歯科経営者に聴く - 西永福歯科 山口昌良院長

歯科経営者に聴く ~第一線で活躍する院長から学ぶ~

医療法人社団 名月会 西永福歯科 山口 昌良 院長

西永福歯科

東京都杉並区永福は閑静な住宅街である。京王井の頭線のほか、方南通りや井の頭通りのバス路線も豊富で、アクセスに恵まれている一方で、和田堀公園や善福寺川緑地、大宮八幡宮などの緑の豊かな一帯となっている。
西永福歯科は京王井の頭線西永福駅から徒歩3分の場所に2011年に開業した歯科医院である。西永福歯科では削らない虫歯治療として注目を集めるドックスベストセメントを導入し、多くの患者さんを集めている。
今月は西永福歯科の山口昌良院長にお話を伺った。

西永福歯科 山口 昌良 院長

医療法人社団 名月会 西永福歯科 山口 昌良 院長

プロフィール

  • 1982年 東京都 生まれ
  • 2008年 日本大学 卒業
  • 2009年 哲学堂デンタルクリニック 勤務
  • 2009年 ひまわり歯科 勤務
  • 2011年 吉祥寺まさむねデンタルクリニック 勤務
  • 2011年 西永福歯科 開設

【開業に至るまで】

■歯科医師を目指されたきっかけはどのようなものだったのですか。

西永福歯科実家はお菓子の卸売業を経営していますが、私は次男ですし、家業を継ぐ必要はありませんでした。そのため、小さい頃から親に手に職をつけるように言われていたのです。中学高校は獨協で、医師や歯科医師の子弟が多かったですし、姉の友達が歯科医師のお嬢さんだったりと、歯科医師は身近な職業ではありました。最終的には高校時代に歯の矯正治療を受けたことが大きなきっかけとなって、歯科医師を目指しました。中学高校の友達も医師や歯科医師になった人が多く、今も良い関係を築けています。

■学生時代に思い出に残っていることはありますか。

中学から硬式テニスをしていましたので、大学でも硬式テニス部に入りました。部活動中心の大学生活でしたね。日大歯学部の部活動はどこも体育会系で、上下関係が厳しいのです。テニスのプレーを習う以上に、挨拶や礼儀作法といった社会の常識を叩きこまれました。でも、そのお蔭で社会人になってからも年上の先生方に可愛がっていただいています(笑)。

■卒業後、勤務先を選ばれた理由をお聞かせください。

最初は研修医として、母校の日本大学歯学部付属歯科病院に勤務していました。母校の研修では一般開業医での研修も義務付けられています。私は八王子の歯科医院で研修させていただいていましたが、研修中に院長先生が急死されたのです。そこで、近くの分院で研修を続けていたのですが、院長先生のご葬儀のときにご紹介いただいた哲学堂デンタルクリニックの重永基樹院長がお声をかけてくださいました。重永院長も八王子の歯科医院に勤務されていた経験があり、考え方が近かったので、お世話になることにしました。

■勤務先で学ばれたのはどんなことですか。

「自分はこれだけの患者さんを診ることができる」と言う歯科医師は多いのですが、私には違和感があります。西永福歯科「自分はこれだけの患者さんを呼ぶことができる」という考え方をしたいです。理想ばかりを追うと、現実が分からなくなりますし、理想と現実をすり合わせていかなくてはいけません。重永院長はそのすり合わせが素晴らしく、非常に勉強になりました。診療技術のみならず、経営理念なども勉強させていただけました。ひまわり歯科や吉祥寺まさむねデンタルクリニックといった分院にも勤務しました。

■分院長も経験しましたか。

分院が次々に展開されていった時期でしたが、私は分院長といったポジションに就くことはなく、一勤務医として勤務させていただいていました。

■開業しようと決断されたいきさつはどんなことだったのでしょう。

入職のときから、勤務医を3年経験したら開業したいと考えており、重永院長にも伝えていましたので、スムーズに退職させていただきましたよ。重永院長とは今も頻繁に連絡を取り合っていますし、開業後も様々な面で助けていただいています。
それから、私が目指していた診療方針が定まったことも大きかったですね。私は抜かない、削らない、痛くない診療を行うための治療方法を学んできたのですが、もう大丈夫だと感じました。結局、目標の3年よりも早い、2年9カ月で開業しました。

■開業地はどのように選ばれたのですか。

西永福歯科私は荒川区出身で、杉並区には縁もゆかりもありません。開業地は東京都内であればというぐらいで、特にこだわりはありませんでした。ただ、小児歯科に力を入れたかったので、幼稚園や保育園が多い場所が良かったですね。この物件は業者さんからの紹介ですが、近隣に10軒以上の幼稚園や保育園があり、理想通りの環境でした。

■開業地の第一印象はいかがでしたか。

西永福駅から徒歩3分の場所ですから、便利だなと感じました。私としては方南通りが気に入りましたね。方南通りは西永福から方南町を経由して、新宿まで通っています。また、西永福交差点で方南通りと交差する井の頭通りは吉祥寺と渋谷を結んでいますので、とてもアクセスがいい場所なのです。桜の名所である和田堀公園は緑が綺麗ですし、大宮八幡宮の落ち着いた佇まいなど、恵まれた環境だと思います。

■設計、レイアウトの工夫などをお聞かせください。

この物件は居抜きなのです。したがって、設計やレイアウトはそのままですね。前の院長先生がご主人の出身地である外国に移住されるということで、私が継承しました。カルテも引き継ぎ、1週間の休診のあとで開業したのです。

■開業にあたってはどんな苦労がありましたか。

西永福歯科スタッフは新規で募集しましたが、すぐに集まりましたので、苦労はなかったですね。それ以外は初めての経験ですし、何でも大変でしたよ。居抜きでレイアウトなどができているとは言え、一人前の歯科医師と言える状態ではありませんでしたね。今はよく開業できたなと思っています(笑)。苦労と言えば、やはり患者さんの数が最初は少なかったことでしょうか。居抜きであっても、前の患者さんが残ってくださるわけではありません。同じ診療をしても、前の先生とは違うと言われてしまいますし、居抜きの難しさを感じましたね。ただ、現在は9割の患者さんが入れ替わっており、新規の患者さんが月に120人いらしています。

■開業にあたってのコンセプトとはどのようなものだったのですか。

削らない、抜かない、痛くしない治療を行うことのほかは、スタッフを幸せにするということです。経営者の中には「患者さんがいて、スタッフがいて、自分がいて、その循環の中で患者さんをまずは大事に」とおっしゃる方がいますが、私はその考え方ですと、スタッフが満足しないのではないかと思います。スタッフが満足すれば、患者さんへのサービスは向上するはずです。

【経営理念】

■経営理念をお聞かせください。

西永福歯科スタッフを幸せにし、満足させることを考えたうえでの三位一体の経営です。スタッフが幸せになれば、周りの患者さんが集まってくるという正のスパイラルが生じます。一方で、私自身の人間性を磨いていきたいです。勤務医時代に「院長はスーパーマンでなくてはいけない」と教わりました。院長は人を教える立場であり、技術者であり、経営者であり、スタッフの管理者でもあります。スタッフに突っ込まれないように、弱みを見せないように、気をつけています。人が集まってくる人は人望があり、人間性が豊かですので、そういう人間になっていきたいです。

【診療方針】

■診療方針をお聞かせください。

私は学生時代から不思議に思っていたことがあります。医科は次々に新薬や治療法が出されますが、歯科はあまり変わりません。虫歯の治療ではドリルで削って、詰め物をしますが、ドリルや詰め物の性質は少し変わっても、基本は同じなのです。そんな不思議な気持ちを払拭でき、医科のような変化を歯科にももたらしたいとアンテナを張っていたところ、ドックスベストセメントに出会いました。私どもでは、このドッグスベストセメントを基本に、削らない、抜かない、痛くない診療を心がけています。

■患者さんの層はいかがですか。

子どもさんから高齢者まで、幅広いですね。千葉県や山梨県、北海道など、遠方の患者さんも多いですよ。

■自費と保険の割合について、お聞かせください。

西永福歯科自費が7割です。ドックスベストセメントに加え、インプラントも少なくありません。インプラントも歯を抜かないために欠かせないものです。ブリッジやパーシャルデンチャーはほかの歯に負担がかかったり、健康な歯を駄目にしてしまうこともあります。そこで、全ての歯を残せるわけではないし、薬も万能ではないとしたうえで、インプラントを入れることで健康な歯をいかに残すのかといった説明を丁寧に行うようにしています。私どもではインプラントを特に推してはいないのですが、この説明をすることでインプラントを選ぶ患者さんは多いですね。

【増患対策】

■どのような増患対策を行っていらっしゃいますか。

ホームページのほかは特に何もしていません。『週刊新潮』などに取材されたほか、今も取材依頼は多くいただいています。患者さんの来院動機はそういった記事のほかは口コミがほとんどです。

■口コミ主体で、それだけの患者さんがいらっしゃるのですね。

西永福歯科ラーメン屋さんは塩味や味噌味といったバリエーションを豊富に用意していますが、歯科医院はそういうわけにはいきません(笑)。虫歯や歯周病治療の方法はどの歯科医院も同じですから、差別化できないのです。しかし、私どもは売り物が違いますので、差別化できているのだと思います。ドックスベストセメントは「痛くない治療である」と自信を持って言える治療なのです。小さい頃に歯科医院で怖い思いをしたり、痛いときに手を挙げて知らせたのに無視されたりといった経験がある方たちはそこで時間が止まっていて、何年も放置しています。そんな方たちに今の歯科は怖くないのだと伝えたいですね。この情報発信が私どもの使命です。最近は電話やメールでのお問い合わせが増えてきました。電話やメールのやり取りだけでも、痛くない治療法があるのだということをお伝えできたらと考えています。

【スタッフ教育】

■スタッフ教育について、お聞かせください。

西永福歯科特に堅苦しいことはしていません(笑)。私の方針は「誉めて伸ばす」ことですね。とにかく誉めて、最後の1割でアドバイスをしています。
私どもでは週に2回のペースで、ミーティングを兼ねた食事会を行っています。そこでコミュニケーションを密にし、いいことも悪いことも話し合っています。

【今後の展開】

■今後の展開について、お聞かせください。

8月にチェアを1台、増設し、4台体制にします。これに伴い、今後はスタッフを増やしていきたいと考えています。歯科業界を取り巻く問題の一つに経営基盤が小さいことが挙げられます。スタッフ数が少ないと、1人が病気や怪我で抜けたときの影響力が大きくなってしまいますので、歯科医院を早く大きくしたいですね。スタッフの生活も預かっているのですから、経営を安定させることが目標です。

【開業に向けてのアドバイス】

■開業に向けてのアドバイスをお願いします。

西永福歯科勤務医時代に多数の患者さんを診たとしても、それは歯科医院の看板があってこそのことであって、勤務医の力ではありません。したがって、一人では何もできないと認識し、周りの人が助けてくれるような人間性を磨いていかなくてはいけないでしょう。しかし、大人になると、なかなか変われません。私も偉そうなことを言っていますが、だらしないし、薄っぺらい人間なのです(笑)。でも、そんな本質を患者さんやスタッフの前では出せませんから、自分が発言したり、行動する前に、その発言や行動でいいのかどうかを客観的に考えるように努力しています。なかなか変われないからこそ、意識的に変えることが必要です。
歯科医師としての技術は開業後にも身につける機会はありますので、早く開業したいのであれば、人間性の向上を目指すべきではないでしょうか。

【プライベート】

■プライベートの時間はどんなことをして過ごしていらっしゃいますか。

休みの日はありませんので、プライベートの時間も少ないですね。片道1時間の通勤時間を利用して、読書するのが楽しみです。年間100冊は読んでいます。ジャンルは様々ですよ。経営の本や自己啓発、医学系の雑誌やときには漫画も読みます。最近は中井政嗣さんの『社員を幸せにしたい社長の教科書』が良かったです。中井さんはお好み焼き屋チェーンの千房の創業者ですが、私が大事にしたい人間性の部分で共感することが多かったですね。また、スタッフ採用のポイントとして、元気の良さ、素直さ、礼儀正しさを挙げておられました。この3点のある人は成長を見込めるそうで、参考になりました。

【タイムスケジュール】

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