歯科経営者に聴く ~第一線で活躍する院長から学ぶ~
きたならエキ歯科 冨田 尚充 院長
千葉県船橋市内の主要な駅の一つである北習志野駅は東葉高速鉄道東葉高速線、新京成電鉄新京成線の連絡駅であり、住民から「きたなら」と親しまれており、駅前のバスターミナルからは多くのバス路線が出ている。
北習志野駅周辺は約80軒の歯科医院がしのぎを削る超激戦区である。しかし、2013年3月、きたならエキ歯科が北習志野駅に直結する「エキタきたなら」に開業した。きたならエキ歯科は初月から新患300人を数え、開業3カ月目の現在で1000人の患者さんが毎月来院している。
今月はきたならエキ歯科の冨田尚充院長にお話を伺った。
きたならエキ歯科 冨田 尚充 院長
プロフィール
- 1976年 東京都 生まれ
- 国立長崎大学 卒業
- 米国アリゾナ州立大学 留学
- 日本歯科大学附属病院 研修医
- 研修先として、波多野歯科医院(浦和)、東京駅八重洲南口歯科医院 勤務
- 神奈川県内のインプラントセンター 勤務
- 神奈川県内の一般歯科 勤務
- 八千代中央の歯科医院(分院長) 勤務
- 2013年 きたならエキ歯科 開設
【開業に至るまで】
■歯科医師を目指されたきっかけはどのようなものだったのですか。
実家は医療系ではありません。私は京セラ株式会社京都本社の半導体海外営業統括本部に勤務していました。配属された部署は別名が「軍隊」で、当時の京都の全ての企業の中で一番厳しいと言われていたような部署でした。最初の1年は毎朝、出勤前に辛くて身体が震えていましたよ。でも、結果を出すまでは決して諦めないと強く思っていました。その後、4年が経ち、いつのまにか結果を出せる社員になっていました。歯科医師を目指すきっかけとなったのは京セラバイオ事業部でインプラントを扱っていたからです。インプラントを自分で埋入できるようになりたいと考え、歯学部を受験しました。
■思い切った転身に、周囲の声はいかがでしたか。
反対されましたよ。私は1999年という戦後最大級の就職氷河期に就職活動をしたのですが、当時38人の京セラ文系総合職求人に対し、約4000人の応募がありました。100倍の倍率の中で内定をいただいて就職したのに、もったいないと言われましたね。でも、私の方向性は決まっていましたから、ぶれることはありませんでした。
■京セラでの社会人生活で得たことはどんなことでしょうか。
4年間、勤めたのですが、京セラでの厳しい時期を乗り越えたのだから、どんなことでも乗り越えられるという自信がつきました。「人生、生命を絶たれること以外は全てかすり傷」というちょっと変わった座右の銘を得られたのも京セラ時代があったからこそですね(笑)。
■学生時代に思い出に残っていることはありますか。
祖母が商社ウーマンでしたので、小さい頃から海外への憧れがありました。そこで、アリゾナ州立大学に1年間の留学を行い、カナダ、ニュージーランド、アメリカのカリフォルニア州などでも6カ月間の生活を送りました。海外での生活は見るもの、聞くこと、全てが新鮮で、様々な国籍の友人もでき、人生観が変わりましたね。
■海外での経験で、今も役に立っていることについて、お聞かせください。
「行動が全て」ということを知りました。アメリカでは消極的だと何も得られないのですよ。英語力の上達のために、カンバセーションパートナーを募集したり、キャンパス内のアメリカ人と1日10人と決め積極的に話すことを心がけました。苦労の甲斐あって、1年でTOEICのスコアが460点から785点にまで上昇した時はうれしかったです。
■歯学部時代の学生生活はいかがでしたか。
京セラを退職し、明確な目標を持って歯学部に入りましたので、学生時代は開業への準備段階と位置づけていました。毎日、長崎大学附属図書館医学分館で勉強していましたし、夏休みには全国のインプラントセンターに積極的に見学に出かけました。
■卒業後、日本歯科大学附属病院で研修医となられ、その後開業医勤務に進まれた理由をお聞かせください。
卒業後は自費診療(第一ステップ)、保険診療(第二ステップ)、経営(第三ステップ)の順で学んでいこうと決めていましたので、自費メインの歯科医院を選びました。自費治療を先に学ぼうと考えた理由は保険診療は自費診療を簡略化させたものだからです。私としては休暇や給料のことは一切考えないで、技術を身につけることが最も大切でした。月の休みが2日のときもありましたが、技術を必死で身につけていきました。日本、海外を問わず、一流の歯科医師の勉強会に積極的に参加し、技術を学びました。
やはり歯科医師は技術が全てです。私どもきたならエキ歯科に勤務する歯科医師にも外部の勉強会に参加できるようにサポートしていきたいと考えています。
■その後、転職されたのはどうしてですか。
歯科医師になって4年目、自費診療を学び、第二ステップに進む時期と判断し、神奈川県茅ヶ崎市の一般歯科に勤務しました。そこではあくまでも患者さんに良い治療をすることを心がけていくことで自然と結果がついてきました。
■分院長も経験されていますね。
「千葉県の八千代中央駅前にある歯科医院の立て直しを依頼されたのがきっかけです。分院長としての着任ですから、第三ステップに進むことを決断しました。幸運にも、紹介が紹介を呼び、1年間でレセプトは1.5倍、売上が1.9倍になり、立て直すことができました。理事長には感謝されましたね。
■開業しようと決断されたいきさつはどんなことだったのでしょう。
数字を追いかけているわけではありませんでしたが、数字は患者さんの満足度や紹介数など、様々な要素を統合した指標の一つではあります。したがって、数字は開業の目安でもありました。分院長としての経験で、その目安をクリアしたと判断し、開業を決意しました。
■開業地はどのように選ばれたのですか。
自分の足で回り、自分で見つけました。北習志野駅は東葉高速線と新京成線の乗り換え駅です。その駅に直結するビルである「エキタきたなら」が新築され、クリニックモールを作るということに惹かれました。クリニックモールには4つの医療施設が入居予定で、現在は私どものほか、心療内科が入居しています。
■開業地の第一印象はいかがでしたか。
私の第六感でいいなと思いました(笑)。エキタきたならには船橋市にある習志野台幼稚園が運営する保育ステーションの「ハミングバード」も入居しています。ハミングバードは0歳から3歳までの低年齢児を対象としていますので、お子さんやご家族の来院が見込めそうな点も良かったです。
■設計、レイアウトの工夫などをお聞かせください。
個室化がまず挙げられますね。手術用の個室もあります。チェアは開業時は3台でしたが、2ヶ月目に4台目を導入しました。最終的には6台まで増やせます。内装にあたっては清潔感第一で、白を基調にしたいというこだわりがありました。
■開業にあたってはどんな苦労がありましたか。
開業を決定したのが2012年の11月末で、ほぼ12月でした。開業日まで3カ月しかなく、フリーレント期間も短かったので、仕事をしながら開業の準備や後任ドクター探しをしていくことが大変でしたね。立地選定のあとは内装、機材選定、人事、マーケティングなど、事務長と二人三脚で進めていきました。事務長がいたお蔭で、かなり負担が軽減されました。
■開業にあたってのコンセプトとはどのようなものだったのですか。
船橋市の中でも北習志野駅付近は競合が多く、周囲に約80軒の歯科医院があるという激戦区です。しかし、きたならエキ歯科のような個性のある歯科医院はないと自負しています。そこで、地域の皆さんが「歯で困ったときにはこの歯医者に行こう」と期待してくださるような歯科医院でありたいと考えています。北習志野や船橋の地域の皆さんのニーズに応えていくためにも、まずは認知度向上が必要ですね。
【経営理念】
■経営理念をお聞かせください。
来年、医療法人化することがほぼ決定していますので、理念と目標はそのときに作る予定です。私どもとしてはビジョナリークリニックを実現できるような理念を作りたいですね。現在、ヒューレットパッカードやIBM、ディズニーランドなどはビジョナリーカンパニーと言われています。経営理念が末端まで浸透している企業ですね。ビジョナリークリニックはビジョナリーカンパニーのクリニック版です。未来志向型のクリニックであり、院長が代わっても地域の方々にずっと愛されるクリニックであり続ける存在を目指したいです。
【診療方針】
■診療方針をお聞かせください。
病院の利益の大半は患者さんに還元していきたいです。保険診療でもいい材料を使っています。そういった積み重ねで、口コミでの患者さんが増えているところです。私どもでは担当制を敷いており、一人の患者さんをしっかりと診療させていただいています。現在、常勤は2人 非常勤が4人います。
■患者さんの層はいかがですか。
子どもさんから高齢者の方まで幅広い患者層ですね。したがって、全ての症例を経験できると言えるでしょう。
【増患対策】
■どのような増患対策を行っていらっしゃいますか。
きたならエキ歯科ホームページ(http://kitanara-dental.net/)のほかは北習志野駅での看板ぐらいです。駅ビル内の歯科医院ですので、知名度を上げていくためにも、駅の看板は必須ですね。しかしながら、来院動機は口コミが圧倒的に多いです。
【スタッフ教育】
■スタッフ教育について、お聞かせください。
きたならエキ歯科では女医が働き易い環境を整えており、5年目以上の先生には自由に診療していただきますが、それ以下の先生には、歯科医師としての総合力を向上させるために教育に力を入れています。担当制ですので、咬合、歯周、補綴などを考慮した一口腔単位での統合治療が行えるようになりますし、全顎的治療について、基礎から体系的に学ぶことができます。ステップアップを目指す方にはセミナーや講習会の費用負担制度や研修制度を用意しています。
また、患者さん向けのツールを完備しており、「伝える技術」を習得することができます。
患者さんから信頼を得るための話し方、接し方、言葉にはなかなかできない勘所なども指導しようと考えています。僕が京セラ時代に身につけたものです。
将来開業を考えている方には開業支援制度を準備しているので、失敗リスクを最小限に抑えた開業が可能となります。私どもには成功するための開業立地選定、マーケティング、財務、人事、ネット対策、宣伝広告のノウハウが蓄積されているので、数年勤務された先生にはこれらのノウハウを惜しみなく提供し、開業の成功を全面的に支援していこうと考えています。
6月にe-dentistさんに常勤ドクター募集をかけたところ、1週間で良い先生とめぐり合う事ができました。したがって、現在はドクター募集は行なっておりません。今後、規模の拡大に伴って募集することはあるかと思います。
■歯科衛生士や事務スタッフなどの教育についてはいかがですか。
基本的な教育カリキュラムの内容は「基本方針と行動原則」、「技術に関するスキル」、「人間性に関するスキル」、「問題発見に関するスキル」の4点です。私からは「患者さんが帰られるときに満足なさっているのかどうかという雰囲気をひとりひとり感じとってほしい」と言っています。
教育に関しては、規模が大きくなるにつれてマニュアル化が必要になってくるでしょうが、開業して3カ月目の今はまだその段階ではないですね。しかしながら、幸運なことに、私どものスタッフの個々の能力は非常に高く、私の誇りです。自分たちで仕事を見つけて率先して働いてくれています。私の方が気を遣って、「診療時間の合間はお願いだから休憩して」と言っているぐらいです(笑)。患者さんへのコミュニケーションスキルも高いですし、気遣いもできます。スターバックスやディズニーランドのスタッフにも負けていないと考えているのは親バカでしょうか。
【今後の展開】
■今後の展開について、お聞かせください。
私自身厳しい環境で育てられましたが、それはこれからの時代に即さないと考えています。色々なタイプの歯科医師にお集まりいただいて、きたならエキ歯科を明るい歯科医院にしていきたいです。私としては新しい歯科医師やスタッフが楽しく仕事ができる環境作りをしていきます。今後は今頭の中にある様々なアイデアを事務長と一緒に具現化していきたいと考えています。