歯科経営者に聴く ~第一線で活躍する院長から学ぶ~

なんごうや歯科医院 南郷谷香利 院長

今月ご紹介するなんごうや歯科医院は大阪府東大阪市にある。近鉄奈良線の八戸ノ里駅、近鉄大阪線の長瀬駅が最寄り駅で、近くには近畿大学のキャンパスがある。
なんごうや歯科医院は現在地の斜め向かいの場所で、南郷谷香利院長のお父様が長く診療にあたっていたのだが、病気になられたのを機に南郷谷院長が継承した。2003年に現在地に移転し、ヘルスプロモーションの考え方を基本とした歯科治療を行っている。

なんごうや歯科医院 南郷谷香利 院長

なんごうや歯科医院 南郷谷香利 院長

プロフィール

  • 1965年に大阪府東大阪市に生まれる。
  • 1990年に大阪歯科大学を卒業後、なんごうや歯科医院、ご主人が経営する諸井歯科クリニック(現・文の里歯科クリニック)に勤務する。
  • 1998年になんごうや歯科医院を継承し、2003年に現在地に移転を行う。

歯科医院の沿革

なんごうや歯科医院南郷谷院長がなんごうや歯科医院をお父様から継承したのは1998年のことだった。1990年に大阪歯科大学を卒業した南郷谷院長はその年に結婚し、すぐに子どもに恵まれたため、子育てをしながらお父様、ご主人の歯科医院で非常勤勤務をしていた。しかしお父様の急病で、急遽継承することになる。「父の歯科医院は本当に古いタイプの歯科医院で、受付には小さい窓があるようなところでした。窓を開け閉めして患者さんとやりとりするんですよ。私が最初にした仕事はその窓枠をのこぎりで切ることでしたね(笑)。」

子どもの患者さんもほとんど来院せず、高齢者の患者さんばかりが目立ったという。

「高齢者の方は鏡で口の中を見せようと思っても、目を固く瞑って『分かりました、分かりました』と繰り返されるだけだったり、最初はお話することに集中するのが難しかったです。継承ではなく、新規開業の方が自分の望む治療ができて楽だろうなあとも思っていましたね。でも、そういう環境であったからこそ『予防を伝えていこう』という意識が高まってきました。こちらからの押し付けではなく、自らやりたくなるような予防を目指そうと思ったのです。自分の人生を自分で考えていけるようなヘルスプロモーションの考え方を夫とともに学んだことも大きかったです。」

2003年に旧歯科医院の斜め向かいの場所に新築移転を行った。この場所は近鉄奈良線の八戸ノ里駅からのバス通りではあるが、交通量もさほど多くはなく、以前営業していたコンビニエンスストアも撤退するなど、マーケティング上は好立地とはいえなかった。近隣には布施工業高校、関西圏では学生数の多いことで知られる近畿大学もあるが、長期の休み期間中には人通りも途絶えてしまうという。しかし南郷谷院長は信念を持って、移転に踏み切った。

「父の兄である叔父と従兄弟がなんごうやデンタルラボラトリーという技工所を開設しており、前の歯科医院はその技工所と半分ずつスペースを共有していたため、手狭だったんですね。歯科医院が移転することで技工所も広くなりますし、何より古いところでは予防を行っていることも見えにくいです。外から分かりやすい歯科医院にして、もっとたくさんの人を喜ばせ、幸せにしたいという気持ちが新規移転への直接の動機です。さらにスタッフルームを広くし、スタッフが私どもで働いていることを自慢できるぐらいにしたかったことも理由の一つです。場所の悪さは色々と指摘して頂いたのですが、皆さんの思いがあれば集まってくださるだろうという確信がありました。」

歯科医院の特徴(コアコンピタンス)

予防歯科

なんごうや歯科医院 南郷谷院長は「自分の人生を考えるきっかけの一部に歯科がある」と明快に位置づけ、なんごうや歯科医院での予防歯科は真の意味でのQOLの向上を目的としている。
「下の娘が4歳か5歳ぐらいのときに虫歯になってしまったんです。子どもは何とも思っていない一方で、私は私も夫も歯科医なのに子どもを虫歯にしてしまって、とてもショックでした。どの母親も子どもを虫歯にさせたくないと思いながらも、仕上げ磨きをしてあげられないこともあります。でも歯科医の中にはお母さんの意識の低さを責める人もいるんですね。私は視点を変え、そういったお母さんたちの心のケアをしていきたいと考えるようになりました。」

なんごうや歯科医院では地域の健康増進に努めているが、定期健診を「検診」ではなく、「健診」であることに意味があるとしている。

る。

「昔は人生50年で、歯がぼろぼろになっても寿命が早かったので仕方のない面がありましたが、今は寿命が80年の時代です。その分歯の寿命を伸ばさないといけません。人生の初めと終わりの楽しみは食べることなんです。最後まで食べることを満喫して頂けるようにしたいですね。『磨けていませんよ』とこちらが一方的にダメ出しをしてしまうと、嫌になられます。大人は諦め感が出てしまうので、まずはそこを払拭しないといけません。励まし合って、喜び合えるような楽しい時間をいかに作るかだと思います。その点、子どもはそのまま受け入れますし、心の成長をこちらも感じることができ、衛生士も喜びを感じています。」

予防歯科では歯科衛生士の存在が不可欠であり、なんごうや歯科医院では非常勤を含めて7人の歯科衛生士が在籍している。

「スタッフ教育という点で特別なことをしているわけではありません。あくまでもともに学ぶ姿勢を持っています。患者さんや健診に来られた人を幸せにしたいと思ったら、学ぶべきもの、取るべき行動というのは自ずから見えてくるでしょう。スタッフは積極的に自分たちで研鑽を積んでいますよ。先日、助手の面接に来た人から『スタッフに何を望みますか』と尋ねられました。私は『自分に正直に、自分に逃げないで、周りの人を幸せにしてあげること』と答えました。仕事は人生の一部ではありますが、ほとんどを占めるものでもあります。プライベートでも幸せを感じてほしいですね。嫌な気持ちで出勤してくる人とともに働きたくはないですし。人生をいかに豊かに構築できるかだと思います。」

なんごうや歯科医院では「カムカムクラブ」を組織し、0歳から12歳までの幼児、児童を対象に定期健診、クリーニング、フッ素塗布などを行っている。また季節ごとにイベントも企画し、メンバーを無料で招待している。現在、メンバーは200人を超え、大阪市内からも通院してくるという。

「カムカムクラブは夫の歯科医院でもともと始めたんです。CHP研究会という勉強会をしていまして、その中で勉強して、立ち上げたものです。お蔭様でメンバーも増えてきました。駐車場を4台分のスペースをとったのですが、足りなくなりましたので、近所にも借りています。増患対策としてはホームページぐらいでしょうか。特に変わったことはしていませんね。」

自由診療

なんごうや歯科医院ではインプラント、審美歯科などの自由診療も行っている。

「インプラントはニーズがあれば夫の歯科医院に紹介していたのですが、今年から私どもでも本格的に始めることにしました。インプラントは良いものだと思いますし、望んでいらっしゃる方にはお勧めしたいですね。最近、私の母にも行ったところです。また夫の弟がアメリカの大学でぺリオを研究していまして、最新の情報が入ってきますので、そういった勉強も続けています。矯正に関しては近隣の専門医に紹介していますが、私自身の経験を生かしたアドバイスができればと思っています。」

経営方針

なんごうや歯科医院南郷谷院長はNLPのトレーナー資格を昨年アメリカで取得した。NLPとは神経言語プログラミングのことで、心理学と言語学をもとに体系化された人間のコミュニケーションに関する学問である。
「CHP研究会でもNLPを生かせることもあります。コミュニケーションスキルを使ったカウンセリングを行えば、対人関係も変わってきます。もともとコーチングの行動変容の考え方に違和感があったんですね。お金持ちになろうと思っても、行動の目標設定には無理がありますから(笑)。ところがNLPでは価値観や育ってきた家庭から得られる思いに重きを置き、どんなふうに五感を使って物事を捉えているかを考えるので、脳の使い方という点で勉強になります。このような勉強をするのも、人を幸せにし、人を大事にしていくことが経営方針の要の部分だからです。」

南郷谷院長を結婚などで退職したスタッフが尋ねてくることも多いそうだ。「人とつながり続けていく歯科医院でありたい」とする南郷谷院長の思いが結実していることの表れであろう。

「予防が浸透し、時代の流れが変わったら、私どものあり方も変わらざるをえないでしょうが、いつまでもスタッフのふるさとでありたいですね。スタッフだけでなく、皆さんがふっと立ち寄って、憩って、隣の人とおしゃべりをしたり、和んだりする、駅にある噴水広場のような歯科医院でありたいんです。」

プライベート

南郷谷院長の趣味は読書やアロマテラピーだという。アロマオイルは院内でも焚かれ、患者さんの癒しに効果をもたらしている。

「読書では禅の言葉などを読みますね。いい言葉は元気をくれますから。また友人の平本相武さんが書いた『心のスイッチ』も好きな本です。心の持ちようについて書かれた本など、何冊も同時並行で読んでいるところです。」

メッセージ

厚生労働省の政策について、ご意見を伺った。

「命に関わることが少なく、緊急性の低い歯科に対しての政策は納得いかないこともあります。歯科だけが生き残りたいと思うわけではありませんが、時代の中での位置づけは常に変化し続けます。全体の中で捉えてほしいですね。これからは来院される方の自立支援がキーワードとなってくるでしょう。万全にサポートできるような政策を望みます。」

若い歯科医師にメッセージをお願いした。

「歯を治療することは人の心を診ることです。痛くても、来院しない人はしないものです。人が歯を付けて、心を動かしているのですから、人の心を学んでほしいと思います。そして経営にあたってはスタッフが幸せに働ける場所を作ることです。そういう場所は患者さんも幸せになる場所なのです。」

今後の展開

南郷谷院長に、今後の展開について伺った。

「私に関わる人を全て幸せにしたいですね。家族やスタッフといった関わる人の輪をもっと広げていきたいです。歯を削って、詰める作業は、私も妥協せず勉強してきましたが、最高というわけではありませんし、もっとうまい人はいるでしょう。人生には流れがあります。人の人生に関われるような歯科医師、歯科医院でありたいと願っています。」