歯科経営者に聴く ~第一線で活躍する院長から学ぶ~
医療法人社団優勢会 ブライト歯科クリニック 高橋 克彦 理事長
千葉県我孫子市は利根川と手賀沼に挟まれた、茨城県との境に位置する街であり、JR常磐線と成田線、国道6号と国道356号が分岐することから、都心へのアクセスに恵まれた立地である。江戸時代から水運が栄えていた地域だが、常磐線、成田線の開通以来、ベッドタウンとして、人口が急増している。
ブライト歯科クリニックは常磐線、成田線が通るJR我孫子駅前に2003年に開業した歯科医院で、今年5月、我孫子駅から徒歩2分の場所に移転を行ったばかりである。移転に際してはCTとセレックを導入し、より質の高い歯科診療を実現している。
今月はブライト歯科クリニックを傘下に持つ、医療法人社団優勢会の高橋克彦理事長にお話を伺った。
医療法人社団優勢会 ブライト歯科クリニック 高橋 克彦 理事長
プロフィール
- 1972年 東京都生まれ
- 1997年 昭和大学卒業
- 1997年 大手医療法人 勤務
- 1999年 個人歯科医院 勤務
- 2001年 大手医療法人 勤務
- 2003年 ブライト歯科クリニック 開設
- 2008年 R歯科・矯正歯科 開設
- 2009年 技工所 開設
【開業に至るまで】
■歯科医師を目指されたきっかけはどのようなものだったのですか。
父は医療とは関係のない仕事をしていますが、親戚には歯科医師がいました。最初は医学部志望で、高校から推薦ももらっていたのですが、医学部は授業料も高く、迷っていました。そのとき、予備校の先生から「歯科は早く独立できる」と伺ったことがきっかけとなり、歯学部を出願することになりました。高校3年の11月頃で、ぎりぎりの時期でしたが、高校から推薦もいただけて、入学することができました。
伯母が日本画家で、私も油絵を習っており、伯母からも手先が器用だと誉められていましたし、彫刻を含めて美術全般を習っていたので、センスにも自信がありました。そういうスキルを治療に活かして、患者さんに提供していきたいと考えていましたし、祖父や伯父が薬剤師で、店を構えていましたので、私も早い段階から開業を視野に入れていました。
■大学時代のエピソードをお聞かせください。
昭和大学は1年次は全学部が一緒に富士吉田キャンパスで寮生活を送ります。私は医学部志望でしたので、最初は医学部生を見ると、医学部への未練を感じていましたが、朱に交われば赤くなるで、歯学部で頑張るしかないと思うようになりました。それからアルバイトに打ち込みましたね。いろいろな業種のアルバイトを経験しサービス業の大変さを学びました。アルバイトは開業後のサービスに必ず役に立つと信じていましたが、本当でしたね。患者さんの視点での診療や患者さんとお話する際にとても役に立っています。
■勤務先を選ばれた理由はどんなことだったのでしょうか。
何のつてもありませんでしたので、大学に来ていた求人票の中から選びました(笑)。ただ、私としてはインプラントや外科に強い医院がいいと思っていましたので、理事長がインプラント学会の指導医でいらしたことが大きかったですね。インプラントは時代のニーズがあるという予感もありましたし、分院を多く展開していることにも惹かれました。
■個人の歯科医院にも勤務なさったのですね。
大学の先輩ではないのですが、大学時代から存じ上げていた先生の歯科医院にお世話になりました。それまでは数をさばくという感じだったのですが、私はインプラントや補綴をしっかり学びたかったのです。個人医院では保険であっても、自費であっても、一人ずつきちんと診るという姿勢を教わりました。給料は下がりましたが、今は治療技術を磨く時期だと考え、ひたすら努力しました。そして、また大手の医療法人で分院長を任せていただけることになり、大手の医療法人に戻りました。
■分院長の経験はいかがでしたか。
住宅街の中にあった分院で、居抜き物件だったところです。理事長からは「お前の力を試してみろ」と言われて送り出されましたが、最初は患者さんが全くいらっしゃらなかったですね。ご近所を回り、お子さんたちとキャッチボールすることから始めました(笑)。こういうときにアルバイトの経験が役に立ったと思いましたね。パートのスタッフが一人いただけでしたので、ユニットの清掃も自分でやっていました。そのうち、患者さんがいらっしゃるようになり、口コミでの紹介も増えていきました。
■開業しようと決断されたいきさつはどんなことだったのでしょう。
退職する1年前に、我孫子駅前のイトーヨーカドーの前に新しいビルが建つと聞き、そこで開業しようと思いましたが、私は30歳までに開業すると決めていたので、時間との戦いでした。結果として、30歳の誕生日の1カ月前に開業することができ、自分との約束をきちんと果たせました。
ビルのオーナーさんから1階を歯科にしたいと伺いましたので、床上げが必要で、建設会社とのやりとりに時間がかかりましたね。内装費用を安くするために、サーフィン仲間の後輩の職人さんに来てもらったり、仲間内でできることは仲間内で済ませました。ユニットも2台でしたし、デジタルではありましたが、リースも活用して、最低限の機器のみで開業しました。
■患者さんは最初から多かったのですか。
我孫子駅前ですし、人通りがあるのに、3カ月近くはいらっしゃらなかったですね。遊びに行くこともなく、外食すら出かける余裕がありませんでした。高校の同級生が北海道から帆立を送ってくれて、バター焼きや醤油焼をして耐えていたこともあります(笑)。そのうち、徐々に患者さんが増えてきて、半年で軌道に乗り、非常勤の歯科医師にも来ていただけるようになりました。1年後には非常勤の歯科医師が3人にまで増えていましたよ。私どもで大学病院レベルの矯正が可能だったことも大きかったように思います。
■移転にあたってのコンセプトやこだわりなどをお聞かせください。
1階を歯科医院、2階を事務所にして、10年ほど診療してきましたが、手狭になったこともあり、今年のゴールデンウィークにこの場所に移転を行いました。この場所はもともと内科のクリニックが入居していたのですが、移転されたので、空き物件になったのです。
今回の移転に関しては、CTとセレックを導入し、CTとセレックをリンクさせることで質の高い手術をしたり、補綴物の設計を可能にすることが狙いで、設備投資としては大きかったですね。このリンクですと、ステントを用いて正しい位置にインプラントを埋入することができますし、CTでシミュレーションして、セレックもフル活用してという補綴誘導型で治療できます。
また、私どもには技工所がありますので、手直しなどはそちらでやっています。歯科技工士が10人弱いますので、急ぎにも対応できるのが強みですね。CT、セレック、技工所とオールインワンで行っている自負を持っています。
千葉県にいながら、都心部の歯科医院と同じレベルの診療と雰囲気を実現させています。患者さんの中には「ホテルのように綺麗」とおっしゃったり、待合室で靴を脱がれる方もいらっしゃいますよ(笑)。
【経営理念】
■経営理念をお聞かせください。
医療人としての父のもとで育っていませんので、父の背中を見てきたわけではありません。しかし、医療従事者として、患者さんに適切な医療技術とサービスを提供したいと願っています。そして、人と人との繋がりをきちんと構築していくことが経営のベースになっている考えです。
【診療方針】
■診療方針をお聞かせください。
患者さんを常に自分の身内と思って、診療することですね。そして、30分に1人という枠を守って、ゆとりを持って、きちんとした診療を心がけています。また、インフォームドコンセントを徹底し、予知性のある診療計画を作っています。「今はこれでいい」というのではなく、「今後を考えて、こういう治療をした方がいい」ということを患者さんに丁寧にお伝えするようにしています。
【増患対策】
■どのような増患対策を行っていらっしゃいますか。
地域新聞を作っている会社の社長さんが患者さんでお見えになり、割引をしていただいたこともあって、ずっと出稿しています。この新聞広告はかなり反響がありましたね。私どもでは本部を作っており、どういう広告展開を行うかは本部で決定しています。ホームページも同様で、本部主導で進めています。私どもは基本的には駅前にしか展開しないのですが、野田市のR歯科・矯正歯科に関しては、野田が車社会ということもあって、県道沿いに看板を出しています。
【スタッフ教育】
■スタッフ教育について、お聞かせください。
基本的にマニュアルがありますが、スタッフ一人一人がどのようなホスピタリティを持っているかということを重視しています。各歯科医院にチーフがおり、月に一度のミーティングの機会に、チーフ間で問題点を共有し、解決を図っています。大きな問題に関しては、チーフが本部に上げ、判断を迫れれば、私が決断します。私どもではそれぞれの歯科医院で患者さんの層が大きく異なりますので、それぞれの現場で臨機応変に対応していますが、全体の経営方針の統一化は大事ですね。
このほど、綺麗な歯科医院に生まれ変わり、「ここで働いてみたい」と言っていただける雰囲気作りができてきました。スタッフが皆、私どもの診療方針やスタイルについてこられるように、教育には一層、力を入れていきます。
■若手の勤務医にどのようなことを伝えていらっしゃいますか。
私自身は若い頃は経営で一杯になってしまって、なかなか歯科医療に本腰を入れられないところがありました。今は余裕もでき、自分に投資できる時間も増えましたので、勉強してきた知識や技術を若い先生方にお伝えしています。昔のように、「見て覚えろ」という時代ではありませんので、若い先生方とのミーティングには時間をかけています。
【今後の展開】
■今後の展開について、お聞かせください。
ブライト歯科クリニックを開業した頃は分院を展開することは全く考えていませんでしたが、地域の方からのニーズをいただき、2つの分院を開業し、ブライト歯科クリニックの移転を行うことができました。今は一休みの時期ですね。これからはいい場所があれば、慎重に検討したいと思っています。
【開業に向けてのアドバイス】
■開業に向けてのアドバイスをお願いします。
歯科医院が過剰になり、需要と供給のバランスが崩れていると言われていますし、患者さんが歯科医院を選ぶ時代になりました。昔は治療よりも話の仕方などで歯科医院が選ばれていましたが、今は本物しか生き残れない時代になっています。
そこで、勤務医時代に色々な経験を積んで、治療技術を向上させ、歯科医師としての方向性を確立してほしいですね。経営にも足を突っ込んで、積極的に関わる姿勢を身につけてください。分院長になっても、腰かけだからいい、自分さえよければいいという姿勢ではなく、責任感を持ってほしいです。業者さんなどから「立地がいい」と勧められて開業しても、何か一つでも特色を打ち出せないと、患者さんが増えることはありません。歯科は大きな借金をしてまで開業するものではないし、大企業でも借金が大きいと途端に経営を悪化させます。借金をなるべくせずに、スマートな開業を目指したいものです。
開業医が全てではありません。開業医に向いていないという理由で、勤務医をずっと続けている歯科医師もいます。しっかりした法人に勤務し、骨を埋めるという選択肢も有効だと思います。
【プライベート】
■プライベートの時間はどんなことをして過ごしていらっしゃいますか。
休日はできるだけ、子どもと一緒に過ごしたいと思っています。郊外に連れて行って、虫取りをしたり、かぶと虫を捕まえるときの仕掛けを教えてやったりしていますね。自然との触れ合いのほか、スポーツをする機会も大事にしたいので、ボール遊びや水泳も一緒に楽しんでいます。
また、異業種の方との意見交換も楽しみな時間です。院長や理事長になってしまうと、院内ではなかなか意見される機会がないので、ほかの業種の社長さんなどとお会いし、どういう時代なのか、どういうニーズがあるのかといったお話を聞かせていただきながら、経営について学んでいます。