歯科経営者に聴く - エルアージュ歯科クリニックの加藤俊夫理事長

歯科経営者に聴く ~第一線で活躍する院長から学ぶ~

口腔から全身を見る/森田歯科医院 森田浩章 先生

高齢化社会を迎え、歯科の患者さんにも様々な疾患を抱える方が増えています。歯科医師も、口腔から全身を見る力量が問われています。また歯科は「最も身近なお医者さん」であり、全身疾患の徴候をいち早く掴み得る立場にもいます。
今回は、大学病院の口腔外科で医科との連携に取り組んでこられた森田歯科医院の森田浩章先生にお話を伺いました。

森田歯科医院 森田浩章 先生

森田歯科医院 森田浩章 先生

1.医科との連携

森田歯科医院森田先生は昭和41年生まれ。城西歯科大学卒業後、東京医科歯科大学付属病院総合診断部で二年の研修生活を送りました。試験的にスタートした研修医制度の二期生に当たります。その後同第二口腔外科勤務、独協医科大学口腔外科勤務を経て、平成12年に医学博士の学位を取得されました。

「一般歯科では主に口腔内の硬組織を診ますが、口腔外科では軟組織から硬組織までを幅広く対象とします。とりわけ、舌腫瘍、歯肉腫瘍など口腔内の粘膜に生じた疾患を診ることになります。研修医の時に腫瘍で顔面の半分を失った患者さんを診察する機会があり、非常にショックを受けると共に、この分野に魅了されました。」

口腔外科では医科とのコミュニケーションが大切になります。内科・小児科・外科・耳鼻科、脳神経外科など、他科の手術時の全身麻酔を担当することもあったと言います。また脳腫瘍や頚部腫瘍などの治療にも立ち会ったそうです。

「スケールの違いを感じ、一般の歯科では得難い経験をしました。」

局所ではなく全身を見ることも大切であると痛感させられた、と言います。

「例えば歯科では、浸潤麻酔に使う塩酸リドカイン製剤には、麻酔を局所にとどめるために血管収縮剤としてエピネフリンが添加されています。エピネフリンには血圧を上昇させる働きがありますが、1ccに0.0125mgという極微量が含まれているに過ぎません。血圧上昇が見られたとしても、エピネフリンの影響よりは乱暴な浸麻による疼痛や心理的要因で内因性カテコラミンが増加していることも考慮すべきと思います。」

2.医科との連携

歯科医師の医科での研修については、市立札幌病院の事件を御記憶の方も多いでしょう。札幌市立札幌病院の元救急部長が、口腔外科の歯科医師を研修医として受け入れ、医師法違反に問われた事件です。一審の札幌地裁が罰金を言い渡し、歯科口腔外科や歯科麻酔科に大きな衝撃をもたらしました。歯科医師が患者の全身管理を学ぶのが目的で医師にまじって研修を受けることは、全国で広く行われています。歯科口腔外科や歯科麻酔科では、麻酔や救急の知識と経験が必要ですが、歯学部病院で歯科の患者だけをみていたのでは、実践的な知識や技術を学ぶことは難しいからです。判決はこのような必要性を認めながら、歯科口腔外科医は「無資格者」であるとして、医科の患者を診ることを違法とするものでした。

「色々な意見がありますし、軽々なことは言えません。しかし司法が実際の医療の中身をよく理解していない面が否めない気がします。法律で切り分けて、患者さんに本当に必要な人材の育成を妨げてしまっているのではないか、とも思えます。」

3.開業医として

森田歯科医院「ある大学病院には本当に尊敬できる先生がいらっしゃいました。日々寝る間も惜しんで勉強し、親知らずの抜歯一つでも『自分が呼ばれたのだから』と自ら手掛けられていました。その方を手本として地域医療に微力ながら貢献したいと思い、平成13年にせんげん台に森田歯科医院を開設しました。」

越谷の実家近くで物件を探し開業されたのですが、今度は開業医ならではの苦労に向き合うことになりました。

「大学病院は歴史や知名度ががあり、また患者さん自身の意識が高い方も多くいらっしゃいます。治療上一時的な苦痛があったり、時間がかかったとしても理解して下さいますし、理想に近い形で診療を進められます。しかし一般的には『とりあえず痛い所や気になる所だけ』という方もおられます。ニーズに合わせた治療を提供していくことも大切です。」

しかしながら、歯科医師としてはゆずれない所もあります。そのため森田歯科医院では出来るだけ患者さんに理解して頂くよう努力しています。例えば、印象や抜歯などの治療には、嚥下反射の強い方や恐怖心の強い方に対して、患者さんのリクエストに応じて笑気麻酔も使用し、治療時のストレスを軽減させ理解を得ようとしています。

「また注意深く根気よく観察すれば、例えば糖尿病や免疫疾患などの全身疾患の徴候を発見する良い窓口と認識し、患者さんとの信頼関係を築ける機会と考え、治療にあたっています。」

4.これから

森田歯科医院開業医としてはスタートしたばかりの森田先生ですが、これからの診療所経営についての展望を伺いました。

「長期的に患者さんの口腔をケアしていきたいですし、そのためにはは患者さん一人一人に合った治療方針を提案し、納得して頂いた上で治療を進めていく努力をしております。」

森田歯科医院では位相差顕微鏡により患者さん自ら口腔内の歯周病菌を見られる設備があります。取材時に記者も見せて頂いたのですが、歯周管理の重要性を訴える上で大きな説得力があります。

「最後になりますが、尊敬している先生や、御世話になった方々に恥ずかしい思いはさせたくないですね。それだけは胸に刻んでいます。」

大学病院から一般歯科へとフィールドを移されましたが、志高い先達の薫陶は受け継がれています。