高度先進歯科医療を学ぶ
医療法人社団 高緩会 勾当台デンタルクリニック 院長 伊藤 秀寿 院長
昭和大学歯学部顎口腔疾患制御外科学講座 主任教授 新谷 悟 先生 共著
「サイナスリフトへのストラテジー」-(上)
“高度先進歯科医療を学ぶ”のコ-ナ-では、厚生労働省の先進医療各技術の概要に沿わせて、現場でご活躍の先生方のお役に立つ情報を各分野の先生から発信して頂きます。
今回は、サイナスリフト時に使用する骨補填材について、伊藤秀寿先生・新谷悟先生よりご寄稿いただきました。先生のお話のとおりインプラント臨床において、インプラント症例の幅を広げる内容であると考えます。

医療法人社団 高緩会 勾当台デンタルクリニック 院長 伊藤 秀寿 院長
プロフィール
- 1998年 昭和大学歯学部 卒業
- 2002年 昭和大学歯学部大学院 歯学研究科 修了
- 2002年 昭和大学歯学部 第二口腔外科学教室 助手
- 2003年 米国トーマスジェファーソン大学 留学 博士研究員
- 2005年 昭和大学歯学部 顎顔面疾患制御外科学教室 助手
- 2006年 昭和大学附属烏山病院 歯科部長
- 2007年 昭和大学歯学部 顎顔面疾患制御外科学教室 助教
- 2007年 昭和大学歯学部 顎顔面疾患制御外科学教室 退職
- 2008年 昭和大学歯学部 顎顔面疾患制御外科学教室 兼任講師
- 2008年 医療法人社団高緩会 勾当台デンタルクリニック 院長
- ICOI Fellow・Diplomate 日本顎顔面インプラント学会 指導医
- 昭和大学歯科病院 口腔外科 顎口腔インプラント診療班勉強会 http://www.omfs-showa.jp/medical/study.html
今日において再生医療分野における研究は盛んに行われ、著しいスピードで発展しつつある。その中でも歯科において注目を集めているのは歯・骨における再生治療である。歯の再生に関しては、本年8月に東京理科大のチームが、人為的に作製した歯の器官原基(再生歯胚)を成体マウス口腔内に移植し、再生した歯が正常に萌出・成長して、「物を咬める硬さの歯」であると共に、「矯正可能な正常な歯根膜機能」を有し、「外部刺激によって痛みを感じる」ことができる機能的な再生歯へと成長することを明らかにした。
マウス実験での成功率は80%と高く、将来的に入れ歯やインプラントに代わる方法として期待されている。
また、骨の再生医療に関しても、外部で自家骨から採取した細胞から骨欠損形態に合わせて培養し、患者に移植して戻すという研究等も進んでいるが、これも現実的に一般歯科医院レベルの話とは程遠い。
欠損歯を持つ患者の代替歯に対する需要は高く、現時点において患者が享受できる最高の代替歯はインプラントであろう。
しかし、機能するインプラントを植立するためには、土台となる骨が不十分だと不可能となる。そこで我々歯科医は骨造成を行い、インプラント治療を行うが、骨造成を行う際に不可欠なのは骨補填材である。
特に上顎臼歯部におけるインプラント埋入は、下顎骨と比較すると顎骨の垂直的な吸収と含気腔の増大により、菲薄な皮質骨だけが残り機械的強度が低く、それを一層困難にしている。
このような問題点に対して自家骨移植または骨補填剤を用いることにより埋入環境を整えることが不可欠となる。
今回は日常のインプラント臨床において、インプラント症例の幅を広げるためにも、骨造成の中でもサイナスリフト時に使用する骨補填材をテーマとしたい。
まず、骨補填材に求められる特性としては以下の3つがあげられる。(Fig.1)
骨形成能 (osteogenesis)、骨誘導能 (osteoinduction)、骨伝導能 (osteoconduction)である。
骨補填材は、これらいずれかの特性を認められないといけない。
次に骨補填材の分類として大きく分けると自家骨(autograft)、同種移植材(allograft)、異種移植材(xenograft)、人工代用骨(alloplast)の4つに分けられる。(Fig.2)
先程の特性を踏まえてこの分類を鑑みると、自家骨が最も良い移植材料となる。
しかし、採取できる骨量に限界があり、健全組織への侵襲が必要となる。また、感染の危険性が全くないともいえない。
同種他家移植材としてDFDBAやFDBA等が欧米諸国でよく使用されるが、感染の危険性は拭いきれない。
ウシなどの動物から採取し処理した異種移植材においても未知タンパク質やウィルスによる感染の恐れは皆無ではない。
そこで安全・安心な医療を提供する一歯科医師としては人工代用骨が最良な骨補填材と思われる。
しかし、サイナスリフトを行うに当たり、その成功率、つまりインプラントの支持が可能で長期にわたり造骨部位が維持されなければ使用するには躊躇する。
では、血流も乏しいと容易に予測できる閉鎖された上顎洞においてベストな骨補填材は何であろうか。
このように幾種類の骨補填材があり、それぞれの特徴を有することから適応する症例によっては、その特徴つまり物性が長所となり短所となる。
ここで興味深い論文(Fig.4)を紹介しよう。
これは、9種類の異なる骨補填材をヒトのSinus liftに用いて比較・検討を行ったものである。Materials and Methods(Fig.5A,B)を別に記す。
この結果(Fig.6)、
最も新生骨量が多いのは、やはり自家骨である。
そして、脆弱な海綿状の骨が少ないのはBovine-derived bone and peptideであり、6か月後の骨補填材の残留顆粒が少ないのはPolymer of polylactic and Polyglycolide acidsであった。
しかし、後者の2つの骨補填材に関しては、海綿状の骨が少ない代わりに残留顆粒が多かったり、また逆に海綿状の骨が多いけれども、残留顆粒が少ないという相反正を持っている。
これは造成骨部の脆弱性を示している。つまり骨造成部の強度を考えた場合、海綿状骨および残留顆粒が少なく、新生骨量が多ければ多いほどリモデリングが確実に進んでいると考えられ、強度の増強が期待できる。
では、この論文で示されている骨補填材のうち最もバランスが良いのはCalcium carbonate(炭酸カルシウム)と考察できる。
今回のこの結果からはサンゴ由来の炭酸カルシウムを基本とするBiocoralが自家骨に次ぐ優良な骨補填材と考えられたが、残念ながら日本では患者に適用する法的整備ができていない。
そこで当教室および勾当台デンタルクリニックにおいてはリン酸カルシウム系の骨補填材であるβ―TCPを使用している。
そもそも生物の進化過程において海から陸に上がってきたことを考えると炭酸カルシウムの骨格からリン酸カルシウムの骨格に変化しているのだから、骨補填材としてはリン酸カルシウム系のものが、より生体に適合すると考えられる。
次回では、β―TCPを骨補填材として用いた最新のサイナスリフトの現状を供覧する。