歯科経営者に聴く - 那須歯科医院 那須一仁理事長

歯科経営者に聴く ~第一線で活躍する院長から学ぶ~

医療法人社団 三仁会 那須歯科医院 那須 一仁 理事長

加茂歯科クリニック 外観

東京都足立区梅田は足立区の中部に広がる住宅街であり、南側は荒川を挟んで千住地域と接している。東武伊勢崎線(東武スカイツリーライン)の梅島駅からは賑やかな商店街が伸び、行政機関が集まるエル・ソフィアも位置するなど、足立区の中心地となっている。
那 須歯科医院は東武スカイツリーライン梅島駅から徒歩7分、西新井駅から徒歩10分の場所に2010年に開業した歯科医院である。開業以来、地域密着治療、 無痛治療、短期治療を念頭に置き、患者さんから「怖くなかった」、「来てよかった」と思っていただけるような歯科医院作りを心がけている。2014年10 月には足立区保木間に分院であるなすデンタルクリニックを開院し、より地域密着に密着できる体制になった。今月は那須歯科医院の那須一仁院長にお話を伺っ た。

むこうはら歯科医院 向原 正 院長

医療法人社団 三仁会 那須歯科医院 那須 一仁 理事長

プロフィール

  • 1977年 岩手県 生まれ
  • 2005年 明海大学 卒業
  • 2005年 すみれ歯科医院 勤務
  • (休日ははまわき歯科医院、さかい歯科医院にも勤務)
  • 2010年 那須歯科医院 開設
  •  
  • 【学会 他】
  • 福岡県立大学非常勤講師(~2011)
  • スタディグループ飛翔会
  • 審美歯科学会
  • 飯塚歯科医師会理事

開業に至るまで

歯科医師を目指されたきっかけはどのようなものだったのですか。

小学生のときにドラマなどの影響で、医師になりたいと漠然と思ったことがきっかけです。それ以来、自分なりに医学部を目指して頑張ったのですが、結果とし て2浪してしまいました。その2浪目に歯学部に受かったので、歯学部に進学したのです。私は人のためになら努力できるのですが、自分とうまく向き合うこと が苦手で、歯学部での勉強は最初はあまり本気になれなかったですし、技術もうまくならなかったですね。

学生時代に思い出に残っていることはありますか。

サークルには入らず、友達の家に行って一緒に食事をしたり、ドライブに行ったり、遊んだりの日々でした。なぜか、皆で歌を作ったりもしていました(笑)。

アルバイトはなさいましたか。

アルバイトは引っ越し屋、居酒屋などでもしましたが、思い出に強く残っているのは塾講師のアルバイトです。大学の近くの坂戸市にあった塾で英語と数学を教 えていたのですが、生徒さんが集まってきたのです。それで、東松山市の教室からもお声がかかり、理科や国語や社会まで教えるようになっていました。こちら が分かっていることを分かっていない人に対して、分かりやすく伝えるという経験は今も役に立っています。

卒業後、勤務先を選ばれた理由をお聞かせください。

卒業する頃、私は手が動かないこと、患者さんとうまく話せないことは分かっていたので、卑屈になっていたのです。患者さんのために何の力にもなれないと 思ってしまっていました。既に結婚をしていたのですが、歯科医師としては妻の方が先輩ですし、自信を持てないでいました。そんなときに、たまたまご紹介が あり、春日部市のすみれ歯科医院に面接に行ったのです。そうしたら、院長先生が私を一人の歯科医師として接してくださったのですね。院長先生の姿勢がとて も有り難く、私はこの人のために頑張りたい、この歯科医院を盛り上げていきたいと思いました。それ以来、猛勉強と猛練習をしたのです。

勤務先で学ばれたのはどんなことですか。

歯科医療についての知識や技術はもちろんですが、歯科医師としての姿勢についてなど、深く学ばされました。当時の私を雇ってくださった恩義もありましたが、歯科医院自体の居心地が良く、楽しんで勤務していました。
「地域で一番になる」、「地域のシンボルである」とはよく聞く言葉ですが、そのような目標ではなく、一人一人の患者さんに丁寧に接して、最終的に街の一員に加えてもらうというあり方を勤務医時代に学んだと思っています。

はまわき歯科医院やさかい歯科医院で非常勤勤務をなさったのはなぜですか。

すみれ歯科医院での経験は私にとっては非常にためになるものでしたが、私の知識や技術がほかの歯科医院で通用するのかどうか、分からなかったのです。それで、休みの日を使って、ほかの歯科医院に勉強しに行くことにしました。
は まわき歯科医院の浜脇院長は憧れの先生であり、開業後は開業医として肩を並べてみたい存在です。一方で、さかい歯科医院で大(おお)先生と呼ばれている酒 井院長は70歳を超えていらっしゃいますが、岩槻に住む方々が「何かあったら、迷わず大先生」とおっしゃるような方でした。

開業しようと決断されたいきさつはどんなことだったのでしょう。

1週間で3軒の歯科医院で働く中で、私を指名してくださる患者さんが増えてきて、開業しても大丈夫なのではないかと考えるようになりました。はまわき歯科 医院のような歯科医院を作って、同じ土俵に立ってみたくなったのですね。すみれ歯科医院の院長には申し訳ない気持ちが強かったのですが、快く送り出してく ださいました。
また、当時は子どもが小さかったのに、一緒にいられる時間がなかったのです。毎日、車で保育園に送っていっていたのですが、最後の曲がり角でいつも子どもが泣くのを見て、子どもともう少し長く一緒にいたいと思ったことも開業の理由の一つです。

開業地はどのように選ばれたのですか。

スーパーマーケットの中の歯科医院で働いた経験もあるのですが、私としては患者さんと長くお付き合いしていくスタイルの方が自分に合っていると思っていた ので、住宅街での開業を希望しました。場所や沿線にはこだわりがなかったですね。この場所は業者さんが居抜き物件ということで見つけてくれました。

開業地の第一印象はいかがでしたか。

前も歯科医院だったのですが、院長先生がご高齢で、ほぼリタイアなさっている状態だったのです。待合室に灰皿のスタンドが置いてありましたし、昭和な雰囲気の歯科医院だというのが第一印象でしたね(笑)。
ただ、新しいマンションが次々にできて、人口が増えている地域であること、それも若い世代が増えているということで、期待が持てそうでした。

設計、レイアウトの工夫などをお聞かせください。

チェアは2台ありましたが、撤去して、新しいチェアを3台ほど設置しました。また、院内になぜか和室があったのです(笑)。それを個室に改装してチェアを 1台、置きました。レントゲンは部屋はそのままですが、線量を計ってもらったうえで設置し直しました。あとは壁や床の張り替えを行った程度ですね。

開業にあたってはどんな苦労がありましたか。

居抜き物件での開業ですので、周囲へのインパクトがなかったため、自分の色を出しきれないことに苦労しました。新規に開業したことの認知がなかなか広まっ ていかなかったのです。しかし、年配の院長先生がなさっていた歯科医院ですから、患者さんも高齢の方々が多く、最初はとても助けられましたね。私は入れ歯 治療も好きでしたし、勤務医時代にも頑張っていた甲斐がありました。

開業にあたってのコンセプトとはどのようなものだったのですか。

何かに特化した歯科医院ではなく、子どもから高齢者までを対象にしたファミリーデンティストでありたいというものです。住宅地での開業にこだわったのも、このコンセプトがあったからですね。また、なるべくコストをかけずに開業したいということも考えていました。

経営理念

経営理念をお聞かせください。

人と人との繋がりを大事にして、患者さんとの繋がりを持っていたいですね。そのうえで、私どもの歯科医院が岩槻のさかい歯科医院のように「街の一部」になれればと願っています。

診療方針

診療方針をお聞かせください。

よく「患者さんを自分の親だと思って、診察しなさい」と聞きますが、私は親に対しては「うるさいな」などと言ってしまうので、患者さんに向かって、自分の 親に話すような話し方をしてしまっては失礼です(笑)。したがって、私は「患者さんを友達の親だと思って」、診察しています。友達の親御さんだと、リスペ クトの気持ちが自然と芽生えますね。
しかし、どんなにいい人間関係を作ったとしても、診断を間違えたり、治療が荒くなれば、その人間関係は壊れてしまいます。早くて正確な診断と治療は必須ですね。私どもでは口腔外科の医師と連携を取り、治療方針の確認などを常に行っています。 また、インプラントなどの医療機器メーカーであるケンテックの林靖社長とはいいお付き合いをさせていただいており、症例を送り合って検討をしています。林社長からは「技に溺れるな」という指摘をいただいていますが、有り難いですね。

患者さんの層はいかがですか。

近隣に新しいマンションが増えていますので、子どもの患者さんが多いですが、それでも2割ぐらいでしょうか。高齢の方も2割ぐらいですので、少ないですね。圧倒的に多いのが30代から40代の方々ですので、患者さんの年齢層としては非常に若いと言えるでしょう。

自費と保険の割合について、お聞かせください。

自費が3で、保険が7です。開業当初は患者さん自体が少なかったので、さらに自費は少なめでした。私は勤務医時代に自費の患者さんも多く経験してきました し、私どもでも自費を増やしていくことはできますが、このぐらいで安定させていきたいです。理由は私どもに長く通っていただきたいからに尽きますね。患者 さんには「もし、これで割れてしまったら、次はインプラントにしましょうね」という勧め方をしています。

分院を展開されましたね。

スタッフが20人ぐらいになってきて、シフト制にしているのですが、スタッフから「明日は出ません」と言われたのです。スタッフに気を遣われていることが 分かり、大きなショックを受けました。そこで、スタッフが働ける場所を作ろうと、本院と同じ足立区内に分院を開設することにしたのです。

分院の場所はどのように決められたのですか。

私が散歩中に見つけました(笑)。場所はつくばエクスプレスの六町駅と東武スカイツリーラインの竹ノ塚駅の間あたりですが、どちらの駅からも歩くとかなり かかります。でも、公園やスーパーマーケットが近くにあり、道路も広くて、ワクワクする場所なんです。本院は戸建てですが、分院はビルのテナントで、日頃 は妻が中心になって運営しています。

増患対策

どのような増患対策を行っていらっしゃいますか。

ホームページと電柱広告を行っています。電柱広告は道案内を兼ねて、3、4本程度ですね。私どもの裏手は区画整理が行われて、新しい道路ができたばかりなのです、そのため、道案内が必要でしたので、電柱広告は有効でした。しかし、増患対策としては丁寧な治療が一番です。一人の治療を気持ちよく終えることができれば、次は家族で来てくださると信じています。

スタッフ教育

スタッフ教育について、お聞かせください。

1年目の歯科医師には私自身の経験を踏まえ、卑屈にならないようにと、声をかけています。最初は誰でも手が動かないものです。私も模型で練習を重ねました が、模型でも十分でないのに患者さんの口の中を触ることに抵抗があったのです。でも、実際に手を動かさないことには上達しませんので、そこをいかにフォ ローしていくかですね。
経験のある歯科医師にはこれまで教わってきたことに肉付けできたらと思っています。私よりも経験のある歯科医師に習ってき ているはずですから、いいところを必ず吸収しているのですね。ですから、私が「こうしろ」という形にはめてしまうことがないように気をつけています。私自 身も勤務医時代に学んだことが大きいですから、彼らが教わってきたことを最大限に尊重しています。
そして、私どもを辞めてすぐに開業しなくてもいいと伝えています。私どもで歯科医師として大切なことを掴んだら、有名な歯科医師のもとで勉強して、そのうえで開業するという流れを勧めていますね。

歯科衛生士への教育はどのようになさっていますか。

歯科衛生士は歯科医師のパートナーです。私どもの歯科衛生士はベテランが多く、仕事に関してはほとんど任せていますね。私どもは開業して5年経ちましたの で、これからは予防に力を入れていきたいと思っています。今年の春に歯科衛生士学校を卒業するスタッフが2人、入職しますので、楽しみです。これまでは私 どもで歯科助手として働きながら、歯科衛生士学校に通っていた人たちですので、私も頑張らないといけないですね。

歯科助手への教育についてはいかがでしょう。

歯科助手には学生のアルバイトもいますので、今後、ほかの仕事をするかもしれません。彼女たちには歯科医療業界を嫌いにならないでほしいと思っています。私からは何かあったときに、「それは社会に出たときに通じないよ」と話すぐらいですね。常にコミュニケーションを取っていますので、特に朝礼やミーティングなどの時間は設けていません。

今後の展開

今後の展開をお聞かせください。

優秀なスタッフが歯科衛生士として帰ってきますので、彼女たちが働ける場所であり、勉強できる場所として、本院の隣接地に「予防ルーム」を新設します。今後は歯科衛生士により活躍してもらえる歯科医院でありたいですね。

開業に向けてのアドバイス

開業に向けてのアドバイスをお願いします。

開業する場所として、最初にすべき選択は駅前か住宅地かショッピングセンターかです。それを決めたら、そこに合った歯科医院に勤務しましょう。スーパー マーケットの中の歯科医院しか経験のない歯科医師が住宅街で開業するとなると、様々なギャップに苦しみます。自分の目指す開業を既に行っている歯科医院で 修行するのが早道だと思います。
それから、勤務医時代はあまり我が強くない方がいいですね。私自身は影響を受けた歯科医師が7人おり、7人のいい ところを吸収したつもりです。この7人にはなかなか勝てませんが、我が強過ぎたら、いいところを吸収できなかった気がします。はじめは「この先生の熱心な ところがいい」ぐらいからでいいので、色々な先輩歯科医師の「いいところ」を見つけてほしいですね。

プライベート

プライベートの時間はどんなことをして過ごしていらっしゃいますか。

開業した頃は小さかった子どもたちも今は2人とも小学生になり、手がかからなくなってきました。休みの日は声をかけるぐらいで、一緒に遊ぶことは少ないですね。診療終了後は散歩することが好きです。ぶつぶつ言いながら、散歩していますよ(笑)。

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