歯科経営者に聴く ~第一線で活躍する院長から学ぶ~
医療法人 拓医会 本田歯科医院 本田 拓也 理事長
福岡県筑紫郡那珂川町は自然環境に恵まれ、博多南駅からは博多南線で博多駅まで10分と利便性が良く、福岡市のベッドタウンとして人気が高い。代表者の居住地を多い順に並べた「社長の住む街」ランキングでも町村別で42位(989人)に入り、人口が増加し続けている街である。
本田歯科医院は博多南駅のロータリー沿いの場所に1995年に開業した医院である。「まず患者さんありき」という方針で診療を行っている。
今月は本田歯科医院の本田 拓也理事長にお話を伺った。
医療法人 拓医会 本田歯科医院 本田 拓也 理事長
プロフィール
- 1964年 長崎県 生まれ
- 1990年 国立長崎大学 卒業
- 1990年 医療法人 健医会 勤務
- 1995年 本田歯科医院 開設
- 1999年 サンデンタルクリニック 開設
- 2002年 ひかるデンタルクリニック 開設
- 2006年 スカイデンタルクリニック 開設
開業に至るまで
歯科医師を目指したきっかけはどんなことだったのでしょうか。
両親は学校教員で、歯科医ではありませんでしたが、「自分のやったことが反映される仕事を選んだ方がいい」と父親にずっと言われていました。私は物を扱う仕事ではなくて、対人での仕事を希望し、そこから医療関係の仕事に就こうと考えたのです。その中で、自分のスタイルでやっていけて、自立しやすく、医療に対するスタンスを築きやすいのは歯科医師と思い、歯科医師を目指しました。
やっていきたいことを追求し、何か一つでも志をまとめきれる職業として魅力を感じました。さらに、将来的に、自分の意思が通りやすく、また完結でき、独立性を持った診療科として歯科を選びました。理想だけで終わらない、この仕事は比較的に手が届く範囲のものなのかなと思っています。
私は性格上、おせっかいで、何でもしてあげたいと思う気持ちが強く、空回りすることもあるのです。診療時間も時間超過になることもあります。その点、歯科はオンオフがきっちりしていて、日常にメリハリをつけられるので、そんなことも私に合っていると思いました。
大学時代のエピソードをお聞かせください。
何事も一生懸命でしたね。部活動としてジャズバンドやウィンドサーフィンをしていました。上下関係を重んじる部でしたし、ここで「上に立てば、下の面倒をみる」「何かをやるためには、自分で動く」という基本的なことを学びましたね。皆でやるイベントは面白かったですよ。
また、学生ではありましたが、将来、何か役立つことがあるだろうと思いましたので、色々な仕事をしてみようと、ありとあらゆるジャンルのアルバイトをやりました。医療関係のお手伝い、塾を自分で経営したり、家庭教師をしたり、土木作業員、プールの指導員、夜の仕事もしました。
収入を得るために、体を動かしたり、頭を使うことをし、その結果として、勉学以外の目に見えないものを得ることができたと思います。
勤務先を選ばれたのはどんな理由からですか。
卒業後、関東の医療法人で勤務をしていました。きちんと患者さんの数があり、多くの症例を診ることができて、複数の歯科医師がいるところでアドバイスをいただきながら勤務したいと考えていたのです。東京に出たいという希望もあり、事前の下調べを行いました。ある程度、症例を診ることができたら、後は自分の努力次第ですし、どこでも勉強の場になると思っていたので、ほかの求人はあまり見なかったですね。
昔から教えてもらう同時に自分で学びたい、手取り足取りしてもらうよりは自分できちんと症例を診て、アドバイスをいただきたいと思っていました。
開業されたいきさつはどんなことでしたか。
勤務を始めた時点では、「いつまでに開業する」と明確には考えていませんでした。数年、勤務する中で、自分の力でやってみないと分からない部分が出てきたと感じ、次のステップに進みたいと思ったので、開業を決めました。
最初は東京で開業場所を探して、場所もほぼ決まっていたのです。そこで、実家に連絡をしたら、親の目の届くところに帰って来てほしそうだったので、せめて福岡に帰ろうという情が湧きましたね。
福岡は歯科医院が多い激戦区です。私は自分の力が試せて、発展性があり、他院と揉まれるような環境でやっていきたいと思って、福岡で開業しました。ある程度、情報や競争があった方が切磋琢磨できますしね。
開業にあたってのコンセプトやこだわりをお聞かせください。
開業当時、那珂川町はまだ栄えておらず、歯科医院の周りには何もありませんでした。地面が全部土で、化石の発掘をしていたようなところでしたが、15、6年の間に新幹線の博多南駅周囲も栄えました。発展性という点で面白い地区ですね。
医療機器に関しては、基礎固めをしながらその時点で身の丈にあった購入をしようと思いました。最初から医療機器のみを過度に取り入れると、倒れてしまうリスクがありますからね。資金面で苦戦してしまったら、患者さんに迷惑をかけたり、見えない何かを強いるような事態になるかもしれません。どんなに最新鋭の機械を入れても、その機械が全てやってくれるわけではありません。機械を使うのはあくまでも人間なので、できるだけ気を付けて、人に対するものは人で対応しようというコンセプトで行っています。
経営理念
経営理念をお聞かせください。
基本的なことですが、中心は患者さんにあるということですね。本音の部分での患者さん満足度を重視しています。患者さんに対して本当によかれと思った行動をし、フィードバックもして、それが上手くいくと、結果として患者さんは増えるし、経営も安定します。全て後からついてくるものなのだと思います。基本は算術ではなく、心と技術の問題です。それからが出発点なのです。歯科医師にも、スタッフにも言っていることですが、「まずは患者さんありき」ということですね。
増患対策
どんな増患対策をなさっていますか。
最近、コンピューターでアポイントメントを入れ、予約の最適化を図るシステムも流行っているようですが、細かな診療内容と状況判断ができないこともあります。私どもの場合は複数の歯科医師がいますし、チェアも多いので、「受け入れられません」というお断りはしないようにと言っています。
経営理念とも繋がるのですが、増患対策は患者さん満足度を上げることですね。私どもでは急患、それから困っている患者さんはとりあえず引き受ける体制をとっています。患者さんの満足が叶うようなものをできるだけ迅速に与えるような形であれば、結果的に増患になると思います。
歯科医院側から見ると1対100の患者さんですが、患者さんから見たときには1対1なのだということを常に念頭に置き、受付も含めた形での患者さん対応やアポイントメントの取り方をきちんと行えば、おそらく増患に繋がるのではないでしょうか。
スタッフ教育
スタッフ教育について、お聞かせください。
院長が嘘をついていれば、スタッフはついてきてくれません。スタッフには心を持って接し、心を持って教育をしていますし、常日頃から軽くその気持ちが伝わるように心掛けています。歯科医院をいい環境にするためには、スタッフに対して、私どもの経営理念や経営者としての私自身の理念を本音で話すことが必要だと思っています。ミーティングのときだけではなく、普段のコミュニケーションの中でも伝えるようにしていますね。何かあった場合には「後で」とはせず、午前中のことは午前中、午後のことは午後など、即日に対応しています。個別のスタッフに「午前中のこれ、おかしいんじゃない」などと、嫌味をいれない、しかし、出来るだけストレートな表現で話をします。すると、スタッフからも意見が出ますし、治療に関しては院内ドクター相互のセカンドオピニオンが取れる形になっています。
お互いがストレスを感じずにストレートに言い合えるような歯科医師とスタッフ、歯科医師同士、もしくは経営者とスタッフとの関係が理想ですね。距離を縮めた関係を作りつつ、できたら褒め、駄目なときは愛情を持って怒ります。子育てと似ていますよ。そういったディスカッションができた方が患者さんに良いものがフィードバックできると思っています。
今後の展開
今後の展開について、お聞かせください。
無理な経営をするつもりはありませんが、今後、タイムリーなもの、ジャストないいものがあれば、積極的に取り組んでいきたいです。拡張も含めた形で、分院展開も行っていきます。
本院勤務の歯科医師も、分院長として勤務している歯科医師も、いずれは開業しますから、どの歯科医師にも本気になって、将来のために本気のアドバイスをしつつ、お互いに発展性をもった良い人間関係・組織作りが構築できればと思っています。
開業に向けてのアドバイス
開業に向けてのアドバイスをお願いします。
勤務医時代はただ勤務している、人に使われているということではなくて、何事も将来の自分への肥やしになるという意識で勤務することが大事です。急患対応などを全く引き受けない方もいますが、急患を見て、心が痛む人であってほしいです。「ああ、もう30分待たせている、1時間も待たせている、何かできないかな」と思ったら、自分で引き受けてみてはどうでしょう。それは必ず将来の勉強になると思います。
決められた時間の中で、どういう処置・説明をして、全ての患者さんに80%の満足度を与えるかを考えることが大切です。一人の患者さんは100%の満足度だけれど、一人は30%だったということでは患者さんは増えていきません。全部の患者さんにあるレベル以上の満足感を得ていただけるような習慣付けを最初からしておけば、開業したときにもスムーズに急患対応もできるようになります。患者さんが「何とかできないですかね」と無理をおっしゃったとしても、「無理です」と一言で済ませるのではなく、患者さんと一緒に考えていける歯科医師になれるはずです。そのためには学生の頃から色々な経験をして、人の気持ちが分かるようなアンテナを何本も立てておく癖をつけておくといいですね。
また、開業にあたっては身の丈に合った、背伸びをしない、確実な開業をしていただきたいです。第三者に惑わされないで、自分なりのマーケティング、将来設計をする必要がありますね。特に、立地や規模に関しては、落ち着いて、決めていかれるといいでしょう。
プライベート
プライベートの時間はどんなことをして過ごしていらっしゃいますか。
サーフィン、車、バイク、お酒などです。自分の好きなことをする時間をつくることが、仕事のやる気に繋がっている気がします。