歯科経営者に聴く ~第一線で活躍する院長から学ぶ~
歯科経営番外編/三年目女医さんの転職体験記!
変化と流動性の時代にあって、終身雇用制の崩壊が言われて久しいです。企業が様々な雇用形態を通じて合理化を図る一方、就労者も上手に転職しながらステップアップを目指すのが珍しくなくなっています。転職活動のスタイルも、人脈を通じた紹介や従来の就職活動によるだけでなく、求人情報誌等や紹介・派遣コンサルティングの活用など、多様化しています。
歯科医療は文字通り「手に職」の世界であり、ポータブルスキルの獲得を重視した職場選びは、今に始まったことではありません。
一方で、就職先探しの方法となると、人脈に頼ったものが大勢を占める、という旧態然とした側面もあります。インターネット求人もすっかり普通になった一般社会と異なり、仕事探しのチャンネルがやや限られている傾向は否めません。
そんな中、若いドクターや衛生士さんには、コネに頼らずより幅広く自由な求職活動をされる方が増えてきています。
今回の「歯科経営」は、番外編として、あるドクターの転職体験記をお届けします。
1.理想と違いすぎた就職
都内オフィスビル診療所に勤める女医Aさん(仮名)。卒後三年目の歯科医師ですが、二度の転職を体験されています。
父が歯科医師という環境で育った彼女は、迷いはあったものの「手に職をつけよう」という思いから私立歯科大学に進学。特に根管治療に関心を持ったといいます。
「子供の頃、家が歯医者にも関わらず別の医院に治療に行ったのですよ。でもそこの治療がずさんなもので、それ以来『根治は大事』という思いが刷り込まれました。体感で学んだことは忘れないものです。『自分が治療する時は絶対気をつけよう』と思うようになりました。」
また、「コミュニケーションをきちんと取れる歯科医師になろう」という志も持っていました。
「受けた治療に問題があったせいか、歯科医師の娘なのに『歯医者は怖い』という感覚がありました。患者さんを怖がらせないためには、技術はもちろんですが、メンタルな部分も大切だと思います。そのためにはやはり、きちんとした治療内容の説明とコミュニケーションが必要でしょう。
学生時代は接客のアルバイトも多く、コミュニケーション能力を磨くきっかけになりました。学生の中には、環境のせいか、横柄な態度で挨拶すらキチンとできない人がいましたが、わたしはそんな歯科医師にはなりたくありませんでした」
そんな夢を抱いて、卒後最初の歯科医院に就職しました。週4日の非常勤扱い、新卒で日給1万5千円、半年後から2万というのは悪い条件ではありません。しかし待っていたのは、予想を大きく裏切る現実でした。
「知り合いの方からの紹介で決めたところが、一日70人を二人で診る医院でした。とにかく患者さんをさばくだけで、担当医制もありません。やや地方の立地条件のせいか、患者さんのデンタルIQも高いとは言えず、それを高めようという指導もありません。 院長先生はとても人の良い方なのですが、それが裏目に出てキャンセルも多く、治療計画もしっかり立てられません。もちろん自費などほとんどなく、メタルボンドなど一年で二本くらいでした。 もちろん、そういった医院にも大切な役割があります。たくさんの患者さんがお見えになるわけですから、社会にも貢献していますし、また新卒なのにとにかくやらせて頂けた、ということに感謝もしています。ですが正直、自分の目指す歯科医療とは違いすぎました。」
新しい勉強の場を求め、転職活動を始めました。
2.最初の転職活動
大学時代に部活動等をしておらず、あまり人脈のなかった先生は、歯科専門誌やインターネットの情報も活用して勤め先を探したといいます。
「知り合いの紹介で一件見学に行ったのですが、欠員が出るかどうかわからない状態で、二ヶ月待って諦めました。ただ待っていても不安になるので、インターネットであちこちにアクセスしました。何件か面接を受け、最終的にネットに広告を出していた医院に決まりました。」
再就職先は、最初の医院とは正反対のスタイルでした。都内オフィスビルの診療所は、完全担当医制。ドクター一人に歯科衛生士二人がつく体制で、自費診療の割合も多かったといいます。30万円プラス歩合、保険完備、完全週休二日制という条件も魅力的でした。
「社会的にも、デンタルIQという意味でも、レベルの高い患者さんが多かったですね。治療内容もネットなどで調べていて、よくご存知です。ホワイトニング等のニーズも大きく、審美歯科に関心を持つようになりました。矯正を望む患者さんも少なくなく、専門医に紹介する形でした。」
ですが、やはり良いことばかりではありません。現場の士気は高かったものの、経営者の方針との間には大きなギャップがありました。不正助長ともとられかねない売上至上・商業主義的なやり方、さらに公私混同のようなスタッフと患者さん間での「お付き合い」もあり、風紀が乱れている面もあったそうです。
「現場のトップにいるスタッフがしっかりせず、規律がなさすぎるように思えました。衛生士さんの定着率も悪かったですね。」
診療内容自体は悪くなく、迷いもありました。すぐに辞めてしまうのでは忍耐がなさすぎる、という思いもありました。
ただ、学ぶべきものを学んだ以上、納得のいかない環境にいつまでも拘泥する必要はありません。思い切って新天地を目指す決意をしました。
「今でも先生方に良くして頂いている為、もうちょっと頑張れたかも、という気持ちはありますし、転職暦が多すぎるのは就職活動でも不利でしょう。ですが、煮え切らない気持ちのまま診療を続けるよりは、前向きにステップアップしていこう、と思いました。」
予想外にすんなりと後任が決まったせいで、予定より早く退職することになりました。この時点では、まだ次の勤め先が決まっていませんでした。」
3.紹介を使った転職活動
「広告に応募して内定をもらっていた医院があったのですが、見学してみて辞退することにしました。その医院では『ベテラン』といわれる歯科医師が、セラミックインレーについて『よく割れてしまうんだよね』と悪びれもせず言うのですが、三年目のわたしが見ても『その形成ではうまくいかない』というものでした。」
二件目の医院を探したときよりは、どこも好待遇を提示してくれました。都心医院での経験が買われたのです。一方で、より高みを目指しての転職活動である以上、妥協もしたくありませんでした。広告を参考に20件以上見学に行きましたが、なかなか決定には至りませんでした。細かい条件が折り合わないこともありましたが、情報不足から無駄足を踏むこともありました。
「数行だけの簡単な広告ですと、実際に行ってみると予想と違うことが少なくありません。仕事を探す立場としては、情報量が多いほうが安心しますし、遠回りせずに済みます。スタッフ数、ユニット数などの基本情報に加えて、コメントが詳しく書いてあると、かなり安心感があります。 見学してみたら器具がホコリをかぶっているような医院もありました。院内写真を堂々と載せている医院の方が、信頼できると思います」
また、分院展開されている法人の広告に、疑いを持つこともあったといいます。
「都内の医院だと思って行ったら、千葉の分院勤務だったことがあります。初めから明記してもらえれば、求職者にもわかりやすく、お互いに時間を無駄にしないで済むと思うのですけどね。」
なかなか就職先が決まらず、焦りも生まれてきました。ご両親には退職を内緒にしていたこともあり、貯えも不安でした。そこで専門誌でみかけた紹介会社にコンタクトをとってみることにしました。
「いくつかの会社に電話して、面談してもらいました。リンクスタッフは以前からネットでe-dentistを知っていたので、安心感がありましたね。」
こだわりが多かったせいか、登録してもすぐには仕事がありませんでした。それでも情報があると連絡があり、支えになったといいます。
「リンクスタッフが良かったのは、担当者の方がとても気にかけてくれたことですね。紹介会社さんは一般に、医院にばかり下手に出る傾向がある気がします。わたしの担当になってくれた方は、どちらにもハッキリした態度で接してくれ、便りになりました。こちらからオファーを断ったときもあったのですが、その時のフォローもしっかりしていて、助かりました。他と比べた時に、パワーが全然違いました。」
医院について気になることがあっても、求職者の立場としては聞きづらいこともあります。そんな時も、間に紹介が入ることで、潤滑剤になってくれたそうです。
最終的に、都内ビル診療所の現在の医院に再就職が決まりました。「今の院長先生は院内もしっかり整えてくれて下さり、頼りになります。ドクターも優秀な方ばかりで、ディスカッションするのも知識不足で恥ずかしいような時があります。研修会出席も『どんどん行きなさい』とサポートしてくれますし、毎日適切なアドバイスが頂けて、とても充実した生活です。 今まで長続きしなかった負い目もありますから、しっかり腰を落ち着けて頑張っていきたいです。今、一番関心のある分野は審美・咬合なので、積極的に学んでいきたいです。」
最後に、転職を考えているドクター・衛生士さんにメッセージを頂きました。
「知り合いのつてで決めるのも悪くないでしょうが、人脈のない人は紹介を利用するのも一つの方法だと思います。相談することで初めて見えてくるものもありますし、一人で行動するより無駄な動きが減らせます。もっと早く相談していればよかった、と思っています。
それから、当たり前ですが、辞める前から動かないとだめですね(笑)。早めに行動して下さい。」しっかりとした技術を身につけた上で、しがらみにとらわれずに自分のカラーを出していきたい、と目を輝かせて語られます。ゆくゆくは開業も目指したいそうです。
これからが楽しみな先生です。