歯科経営者に聴く ~第一線で活躍する院長から学ぶ~
医療法人社団 真心会 ふくおか歯科 福岡 真 理理事長
兵庫県加東市は2006年に加東郡の社町、滝野町、東条町が合併した誕生した市である。中国自動車道が通っているため、高速バスを利用して京都、大阪、神戸へとアクセスができ、神戸市の中心部である三宮までは57分で結んでいる。
1999年に開業したふくおか歯科は中国自動車道の滝野社インターチェンジから車で5分、JR加古川線の社駅からは車で10分の場所にある。開業以来、「患者さんには自分の家族にするような診療を提案すること」をモットーに、痛みを癒すだけでなく、生活の質を向上させる歯科医療を心がけている。
今月はふくおか歯科の福岡真理院長にお話を伺った。
医療法人社団 真心会 ふくおか歯科 福岡 真 理理事長
プロフィール
- 1968年 兵庫県 生まれ
- 1993年 朝日大学 卒業
- 1993年 国際ビル歯科 勤務
- 1997年 福田歯科 勤務
- 1999年 ふくおか歯科 開設
- 2012年 医療法人社団真心会 ふくおか歯科 開設
- 2016年 ママとこどものはいしゃさん 三木院 開設
開業に至るまで
歯科医師を目指されたきっかけはどのようなものだったのですか。
父親は地方公務員、母親は専業主婦という家庭で育ちました。私は小さい頃から手塚治虫の漫画が好きで、将来は漫画家になりたいと思っていたのです。高3の夏休みに手塚プロダクションに漫画の原稿を持ち込み、弟子入り志願をしたのですが、見事に断られましたね。漫画熱も急に冷めてしまいました。それで、将来の仕事をどうしようかと考えたとき、親戚の歯科医師が外車に乗っていたのを見て、私も歯科医師になろうと思いました(笑)。
学生時代に思い出に残っていることはありますか。
「よく学び、よく遊ぶ」を実践した大学時代でした。学費が高かったので、絶対に留年はできないと思い、前列に座って、講義に集中していました。講義中にポイントを押さえて、その場で覚えるようにしました。その分、週末には自由な時間を確保できますから、青春を謳歌していましたね。学生時代はお金がありませんでしたので、友達と食材を持ち込んで、頻繁に鍋パーティーをしていた記憶があります。
卒業後、勤務先を選ばれた理由をお聞かせください。
何も考えていなかったですね(笑)。都会にある親戚の歯科医院に勤めました。当時は自分の技術の向上のことしか考えられなかったので、目の前の患者さんのことで必死でした。大規模な歯科医院ゆえに、数人の先輩歯科医師や歯科技工士が在籍しており、様々な方から指導をいただけたのは良かったです。
新卒歯科医師が勤務先を決めるにあたってのアドバイス
保険診療と自由診療のバランスが良い歯科医院で勤務するのが良いですね。当法人のようなフィフティフィフティで、かつ患者さんの層の幅が広いところです。当法人では保険診療の技術の基本をマニュアルに沿って、指導医がじっくり教える環境があり、子どもさんや自分と近い年齢の患者さんから始めることで、医師としてのコミュニケーションスキルの向上も指導できるようになっています。
患者さんの層が広いということは歯科医師としての全ての治療内容を習得できるということになり、自費率が高いということはその中で自分の得意分野を見つけて、深く掘り下げながら探求できるということです。
レベルアップに応じて、1日に診る患者さんの数も徐々に増やしていきます。保険診療ではある程度の人数を、自由診療ではじっくり時間をかけて診療できるのです。自分でアポイントメントをデザインすることで、成功する歯科医院のスタイルを経験できます。
また、当法人のように院内ラボがあるところでは自分の形成が補綴になる過程が見えます。どのように形成したら調整が少なく装着できるか、歯科技工士が作りやすいかなど、細かなポイントを理解できます。
特にこれから主流となるCAD/CAM冠やセラミックを院内ラボで作製できる歯科医院で働くことは形成、接着、シェードテイキングなど、歯科医師に必須のスキルの理解力がアップすることは間違いありません。
最後に、その院長から、技術以外に歯科医師としての心構えが学べるかということです。勤務医を雇用できるような歯科医院を作った院長です。自院の勤務医の将来を自分のことのように真剣に考えてくれる院長との出会いは幸運なことではないでしょうか。
転職されたきっかけはどんなことでしたか。
最初に勤務した歯科医院はオフィス街にありましたので、患者さんはサラリーマンばかりだったのです。将来は実家のある田舎での開業を考えていましたから、次の職場は自分が開業するときのことを考え、子どもから高齢者までを診ることができるところを探しました。
勤務先で学ばれたのはどんなことですか。
開業を意識して働くとなると、技術以外の部分の重要性を痛感しましたね。技術があっても、患者さんがいらっしゃらない、流行らない、スタッフが動いてくれないということを知りました。
転職を考えている方にアドバイス。
当院の歯科医師になぜ当院に勤務したのか理由を尋ねると、「将来、開業するときに予防中心の歯科医院を作りたいから。地方において高いリコール率90%以上を誇る、当院の仕組みを学びたい」、「他院と差別化できる大きな武器である取り外し式小児矯正、ネオキャップ・ビムラー矯正が学べる」、「30代で1,000万円以上の年収が約束されているため、安定的に収入があり、安心だ。大型医療法人の勤務医でいた方が人生としては成功できる」、「設備が整っていて、多くの治療経験ができる。やりたいことができる」という答えに加え、「院長が好き」と言ってくれた人もいました(笑)。
どの歯科医師も遠方からわざわざ当院を選んで勤務してくれており、車で1時間以上かけて、毎日、通勤してくれている人もいます。転職を考えている方は将来のビジョンをお持ちでしたら、それに合致することが学べる歯科医院が良いでしょうし、具体的なことがなければ、それを探せる、つまり将来の提案ができる歯科医院が良いでしょう。
当法人は数年後には神戸市内に分院を開設する予定です。そこで、分院長として自分の開業に向けての経験を積むのもいいですし、法人としては分院をしっかり経営的に軌道に乗せますので、安定したら、そこを売却することも可能です。
開業希望の先生は開業に大きな不安はあるでしょう。また、患者さんが少なくなっている親御さんの古い歯科医院を継承する方は、新規開業よりも実は大変なのです。少しでも不安を取り除きたい方にはグループとしての「のれんわけ」を行い、経営的な戦略、仕組み、ツール類、コンサルタントを常に我々と共通して開業することも可能です。
開業しようと決断されたいきさつはどんなことだったのでしょう。
結婚したことと両親が老いてきたというタイミングです。二世帯住宅併用の歯科医院として、開業しました。私が開業した当時は歯科経営セミナーなどは全くありませんでしたし、実家を取り壊して開業しようと考えただけだったのです。しかし、徐々に拡大することになりましたので、当初の二世帯住宅は全てが歯科医院へと変貌しました。結果として、二度手間、三度手間がかかりましたから、今は歯科経営セミナーなどで講師をする際に、そういった経験を話しています。
開業にあたってはどんな苦労がありましたか。
資金調達です。開業前の年収が低かったので、希望通りの開業資金が借りられなかったのです。開業後はマーケティングやマネジメントの重要性を理解し、日々、本を読んで実践してきました。
開業にあたってのコンセプトとはどのようなものだったのですか。
予防歯科を中心にしながら、自費率の向上も目指すというものです。本院で作った仕組みを分院に導入し、分院でも予防中心ながら、自費率50%以上です。そして、マーケティングでよく言われるUSPを来院された患者さんに明確に伝えることにしています。USPとはUnique Selling Proposition、独自の売りの提案のことですね。その結果、患者さんからの高い支持をいただけるようになりました。私どもの法人が目標としている、「誰でも、どの地域でも繁盛する歯科医院になる」という仕組みが実証できそうです。経営感覚は後天的なものですし、日々の実践をじっくり行うことによって得られるものですね。まず何から取り組むのかを明確にすれば、成長するスピードも速くなるのではないでしょうか。
経営理念
経営理念をお聞かせください。
「患者さんには自分の家族にするような診療を提案すること」をモットーにしています。患者さんもそのことを十分理解され、多くの人が自費治療を希望されています。「職場とは仕事を通じて人間的に成長する場所である」との考えのもと、スタッフ皆がお互いを理解し合い、助け合う風土ができていることを嬉しく思います。医療を行っていても、やはり経営ですので、収益を上げて社員に還元することが重要です。理念に基づいて仕事をすることで、社員に時間的余裕と経済的余裕を持ってもらうことを目的としています。
診療方針
診療方針をお聞かせください。
日本は将来的に健康長寿国になることが予想されています。元気な高齢者が多くなってくるということです。健康な老人に対して、歯科がどう関わっていくのかを考えることが自費率の高い歯科医院、リコール率の高い歯科医院になるうえではポイントになるでしょう。
自費と保険の割合について、お聞かせください。
当院は多彩な仕組みを用いて、自費率60%、リコール率95%です。完全週休二日制で、夕方6時までの診療ですが、収益を上げ続けています。予防歯科のメンテナンスは保険では認められていませんので、自費でのメンテナンスを導入できる仕組みがあることが重要です。
増患対策
どのような増患対策を行っていらっしゃいますか。
集患では子どもの患者さんが来院することによって、子どものお母さんやご家族が来院する仕組みが大切ですね。私どもには予防意識の高い方や自費治療を希望される方が来院される仕組みもあります。少子高齢化の時代ですが、小児矯正を取り入れることが歯科経営を安定させるポイントであることがようやく理解されるようになってきました。そのため、開業前に小児矯正を学びたいという歯科医師が増えてきましたし、私どもにも小児矯正を学ぶ目的で勤務している歯科医師がいますよ。
私どもでは「ネオキャップ・ビムラー矯正」を取り入れています。これは子どもが寝るときのみ装着するものですから、術者の手間もかかりませんし、あらゆる症例に対応できる、素晴らしい治療です。なぜ一般的に知られていないかというと、商圏保護のため、この勉強会を受講できる人は各県に数人と限定されているからです。勉強会の受講者は床矯正で綺麗な顔貌が得られない、うまく治らない、手間がかかるといった悩みを持った方が多いですね。私はこの勉強会の西日本の担当インストラクターで、西日本最大の症例数を持っています。私どもの勤務医は優先的に受講ができますし、開業後もこの治療が認められますので、見学にいらっしゃる先生方は導入したいと口々におっしゃいますね。
スタッフ教育
勤務医の教育について、お聞かせください。
新卒者には一から学べる治療マニュアルがあり、OJTで指導医が優しくレクチャーしています。インプラントから矯正歯科に至るまで、診療もしっかり学べ、セミナー参加も奨励していますし、セミナー費も全額を支給しています。グループ歯科医院もありますので、年に数回、合同講習を開催して、大勢の歯科医師やスタッフの交流を図り、お互いに向上できるシステムを作っています。
開業にあたっての勉強もできます。小規模から大規模までの歯科医院運営を経験できますし、マーケティングやマネジメント、資金調達の方法まで指導しています。
開業リスクを負いたくない人には院長、分院長として勤務していただき、高収入を安定的に得たうえで、将来の資産形成の方法まで助言しています。
今後の展開
今後の展開について、お聞かせください。
「ママとこどものはいしゃさん」という歯科医院ブランドの展開を行っていこうと考えています。現在、この名称を用いた歯科医院が4軒あり、全てが経営的に成功を収めています。既存の歯科医院や分院展開で「ママとこどものはいしゃさん」という名称を看板として用い、グループで培った仕組みを取り入れることで、都会や地方に関わらず、幅広い年齢層にアピールするなど、高い集客力、自費率、リコール率が可能になります。現在は私どもの法人を卒業後に開業する歯科医師、ご縁があり、一定基準を満たしている歯科医院に使用を認めていますが、経営感覚の鋭い歯科医院さんからのオファーが入りましたので、一般的な展開も検討中です。
開業に向けてのアドバイス
開業に向けてのアドバイスをお願いします。
開業は誰でもできますし、審美歯科やインプラントも含め、一般的な技術を学ぶなら、どこでも大差はありません。しかし、この激戦の時代に開業して存続するには経営感覚を養えるところで学ぶことも必要です。歯科保険点数は在宅医療を中心に配分されることに決定しましたし、その点数も将来は削減されることが予想されます。DMFTも1本以下になりました。健康寿命も長くなってくることでしょう。そのような背景も踏まえて、将来の歯科医院の収益構造を考えた診療方針を立てないと 忙しいだけで儲からない開業人生になるかもしれません。
プライベート
プライベートの時間はどんなことをして過ごしていらっしゃいますか。
山登りや自転車に乗って汗を流したあと、仲間とともに楽しく語らい、飲むことが一番のストレス発散になっています。
求職者に対して一言。
地方でも開業ラッシュが続いていますが、1日の患者数が15人に満たないところが多いと聞きます。そのぐらいの患者数ですと、歯科衛生士を採用し、給料を支払うと、自分の生活費が減ってしまいますから、歯科助手に歯科衛生士業務をさせるところも少なくありません。誰でも開業はできますが、現在の歯科業界では開業する人が全員普通に経営出来る訳ではありません。しかし、どんな人生を送りたいかということに開業が合致するのなら、する方が良いでしょう。開業志望の方には繁盛医院の開設法などお伝えさせて頂きます。又、収入面だけを考えると、厚生年金のある大型法人の勤務医でいる方が年収はずっと良いということも現実ではあります。歯科医としての人生を歩む上でどこで学ぶかということが重要だと思います。是非、当法人に見学に来ていただき、一緒に語り合いましょう。