チーム医療!患者さんが信頼を寄せるクリニックづくり ~やさしい心理学から学ぶコミュニケーション術~【第3回】 こんな時どうする?!患者さんの対応を考えよう!――TBIを拒否する患者さんへの対応
水木さとみ (Mizuki Satomi)
- オフィシャルホームページ
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患者さんは50歳代前半の女性です。担当歯科衛生士がTBIをしようとしたところ、突然患者さんから「歯ブラシの仕方ならしなくていいわ!」と言われてしまいました。
担当歯科衛生士は「歯の健康のためには、やはり、日頃のケアが大切な・・・・」と、TBIの意義を伝えようとした途中で、患者さんは「だからいいって言っているでしょ!歯ブラシのやり方なら結構よ!」と苛立ちを隠せない様子です。
さて、こんな患者さんに遭遇したら、あなたならどのように対応しますか?
◆患者理解を深めよう!
効果的な対応に当たっては、2つの重要ポイントがあります。最初のポイントは、患者さんの「言動」に隠された理由を理解しなくてはなりません。
人の行動には必ず理由が存在します。
この患者さんも例外なく、TBIに抵抗を示す態度の背後には、必ず理由が存在しています。
2つめのポイントとしては、患者さんの歯ブラシに対する意識について、理解する必要があります。
この患者さんは、歯ブラシの重要性をあまり理解していないため、このような態度をとってしまっているのでしょうか?あるいは、歯ブラシの重要性を理解しているにもかかわらず、拒否しているのでしょうか?
前者(歯ブラシの重要性を理解していない患者さん)であれば、その重要性を伝えなくてはなりません。解説する際には、患者さんに関心を持って頂くために、こちらの一方的な説明にならないように配慮し、患者さんに発言して頂きながらラポール(信頼関係)を形成していきます。
「歯科予防知識に関するQ&A」など、患者さんに質問を投げかけて回答して頂くなどのクイズ形式で進んでいく方法も有効です。
一方、後者(歯ブラシの重要性は理解しているにもかかわらず、TBIを拒否する患者さん)に関しては、患者理解を深めていく必要があります。
その具体的なアプローチを2つのケースから解説していくことにしましょう。
◆効果的なアプローチ法!
担当の歯科衛生士からみても患者さんの印象は決して良いものではないでしょう。こんな時、「この患者さんはプライドが高そうだから歯ブラシ指導なんて受けたくないのだわ」 「この患者さんは口腔内の健康管理を全てこちらに押しつけようとしているのかもしれない」などと、歯科衛生士サイドで勝手に患者さんのイメージを決めつけてしまう傾向があります。もちろん、その予測は正しいこともありますが、多くは誤解や思い込みによる患者理解となってしまうため、残念なことに、その後もギクシャクした関係が続き、モチベーションに繋がりません。患者理解を深めるためには、先ずは患者さんに尋ねてみることが大切です。そのやりとりをケースで紹介しましょう。
【ケース1】
患者さん:歯ブラシの仕方ならしなくていいわ!
歯科衛生士:わかりました。もし、よろしかったら理由をお聴かせ頂けますか?
患者さん:(不快な様子で)以前にも歯ブラシ指導を受けたことがあるので、もう結構よ!
この言動から、患者さんは過去にTBIを受けたので、再度、指導を受ける必要ないと言っています。しかし、プロの歯科衛生士としては、先に進まなくてはなりません。ここで患者洞察が大切です。以前にも受けたことがあるものの、何故、不快な様子なのでしょうか?ここに大きなポイントが隠されています。その理由を理解するために、コミュニケーションを深めます。
歯科衛生士:その時はいかがでしたか?
患者さん:別に・・・たかが歯磨きなのに。隣に他の患者さんがいるにもかかわらず、子供に言うように私に教えるのよ!バカにされた感じだったわ。(強い口調で)私、歯ブラシ指導は嫌ですから!
患者さんの苛立っている理由、TBIを拒否する理由が見えてきました。ここで初めて患者さんへのアプローチが始まります。
歯科衛生士:そうでしたか、それは嫌な思いをされてしまいましたね。お気持ちはよく理解できます(患者さんの思いに共感します)。ここでは以前のように嫌な思いをしないようお約束します。ですので、少し私の話を聴いて頂けますか?
患者さんの過去におけるTBIの嫌なイメージを変えていかなくては先に進めません。そのためには、患者さんの思いを理解し、共感することが大切です(共感的理解)。 共感的理解は、患者さん自身が「こちらの思いが伝わっている」「理解してくれている」と感じるため、心理的に安心を得ます。その上で、同じような嫌な思いはさせないことを約束することで信頼を寄せて頂けるようになります。(心理的安心の保障)。
このような環境を整えた上で、こちら側の説明に入ります。
もし仮に、患者さんへの共感的理解と心理的安心の保障をしないまま、いきなりTBIの解説をしたところで、患者さんは聴く耳をもってくれません。なぜなら、患者さんは、TBIへの不快なイメージが定着しているため、心理的防衛がはたらくからです。
まずは患者理解を深め、共に進む姿勢を示すことで、本来、歯を大切にしたいと願う患者さんであれば、モチベーションに繋がります。
【ケース2】
では、同じようにTBIを拒否する患者さんの2つめのケースに入ります。この患者さんも例外なく、患者さんの言動には理由が存在していました。さて、どのようなアプローチになっていくのでしょうか?
患者さん:歯ブラシの仕方ならしなくていいわ!
歯科衛生士:わかりました。もし、よろしかったら理由をお聴かせ頂けますか?
患者さん:歯ブラシが大事だということくらいわかってます!でも、今は年寄りの介護をしながら、仕事もしなくてはなりません!正直、毎日、疲れきって歯ブラシどころではありません!
こんな時、患者さんを励まそうと「大切な歯ですので頑張りましょうね!」という言葉は、かえって患者さんの心理的負担となります。
患者さんは、頑張らなくてはならないことは頭では十分に理解できており、それができないことにストレスを感じています。そんななかでのこうした一言は“自分のことを理解してもらえていない”“何もわかってくれない”という心理から、やがては諦めの気持ちに変わり、ドロップアウトしてしまうことが予測されます。
こんな時こそ、プロの歯科衛生士力を発揮しましょう!
ケース1での共感的理解は、ここでも大きな力を発揮します。
患者さんの負担を軽減する方法を提案します。
例えば、清掃時間の短縮と清掃法が容易であることから電動歯ブラシを勧めてみるのはどうでしょうか?
患者さんのライフスタイルを重視し、患者さんの困っていることを解決するために、私たちは何ができるのかを考え、提案します。
患者さんと共に進む歯科医療こそ絶大なる信頼に繋がると考えます。