が器用、頭がいいというのではなく、人としての部分がきちんとできている人に入職してもらって、立派に開業してもらうのが理想です。
開業支援もなさっていますか。
今のところ、当院を辞めてすぐに開業した歯科医師はいないのですが、今後、開業希望の歯科医師がいたら、私どもの売上やラインのデータ、テンプレートやマニュアルを提供するのは構いません。資金面でサポートする仕組みはまだ作っていませんが、業者さんの紹介などのバックアップは可能です。開業後も技術面や経営面での勉強会を一緒にしていきたいですね。
歯科衛生士への教育についてはいかがでしょう。
10年ほど勤めているリーダーの歯科衛生士がいます。リーダーが教育してくれますから、お任せしています。歯科衛生士だけの勉強会も活発ですよ。私としては産前産後休暇や育児休暇を完備し、働きやすい職場にしています。
今後の展開
今後の展開について、お聞かせください。
チェアが13台ありますから、この状態で質を上げていきたいです。患者さんのみならず、スタッフが喜んで来てくれる歯科医院でありたいですね。分院展開を考えた時期もありましたが、管理が大変そうです。何かで失敗すると、手に負えなくなってしまいますから、広げて質を下げるよりも器具やスタッフを集約させて質の向上を目指します。ただ、余裕ができたら、欲が出るかもしれません(笑)。
開業に向けてのアドバイス
開業に向けてのアドバイスをお願いします。
色々なポイントがあります。経営面では分析、状況の把握や判断などのバランスを取る必要があります。立ち上がりがうまくいかなくても、原因を探って改善できる人が開業に向いています。私どもの勤務医やアルバイトに来ている歯科学生を見ても、この人が開業したら成功するだろうなと思える人はいます。それはやはり人としてきちんとしている人ですね。いくら良い立地を選んでも、スタッフがついてこなければいけませんし、患者さんがいらっしゃらなかったら続かないですよ。治療だけうまいというのは意味がありません。極端な話ですが、手技が不得手なら、ほかの歯科医師を入職させることもできますから。
また、開業までは5年はかけましょう。手は3年で動くようになりますが、治療計画を立てられるようになり、マネージメントができるようになるまでにはもう少し時間が必要です。ただし、これは若ければの話です。私の同級生で、年齢を重ねてから歯学部に入学し、勤務医1年で開業した人がいるのですが、マネージメントがうまくて成功しています。したがって、開業にふさわしい年齢に関しては一概に言えないですね。
【タイムスケジュール】
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