歯科経営者に聴く ~第一線で活躍する院長から学ぶ~

医療法人なごみ会 林小児歯科 林昌司 院長

今月ご紹介する林小児歯科の林昌司院長は大阪大学歯学部を卒業後、小児歯科を学び、9年間の勤務医生活を経て、満を持して小児歯科で開業したドクターである。開業地がJR奈良駅から徒歩5分の奈良市三条本町というアクセス良好な地であることも幸いしているが、「健康教室と定期健診」の二本柱を確立させるという独自のスタイルで、開業以来、外来患者数は右肩上がりを続けているという。

医療法人なごみ会 林小児歯科 林昌司 院長

開業まで

まず小児歯科医を目指した経緯についてお話し頂けますか?

医療法人なごみ会 林小児歯科もともと子どもが大好きだったんですよ。女性にはモテませんでしたが、子どもにはモテていましたからね(笑)。それで学校の先生になりたかったのですが、何となく受験の難易度などから歯学部を志すことにしました。深い理由は特にないのですよ。

ですから歯科の中で小児歯科を専攻しようと思ったのは自然な経緯で、5年生の終わりには決めていました。現在、岡山大学の小児歯科教室にいらっしゃる下野教授が、当時阪大で助教授をされており、師事しました。卒後、大学院で小児歯科をさらに学びたいという希望もあったのですが、南大阪療育園の歯科が、それまでの非常勤医師のみによる体制を改め、常勤医を置きたいという話になったので、初代常勤医として赴任することになりました。昭和57年のことです。

南大阪療育園は障害児専門施設ですね。そこで学んだことは現在どのように生かされていますか?

南大阪療育園は主に脳性マヒを患った肢体不自由な子どもたちのための病院です。歯科には肢体不自由児のほかにも様々な障害の子どもが来ていました。コミュニケーションが不自由な子どもたちの診療を通じて「障害児の歯科は最も基本的な小児歯科の姿である」との認識を持つに至りました。

開業を決意したきっかけをお話しください。

医療法人なごみ会 林小児歯科歯科医になった当初から開業を考えていたわけではありません。ただ南大阪療育園は大阪府と大阪市からの補助金で運営されており、私どもの給与も年齢とともに上がっていくわけです。このままでは逆に「お荷物」になるのではという思いがあったので開業することにしました。

開業にあたって、どんなことを中心に準備されましたか?

大阪府茨木市の岡本小児歯科で4~5年間、非常勤医師をしながら勉強させて頂きました。岡本先生は全国小児歯科開業医会の初代会長を務められ、臨床に関して非常に素晴らしい考えをお持ちです。そこで「定期健診と健康教室」というスタイルを学びました。

岡本先生は誰がやっても80%のことはできるという教え方をされます。一方、下野教授は「患者が100人いれば教え方も100通り」という考え方で、その真髄を理解するには時間が必要となります。私の場合、お二方の教えの「いいとこ取り」をさせて頂いたわけで本当に有り難いことだと思っています。

場所の選定についてはいかがでしょうか。

患者さんが少しでも通ってきやすいところにしたかったので、駅前にこだわりがありました。最初は現在地の前のテナントビルに開業しました。ところが駅前再開発でそのビルの敷地の一部が道路となってしまって手狭になったので平成15年にこちらに新築したのです。

もともと民家だった場所なので、民家をそのまま生かしたかったのですが、結局改装して増築しました。バリアフリー設計になっています。診療室にも車椅子のまま入れますし、セミオープンですので、立つと全体が見渡せるようになっています。

定期健診について

小児歯科では歯科衛生士の役割が非常に大きいと思われますが、スタッフ集め、またはその後の教育に関してお話し頂けますか?

医療法人なごみ会 林小児歯科 開業当初は南大阪療育園のスタッフから紹介してもらった衛生士に四国から出てきてもらって協力をお願いしました。さらにあと1人を採用し、2人からのスタートでした。教育に関しては岡本先生の厳しさを参考にしながら現在も模索しているところですが、子どもの口の健康を育てる意味で歯科衛生士も遣り甲斐を感じているようです。

小児歯科での定期健診というと歯磨き指導が真っ先に思い出されますが・・。

もちろん歯磨き指導も重要ですが、私どもでは食生活の指導を重要視しています。口の健康を育成することで身体も心も健康になってほしいのです。う蝕に関しては「歯の表面の砂糖時間」を基本に指導し、食生活の改善を歯科衛生士がマンツーマンで指導しています。

よい育児をすれば虫歯は減ります。朝食を摂らない子どもが増えていると言われていますが、朝食抜きの子どものほうが3食食べる子どもよりも虫歯が多いのです。「甘いおやつを禁止するよりは、しっかり御飯を食べよう」と言っています。私も栄養学を学んで、学問からのアプローチも可能にしたいと思っています。

健康教室について

もう一つの柱が健康教室ですね。この教室ではどういう指導をされていますか?

月に1回から2回、1回1時間半ほどの時間で保護者の方を対象に行っています。基本的には口の大切さが全身の大切さにつながるといった話から虫歯予防のやり方についてですね。「来てよかった」という声を聞くと嬉しいです。

3段階のシステム

医療法人なごみ会 林小児歯科こちらでは年齢別に、保護者指導中心の「にんじんクラブ」、子ども本人へと指導の中心を変化させている「キャロットジュニア」、成人のPMTC中心の「キャロットくらぶ」とリコールを分けていますが、これが増患対策にもなっているわけですね。
小児歯科の場合は最初から増患対策というのが出来ないのです。システムが崩壊してしまいますから。最初は欲張らないで少しでも長く来てもらえる患者さんを確保することに努めないといけません。私どもの「キャロットジュニア」は主人公が保護者から本人に変わるところで、本人の健康観を育成して、歯並びや歯周病に対応しています。この時期は塾通いなどで歯科医へ来ることがおざなりになりがちですが、この層を大切にすることで増患が可能になったと思います。

毎月10人増やしていくことが、1回のみの診療で終わる100人の外来患者よりも大きいのです。これで不況や近くに歯科医院が出来ても患者さんを減らさずにすむようになります。そしてスタッフも熟練させながら徐々に増やしていけるわけです。
検査に関しては、位相差顕微鏡、口臭測定、咬合力、心電図、唾液緩衝能などが可能です。またブラッシングも、背の高い子ども用と低い子ども用の2ヶ所にコーナーを設けました。

様々なこだわり

待合室も広く、プレイコーナーも設けてあって、子どもさんは楽しく診察前の時間を過ごせそうですね。

医療法人なごみ会 林小児歯科プレイコーナーでは天井を青色に塗って、青空が広がる外で遊んでいるかのような雰囲気を作りました。絵本のほかにおもちゃも用意しています。最近のおもちゃは「おもちゃが主役」で、子どもがおもちゃに遊ばされているようなものが多く見受けられるのが残念です。私どもではあくまでも「子どもが主役」で、子どもの工夫のもとにおもちゃがいろんな応え方をするものを選んでいます。それが子どもの良い発達につながると思います。
今後は学校帰りの子どもたちが宿題をしながら、順番を待てる図書室を作りたいと思っています。

院長先生はじめ、スタッフの皆さんも白衣を着ていないのですね。

白衣はやめとこうか、というぐらいの考えで、特にこだわりがあったわけではありません。
ただ子どもが触れて怪我をしないようにネームプレートは丸いものを使っています。

厚生労働省に対して

医科では小児科医の減少が問題となっています。少子化が進むこの時代にあって厚生労働省に対して一言頂けますか?

小児歯科でも保険点数の切り下げなどの問題があります。やはり健康管理についてもきちんとした評価を頂きたいと思いますね。

矯正歯科について

自費診療のほとんどは矯正による収入だと伺いましたが。

医療法人なごみ会 林小児歯科小児歯科だけですと、やはり経営的には苦しいです。自費診療はその意味では助かっていますね。
弟も歯科医で、実家のある三重県松坂市で一般歯科を開業していますので、月に一度、矯正歯科の手伝いに行っています。弟は岡山大学出身で、下野教授に教えを受けています。ですから小児歯科については私の出る幕はないですね(笑)。

今後の展開

これからの展望をお話し頂けますか?

ゼロ歳からの予防管理ではなく、マイナス1歳からの予防管理ですね。つまり妊婦さんへの指導です。生まれてくる子どものために正しい予防知識と良い口腔環境を獲得してもらいたいのです。悪阻などできつい時期ではありますが、楽に過ごしてもらえるような指導をしていきたいですね。
小児歯科や障害児歯科は、患者が子どもや障害児であることが初めにあって、その必要性に合わせて存在しているわけです。その意味では老人歯科は子どもの発達曲線を逆に見て考えるわけですから近い位置にあるといえますね。訪問診療は今後、考えていきたい分野です。
「これでOK」ということはなく、時代のニーズに合わせて常に進化する診療室でありたいと思っています。

求める歯科医師像

現在、歯科医師を求人中ですが、求める歯科医師像についてお話しください。

やはり「子どもが好き」ということに限りますね。子どもが好きであれば小児歯科については経験がなくても、こちらで指導します。
小児歯科を標榜していますが、実際は午前中は一般歯科の診療が主です。一般歯科に関してはある程度の下地は必要ですね。