【歯科コラム ユニークな試み】 第5回 医療法人 真摯会 松本正洋理事長

【歯科コラム ユニークな試み】 第5回 医療法人 真摯会 松本正洋理事長|e-dentist
第三者も認める積極的な「取り組み」をした医院の紹介。医療法人真摯会 松本正洋 理事長

~すべてはスタッフのために~

「ユニークな試み」ということで今回インタビューをさせて頂くのですが、正直、特別に何か際立った「試み」をされているというわけではないんですよね。
ただ、これほどまでに働くスタッフのことを考えているところは数少ないのではないだろうかと感じました。私はこれまでたくさんの求職者をサポートしてきましたが、その先生方が要望されたことがほぼ全部入っているんですよね。今回、これほどまでに「スタッフに優しい医療法人」である秘訣をきいてみました。

1. 先生、単刀直入に聞かせて頂きます、どうしてこれほどまでに働くスタッフの事を考えておられるのですか?

やはり、人間を大事にすることが一番大切だと考えているからです。
僕は医療人なので、患者さんのことを大事にするのは当たり前なんですけど、本当はスタッフもそれと同じか、それ以上に大事にすべきであると思っています。
真摯会で働いているスタッフに喜んでもらわないと、会社としての価値、つまりは理事長としての僕自身の価値がないと思っているからですね。なので、そこを一番に考えています。 普段から、スタッフや勤務医などにとても助けられているので、すごく感謝しています。
結局、患者さんや、スタッフ、勤務医に幸せになってもらうことが、医療法人にとって一番の幸せにつながると思っているからですね。

2. 最近は週休3日を希望される方も増えてきています。真摯会では祝日の振替も無く週休3日プラス祝日なんですよね。プライベートを充実させたいという方も本当に増えていますので、これはスタッフにとっては嬉しいことだと思います。どうしてこのような制度が実現可能なのでしょうか。

開業した当時は8時間診療で週2日がお休みでした。その後、勤務医が増えたので休診日を1日だけにしました。すると診療のキャパシティは5分の6倍に増えますよね。さらに診療時間も一日8時間から10時間に変更しました。一日あたりの診療キャパが8分の10倍になるわけですね。つまり、この2つの変更で診療のキャパシティが1.5倍になったわけです。
チェアを増やさず、診療所も拡張せずに実質のキャパシティが増えるのは当然医院にとってはメリットです。
ただ、ここでドクターが一斉に出勤してもチェアが空いていないので結局無駄になってしまいます。ですが、勤務医の出勤を週休3日にして、分かれて出勤してもらうと、チェアも有効に使えますので、チェア一台あたりの稼働率がよくなります。これは医院にとって大きなメリットです。
祝日の振替出勤もないので、祝日が多い時は週休4日ぐらいになる月もありますね。
残業手当も、当然ですが労働基準法を満たしていますし、有給休暇に関しても普通は8時間勤務に対しての有給ですが、真摯会は10時間勤務に対しての有給です。

3. それで経営が成り立つというのがすごいですね。なるべく人件費は安く抑えたいと思うのが普通だと思うのですが。

そこに関しては、人件費をコストと思わないことですね。人件費は絶対に必要なものです。言い方は適切ではないかもしれませんが、人件費に関しては投資みたいなものだと考えています。誤解があるとダメなんで補足しますが、決して人をモノ扱いしているというわけではないですからね(笑)。
人件費をケチる会社の社長ってたくさんいると思うのですが、僕は絶対に反対ですね。しっかりと技術をもったスタッフが働いてくれると、その分しっかりと会社にも還元されます。  

4. 先生が開業されてから、真摯会がこれほどまで大きくなられたのは、なにかコツや秘訣があったのですか。

全てのことに優先順位をつけて、今なにをするべきかを考えて行動するということですね。
私が開業したのは、25年前のことですが、当時はインターネット広告などもなく、ほとんどが口コミや電柱看板などだけでした。その時から良い技術で良い治療をするということを優先してきました。
開業して一年ぐらいで評判が口コミでどんどん広まり、すごい勢いで患者さんが増えました。その時は目の前の患者さんを治療することで精一杯でした。それでもどんどん患者さんが増えて、私一人ではどうしようもなくなったので、人の力を借りないと、ということになりましたね。
開業当時はビルの2階でチェア3台だけでしたが、患者さんが増えてきたので3階も借りて、その後1階が空いたのでそこも借りて。それでも患者さんが増えたので分院を出して。という流れですね。
開業当時からずっと意識していたのは、「技術と愛情」です。これは現在の当医療法人の理念にもなっています。

5.技術の向上をとても重要視されていますが、講習会の参加費100%支給ということで、交通費やホテル代も支給していただけるのですよね。特にドクターの講習はとても高額なものもあると思うのですが、そのあたりについてお考えを聞かせて下さい。

現在真摯会では歯科医師が不足しています。ですから単純にドクターに真摯会で働いてもらいたいという思いからこのような取り組みをしています。
ドクター、特に若い歯科医師が何を求めているかですが、これはズバリ勉強なんですよね。僕自身も歯科医師なのでわかるのですが、どれだけ勉強をできる環境で働くか、というのがとても重要ですね。

勤務先を探しているドクターは、何に注目しているかというと、やはり「どれだけ勉強ができるか。」と「給料がどれだけか。」ということなんですね。
でも実際のところ、大部分の医院では、このどちらかだけになってしまうことが多いようですね。
給料はいいけれど、すごく忙しくて勉強する時間がないという場合や、逆に勉強を教えてくれるけど給料が安いとか。もっと言うと、勉強も教えてくれないし、給料も安いというとこもあるみたいです(笑)。
勤務医の方からすれば、勉強を教えてくれて給料も高いほうが嬉しいに決まっているので、真摯会ではそのような方針でやっています。

講習費に関してですが、なぜ講習会の費用が高額かというと、やっぱり高額な講習会ほど、価値があるんです。そんな講習会にうちの勤務医が出席して技術をマスターしてもらい、真摯会で良い治療をして貰えれば医療法人としては講習会の費用ぐらいペイできるんですよね。
今までに100万円以上する矯正の講習会に何十人にも参加していただきましたが、きっちりと勉強してもらい、技術で真摯会に還元してくれましたね。  

6. クリニックによっては講習会の参加費を医院で負担すると、やる気を出して参加しないからドクターの自費で参加するべきだという考えもよく聞きますが、いかがでしょうか。

そうですね。人に出してもらったお金で本を購入したり、勉強会に参加しても身につかないという考えも理解できますが、それはもうどうしようもないことだと思いますね。
そのドクターにやる気があるかどうかは、結局わからないですからね。 以前に講習会に参加したいというドクターがいたので、せっかく参加するのだから勉強してきたことをクリニックで発表して欲しいと伝えたんです。そうしたら、そのドクターが「それなら講習会には行かない。行くのやめます。」って言うんですよ。そんな面倒くさいことやるなら、講習会に行きたくないって言われたこともありましたね。
結局のところドクター自身が講習会に行ったところでやる気が無いと身につかないと思いますね。

7. 真摯会の負担で講習会などに参加した場合、その後何年かは真摯会で働くなどのルールはあるのでしょうか。

それに関しては全くないです。
本当に残念ではありますが、以前にも研修に行きたいというドクターがいたので、ポルトガルまで行ってもらいましたが、その後すぐに開業したという方もいましたね(汗)。

8. そういうことも全て含めて、投資という風にお考えということでしょうか。

そうですね。やっぱりドクターは勉強と給料を両方求めているんですよね。だから真摯会としては、それは絶対に満足させてあげたいですね。
先程も言いましたが、そうしてあげることが真摯会にとっても幸せに繋がります。
真摯会には、自費の患者さんもたくさんきていただけます。はじめは保険治療で来られても、そのうちの何%かは自費治療に転化してくれます。だから高額な治療も多いので売上にも繋がります。
勤務医には高額な講習会で勉強をして、しっかりと技術を身につけてもらって、難しい治療をしてもらう。真摯会には、その技術を発揮する場所がたくさんあります。
だから高額な講習会の費用も真摯会で負担することができます。
よく他の医院のことで耳にするのは、院長がインプラントや矯正などの自費治療を担当して、勤務医は保険治療ばかりを担当させられると。これだと折角講習会で勉強をしても技術を発揮する機会がないですからね。
真摯会は日本一矯正患者さんが多いですし、矯正治療が得意なドクターも多数いますので、勉強もできます。
真摯会には矯正認定医が12名いるのですが、矯正治療患者さんが多いので認定医だけではなかなか治療が追いつかいないんですよね。矯正が専門ではない歯科医師にも、矯正治療をどんどんやってもらわないと駄目なので、真摯会で講習会の費用を負担してでも、勉強してもらって、矯正治療をぜひ担当してもらいたいですね。

9. 講習会に参加したくても、なかなか休みが取れなくて参加できないという声もよく聞くのですが、そのあたりの調整は快くしていただけるのでしょうか。

講習会に参加予定のときは事前に治療予約を受け付けないようにしているので大丈夫です。ただ、講習会の日程って土曜日、日曜日が多いんですね。真摯会では土曜日に患者さんが一番多いので、本当は出勤してもらいたいですが、そこはしょうがないと思っています。
例え話になりますが、木こりが切れ味の悪いのこぎりで木を切っていて、それを見たある人が「手を休めて、のこぎりの歯を砥げばいい。」とアドバイスをしたら、その木こりが「のこぎりを研いでいる暇なんてないよ。」って言ったなんて話がありますけどね、それと同じですね。
必要であればきっちりと診療を休んで、講習会に参加してのこぎりを研いで来てほしいという思いです。

10. お給料に関しては、普通の勤務医の先生や開業医の先生と比較してもかなり高額の給与になっておられる方もいらっしゃるのですよね。もちろんスキルによるとは思うのですが、それだけ評価をしていただけるということでやりがいにも通じますよね。

これはどこの医院でも同じだと思いますが、基本的に勤務医の給料は自分自身があげた売り上げからでるんですよね。だから売り上げの多いドクターは給料も高いというのは当たり前だと思うのですが、ただ、勤務医としての売上ってそれだけじゃないんですよね。直接的な売上は少なくても間接的な売上はたくさんあります。例えば歯科衛生士の治療です。歯科衛生士は勤務医がいないと仕事ができないので、歯科衛生士の売上は間接的には勤務医の売上につながりますので、ドクターの給料はそのあたりも考慮してあげないとダメだと思っています。
分院長に関しては、他の勤務医の何倍も給料を出してますね。これも分院長自身の売上だけじゃなく、医院全体の売上を出しているからです。

11. 各分院や分院長には、数字的な目標など設定しているのでしょうか。

ノルマに関しては全く無いです。分院長は人によって様々ですが、医療や技術中心の所謂「医療人」な方もいれば、数字や売上などを考える「商売人」な方もいます。
本来、分院長であればこの2つの要素をどちらも兼ね備えているのが望ましいですが、どちらかしかない方もいます。分院長に求めるのは数字やノルマではなく「人格」ですね。
だから勤務医の先生の面接でも、人格を最優先して採用することが多いですね。

12. 最近は「矯正」を希望する患者様が増加していると聞いたことがあります。海外と日本の「矯正」の考え方の違いがあったりするのでしょうか?また「矯正」分野に関して今後はどのようになっていくと思われますか?

最近はアジア諸国などでの矯正の伸び率は年間7%とも言われています。
アメリカでは国民の8割は矯正治療をしています。日本では八重歯がかわいいと言われることも多いですが、欧米では八重歯を「狼の歯」と言われて、就職や結婚が不利になったりするそうです。八重歯を治療せずに放置しておくことが社会的に問題視されていますね。白人の八重歯ってほとんどいないですからね。
そのような傾向に日本も徐々に近づいています。
それに加えて日本は少子化が進んでいますね。少子化が進むと子供が矯正治療をする確率が上がりますからね。
小児治療に関しては、虫歯も歯周病も減っています。そうなると大事なのは矯正と予防になってきます。現在の学校検診の項目に歯並びがあります。
これからの小児歯科は予防と矯正がメインになってくると思います。

13. 女性の先生は特に「矯正」の方向に進むのがいいと聞いたことがあるのですが、最近はインビザラインなど手軽にできる矯正治療を学びたいという女性ドクターが増えているように思うのですが、いかがでしょうか?

インビザラインの会社はとても優秀だと思います。今後はインビザラインが世界基準の矯正治療になると思いますよ。
特に女性の歯科医師はオペを嫌う方が多いですし、インビザラインでの矯正は今後の歯科医師のメインの仕事になりますので、インビザライン治療ができない歯科医師には厳しい時代になると思います。

14. インプラントに関してはどのようにお考えですか。

インプラントバブルは弾けましたが、今は少しずつ回復してきていますね。
医療法人真摯会では現在5000人ほどのメンテナンス患者さんがおられますが、基本的にはしっかりメンテナンスをしていれば歯を失う可能性は大変低いです。もしまれにメンテナンスできていただいている患者さんが歯を失った場合はインプラントをする確率がすごく高いですね。また、一般の患者様向けに「インプラント説明会」などをするんですが、その説明会を聞きに来て、インプラント治療をして下さいって言われる患者さんはたくさんいますね。
  インプラントを入れたあとで、認知症になったり寝たきりになったら、抜けないのではという不安な声も聞きますが、これはなんとかなりますね。 まず、インプラントをした人は比較的気を使ってお口のケアをされるので、その後は歯を失いにくくなりますし、認知症にもなりにくいです。
もし認知症になってしまっても訪問してメンテナンスをするか、スリープさせるなど方法はいくらでもあります。

15. 転職を考えているドクターは保険診療も自費診療も両方学びたいと言われる方が多いように思います。こちらでは保険と自費の割合はどのくらいですか?
また、自費治療をメインでしているクリニックは、院内がすごく高級な感じだったりしますが、医院の内装や雰囲気に関してどのようにお考えですか。

割合に関しては、売上金額でいうと自費が7割ぐらいですね。ただ、患者さんの数では半々か6割で保険治療の患者さんが多いぐらいです。
基本的にはまず保険治療ですね。保険治療できた患者さんをある程度自費治療に転化して、そのあとメンテナンスをする。やはり保険治療だけだと経営的には厳しいですよね。

院内の雰囲気に関しては、自費治療が多いところは高級な感じのところが多いのは事実ですね。ただし、真摯会は違いますし、私はそれが必ず必要だとは思いませんね。現に「まつもと歯科」は全く高級感もないですし、子供も多いですし、ごちゃごちゃしています。それでも自費患者さんはたくさん来られますからね。
これから出す分院も特別高級感を出したり、個室にしたりだとかはしないですね。そんなことをしても、置けるチェアの数も減りますし、無駄にコストもかかってしまいます。結局自費をしてもらうのって、個室だからだとか、豪華だからとかではなく、技術力やトーク力によるものなんです。

16. 今後の歯科業界はどのようになるとお考えでしょうか。また、真摯会様の今後の目標などございましたら教えて下さい。

実は今後の歯科業界は明るいと思っています。 人口は減少していますが、歯科医師の絶対稼働人数は減っていますので、以前のような歯科医師過剰の時代は終わりました。もちろん今後の歯科医師国家試験の合格率が高くなれば、再び歯科医師過剰に転じる可能性がありますが、現状では歯科医師過剰の時代は終わったと考えることができますので、職業として「歯科医師」はいいと思います。給料も全体的に向上傾向にあると思いますし、歯科衛生士の給料や社会的地位も高くなると思います。なので、業界全体としての未来は明るいですね。
とある週刊誌で、AIの開発によって歯科医師の仕事がなくなるという記事がありましたが、その理由を読んだら、あり得ないなと思いました。やっぱり人間的要素をなくしては、歯を削れるわけがないですからね。

真摯会としての事業目標は、売上規模日本一を目指しています。 ただし、分院もたくさん出すことはやめようと考えており、次に出すのを最後にしようと思っています。無闇矢鱈に分院を出すのではなく、内容が充実したものにしようと考えています。東京に分院を出す予定もないですし、関西だけで日本一を目指すということを目標にしています。
私個人としては、スタッフを幸せにできなければ社長としての価値はないということを常日頃より考え、今後もその方針でやっていくつもりです。

「ユニークと言えるほど働くスタッフの幸せを考えている」医療法人真摯会 理事長 松本 正洋先生 にお話を伺いました。ありがとうございました。

医療法人 真摯会 松本正洋 理事長 プロフィール
【略歴】
1964年
広島県生まれ
1989年
国立長崎大学歯学部卒業
1989年
大阪渡辺病院 歯科口腔外科勤務
1993年
まつもと歯科 開業(大阪府吹田市)
1998年
医療法人真摯会(しんしかい)設立
2003年
クローバー歯科クリニック豊中駅前院 開設(大阪府豊中市玉井町)
2004年
クローバー歯科クリニック豊中本町院 開設(大阪府豊中市本町)
2005年
日本抗加齢医学会認定専門医試験に合格。日本の歯科医師としては第一号。
2006年
米セントルイス大学矯正科宮島邦障教授認定、矯正歯科認定医の資格を取得
2007年
国際審美会理事に就任
2007年
米ハーバード大学医学部生涯教育課程研修生
2007年
米国implant学会アカデミー会員(American Academy of Implant Dentistry)
2007年
米国審美歯科学会アカデミー会員(American Academy of Cosmetic Dentistry)
2008年
梅田クローバー歯科クリニック 開設(大阪駅第3ビル18F)
2009年
三宮クローバー歯科クリニック 開設(三ノ宮駅ミント神戸15F)
2012年
なんばクローバー歯科開設(マルイト難波ビル3F)
2014年
米ハーバード大学歯学部短期留学
2015年
カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)歯学部