歯科経営者に聴く ~第一線で活躍する院長から学ぶ~

予防ベースの歯科経営/幕張ドルフィン歯科クリニック 米山吉洋 先生

治療から予防へ--医療の大きな流れがこの予防重視へ向かっていることを否定する人はいないでしょう。歯科もその例外ではなく、メディカルより一層、予防の重要性が叫ばれています。
これまでの技術・材料偏重から、なるべく削らない治療、そして継続的な口腔管理へと意識が移っていっています。
しかし一口に予防ベースの歯科医療と言っても、予防点数の低い現状では、志だけで転換をはかることはできません。
患者さんにも色々な要望をもった方がいる以上、意識だけでは予防中心の歯科経営は困難です。
そんな中、徹底した予防重視の歯科経営を実践している幕張ドルフィン歯科クリニックの米山吉洋先生にお話を伺いました。

幕張ドルフィン歯科クリニック 米山吉洋 先生

幕張ドルフィン歯科クリニック米山吉洋 先生

治療から予防へ--医療の大きな流れがこの予防重視へ向かっていることを否定する人はいないでしょう。歯科もその例外ではなく、メディカルより一層、予防の重要性が叫ばれています。
これまでの技術・材料偏重から、なるべく削らない治療、そして継続的な口腔管理へと意識が移っていっています。
しかし一口に予防ベースの歯科医療と言っても、予防点数の低い現状では、志だけで転換をはかることはできません。
患者さんにも色々な要望をもった方がいる以上、意識だけでは予防中心の歯科経営は困難です。
そんな中、徹底した予防重視の歯科経営を実践している幕張ドルフィン歯科クリニックの米山吉洋先生にお話を伺いました。

予防中心を目指しての開業

幕張ドルフィン歯科クリニック米山先生は鶴見大学を卒業、その後保存修復学を専門に二年間の研修生活を送りました。
勤務医・分院長を経て、幕張の地に開業されたのは四年前のことでした。
前勤務先時代から山形県酒田市の熊谷崇先生を敬愛、日本ヘルスケア歯科研究会にも参加し、予防歯科の時代の到来を確信していたと言います。

「前勤務先でも『予防をしっかりやろう』という方針はあったのですが、それまで治療ベースでやってきたこともあり、なかなかシステムとしては根付きませんでした。本当に予防中心でやるなら、開業しかないと思いました」

決して狭くはない診療室ですが、ユニットは二台しか置きませんでした。「開業資金不足もあって」と言いますが、何より患者さんのプライバシーを重視したためです。
2005年3月、念願の予防専用の個室にメンテナンスユニットを設けました。(2006年度もう1台増やす予定)

「予防にお見えになった患者さんは、エアタービンの音もしないところでメンテナンスして欲しいのです。本当は治療用のユニットも完全個室にしたいところです。隣り合ったユニットで治療するのでは、プライバシーの面でも患者さんの利益になりません。
日本の歯科診療所はベルトコンベア式の工場のようで、患者さんもそれが普通だと思っています。プライバシーの確保ということが曖昧なのです。アメリカでは歯科衛生士が自分のアポイントを取るシステムがあり、治療も個室です。わたしが熊谷先生と並んで尊敬している日野原重明先生の聖路加国際病院は完全個室制です。これからは日本もそういった国際基準にのっとっていかないといけません」

しかし「歯科あまり」とも言われる時代、採算性の良いとは言えない予防を中心に据えることには、不安もあります。

「予防中心に移行する時、一時的に経営が不安定になります。熊谷先生も予防が軌道に乗るまで十年かかったそうです。
従来型の医院では、この段階で諦めてしまうところもあります。本医院も開業後二年間は赤字でした。
今は開業してすぐ採算が合う、という時代ではありません。歯科診療所の数がコンビニより多いくらいですし、患者さんも変わってきています。まずは評判を確立することです。治療技術を上げるだけではだめで、デンタルマーケティングも学ばないといけません。
しかし決して悲観する必要はありません。ますます歯科が経営的にも真剣になる時であり、ある意味チャンスでもあります。診療所数が多すぎることも、患者さんが『選べる』という点では、良いことだと思っています」

良い歯科経営のためには、歯科を離れて色々な視点を得ることが大切だと言います。

「本院は完全週休二日制です。もちろんただ休んでいるのではなく、医院を離れて違う環境で世間を見ることが重要だと思うのです。がむしゃらにやるだけではうまくいきません。
また、スタッフやわたし自身の健康管理を重視していることもあります。繊細な口腔を扱う仕事なのですから、疲れ切った状態では医療事故にもつながりかねません。そもそも、自分の健康管理もできない人間が患者さんの口腔をケアしていくことなどできません。わたしも毎年人間ドックに入っていますし、当然煙草も吸いません」

3Mix-MP法

幕張ドルフィン歯科クリニック最近は雑誌等で取り上げられ、「薬で虫歯が治るらしい」と一般の患者さんも知るところとなってきた治療方法に、3Mix-MP法があります。
3Mix-MP法とは、3種の抗生剤をペースト状にして虫歯に効かせ、従来なら多く削ったり抜髄していた歯を、過剰に削らず神経も取らずに保存できる可能性が高くなる治療法です。宮城県仙台市の宅重豊彦先生によって臨床応用化されました。
米山先生はこの3Mix-MP法にもいち早く注目されていました。

「前勤務先が導入していたこともあり、宅重先生のコースを受講して7、8年前から利用しています。歯の切削量を減らしたり神経を残したり、患者さん本意の治療法だと思っています。賛否両論あり、副作用や耐性菌ができることを指摘する声もあります。
しかしどんな薬にでも副作用はありますから、それだけで否定してしまうわけにはいきません。薬漬け医療を助長する、という批判もありますが、歯科については、これまでが削りすぎだったと言えるでしょう。
もちろん、メリット・デメリットを含めて患者さんによく説明することが第一です。薬物にアレルギーのある方などでは使えませんし、丁寧な問診が必要です。この治療はマニュアル通りに正確に実行しないと十分な効果が得られません。患部の密封が完全でないといけませんし、治療者にセンシティヴな技術が要求されます。薬の管理も大切です。温度管理をしっかりしないと、光や湿度でせっかく作った薬がだめになってしまいます」

真のエンドポイント

幕張ドルフィン歯科クリニック米山先生は、一生を通じた口腔管理の重要性を繰り返し強調されます。
「中学生の時、歯科にかかったら何も言わずに削られて、銀歯にされてしまったことがありました。とても悲しかったです。歯を削られて嬉しい人はいないでしょう。歯科ではマテリアルにばかりが注目されがちですが、天然の歯が一番なのです。
歯科の真のエンドポイントは一生の口腔の健康維持なのに、今までは代用エンドポイントとしてとりあえず治療が終了することが目指されていました。もちろん治療も大切ですが、その後の発症を抑えることにつなげていかなければなりません」

患者さんも人それぞれです。「とりあえず痛いところを何とかして欲しい」という方に無理強いすることはできません。

「今は患者さんが病院を選ぶ時代です。歯を削るテクニックはあるけれど不健康な先生、歯を残すテクニックがあり健康な先生、どちらか選ぶならわたしは後者になりたい。そうではない、という考えの人を無理矢理連れてくるわけにはいきません。
ただし、誤った考えについてはきちんと説明します。健康な歯を抜いて欲しいと言われて、その通りにするわけにはいきません。歯を失うことがアルツハイマーにもつながることがわかってきていますし、噛めないことが誤嚥性肺炎と関係しているとも言われています。説明してわかってもらえれば、予防と継続的ケアに導いていくこともできます」

目先の経営ではなく、患者さんの利益を最優先に考えることが、長期的な歯科経営につながっていきます。治療のみで歯科を利用される方に比べ、予防の為に歯科を利用される方の歯科医療費は、半分くらいに抑えられると言われています。

「歯科先進国では劇的にDMFT指数が減っているのに対し、日本はこの20年間、大きな変化がありません。予防ベースの歯科医療が確立していないからです。
スウェーデンのアクセルソン教授は、ある地域でPMTCによって虫歯や歯周病の患者数を劇的に減らしました。
以前は最も虫歯リスクの高い地域だった山形県は、現在日本で最も虫歯リスクの低い県になっています。これも熊谷先生の功績です。一人一人の歯科医療者が高い意識で診療に当たることで、予防ベースの歯科医療は実現可能なのです」

歯科衛生士の重要性

予防中心の歯科では、歯科衛生士がとても大切な役割を果たします。

「予防歯科医療が進んでいるアメリカでは、歯科衛生士の年収が約600万以上のこともあります。予防で一番大切なことをしているのは歯科衛生士です。
ところが、日本の歯科衛生士の平均勤続年数は約四年です。つまり、一生を通じてやっていける大切な仕事として位置付けられていないのです。これには、歯科衛生士を受け入れる医院側にも大きな問題があります。
高い意識をもって歯科衛生士になっても、受け皿の医院が治療ベースですと、助手的な扱いしか受けられません。予防点数の低い現状では仕方のない面もありますが、意欲のある人がいても、受け皿がないのです。
良い衛生士さんがずっと仕事をしていくためには、院長のリーダーシップと仕事の責任を持たせてあげることが必要です。生き甲斐を感じられなければ、モチベーションも高まらないでしょう」

予防ベースの治療体制作りには様々な困難がつきまといます。高い志と入念な準備、そしてスタッフ一人一人に対する細やかな配慮が決め手になります。
予防医療とは患者さんと全人的に接していく医療ですが、そこにはスタッフや自分自身をもトータルで考えていく姿勢が求められるようです。