歯科経営者に聴く ~第一線で活躍する院長から学ぶ~
医療法人 ヴェリタス オーラルケアセンター うえの歯科医院 上野 友也 理事長
横浜市鶴見区は横浜市の最東端に位置する、長い歴史を有する区である。人口27万人余りを数える、横浜市の副都心でありながら、曹洞宗の大本山である總持寺や神奈川県立三ツ池公園など、緑が豊富な環境も広がっている。
医療法人ヴェリタスオーラルケアセンターはうえの歯科医院を核とし、鶴見区馬場で開業している。立地はJR京浜東北線の鶴見駅と東急東横線、JR横浜線の菊名駅を結ぶ川崎鶴見臨港バスのバス通り沿いで、5台分の駐車場を確保している。うえの歯科医院では高度な治療技術や最先端の医療機器を充実させているほか、安全性や空間の快適さにこだわった歯科医院作りを進め、2013年夏には近隣に新築移転を行う予定である。
今回は医療法人ヴェリタスオーラルケアセンターの上野友也理事長にお話を伺った。
医療法人 ヴェリタス オーラルケアセンター うえの歯科医院 上野 友也 理事長
プロフィール
- 1968年・北海道 生まれ
- 1993年 鶴見大学 卒業
- 1993年 東京医科歯科大学歯学部附属病院 勤務
- 1995年 東京都の歯科医院 勤務
- 1998年 神奈川県の歯科医院 勤務
- 2002年 うえの歯科医院 開設
- 2004年 医療法人ヴェリタスオーラルケアセンター理事長 就任
- 2005年 鶴見大学歯学部歯科医師臨床研修協力型施設
- 2008年 グループホームここすこ鶴見協力施設
- 2012年 横浜歯科技術専門学校臨床実習協力施設
開業に至るまで
歯科医師を目指されたきっかけはどのようなものだったのですか。
父は国家公務員で転勤が多く、私は北海道で生まれたあと、横浜、長野、宇都宮で育ちました。従兄は歯科医師でしたが、直接の影響はあまりなく、兄が歯科技工士になったことの方が私が歯科医師を目指すきっかけとなったと思います。兄は私に歯科医師になれとは言いませんでしたが、両親が兄と一緒に仕事をしていくことを望んでいましたし、両親の思いを汲みました。
大学時代はどういう学生生活でしたか。。
スキー部に入っていました。上下関係や礼儀などはスキー部で学んだことですね。私は苦学生で、しかもスキー部はスキー板やウェア、合宿などにお金がかかるので、飲食店でのアルバイトも頑張っていました。調理場で洗い物や調理補助をしたのですが、このときに調理師免許も取得したのですよ。飲食店でのアルバイトで得たことは段取りよく仕事をするということで、歯科医師になってからも活かされているスキルですね。
勤務先を選ばれた理由はどんなことだったのでしょうか。
私たちの頃は今のような研修制度がなく、いきなり歯科医院に勤務することの判断がつかなかったので、まずは大学病院で研修医になることにしました。その後、臨床研修必修化が法制化されることは分かっていたので、研修医修了という履歴があった方が私自身が研修医を育てていく際にも役に立つのではないかとも考えました。
そして、歯科医院で勤務医になられたのですね。
大学病院での研修終了後、東京都内の歯科医院に勤務しました。それまで20カ所ぐらいの歯科医院に応募したのですが、うまくいかなかったのです。ある歯科医院で「君は知り過ぎていて、使い辛い」と言われたこともあります(笑)。そこで、紹介をいただいたところに勤務することになったのですが、院長先生が不在がちで、5学年上の先輩がいらっしゃるだけでした。その先輩も3カ月で退職されたのです。私は研修医時代に培ってきた診療をひたすら行い、一方でセミナーや研修会に参加して技術を学ぶという日々でした。歯科医院のシステムの中では一人で行うことに限界もあります。そういうトライ&エラーの毎日を3年ほど過ごした頃に、後輩の歯科医師が入職してきました。
神奈川県の歯科医院にも勤務されていますね。
この歯科医院も紹介をいただき、お世話になることにしました。現在も数十台のユニットをお持ちの歯科医院ですが、当時から精力的に経営されており、ユニットも7台ありました。がむしゃらに働いた時代でした。
開業しようと決断されたいきさつはどんなことだったのでしょう。
私は歯科医院の売上の3分の1を担っており、このまま勤めていてもいいかなと思っていましたが、一方で10年後もこのペースなのはきついと感じていました。そこで、自分のビジョンを持って働き続けるためには開業しかないと考えるようになりました。目指す理想がなければいけないと思ったのです。33歳のときでした。
開業にあたって、どんな苦労がありましたか。
保証人を探すことですね。父は既に退職して年金生活を始めており、保証人になれなかったのです。そこで、開業を考えたときから付けていた5年分の帳簿や事業計画書、リサーチ結果をまとめた書類などを持って、色々な方にプレゼンしました。「東京や神奈川で開業するなんて、無理だ」などと言われ続けましたが、経営者である従姉の夫が「そこまで準備しているなら、大丈夫だろう」と理解を示してくれました。5000万円ほどの資金を借り、自己資金は運転資金に回しました。
開業のためにほかにどんな準備をされましたか。
患者さんへのインタビューを行いました。患者さんに「今の歯科医院に求めるものは何ですか」と伺ったのです。患者さんからは臭いが嫌だとか、明るい歯科医院がいいとか、モニターがあった方がいいという声をいただき、そういったニーズの具現化に努めた結果がうえの歯科医院です。開業医は自分の診療所のことを「自分の城」という言い方をよくします。その根底には「自分がどんな歯科医院を作りたいのか」という考えがあるのでしょう。しかし、私は自分の考えよりも患者さんのニーズを優先したいですし、「患者さんからどんな歯科医院が求められているのか」という観点から開業準備を進めました。
開業地はどのように選ばれたのですか。
東京都の葛西から横浜市の二俣川まで、かなり広範囲で探しましたよ。ただ、駅前は競合が多いので、避けようと思っていました。激戦地で勝ち抜いていく自信がなかったのです(笑)。この場所はマーケティングリサーチの結果から決めました。駐車場が取れるところや拡大余地のあるところが決め手になりましたね。
レイアウトや内装などのこだわりをお聞かせください。
レイアウトはスタッフが動きやすい動線であること、機材が見えないこと、臭いが気にならないことという注文を出したぐらいですね。レイアウトのイメージを伝えた段階で、内装も順調に決まっていました。ユニットは3台でスタートしました。4台までの増設は想定内でしたが、その後、院長室と医局だったところを改装し、さらに2台の増設を行いました。 レイアウトはスタッフが動きやすい動線であること、機材が見えないこと、臭いが気にならないことという注文を出したぐらいですね。レイアウトのイメージを伝えた段階で、内装も順調に決まっていました。ユニットは3台でスタートしました。4台までの増設は想定内でしたが、その後、院長室と医局だったところを改装し、さらに2台の増設を行いました。
開業にあたってのコンセプトとはどのようなものだったのですか。
誰もが寛げる歯科医院を目指すということですね。「歯医者は痛そうで怖い」とか、「ちゃんとした治療をしてもらえるか不安」などと、歯科治療にネガティブな印象を持ってしまい、そのために歯科医院を敬遠される方々が数多くいらっしゃいましたが、私は歯科医師の一人として、そういったイメージを払拭し、歯科医院をもっと気軽に利用していただきたいという想いを抱いたのです。
経営理念
経営理念をお聞かせください。
ヴェリタスオーラルケアセンターの医院理念は3つあります。「医療人として、『患者様のために』を常に考え常に行動します。」、「医療人として常に最先端の技術を目指し、良質な歯科医療サービスを提供します。」、「医療人として、歯科医療を通じて社会に貢献します。」です。
また、16項目からなる、ヴェリタスオーラルケアセンタークレドも設定しています。理念やクレドはコンパクトに印刷し、全てのスタッフが常に携行しています。
理念があることで、理念を中心に物事を判断できるようになります。そして、正しい判断に繋がっていきますので、理念の持つ重要性も繰り返しスタッフに伝えています。
診療方針
診療方針をお聞かせください。
インフォームドコンセント、院内感染対策、IT化、バリアフリーの4つが代表的な方針です。このうちインフォームドコンセントはカウンセリングの重視ですね。
院内感染対策としてはヨーロッパ基準クラスBをクリアした高圧蒸気滅菌器やホルマリンガス殺菌器のホルホープデンタルを導入しています。滅菌専門のスタッフを配置し、あらゆるものを滅菌処理しながら、インフェクションコントロールに努めています。
IT化は最新デジタルX線装置、3D撮影機能、電子カルテシステム、解析ソフト「シムプラント」の導入などが挙げられます。
バリアフリーは5台分の広い駐車場を完備し、歯科医院内も段差をなくした建築で、どなたにも優しい診療所を目指しています。
どの方針も患者さんに笑顔でお帰りいただくことに繋がっています。歯科は嫌なイメージがあるものですが、そこを笑顔になっていただく場所と捉えることが大切です。患者さんが笑顔になる理由は診療の満足度であっても、スタッフとのコミュニケーションの満足度であってもいいのです。スタッフには「自虐ネタを話してもいいから、笑っていただきなさい」と伝えています(笑)。どんなにいい診療であっても、スタッフのコミュニケーションスキルが低いと、感じ悪いと思われてしまいます。飲食店もそうですが、スタッフの感じがいいところに行きたいものですしね。
増患対策
どのような増患対策を行っていらっしゃいますか。
現在は1日に約70人の来院患者さんがあり、自費率は35%から40%といったところです。増患対策はアナログの広告としては2カ所に野立ての看板を出している程度で、重視しているのはウェブです。うえの歯科医院とヴェリタスインプラントサロン横浜のホームページが2つと、ライブドアブログでスタッフブログを2つ、アメーバブログでスタッフの就職支援ブログを1つ展開しています。
患者さんの来院動機は患者様の身内、紹介、ホームページ、近所の方、看板、タウンページ、そのほかの広告の順番ですね。身内と紹介で50%を占め、ホームページ経由は30%、タウンページや雑誌の広告などからは10%程度です。
しかしながら、一番の増患対策は患者さんの満足度を向上させることです。きちんと診療して、満足してお帰りいただければ、増患対策になっているのだと信じています。
スタッフ教育
スタッフ教育について、お聞かせください。
歯科医師、歯科衛生士、歯科助手それぞれにラダーシステムでのカリキュラムを作っており、ラダーごとに試験をしています。
教育にあたっては人間力を向上させることがベースです。技術職ですので、どうしても技術の向上を追い求めてしまいがちになりますが、どんなにいい技術を持ち、どんなにいい機械を導入しても、使いこなすのは人間なのです。ハードを使えるソフトとしての人間の力を伸ばすために、院内で接遇セミナーを開催したり、院外での研修に参加してもらっています。スタッフが人として成長することで、患者さんを幸せにできます。そして医院を発展させることに繋がりますので、これからもスタッフ教育に力を入れていくつもりです。
うえの歯科医院で行っている「体感型説明会」とはどのようなものですか。
私どもは2002年に開業しましたが、最初の4年間は私とスタッフの衝突が相次ぎ、スタッフが入れ替わり続けました。悔しかったし、自分の不甲斐なさを感じましたが、自分自身が変わらなくてはいけないと思うようになりました。自分の正しさを押しつけることで、スタッフにやりにくさを感じさせたのではないかと気付いたのです。そこで、理念やビジョンを共有すること、経営戦略や組織の運営方法を明確にすること、コミュニケーションの取り方を改善することなどに取り組み始めました。
そして、「最幸」のチームを作るべく始めたのが「体感型説明会」です。
私どもの軌跡をまとめたムービーを上映し、私どもの歯科医院や採用プロセスを紹介します。私は10年後のビジョンを話しますが、これがその人と合うかどうかが大事です。アルバイトやパートなら恋愛と同じですが、常勤で勤めるというのは結婚と同じですからね(笑)。退職理由が歯科医院との価値観の相違というのは良いことではありません。自分が求めているものと歯科医院が求めているものが同じであれば、そこに遣り甲斐が生まれるのです。そのうえで、同じテーブルになった人たちとシェアし、サービス力やチーム力を体感するワークを行ってもらいます。
「体感型説明会」はどのような効果を生んでいますか。
歯科医院を選ぶ理由が給料ありきであれば、なぜ給料が上がらないのかという不満が出て、仕事に遣り甲斐を持てなくなります。しかし、価値観を共有しようとすると、同じ価値観の人はそんなにいないのだという気付きが生まれます。色々なワークを通して、同じ感想を持つ人はいないこと、解釈や価値観は無数にあることが体感できるのです。
「体感型説明会」ではスタッフになる前から、患者さんを笑顔でお帰りいただくために不可欠なサービス力を伝授しています。また、チームで力を合わせて、一つの物事に取り組み、ともに達成する経験や喜びに触れることができる機会でもあります。毎回、好評をいただいており、次回は2013年3月に開催します。
今後の展開
今後の展開について、お聞かせください。
2013年の夏に現在地より100メートルほど離れた場所に新築移転を行います。延べ床面積は130坪で、ユニットはマックス18台設置できますが、まずは10台からスタートする予定です。
これに伴い、管理栄養士と保育士の募集も行います。管理栄養士は栄養指導やサプリメント外来を担当するほか、タニタさんの食堂のような社員食堂を作る予定なので、そこに関わってほしいのです。私どもは若いスタッフが多く、「野菜が高いから買えない」などと申しますので、社員食堂で栄養価の高い食事を提供することも福利厚生として必要です。もちろん、外部の方にも来ていただけるような食堂にします。
一人暮らしの高齢者の方も多いので、夜はお酒とともに、ヘルシーなおつまみもお出しして、楽しんでいただければと思っています。
保育士は託児室のためです。保護者の方が子どもさんを預けて、ゆっくり歯科治療に臨んでいただけるよう、託児室を新設します。患者さんだけでなく、スタッフが結婚、出産しても退職しないで済むように、スタッフにも使ってもらいたいです。このあたりは待機児童も多いので、将来は認可施設を目指したいですね。
開業に向けてのアドバイス
開業に向けてのアドバイスをお願いします。
私は徹底的にリサーチをしました。また、通常の折込広告は開院日や場所を知らせる程度のものですが、私はサイトに載せているようなことまで載せて、近隣のみならず、綱島あたりまで配布しました。しかしながら、今はウェブメインになっていますし、開業前からサイトを構築されている歯科医院も多く、いいことだと思います。そういったウェブに加えて、看板などのアナログな広告をどう組み合わせるかが大事です。
こういったご時世ですから、開業だけがゴールという姿勢は良くないです。ご自分が開業を通して何をしたいのかということよりも、患者さんのために何ができるのかということを優先させてください。私の判断軸はいつもそこにあります。私自身は経営に長けているわけでもなく、数字を追いかけているわけでもありません。「何をしたら、患者さんが喜ぶのか」、「行くのだったら、うえの歯科医院が一番と思ってもらうためにはどうしたらいいのか」ということを常に考えています。「患者さんを第一に」という姿勢は歯科医師としてのあるべき姿ではないでしょうか。
プライベート
プライベートの時間はどんなことをして、過ごしていらっしゃいますか。
ビジネス書などの読書のほかは、食べることが好きなので、「お取り寄せ」を楽しんでいます。少し時間に余裕があったら、映画に行くこともあります。先日は妻と「のぼうの城」を観に行ってきました。