歯科経営者に聴く ~第一線で活躍する院長から学ぶ~
デンタルケア渡辺歯科 インプラントセンター戸田院長 渡辺 賢 先生
埼玉県戸田市は東京都と荒川を隔てて接している。東京オリンピックが開催された戸田オリンピックボートコースをメインとした戸田公園で知られている街である。最寄り駅のJR埼京線戸田公園駅は快速停車駅であり、1日平均3万人の乗降を数える。
デンタルケア渡辺歯科は戸田公園駅東口の正面に位置する。渡辺賢院長は口腔外科を専攻し、町田市民病院などで研鑽を積んできた。開業後は口腔外科のみならず、一般歯科、小児歯科にも積極的に取り組んでいる。
今月はデンタルケア渡辺歯科の渡辺賢院長にお話を伺った。
デンタルケア渡辺歯科 インプラントセンター戸田院長 渡辺 賢 先生
プロフィール
- 2002年 岩手医科大学 卒業
- 2002年 町田市民病院 勤務
- 2008年 デンタルケア渡辺歯科 開設
- 2010年 医)咲人会カリヨン歯科クリニック勤務
【開業に至るまで】
■歯科医師を目指されたきっかけはどのようなものだったのですか。
父が医師で、親戚にも医師や歯科医師が多い環境で育ちましたので、私もごく自然に目指していました。ほかの仕事のことは知りませんでしたし、やはり家族の影響が大きかったのだと思います。
■学生時代に思い出に残っていることはありますか。
中学では水泳部、高校ではバスケットボール部に入っていましたが、どちらの部活動も上下関係が厳しく、先輩の言うことは絶対だという雰囲気がありました。大学ではゴルフ部に入りましたが、それまでの部活動と比べると厳しくなかったですね。ゴルフのほかはモトクロスやサーフィンが趣味で、大学生活をアクティブに楽しみました。
■卒業後、勤務先を選ばれた理由をお聞かせください。
口腔外科を専攻したかったからです。大学時代に外科的な処置に魅力を感じて、口腔外科の講義を熱心に受けていました。その口腔外科の助教授の先生が紹介してくださったのが町田市民病院です。助教授の先生はまさに恩師ですね。 町田市民病院に見学に行くと、研修医も最初から治療をさせていただけるとのことでしたし、力をつけることができると思いました。当直もありますので、仕事はきつかったですね。1年目は実質1日しか休んでいません。でも、本当に自分のためになったと感謝しています。
■町田市民病院で学ばれたことはどんなことですか。
手術が多い病院でしたし、手術以外にも病棟管理、外来、救急など、様々なことを学びました。救急では交通事故などによる骨折といった外傷がメインでした。また、医師と一緒に麻酔科の研修を受け、全身管理を学ぶことができたのも良かったです。障害者歯科にも取り組みました。歯磨きができない患者さんに全身麻酔をして治療したり、コミュニケーションの取り方を工夫したり、勉強すべき内容が多かったです。
町田市民病院で得た知識や技術がありますので、開業後も普通は断るような患者さんも断らずにお引き受けすることができています。急患の受け入れは患者さんやご家族から喜ばれますし、遣り甲斐がありますね。
その当時、歯科医師は15人程いました。入院患者さんの一般外来なども担当しますので、組織としてはかなり大きいですね。ここで上下関係についても学ぶことができました。朝7時から夜中は2時ぐらいまで、人の倍は働いたと思います(笑)。しかし、辛いからという理由ですぐに辞めると先輩方からは信頼されません。皆の出身大学はばらばらでしたが、コミュニケーションを大事にしている組織で、私も先輩方に飲みに連れていっていただいたり、いい勤務医時代を過ごすことができました。
関連の病院や歯科医院も多く、様々な医療施設に出張しましたよ。一般の歯科医院は市民病院とは患者層が違いますし、話し方から変えて地域密着を意識しました。
■開業しようと決断されたいきさつはどんなことだったのでしょう。
町田市民病院にずっと勤務することはできないですし、先輩方も次々に独立されていきますので、私も5、6年を目処に開業を考えていました。関連の歯科医院に非常勤勤務を続けていましたから、開業医の仕事内容も理解していましたし、私もチャレンジしたかったのです。
一方で、口腔外科医としてのスキルも向上させていきたいので、現在も関連病院に非常勤医師として勤務し、手術を行っています。
■開業地をどのように選ばれたのですか。
浦和で開業されている先輩がいらして、私も非常勤でお手伝いに行っていましたので、埼京線は馴染みのある路線でした。そこで、埼京線沿線で探していたときに、この物件を見つけたのです。
■開業地の第一印象はいかがでしたか。
第一印象は良かったです。駅前であること、一階であることにいいなと思いました。しかし、マーケティングの結果はあまり良くなかったですね。競合が多かったのが理由のようですが、競合があるということはマーケットがあるということです。マーケティングで得た数字と実際に開業した後の数字は異なることが多いです。私の場合は口腔外科という強みがありましたし、この付近で口腔外科を全面に出している歯科医院はありませんでしたので、前向きに捉えることができました。
■設計、レイアウトの工夫などをお聞かせください。
患者さんが入ってきやすい雰囲気になるような設計を心がけました。暗い歯科医院は良くないですので、壁や床などは明るい色目を選んでいます。チェアは最初は2台でしたが、3年前に3台に増設しました。今は4台目の増設も検討しています。
■開業にあたってはどんな苦労がありましたか。
資金調達とスタッフ集めでしょうか。資金調達は知り合いに事業計画書の書き方を教えていただいて、自分で銀行を回りました。業者に頼るよりも、自分で何とかしたかったので、頑張りましたね。
スタッフ集めに関しては特に歯科衛生士の確保が大変でした。ハローワークにもお世話になりましたし、求人雑誌に広告を出して告知しました。
■開業にあたってのコンセプトとはどのようなものだったのですか。
患者さんが気軽に入ってきやすい歯科医院であること、患者さんがどんな小さなことでも相談できるような歯科医院であることですね。
【経営理念】
■経営理念をお聞かせください。
経営にあたってはリピート率を向上させることが大切だと考えています。いい加減な治療をしてしまえば一回の来院で終わってしまいますので、真摯に取り組まないといけません。一人の患者さんと長くお付き合いできるように努力しています。多くの歯科医院の中から私どもを選んでくださった患者さんに「本当に良かった」と思っていただけるような歯科医院を目指したいです。【診療方針】
■診療方針をお聞かせください。
私どもを初めて受診された患者さんの中には不安で緊張なさっている方もいらっしゃいます。そんな不安を和らげて、かつ取り除けるように、常に患者さんの視点で考え、分かりやすく、親切な説明と丁寧な診療を行っています。そのときだけでなく、先のことを見据えた治療を行うこと、急な患者さんでも断らないことも診療方針ですね。しっかり診ることとスピーディーに診ることの両立も心がけていることです。
■患者さんの層はいかがですか。
高齢者の方はもちろんのこと、子どもさんからその親御さん世代である30代から40代までの方が中心です。小児歯科は町田市民病院時代に鍛えられましたので、是非、行いたいと思っていました。キッズスペースを常設し、待ち時間のほか、親御さんの治療の間にも遊んでいただいています。キッズスペースは受付カウンターの横にありますので、スタッフが常に気を配れる環境になっています。
■マタニティ歯科は珍しいですね。
安定期である妊娠中期であれば、心配なく治療を行えます。妊娠中は虫歯、歯肉炎、口内炎、歯周病といったトラブルが起こりやすくなります。特に歯周病が進行しますと、陣痛を引き起こすプロスタグランジンの産生を促進させますので、早産や低体重児出産に繋がりかねません。私どもでは薬の使用にも気を配り、妊婦さんにも安心して歯科治療や健診を受けていただけるようにしています。
【増患対策】
■どのような増患対策を行っていらっしゃいますか。
ホームページのほかは、戸田公園駅に表示してある地図に広告を出していたり、電柱に出稿している程度ですね。来院動機を伺ってみますと、半数以上が口コミなのです。患者さんに信頼していただかないことには口コミになりませんので、ご納得いただけるまで丁寧に説明しています。
【スタッフ教育】
■スタッフ教育について、お聞かせください。
若手の歯科医師にはまずは私の診療をしっかり見学させています。それぞれの歯科医院で診療方針が異なりますので、私の診療を見せないことには私の診療方針が伝わっていきません。そのうえで、できる範囲から教えていますね。そして、多くの患者さんを診る経験を積んでもらっています。また、勉強会などにも積極的に参加を促しています。
■歯科衛生士への教育については、いかがですか。
経験のある歯科衛生士が揃っているのが私どもの強みで、歯科衛生士同士でよく勉強し合っています。私からは気になったことがあれば、その都度、話す程度ですね
【今後の展開】
■今後の展開について、お聞かせください。
増患対策を引き続き行いながら、分院の展開を検討していますが、具体的なことはまだ何も決まっていません。消費税の増税前ですし、焦ってやらない方がいい時期なのではないかと思います。今後は分院長を任せることができる人材を育てていきます。
【開業に向けてのアドバイス】
■開業に向けてのアドバイスをお願いします。
勤務医時代には多くの患者さんを診ることが大事です。1日10人では駄目ですね。30人から40人を診て、様々な症例を学んでほしいです。いくら知識があっても手が動かず、治療ができないのであれば歯科医師として成長しません。頭でっかちになることなく、患者さんから学んでいきましょう。
【プライベート】
■プライベートの時間はどんなことをして過ごしていらっしゃいますか。
大学時代はモトクロスが好きでしたが、今は全くやっていません。歯科医師は怪我できないですからね(笑)。診療後は飲みに行くことが多いです。友達と一緒だったり、一人だったりですが、ゆっくり過ごしています。休みの日は温泉に出かけるのが好きですね。