やさしい心理学から学ぶコミュニケーション術

チーム医療!患者さんが信頼を寄せるクリニックづくり ~やさしい心理学から学ぶコミュニケーション術~【第9回】 こんな時どうする?!患者さんの対応を考えよう!――患者さんの世界を理解しよう!「頼んでもないのに!」と怒る急患の患者さん

坪野慶明 医療法人社団 桜実会 おおど歯科クリニック 理事長

水木さとみ (Mizuki Satomi)

オフィシャルホームページ
http://www.mizuki-satomi.jp/
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周知の通り、美容師業界は大変厳しい社会です。
一人前の美容師を目指して、技術を磨くためには、勤務時間を終えた後も日々のトレーニングが続きます。

今回は、ある若手美容師さんのお話です。
歯の痛みを感じていたにもかかわらず、多忙な毎日、ついそのままにして放っておいたそうです。
ある日、痛みはピークに達し、気づくと患部は腫れあがり、発熱してしまいました。

さすがにこれはいけないと感じ、業務終了後に、空いている歯科医院を見つけ、飛び込みで入ったそうです。

急患で来院した彼に、応急処置がなされ、ほっとしたのも束の間、何やら歯ぐきに針のようなもので「2・3・3・・・」と数字を言いながら、歯ぐきをチクチク刺してきたと私に語り始めました。

彼の話は、さらに続きます。
「どう思います?ひどいですよね!そんな歯医者ってあるんでしょうかね?! 僕は痛い歯だけを治療して欲しいとお願いしただけなのに!何の説明もなく、頼んでもないのに、勝手に歯ぐきをチクチク刺して、あとでその治療費まで請求されたんですよ! 納得いかないです! そんなことってあるんですかね?! 全くひどい話です! 行かなきゃ良かった!」と悔しい気持ちを抑えられないようでした。

歯科のお仕事に携わっている方なら、もうお分かりですね!
そう、彼になされたのは歯周病検査、歯周ポケットの測定だったのです。
歯科医院にとっては、歯の健康を守る意義から、患者さんのためにと実施した検査だったはずです。
なのに、残念ながら、患者さんにとっては全くもって不条理な認識としてとらえれられてしまったのです。

私は、彼に「本当に、何の説明もなかったの?」と尋ねてみました。
彼は「ん~・・・そうですよ」と、少し自信なさそうに返答してきました。

私は「“歯周病”とか“ポケットを測る”などという言葉は出てこなかったかな?」と質問すると、彼は、記憶を思いだすかのように考えながら「あ~、そう言えば、なんだかそんなことも言ってたかもしれません・・・」と返答しました。

私は、歯周病の話から、それを予防することの重要性を彼に伝え、その歯科医院はとっても良いクリニックだということも沿えました。

すると、彼はびっくりしたかのように「えっ!だって僕、まだはたち(20歳)ですよ!歯周病ってもっと歳とってなるものではないんですか?」と言うのです。

患者さんの世界は、時に、私たちの想像もしていないことが生じています。
急患で来院した先のクリニックでは、歯科衛生士さんが歯周病予防の重要性を彼には伝えたのだと思います。

しかし、彼の認識は“歯周病は歳をとった人がかかるもの、20歳の自分には関係のないこと”と思い込んでいたので、歯科衛生士さんのお話は頭にはいらなかったことが想像できます。ですので、彼にとっては「頼んでもない治療をされた」となってしまったのでしょう。

実は、このようなエピソードは決して珍しくありません。

ある日、タクシーに乗った時のことです。
たまたま信号待ちしていた横に歯科医院の看板が目に入りました。
運転手さんは思い出したかのように「最近の歯科医院はよくわかんないですね。実は先日、虫歯の治療から被せものをすることになったんですよ。それがね、直ぐに入れてくれないんですよ。何だか関係のない歯の掃除ばかりされてね・・・あげくに、予算外の治療費を払わされましてね、不景気だからですかねぇ、うっかり歯医者にかかれませんね」と話しだしました。

ここでも私は、運転手さんの思いを労いつつも、補綴物をセットする際、歯周病治療をすることがいかに大切で意義のあることなのかを解説しました。

運転手さんは「そうだったんですか~! じゃあ、その歯医者さんは良心的な歯医者さんだったってことですね?!僕はラッキーだったのかぁ」と納得した様子でした。

歯科治療(予防)にあたって、こちらの説明が、必ずしも患者さんに正しく伝わっているとは限りません。
時に、こちらの発信した情報が、患者さんにとって誤解や思い込みとなって認識してしまうことも少なくありません。

大切なことは、こうした事実を前提に、私たちは患者さんとのコミュニケーションを進めていかなくてはならないということです。
説明を終えた時には、必ず患者さんにフィードバックする習慣を身につけておくことをお勧めします。


例)


  • ・ここまでの説明で、なにかわかりにくかったところはありませんか? (一般的なフィードバック)
  • ・他の患者さんからは、○○に関してのご質問がよくあるのですが、その辺はいかがでしょうか?  (例を挙げたフィードバック)
  • ・○○さんの治療に関しましては、******が重要なのですが、よろしいでしょうか?  (重要ポイントの確認)

患者さんが安心して治療(予防)に臨めるよう、適切な配慮を心がけましょう!