歯科経営者に聴く - 長崎大学 臨床研究副室長 藤井哲則

歯科経営者に聴く ~第一線で活躍する院長から学ぶ~

長崎大学 医学部・歯学部附属病院 臨床教育・研修センター 臨床研究副室長・医学博士 藤井哲則

今年3月に臨床研修を終え、期待と不安を抱いて新たに自分自身の進路を決めなくてはいけない研修医に対し、歯科医療の未来」と「これからの展望」についてのお話を長崎大学歯学部臨床教育研修センター臨床研修室副室長の藤井哲則先生にお伺いした。

臨床教育・研修センター 臨床研究副室長・医学博士 藤井哲則

長崎大学 医学部・歯学部附属病院 臨床教育・研修センター 臨床研究副室長・医学博士 藤井哲則

プロフィール

  • 1978年 九州歯科大学卒業
  • 1980年 九州歯科大学・大学院卒業
  • 1980年 長崎大学歯学部・第2補綴科 助手
  • 1981年 長崎大学歯学部・第2補綴科 講師
  • 2003年 長崎大学歯学部付属病院・臨床教育・研修センター副室長
  • 現在に至る

【著書】

  • 「顎関節、頭蓋顔面領域の痛み―その診断と処置―(医歯薬出版 1992)」
  • 臨床歯科英語コミュニケーション(医歯薬出版 2001)」
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歯科医療の未来

歯科医においてもワーキングプアになる時代が来ると囁かれているなか、毎年約3000人の新しい歯科医師が誕生し、現在歯科医師の数は10万人を超えようとしています。 今後ますます厳しい環境になっていくのは避けられない状況にあるのは間違いありません。
このような状況下において、本臨床研修室では、歯科医師として基礎造りの1年の研修を担っています。 本院の臨床研修は、臨床教育、手技はもちろんのこと、特徴あるプログラムで行っています。

長崎大学歯学部研修プログラム◆臨床研修のねらい

本院の臨床研修は、患者様の抱える種々の問題を全人的にとらえ、一般歯科診療についての基本的な診療能力(態度、コミュニケーション、知識、判断力、技術)を身につけることを目標として、特に以下の項目に主眼をおいています。

  1. 歯科医療における社会的側面の重要性を認識し、適切に対応できる。
  2. 患者様とうまくコミュニケーションする能力を身につける。
  3. 口腔ならびに全身の健康管理に関わる基本的知識を身につける。
  4. 全身状態を考慮した治療計画を立案する能力を身につける。
  5. 歯科疾患に関する基本的知識の上に、科学的根拠に基づく治療の標準的技術を身につける。
  6. 患者様の年齢や性別にかかわらず、緊急を要する疾病、頻度の高い症状・病態に対する診査診断能力を身につけ、さらにそれを確実に実施できる。
  7. 歯科診療上の偶発的な事態に、適切に対処できる能力を身につける。
  8. 自ら行った処置の予後について予測する能力を身につける。
  9. 先端医療や特殊診療に関する知識および技術についての基本的知識を身につける。
  10. 将来、専門(認定)医の資格を取得するための基本的な知識や技術を身につける。
  11. コ・デンタルスタッフとうまくコミュニケーションする能力を身につける。

臨床研修プ口グラムの特色

長崎大学 医学部・歯学部附属病院単独型臨床研修においては、1年間本院で臨床研修を行いますが、群方式の臨床研修においては、7ヶ月間本院で研修し、5ヶ月間研修協力施設で研修します。いずれの臨床研修においても、4、5月において保存系や補綴系の診療に関する基礎的な知識や技術を研修します。基礎研修が終わると、臨床研修室において、患者様の全人的な診療を指導歯科医の指導下で行います。この診療に並行して、保存や補綴系以外の診療科において、ローテート研修を行います。インプラント研修、摂食機能リハビリテーション研修、救急救命処置研修は特徴ある研修だと思います。
また、毎日の予診担当、急患に対する救急や応急処置を研修し、長崎県歯科医師会の口腔保健センターでは障害者診療研修と巡回診療研修、長崎市保健所では地域医療研修、訪問診療研修を行っています。協力型研修施設では、頻度の高い一般歯科診療の研修を行います。
本病院での臨床研修の到達目標は、厚生労働省省令に基づき、「基本習熟コース」と「基本習得コース」としてます。また、具体的な研修項目は平成12年に国立大学附属病院長会議で策定された「国立大学臨床研修共通カリキュラム」に基づいています。研修評価は本院研修手帳、症例報告、オンライン歯科臨床研修評価システム(DEBUT)で行ってます。

新しい臨床研修制度について

長崎大学歯学部には毎年50名前後の学生が入学してきます。 6年間の教育を修了し、国家試験に合格しますと、1年以上の臨床研修が義務付けられています。私自身はこの新しい必修化された臨床研修制度の歓迎派です。なぜなら全体の研修レベルの底上げが出来ると思っているからです。以前のように、卒業後どこかに就職し、開業していた時代に比べると、1年間ではありますが、厚生労働省の到達目標を必ず研修しなければいけない新しい研修制度はたいへん良い制度だと思います。
厚労省の到達目標の中で、重要な項目に医療面接がありますが、これからの歯科医師にまず求められるものはコミュニケーション能力です。この能力を身につけさせるため、長大病院ではロールプレイによる新しい講義の構築やコミュニケーション能力を高めるための新たなプログラムの作成に力を注いでいます。
また、歯科の臨床研修は昨年から必修化されましたが、医科と違い、ほとんどの研修医が大学の附属病院で研修します。そのためには、いかに魅力的で、特徴ある研修プログラムを作るかが大学の重要な課題になってきています。

歯学部の学生について

歯学部学生に対して、私が感じていることは知識欲が少ないということです。確かに入試のハードルは高く、難しいため、大学合格が最終目標になってしまうのはある程度しかたがないことなのでしょうが、多くの学生が燃え尽き症候群の状態になっているのではと思います。とにかく大学に合格して、6年間与えられた勉強していれば歯科医師になれると考えている学生が多いのではないでしょうか?そのため、入学してから、いろんなことに興味を示さず、講義後質問に来る学生も最近特に少なくなりました。与えられたことしかしないという傾向が多々見受けられます。高校まで、受け身の教育しか受けてこなかったので急には変われないとは思いますが。将来どんな歯科医師になりたいのか、どんな研究をしてみたいのか、そのためにはどんな勉強をしなければいけないのか等、目的意識を持って、貪欲にいろんなことに興味をもってほしいと思います。

長崎大学病院臨床研修の展望

長崎大学病院として、特徴的な臨床研修にしたいと考えています。長崎大学歯学部は、地域医療とくに離島歯科医療を担う人材の育成が重要な使命です。臨床研修においても、その使命はかわりません。離島診療研修に特に力を入れていきたいと思います。 卒後1年目の研修医は、未知の能力を秘めた歯科医師です。その能力をいかに引き出し、それを伸ばしていくが我々指導歯科医の使命であり仕事であると考えています。 今後も、熱い気持ちで指導していきたいと思います。

医療行政への意見・要望

国立大学は独立行政法人になり、歯学部と歯学部附属病院は、東京医科歯科大学と大阪大学以外の旧国立大学では医学部、医学部附属病院と統合されました。そのため、経営的にも厳しい時代になっています。はたして、このような方針で、国民が安心して受けられる医療の提供を目指し、教育、診療や研究を担う機関が機能できるのか、はなはだ疑問に感じています。人材においては、教官数が減らされ、教官の疲弊は危機的な状況です。次世代を担うべき歯科医師を教育する教官が疲れていては、最善の教育はできないと思います。教官の処遇においても改善が必要です。そうすればもっと良い人材が集まり、日本の歯科医療のレベルはさらに上がるのではないでしょうか。