歯科経営者に聴く - 小幡歯科医院 小幡哲夫院長

歯科経営者に聴く ~第一線で活躍する院長から学ぶ~

小幡歯科医院 小幡 哲夫 院長

池袋から西武池袋線に乗車して20分ほど、清瀬駅に近づくと明るいツートンカラーのビルが現れる。その二階に、開業して40年、2005年に移転・開業した小幡歯科医院がある。駅ホームからも望めるガラス張りの医院は明るいイエローを基調とし、落ち着いた、暖かな雰囲気を醸し出している。小幡院長は、要職を歴任しながらも気さくな人柄で多くの患者さんからの信頼を一身に受けられている。その小幡哲夫院長に医院経営についてお話を伺った。

小幡歯科医院 小幡 哲夫 院長

小幡歯科医院 小幡 哲夫 院長

プロフィール

  • 1936年 富山県滑川市出身
  • 1961年 日本大学歯学部卒業、東京歯科大歯学部入局
  • 1967年 東京歯科大歯学部助教授職を辞して、小幡歯科医院開院。
  • 2005年 現在地に移転・開業。東京歯科大非常勤講師、松本歯科大助教授、清瀬市医師会会長、多摩地区医師会連合会会長を歴任。

開業に至るまで

歯科医師を目指されたきっかけは何だったのですか?

「私の実家は医療に全く関係のないごく普通のサラリーマン家庭でした。父は県の職員で、母は教員をしていました。私自身は両親のように公務員か教員になりたいと考えていました。
私が高校生になってすぐ、父が県立病院の事務局長に異動しました。そこで父が知人と話をした際に、その知人の息子さんが歯科医師になって非常に儲かっているという話が出たそうです。それを聞いた父の強い勧めで日大の歯学部を受験することになりました。その頃は日本に歯学部が7校しかなく、倍率も高かったのですが、うまいことに試験のヤマも当たって合格できました」

日大歯学部を卒業後、東京歯科大歯学部に入局されていますね。

「当時、私は富山県が借り上げている東京の寮に住んでいましたが、そこの寮長をされていたのが東京歯科大の教授でした。同郷の誼からか、その教授に東京歯科大に入局するよう説得され、結局お世話になることになりましたが、もちろん他大学から入局したのは私1人だけでした。
 私は基礎分野を主に研究していましたので、国立第一病院(現国立国際医療センター)の細菌学教室に出向しましたが、そこで臨床を覚えました。もう時効だと思うので白状しますが、当時東京歯科大はアルバイト禁止でした。しかしお給料だけでは生活できず、夜な夜なアルバイトをせっせとこなして、あわせて治療技術を向上させていきました」

開業をお考えになられたのはいつ頃ですか?

「実は東京歯科大に入局してすぐです。当時の医局には『人間なのは教授だけ』という封建的な考えもありましたし、他大学から入局した者が教授になることはまず不可能でした。それならば開業して、一国一城の主になり、自分の思い通りの仕事をした方がいいと考えたのです。
 東京歯科大に入局して6年目に助教授に就任しましたが、数ヶ月で職を辞して、清瀬市本町にあった自宅を改装して1967年に開業しました。医師は私1人、ユニット3台にスタッフ数名のスタートです。
 友人の歯科医師たちは『あんな田舎じゃ成功しないよ』と言っていましたが、清瀬市は昔サナトリウムの町として発展してきたこともあり、医療への関心や健康に対する意識は比較的高いと思っていましたので、それほど心配はしていませんでした」

開業~移転

開業初日はいかがでしたか?

小幡歯科医院「幸いなことに初日は42人の患者さんに来ていただけました。当時は今と違い、歯科医師自体そう多くありませんし、歯科医院も同様でしたからね。確か3日目には60人を越えていたと思います。
 ところが、その後、患者さんが急激に増えて、数年もすると1日最高172人にまで達しました。現在のような予約制ではなく、来院された順番通りに診療していましたので、早い方だと朝の3~4時から医院の前に並んで待っていらっしゃいましたし、日中も通りに行列ができていました。
医師は私1人でしたので、診療が終わる頃にはもう足腰がたたなくなってしまうような毎日でした。さすがにこのままではまずいと思い、医師・スタッフを増員して一息つくことができました」




小幡歯科医院

その後、こちらに移転・開業されたのですか?

「現在の場所に来る前に別のところに一度移転しています。オワリヤ(現サティ)というショッピングセンターの敷地に義父の土地があり、等価交換でショッピングセンターの二階に自宅から医院を移転しました。
ユニットを11台に増やし、スタッフも増員して、ショッピングセンターとも順調に協同していたのですが、突然、そのショッピングセンターが閉鎖することになってしまい、さらに周辺の集客力のある店舗も撤退して、完全に人の流れが変わってしまいました」




小幡歯科医院 「どうしたものかと考えて、ちょうど駐車場として確保していた現在の場所に移転することに決めました。駅から至近でアクセスしやすいですし、患者さんが車でいらっしゃっても駐車場は確保できていますので、より便利になるだろうと考えました。また、心機一転移転・開業するなら、最先端の設備と技術を導入して、最適な治療で最大の治療効果を生みたいと思いました。
診療室は、壁にモニターや絵画をかけるよりも風景の中で電車が行きかうのを見られた方が患者さんにリラックスしていただけるだろうと、西武池袋線に面する北側をフルオープンにして、ユニット12台を全て窓際に並べて、デジタルネットワークで結んであります。作業導線とモジュールを計算して、パーテーションとキャビネットを一体化することで、診療の効率性も高めています。






小幡歯科医院 実は医院で一番力を入れたのは診療室ではなく、トイレとパウダールームです。以前から診療後に女性の患者さんがよくトイレに行かれるなぁとは思っていましたが、悲しいかな男の身ではお化粧を直されていることまでは考えが及びませんでした。
そこで特に女性の患者さんに喜んでいただこうとスペースを広くとり、ゆったりとしたデザインのパウダールームを設けました。トイレも赤ちゃんのおむつを替えられるように広くしてあります」

競合される歯科医院も多いのではありませんか?

診療方針をお聞かせください。

小幡歯科医院「現在、清瀬市内には40軒ほどの歯科医院があります。地域密着を目指して郊外で開業される方ですとか、勤務医が勤務先の鉄道沿線で開業したりと、歯科医院同士の競合は年々増えているのが現状です。もともと歯科医師は開業を前提にしていることもありますので、コンビニよりも多くの歯科医院があるのだと思います。
 ですから、世の中は『患者さんのニーズを把握した歯科医師・歯科医院が選ばれる』時代に変わっていることを自覚しないといけませんね」

どう対処されていらっしゃいますか?

「品物を買う場合ですと手にとってみたり、価格を比較したりできますが、歯科医院の場合はそういうことはできません。もし自分が患者さんだったらと考えると、やはり選択基準で一番に思い浮かぶのは『クチコミ』ですね。一度行って判断するということも考えられますが、できれば最初に行った歯科医院で全て済むようにしたい。ですから患者さんは最初にどこの歯科医院へ行こうか一所懸命考えられていると思います」

「患者さんは常に『不安』を持っています。ですからその『不安』を取り去ってあげることが大切です。例えば、たった一言でも、できるだけ言葉をかけるようにしていますし、医院の清潔さや明るさにも気を配っています。スタッフとも感じの良い、思いやりのある医院にしようと話し合って、それぞれの立場で患者さんに接しています。同じ金額を支払うのであれば、きっと親切で明るくて感じのよい医院を選ぶと思いますから、そういう医院にしようとみんなで心がけています」

スタッフの教育も重要ですね。

「まず重要なのは患者さんと十分に話をするということです。現在どういう状況なのか、どういう治療をするのかということを、できるだけ専門用語を使わずに判りやすい表現で説明するよう指導しています。それから患者さんの最も望まれている治療についてどのくらいの期間・金額がかかるのかを説明しています。患者さんの歯に対する価値観は個人差が大きいので、患者さんとじっくり話すことでそれを確認し、最適な治療計画を提示することが基本です。
接遇だけでなく、技術の向上も当然必要とされます。私どもは毎週各大学から教授をお招きして、口腔外科や補綴などについての講義をしていただいています。これだけ歯科医院が多くなったからには、『医療の質』がクローズアップされ、特に自費治療の場合は高い治療費用に見合う『質の保証』を求める患者さんが増えています。少しでも患者さんの満足度をあげられるよう我々は努力しつづける必要があります。
 一方で、アメリカのように、治療中心の医療から予防中心の医療にシフトしていくことになることも考慮して、学校や保健所など、地域ぐるみの協力体制もつくらなければならないと思います」

開業に向けてのアドバイス

「私は生涯一医師として患者さんがいる限り治療を続けいくつもりですが、勤務医でも開業医でも、まずはとにかく歯科医師を続けること、開業するのであれば、患者さんが何を求めているのか、何をしてほしいのかを見極め、適切な治療をして、満足してお帰りいただくことが大切だと思います」

プライベート

プライベートの時間はどんなことをして過ごしていらっしゃいますか。

子どもがまだ7カ月なので、帰宅して子どもが寝るまでの間は一緒に遊んでいます。 活発に動くようになってきたので、目が離せず、大変ですね(笑)。休みの日には家族で出かけることが多いです。箱根などで山を眺めたり、ドライブを楽しんでいます。

【タイムスケジュール】

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