高度先進歯科医療を学ぶ
医療法人社団 信和会 理事長 水木 信之 理事長
「患者主体インプラント治療における最先端治療技術 とホスピタリティ医療の融合」(上)
“高度先進歯科医療を学ぶ”のコ-ナ-では、厚生労働省の先進医療各技術の概要に沿わせて、現場でご活躍の先生方のお役に立つ情報を各分野の先生から発信して頂きます。
今回は、水木先生による技術だけでなく、ホスピタリティ医療という面からのお話は、患者と向き合うことの再認識とリスクヘッジへの良い機会となることと思います。

医療法人社団 信和会 理事長 水木 信之 理事長
はじめに
1965年にブローネマルクによってオッセオインテグレーションの概念が確立されて以来、1970年代にはその概念が世界的に広がり、1980年代には機能性を重視した外科主導型インプラント治療が推進され、1990年代にはGBR・骨移植などによりインプラント治療の適応症が拡大され、さらに審美的要件が考慮された補綴主導型インプラント治療が推進された。
2000年代になると、機能的・審美的な観点だけでなく、科学的な根拠に基づくインプラント治療の新たな展開と共に、患者のニーズでもある「痛くなく、腫れずに、早くに噛める」快適なインプラント治療が求められるようになってきた。これらは患者主体インプラント治療として推進され、そのコンセプトはミニマルインターベンションにある。臨床的にはコンピュータ支援手術による、ショートインプラント、ナローインプラント、傾斜埋入によるグラフトレス手術、フラップレス手術、即時・早期インプラント治療として今日行われてきている。
今回「高度先進歯科医療を学ぶ」企画に際して、当インプラントセンター横浜で今行われている「患者主体インプラント治療における最先端治療技術とホスピタリティ医療の融合」について解説する。
1.最先端治療技術について
(1) 歯科用CTによる診査診断とデジタライゼーション
インプラント治療の成功のためには、術前より正確な顎骨の診査・診断とそれに伴う綿密な治療計画の立案が重要である。近年、歯科用CTは口腔顎顔面領域の疾患やインプラントの診査診断に臨床応用されてきた。歯科用CTは医科用CTと比較して、解像度が高いこと、被爆線量が少ないこと、アーチファクトが少ないこと等が特徴である。開発当初はCT単独装置であったが、最近ではコンパクトなAll in one型の 3D・セファロ・パノラマ一体型CT装置も開発され、一般歯科医院にも導入されやすくなってきた。
当センターでは2007年にProMax 3D(図1;プランメカ社、本邦GC販売)を本邦で先駆けて導入し、特にインプラント治療の術前術後の診査診断に用いている。
以前は大学病院や画像センターなどに医科用CT撮影の依頼をしていたため、患者が遠方まで撮影に行かなければならず、診断までに時間とコストがかかっていた。
今回、導入の利点としては、患者来院時に即座にCT撮影して診査診断が可能となり、診断精度の向上と共に、一連のインプラント治療の流れの構築にも繋がっている。当センターではチェアーサイドと個室に6つのパソコンを院内ネットワークで繋いでデジタライゼーションし、患者情報がどこでも直ぐに見られて、説明ができるようにしている(図2)。
(2)コンピュータ支援手術によるミニマルインターベンション
これまで筆者は、横浜市立大学医学部附属病院においてインプラント治療の適応症拡大のために、各種GBR、上顎洞底挙上術、垂直的歯槽骨延長術、腸骨移植術などさまざまな手術を行ってきた(図3)。
これらの方法により確かにインプラント治療の適応症は拡大することが可能となったが、患者にとっては手術侵襲による心身的負担も大きかったと考えられる。
当センターでは各種最先端機器を備えた滅菌手術室を完備し(図4)、
コンピュータ支援手術によるミニマルインターベンションのインプラント治療を行っている(図5)。
すなわち、顎骨のデジタルCT画像情報をDICOM形式でエクスポートし、コンピュータ上で各種ソフトウエアに変換し、インプラント埋入のシミュレーションと治療計画を立案した後、それを実際の手術に反映させている。
これらの方法は、静的な「サージカルガイド系(サージカルテンプレート系)」と動的な「バーチャルナビゲーション系(モーションキャプチャー系)」の2つに分類される。
筆者は2002年より、前者であるサージガイドシステム(図6)、ノーベルガイドシステム、スキャンツーガイドシステムと、後者であるリアルタイム・ナビゲーションのIGIシステム(図7)をインプラント臨床に積極的に取り入れてきた。
これにより補綴主導のトップダウントリートメントから、残存骨を考慮したボトムアップトリートメントを取り入れることで、ショートインプラント、ナローインプラント、傾斜埋入によるグラフトレス手術やフラップレス手術が可能となってきた。
(3)CAD/CAMによるカスタマイズのインプラント補綴
近年、CAD/CAM機器の発展には目を見張るものがあり、インプラント補綴では特に精度が要求されることから多く取り入れられてきた。さらに患者の高い審美的要求により、強度のあるジルコニア系セラミックを用いたカスタマイズのアバットメント、フレーム構造、上部構造がCAD/CAMによって製作されるようになってきた(図8)。
これらはデジタルCT画像データを基にしたコンピュータ上でのインプラント・シミュレーショにより、診査診断から上部構造製作までの一連の流れの中で構築されている。
当センターではCAD/CAMシステムとして新型セレック3Dをチェアサイドに導入しており(図9)、メタルフリーの歯冠修復を臨床に多く取り入れている。最近では高い強度と審美性を兼ね備えたIPS e.maxシステムの開発により、インプラント上部構造にも応用している。
また、レーザー型のノーベルプロセラ新スキャナーが開発され、当センターでも役立てている(図10)。
審美的要件は患者個々により美的感覚が異なるため、医療者側の視点ではなく、常に患者側の視点で観察してもらうことが肝心である。そのためにはプロビジョナルレストレーションが重要なカギを握っており、患者が十分に納得し満足がいくまで、必要あれば数か月間調整を行った後に最終補綴へ移行している。
当センターでは常に患者と歯科医師と担当する歯科技工士とが一緒に向き合って、コミュニケーションを取りながら製作する姿勢を取っている。補綴治療の結果は、患者自身がいかに評価してくれるか、満足してくれるかが重要であり、例え素晴らしい材料と方法を用いても、患者満足が得られなければ全て無意味となることを忘れてはならない。
次回は、「ホスピタリティ医療」についてお話いたします。