歯科経営者に聴く ~第一線で活躍する院長から学ぶ~
医療法人社団 翌檜会 あすなろ歯科医院 鈴木 秀一 理事長
埼玉県北葛飾郡松伏町は春日部市、越谷市、吉川市、千葉県野田市と接する、埼玉県東南部に位置する町である。親水公園である松伏総合公園や県営まつぶし緑の丘公園、古利根川堤の桜など、首都圏とは思えないほどの豊かな自然が広がっている。
あすなろ歯科医院は松伏町に2001年に開業した歯科医院である。東武スカイツリーラインの北越谷駅からバスで10分程の立地で、保険診療を中心とした診療を行う。鈴木秀一理事長は確かな技術で信頼を集め、EXILEのATSUSHIなど幅広い患者層がある。 今月はあすなろ歯科医院の鈴木秀一理事長にお話を伺った。
医療法人社団 翌檜会 あすなろ歯科医院 鈴木 秀一 理事長
プロフィール
- 1965年 神奈川県 生まれ
- 1990年 日本大学松戸歯学部 卒業
- 1990年 日本大学松戸歯学部付属病院 勤務
- 1993年 千葉県内の歯科医院 勤務
- 1998年 東京都内の歯科医院 勤務
- 2001年 あすなろ歯科医院 開設
- 2010年 あしたば歯科医院 開設
開業に至るまで
歯科医師を目指されたきっかけはどのようなものだったのですか。
父は医療職に就いていたわけではないのですが、病院の経営に携わっていました。それから母方の叔父に歯科医師がいたことから、祖父に「孫の一人を医療職に就かせたい」という願いがあり、私が目指すことになりました。はっきり目指すというよりも、小さい頃から漠然と目指していたという感じですね。高校生の頃は日本大学などで航空工学を学んだり、防衛大学校でパイロットになるための勉強をすることに憧れたこともありますが、医療系という初心を貫きました。
大学時代はどういう学生生活でしたか。
私は中学高校と極真空手を習っており、大学でも空手部から盛んに勧誘していただいたのですが、大学の空手部は流派が違ったのです。そこで、ほかの武道をしたいと思い、同じように勧誘していただいていた少林寺拳法を選びました。日大松戸歯学部は「歯学部体育学科」と言われるぐらい、体育会系の部活動が活発なのですよ(笑)。本当に部活動中心の毎日でしたね。放課後になったら、すぐに部に向かわなくてはいけません。病院での実習のときに、実習が終わって廊下に出ようとしたら、先輩がドアのところで待っていたこともあります(笑)。上下関係なども厳しかったですが、今はいい仲間ですね。
部活動が思い出の中心ではありますが、一方で、勉強にも厳しい大学でしたので、単位取得のための勉強も頑張っていました。 4年生と5年生のときに特待生をとりました。
勤務先を選ばれた理由はどんなことだったのでしょうか。
大学時代によくしてくださった恩師が口腔外科にいらしていたので、大学病院に残り、口腔外科を専攻しました。私はもともと医師にもなりたかったのです。そこで、「切った貼った」の世界であり、医学と歯学が交差する分野である口腔外科には興味がありました。
大学病院での日々はいかがでしたか。
勉強も厳しかったですが、それ以上に大変だったのは私が左利きであることでしたね。実習で使う機械や器具類は全て右利き用に作られていましたので、しづらかったです。左だと、届かないところがあるのですよ。そこで、先生方に右手に変えるようにという指示を受け、右手での練習を繰り返しました。たまに隣の人の機械を借りて、左ですることもありましたけどね(笑)。しかし、このときに右手も使えるような訓練を受けたお蔭で、今は両利きの状態です。右手で削りにくい歯を左手で削ることができますので、形成は得意です。
歯科医院に転職された理由をお聞かせください。
開業志向があり、口腔外科は開業医レベルの診断や治療ができるようになれればいいと考えていました。週1日は一般の歯科医院で非常勤の勤務をしていましたが、口腔外科の内容は3年でほぼ習得できましたので、次は開業医の先生のところに行き、開業医に必要なスキルを学ぼうと思いました。大学の先輩の紹介で、千葉県内の歯科医院に勤務することになりましたが、最初は大学に週2日、歯科医院に週4日、通っていました。同じ患者さんをずっと診ていくという治療の流れは大学病院とは大きく異なりますので、勉強になりましたね。
東京都内の歯科医院にも転職されたのですね。
一般の歯科医院勤務が1軒だけでしたら、そこのやり方しか分からなくなりますので、複数の歯科医院で学びたかったのです。今度は自費率の高い都内の歯科医院に行き、自費診療をしっかり勉強しました。そこでは分院長も任されましたので、経営面の勉強もできました。
開業しようと決断されたいきさつはどんなことだったのでしょう。
東京都内の歯科医院に転職するときに、「こちらで3年、勤務したら開業しよう」と決めていたのです。大学病院で口腔外科を、千葉県内の歯科医院で一般歯科を、東京都内の歯科医院で自費診療や経営面を学ぶという経験を積みましたので、開業にはいいタイミングだと感じました。
開業地はどのように選ばれたのですか。
当時、埼玉県越谷市に住んでいましたので、自宅の近くで開業したいと思っていました。この場所は自分で見つけたのです。飲食店だったのですが、閉店するということでしたので、譲っていただけるよう、大家さんに頼みに行きました。大家さんとの直接の契約で済みましたので、初期費用も抑えられました。
バス通りに面していますし、その頃は大きなスーパーが隣にありましたので、第一印象は非常に良かったですね。立地には恵まれたと思います。
設計、レイアウトの工夫などをお聞かせください。
先方がまっさらの状態にして渡してくださったので、一から設計できたのが良かったです。ただ、色などは専門の会社の方にお任せしました。私のこだわりは治療の流れがスムーズになるような動線を工夫したことでしょうか。暗い感じは嫌でしたので、窓を大きくとりました。ほかは趣味の車の模型を飾ったり、おもちゃで一杯にしたいという希望を叶えていただきました。
どんな苦労がありましたか。
やはりスペースを有効に使うことですね。面積が35坪と、少し手狭なのです。最初はチェアは3台で、1年後に4台にしたのですが、これで目一杯です。
開業にあたってのコンセプトとはどのようなものだったのですか。
とにかく、明るくいきたいということですね。ほかの歯科医院はリラックスできるようなアルファ波が出るというクラシックがかかっていることが多いようですが、私どもは明るい雰囲気にしたいので、有線放送でJポップを流しています(笑)。
経営理念
経営理念をお聞かせください。
患者さんが望んでいることに応えることが経営的なメリットに繋がっていくと信じています。患者さんが患者さんを呼んでくださるのですね。「ここがいい」というポイントをご理解いただければ、口コミで広がっていくものです。このポイントを明確にしていくことが大事です。私どもは患者さんの人数に助けられていますので、自費を勧めることもありません。
診療方針
診療方針をお聞かせください。
私どもの特徴は保険診療をメインに行っていることにあります。しかし、保険診療でも患者さんとしっかりお話をして、選択肢を用意し、適切なアドバイスをするように心がけています。患者さんが迷った場合にはそれぞれの選択肢のメリットとデメリットをきちんと伝えていますね。ここで自費診療を選択される患者さんも少なくありません。インプラントに関しては手術室のある、あしたば歯科医院で行っています。
慣れてこられた患者さんは「先生のお好きなようにしてください」とおっしゃることが多くなるからこそ、最初の説明が大切です。
子どもの患者さんが多いことも特徴です。開業当初の挨拶回りで、私立のまつぶし幼稚園に伺ったのですが、園長先生に気に入っていただいたようで、既にいらした園医の先生がお辞めになるときにお声をかけていただきました。私どもでは検診のみならず、歯科衛生士が幼稚園で劇をしたり、歯磨き指導をするなど、積極的な交流を行っています。
子どもさんの扱いは難しくないですか。
私は子ども扱いに関しては天性のうまさがあるのではないかと思っています(笑)。子どもさんが分からないように浸麻することができるのですよ。子どもさんには「魔法をかけるよ」と言って、表面麻酔をかけずに浸麻します。さらに、「爪で押すよ」と言うと、泣かれませんね。私どもが初めて通院した歯科医院という「うちデビュー」の子どもさんは大丈夫なのですが、引越しや他院での経験から私どもが初めての歯科医院でない子どもさんは歯科がトラウマになっていることも少なくありませんので、2、3回程のトレーニングを行うようにしています。
増患対策
どのような増患対策を行っていらっしゃいますか。
ホームページのほかはバスの車内放送ぐらいでしょうか。看板などは出していません。来院動機は口コミがほとんどですね。ただ、初診の急患さんは絶対に断らず、お受けするようにしています。
私どもはリコール用のハガキは一切出していません。皆さん、3カ月先でも気持ちよく予約を取ってくださっています。
スタッフ教育
スタッフ教育について、お聞かせください。
大字で開催されるワークショップに参加して、修了証をいただきましたので、私どもは臨床研修指定施設となっています。新卒の歯科医師でしたら、最初は歯科衛生士の代わりについてもらうか、歯科衛生士の後ろか正面に回って見学してもらいます。正面に人がいると、大人の患者さんは嫌がりますから、小学校中学年ぐらいの患者さんの場合がいいですね。大人の患者さんの場合はバキュームを持たせて、私の削り方、話し方、患者さんの扱い方などを見てもらいます。「私の真似をしてみてください」と言うと、新卒の新人の方がよく真似ができて、様になっていますよ。
2院目以降の歯科医師でしたら、スキルチェックから入ります。どの程度のスキルなのかを理解したうえで指導に入っていきます。今後も若い歯科医師の受け入れを積極的に行っています。
歯科衛生士や事務スタッフなどの教育についてはいかがですか。
歯科衛生士の指導にあたっては「患者さんは見た目を気にする」という話をよくします。舌で歯を触ったときにザラつきがあってはいけません。まずは見た目を綺麗にするということですね。見た目と舌感を整えたあとで縁下歯石です。これを取らないと意味がありませんから、しっかり取って、患者さんに満足して帰っていただいています。
私どもには歯科衛生士用のユニットがあり、30分に1人の割合で予約をお取りしています。「歯石、取って」といきなり来られた患者さんでも対応できますね。
事務スタッフには言葉遣いについて指導することが多いです。患者さんの名前を早く覚えて、名前で呼んでさしあげること、混んでいるときであっても、痛がっている人や急患さんを優先させることなどもアドバイスしています。「来る者拒まず」な歯科医院であるためには受付を担当する事務スタッフの働きは重要ですね。
今後の展開
今後の展開について、お聞かせください。
2010年に分院であるあしたば歯科医院を越谷市に開業しましたが、本院と分院の間のスタッフの交流に乏しいことが課題です。忘年会なども別々に開催しているのですよ。私がどうしても本院にいないといけませんので仕方ないのですが、歯科医師を確保できたら、本院と分院の間の統一性を図りたいと考えています。法人としての一体感を出していければと願っています。
開業に向けてのアドバイス
開業に向けてのアドバイスをお願いします。
患者さんに対する思いやりの気持ちが心から出ているかどうかが大事ですね。開業医は研究者ではなく、人間相手の仕事なのです。私も決して自分に自信があるわけではありません。謙虚な気持ちを持ちたいと思っています。おごることなく、患者さんと同じ目線でコミュニケーションをとることを学んでほしいです。そして、どの分野も100%でなくていいので、オールマイティーにできるようになってから開業した方がいいでしょう。できないこと、苦手な分野が多いと、増患が難しくなってきますので、勤務医時代に頑張っておくべきですね。
プライベート
プライベートの時間はどんなことをして過ごしていらっしゃいますか。
まずはクルマですね。運転するのもいじるのも好きです。アメリカ、イタリア、ドイツのクルマを所有して、それぞれの違いを楽しんでいます。収集癖があるようで、クルマの模型やライターを集めていましたが、大きなものは飽きてきたので、今は缶コーヒーのおまけを集めています(笑)。
映画も趣味の一つなのですが、映画館に行く時間はなく、DVDで鑑賞しています。マニアックな作品が好きです。