歯科経営者に聴く ~第一線で活躍する院長から学ぶ~
加茂歯科クリニック 加茂 謙作 院長
さいたま市中央区鈴谷は旧与野市内の中心市街地であったが、1985年にJR埼京線が開通し、南与野駅が開業したことでさらに活気が出たエリアである。2007年には南与野駅と鈴谷西公園が連接した形で交通ロータリーが設置され、路線バスの駅前乗り入れが実現し、駅へのアクセスが容易になった。
加茂歯科クリニックはJR南与野駅から徒歩3分の場所に2006年に開業した歯科クリニックである。「患者さんを家族と思って治療する」という方針のもと、訪問診療にも力を入れている。
今月は加茂歯科クリニックの加茂謙作院長にお話を伺った。
加茂歯科クリニック 加茂 謙作 院長
プロフィール
- 1974年 東京都生まれ
- 1997年 昭和大学卒業
- 1999年~2000年 足立区開業医勤務
- 2001年~2005年 さいたま市岩槻区で分院長勤務
- 2006年 加茂歯科クリニック 開設
開業に至るまで
歯科医師を目指されたきっかけはどのようなものだったのですか。
私は小さい頃から歯科医院に行くのが怖く、特に歯科医師やスタッフの白衣に恐怖を感じていました。あるとき、あまりの怖さに診療台で暴れ、口角を切られたことがあったのです。そうしたら「暴れる方が悪い」と怒られてしまい、すっかり歯科医院が嫌いになってしまいました。そうした経験から、子どもに優しい歯科医師になりたい、誰もが怖い思いをすることなく通院したくなるような歯科医師を目指そうと思うようになりました。
学生時代に思い出に残っていることはありますか。
大学入学までずっと東京で育ち、東京都内の大学に進学しました。東京以外の世界を知らなかったわけですが、大学には全国から同級生が集まるので、最初のうちは同級生が話す関西弁などの方言がとても新鮮でしたね(笑)。大学時代は同級生と集まっては遊んだり、その時代ならではの楽しい日々でした。勉強もそれなりに頑張っていました。
卒業後、勤務先を選ばれた理由をお聞かせください。
将来に備えて幅広く学んでおきたかったので、高度治療から訪問診療までをバランス良く取り組んでいる歯科医院で修行することを考えていました。そこで、友人の紹介がきっかけで面接に伺った歯科医院に就職したのです。東京都内の一般開業医で、当時から訪問診療を積極的に行っておられた歯科医院でした。
勤務先で学ばれたのはどんなことですか。
一般診療の基礎から矯正歯科やインプラントまで、さらに訪問診療も学びました。この歯科医院に勤務したのは1年あまりですが、「患者さんを家族と思って診療する」という姿勢を強く学びました。この教えは開業後の今でも大切にしていますし、私どものスタッフにも折々に伝えています。
分院長も経験されたのですね。
さいたま市内の歯科医院に転職し、分院長をさせていただくことになったのです。 分院長を経験したことで、自分一人で治療を行う大変さや責任を感じたのはもち ろん、器具や材料の発注、スタッフ教育など、治療だけでなく、経営面に関しても 考えさせられるようになりました。
また、訪問治療にも積極的に取り組みました。高齢者の方々は人生の大先輩でいらっしゃいます。そんな方々に対しては患者さんと思うのではなく、人間として接するようにしました。皆さんから色々なお話を伺い、私も人として学ばされることが多かったですね。歯科治療にも喜んでいただきましたが、それ以上に私の方が勉強させていただいたという気持ちで一杯です。
開業しようと決断されたいきさつはどんなことだったのでしょう。
その分院はさいたま市内でしたが、どちらかと言うと郊外でしたので、もう少し都心部で、より多くの患者さんにいい治療をご提供したいと思ったからです。そして、訪問診療の規模も拡大したいと考えていました。
開業地はどのように選ばれたのですか。
開業コンサルタントの方と一緒に探しました。特にエリアですとか、路線ですとか、 駅前といった条件へのこだわりはありませんでしたね。いい場所だと思えれば決 定するつもりでした。
第一印象はとても良かったですよ。JR南与野駅から徒歩3分の場所ですし、南与 野は大宮に出やすいですしね。角地であることと、横断歩道の前ですから足を止 めていただけそうな点も良かったです(笑)。バス停もすぐ近くにあります。埼玉大 学が近隣にあるおかげで、当院の前の埼大通りを通るバス路線は多く、JR京浜東北線の北浦和駅、JR武蔵野線の北朝霞駅、東武東上線の志木駅などからのアクセスにも恵まれています。
開業にあたってのコンセプトとはどのようなものだったのですか。
大学卒業後に最初に勤務した歯科医院の院長が今でも師匠なのですが、そこで学んだのは幅広い診療スタイルを持つということと地域に根ざすということでした。開業にあたっても、この2点がコンセプトですね。
設計、レイアウトの工夫などをお聞かせください。
チェアは3台で、今も変わっていません。レイアウトには特にこだわっていませんが、色調は工夫しています。待合室や診察室は白を基調にして清潔感を出しました。また、レントゲン室には壁全体を雲のイラストで埋め尽くしています。レントゲン室に一人で入ると圧迫感がありますから、明るいイラストで和んでいただこうと考えました。
経営理念
経営理念をお聞かせください。
地域密着型の経営を行うことが理念です。患者さんが気楽にいらっしゃって、気軽に質問や相談ができるような雰囲気のある歯科医院でありたいと願っています。お子様から高齢者の方まで「治療に来て良かった」と思っていただけるような歯科医院を目指しています。
診療方針
診療方針をお聞かせください。
家族単位でご来院いただき、幅広い内容をカバーできる歯科医院でありたいです。的確なメンテナンスを行ったうえでの予防歯科にも力を入れています。痛みがなくても通っていただき、悪くならないうちに早期発見することに努めています。歯周病治療では、歯周病精密検査を行い、患者さんごとに合わせたブラッシングアドバイス、徹底した歯石除去をさせていただいています。 そして歯茎の改善具合などをチェックしながら、しっかり治療をしています。また、審美歯科、口腔外科、矯正歯科なども行っています。
デジタルパノラマレントゲンを導入して、撮影時の被曝量を軽減させたり、口腔外バキュームの設置で、診察室を常にクリーンな状態に保つことも心がけています。滅菌システムは大学病院基準となっています。
患者さんの層はいかがですか。
子どもさんから高齢の方まで万遍なく来院していただいています。訪問診療は高齢者が中心にはなりますが、歯科医院全体とすればバランスのいい構成ですね。 子どもさんの治療ではネットで身体を固定することはありません。「どうすれば怖くないのか」といつも考えていますし、怖がらせず、楽しい治療を提供しています。
増患対策
どのような増患対策を行っていらっしゃいますか。
ホームページのほかは南与野駅のホームに看板を出しています。また、自治会報などの小さな広告スペースにも出稿しています。来院動機は口コミが多いですね。最近は少しずつホームページからの患者さんがいらっしゃるようになってきました。
訪問診療の増患対策はどのようになさっているのですか。
私どもも開業後3年は苦しい状態が続きましたが、粘り強く開拓していきました。以前、分院長をしていたときに知り合いになったケアマネージャーや施設の施設長の方などからのご紹介もあり、徐々に認知していただくようになっていきました。
スタッフ教育
スタッフ教育について、お聞かせください。
歯科医師、歯科衛生士、歯科助手に共通して言っていることは「患者さん一人一人を自分の家族や親戚だと思って、常に慎重かつ丁寧に接するように」ということです。 歯科医師への教育はまずは私の診療を見て、学んでもらいます。そして質問を受けながら、技術を伝えています。最近、歯科医師のための勉強会を立ち上げましたので、この会に参加してもらって、一緒に取り組んでいます。院外研修にも積極的に参加を勧めています。
歯科衛生士、歯科助手への教育はいかがですか。
訪問診療を中心とした分院を展開することを構想中で、場所を探しているところです。分院展開にあたっては法人化が必要ですので、その準備にも追われています。本院についてはこのままの状態で、今後もより一層地域の皆様のお役に立っていきたいと思っています。
今後の展開
今後の展開について、お聞かせください。
訪問診療を中心とした分院を展開することを構想中で、場所を探しているところです。分院展開にあたっては法人化が必要ですので、その準備にも追われています。本院についてはこのままの状態で、今後もより一層地域の皆様のお役に立っていきたいと思っています。
開業に向けてのアドバイス
開業に向けてのアドバイスをお願いします。
開業する以前の勤務医時代の過ごし方も大切だと思います。ここで働きたいと決めた歯科医院でしっかり頑張ってください。すぐに辞めてしまうと、自分が行った治療の結果を確認することもできなくなってしまいます。多くの患者さんや症例に出会って、多彩な知識を身につけてほしいですね。
開業にあたっては自分がやりたいことを明確にし、それを実現させるための開業であるべきです。スタッフを雇用する側になるわけですから、スタッフが幸せに働ける環境を作っていけるよう、経営についても学ぶ必要があるでしょう。
プライベート
プライベートの時間はどんなことをして過ごしていらっしゃいますか。
冬はスノーボード、夏はサーフィンを楽しんでいます。スノーボードは10年ぐらい前から始め、新潟や長野に出かけることが多いですね。サーフィンは湘南や千葉の海でやっています。日焼けをするのが好きなのです(笑)。日頃はやはり忙しいので、診療終了後は飲みに出かける程度ですね。