歯科経営者に聴く - きぬた歯科 羅田久和理事長

歯科経営者に聴く ~第一線で活躍する院長から学ぶ~

医療法人社団 きぬた会 神奈川インプラントセンター きぬた歯科 羅田 久和 理事長

横浜市郊外の鴨居駅からほどなく、インプラント治療で神奈川県No.1を誇る医療法人社団きぬた会 神奈川インプラントセンター・きぬた歯科がある。年間症例実績2,000本(H22年)という圧倒的な数字を支えるのは、羅田久和理事長を長とした12名のドクターたちだ。そのドクターたちは全員が認定医という、まさにインプラントのエキスパート集団と称されるにふさわしい。研ぎ澄まされた高度なスキル。いいえ、羅田理事長が熱く語ったのは、今後も揺るぎない磐石の基礎とも言える、ホスピタリティ精神と教育システムであった。取材の最後に「きちんとした歯科医師を育てたくてしょうがないんですよ!」そう呟かれたその言葉に、天職ですときっぱりおっしゃった、羅田理事長の思いがこもっていた。

医療法人社団 きぬた会 神奈川インプラントセンター きぬた歯科 羅田久和 理事長

医療法人社団 きぬた会 神奈川インプラントセンター きぬた歯科 羅田 久和 理事長

プロフィール

  • 1964年 栃木県生まれ
  • 1989年 日本歯科大学卒業
  • 1989年 銀座藤見歯科医院 勤務
  • 1992年 きぬた歯科 開業
  • 1996年 インプラントインストラクター認定
  • 1998年 神奈川インプラントセンター設立
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【開業に至るまで】

歯科医師を目指されたきっかけについて教えてください。

私自身の歯が非常に悪く、幼少の頃から歯科医院に縁が深かったことから始まります。今でも幼稚園の年少時のことを鮮明に思いだします。眠れないほどの痛みがあって行ったのに、そこでさらに辛い思いをさせられた。以来、歯科医師に対して良い印象は当然持てませんでしたが、中学生の時に妹の付き添いで出会った先生が、ガラリと変えてくれました。私は、普通の方より歯科医院にかかわる時間が多かったので、幼稚園児にして「歯は大事なんだな」と思い知っていましたから、今ではごく当たり前のインフォームドコンセントを、実に患者さんの立場で親身にやられている。その様子を見て、このような大人になりたい、このような歯科医師になりたいと思わせてくれたのです。

大学時代はどのように過ごされたのでしょうか。

勉強に励んだことはもちろん、空手部で主将を務める文武両道をこなす学生でした。武道は好きで中学時代も柔道部に所属し、県大会の個人戦で準優勝したこともあります。当時は柔道でオリンピック出場が夢でしたね。しかし空手部では苦難の日々でした。後輩時代には先輩たちから良くも悪くもかわいがられました。空手部独特の体質ですが、とにかく理不尽なことを言われるんです。そういう人たちの気持ちを捉えながら、上手な人間関係の築き方を学びましたね。厳しい稽古を積むことで体力面も鍛えられますし、本当にやって良かったと思います。今では先輩方みんなにとても感謝しています。

勤務先を選ばれた理由をお聞かせください。

勤務先を選ぶにあたっては、地方を含め10軒ぐらい見学に行きました。ところが診療内容に偏りのある歯科医院ばかりだったんです。自費のみだとか、小児だけとか、口外に特化してるとか、私が目指していたのは、お年寄りから小さい子どもまで、お金持ちからそうではない方まで、誰に対しても最善をつくせる歯科医師でしたので、さまざまな年齢層や所得層の人たちをきちんと受け入れる、そして開業まで一軒で済む医院を探していました。
それが先輩から聞いた銀座藤見歯科医院でした。見学に行くと、院長が実に患者さんに対してよく説明し、その患者さんもよく納得したうえで治療を始めていらっしゃったこと、医院にかけるお金にしても惜しみがないという印象を受けたんです。それに銀座という立地でありながらしっかり保険診療をしている。銀座といってもお金のある人だけがいる訳ではありません。そういう方たちにも最善の治療をしているのを見て、「この先生なら信頼できる」と思ったんです。

3年で開業と言う目標を持っていられたのでしょうか。

実を言うと、自分でこの場所を見つけて開業、となった訳ではありません。院長に「お前は人に縛られる人間じゃない。お前だったら絶対うまくいくから。ここでどうだ」と言われたんです。私のことが嫌いだったのかな(笑)。その院長自身も3年で開業したそうです。私は当時、いわゆる稼ぎの良いドクターでした。何年も上の先輩医師より紹介患者も自費診療の金額も多かったですから。自分なりに達成感がありましたし、もっと多くの患者さんと接したい、そう考えるとやはり開業するのは夢でしたね。

3年という数字は院長の絶対条件でしたし、やはり私も3年勤めなければ自分のやった治療の結果が見えてこないと思うんです。一度開業して2年後に違う場所で開業する、という訳にはいきません。現実に、何軒も渡り歩いて開業していい結果を出したというケースはほとんど聞いたことがないですね。

銀座の都市型から鴨居の郊外型を勧められた時の心境はいかがでしたか。

正直なところ、「ここ?」という感じはありましたね(笑)。でも、すぐそこを流れる川を見たときに栃木県の雰囲気に似ているなと懐かしさを覚えました。実際は横浜なのでここから山下公園なんてすぐなんです。
私が目指すのは、いろんな年齢層の方たちに満足いただける治療を提供できる場所でした。自費診療の患者さんが多くなくて構わない、保険診療の患者さんでいいと思っていましたので、都市型とか郊外型とかはあまり関係ありませんでした。

実際に患者さんのデンタルIQに格差はございましたか。

意外にという言い方は語弊があるかもしれません。しかし実際にデンタルIQはとても高いんです。銀座の医院で接していたときの患者さんたちと差がある訳でもなく、そこでの治療スタイルをこちらに持ってきたことを、ものすごく喜ばれました。

保険診療は素早く治療して素早く終わらす方が点数になります。ところが1回の根管治療でも何回も時間をかけて正確に行うことを受け入れてくれる人たちなんです。その理由の一つが患者さんとのコミュニケーションでしょう。どんなにいい治療をしてもコミュニケーションを取れなければ、患者さんは受け入れてもらえませんから。

実弟 泰和先生との関係や連携にも興味がございます。

私の医院も弟の医院も医療法人社団きぬた会 きぬた歯科という名前ですが、経営はまったく別です。とは言え兄弟ですから助け合いますし、これまでも彼は私に、私も彼に感謝するような、互いに良い影響を与え合っています。

私は弟に対して、サービス業として歯科医師のあり方のすべてを教えました。銀座時代の医院の影響もありますが、私は持って生まれてサービス業や医療に対して非常にデリケートな性分なんです。どういうことをされると気持ちが良い、逆にどうされると不快かということに敏感なんです。
患者さんに対しての立ち位置から距離、視線の合わせ方まで細かく彼に教えました。たとえばスカートを履いた患者さんが荷物を下ろすとき、ユニットから立ち上がるときに絶対ここに立ってはいけない、というように。

あるいは治療スタンスにしろ、たとえば抜歯が必要なケースに至った場合どうするか。患者さんにとって歯は簡単に諦められるものではありません。いろいろ努力した結果、互いに諦めるしかないというスタンスで治療をする、そういう接し方の大切さを教えました。そうすることで自分のやりたい、一番理想の治療を患者さんは受け入れるようになってくれるんです。歯科医師というのはどういうものか、私から学んだことを感謝してると彼に言ってもらえました。

私が弟に感謝しているのは、インプラントの患者さんを増やすことができたことです。インプラントは彼より先に勉強はしていたのですが、義歯に自信があったがためにその良さをあまり理解していなかったのです。彼はインプラントの良さを早くから認識していましたので、開業してインプラントを前面に押し出すことで患者さんを多く集め、相当収入を増やしました。収入が増える分だけ医院に投資ができます。さまざまな機材を揃えるのを見て、「兄貴もやれよ」という弟にインプラントを学んで患者さんを増やす結果に至りました。

【経営理念】

患者さんから得られた利益を患者さんに還元することです。利益から医院の改装費用や新しい機材や部材の購入費用に充てています。材料など新しいものが出るとすぐ手に入れたくなるんですよ。それが趣味でもあり、遣り甲斐でもあります。食べるのに困らなければと思っている程度ですので、利益を自分のプライベートに充てようという発想はありません。

【診療方針】

歯科医師になったきっかけでもお話しましたが、私自身の歯が非常に悪く、1軒の歯科医院にとどまることなく、いろんな歯科医院に通った経験があるのです。なぜそうなったかと言いますと、親も私も一軒一軒の歯医者に不満をもっていたんです。たとえば患者さんをずっと待たせたままスタッフと長話をする、異常に料金が高い、痛みが全然取れない。あるいは痛くて診てもらいに行ったのに全然違う治療をされた。親が義歯を入れていたんですが、義歯が全然合わないなど、どういう時に、どういう風に患者さんは不満をもつのかということが、親や親戚に歯科関係者がいない私は身をもって体験したんです。 ですので、患者さんの意見を尊重し、最善の治療を尽くすための内容であれば、たとえそれが遠回りであっても患者さんは納得し満足されます。一番大事なのは、患者さんの立場にたてる歯科医師かどうかなのであり、インプラントはあくまで歯科治療の一つの手段に過ぎません。当院が患者さんに支持されている理由はここです。インプラントを先走って考える歯科医師に見られたくはありません。 患者さんの満足が自分たちの遣り甲斐です。歯科医療はサービス業の一環だということを今後も徹底していきたいと思っています。サービス業というと眉をひそめる先生方もいらっしゃるかもしれませんが、真のホスピタリティを追求するうえで、私がお話するサービス業という認識は重要だと考えています。
そしてそこには、安全という一番大事なものがあることを忘れてはなりません。

神奈川県№1の神奈川インプラントセンター理事長から、若き歯科医師へのメッセージをお願いいたします。

インプラントを学ぶうえで目安になるのは、その病院がどのくらいの症例数があるかですね。月に2~3症例じゃ全然勉強になりません。せめて2~30症例あるべきでしょう。また、CTが導入されているかも判断基準の一つです。 いい加減にインプラントを覚えてしまうと収入面の問題だけでなく、患者さんのためにもなりません。そうなると実際自分は何のために社会に貢献してるか、自分の価値をも見失いかねません。インプラントは歯科医師として何年経ったから勉強するのではなく、他の勉強と一緒に学ぶべきものです。それができる環境のある医院に就職されることをお勧めします。 ただ、インプラントなら儲かる。そんなことばかり考える人は絶対にうまくいきません。虫歯の治療一つにせよ、その治療がなぜ必要なのかしっかり説明できる、あるいは神経の治療でも、どれだけ患者さんがストレスを感じているかをわかったうえで説明できるかが、将来インプラントの患者さんを獲得できる、患者さんを増やせる歯科医師になれるのだと思います。それを履き違えて、この医院はインプラントの症例が多いから、自分がしたいインプラントだけを見たいというのは、将来に全くつながりません。 当院のレセプト数は、横浜の一般開業医院の中でも1位か2位を誇りますし、大学病院すら超えたこともあります。それだけ多くのことを学べる環境であり、当院で学べば他院を見なくても開業できるような体制にしています。絶対的な自信をもっています。

患者さんの立場にたつというのは、頭で理解できても行動は難しそうです。

患者さんに対してどんなスタンスを取る歯科医師になるのかは、大学から解放された後の1年から2年間、つまり最初に勤める所で一生が決まります。この間にどれだけ辛い思いをし、どれだけしっかりやったかで歯科医師としての人生が変わるのではないでしょうか。むしろ未経験のドクターの方が、あれこれ考えることなく患者さんの立場にたった治療が進めやすいかもしれません。 歯の悪い自分にとって歯科医師という職業は天職です。実は私の口には6本のインプラント入っていますが、最初は自分で入れたんです。スタッフ3人の手を借りつつ、鏡を見ながら切る・開く・削る・埋める、最後に縫ってハイ終わりと。まるでブラックジャックのように(笑)。 実際に噛んでみたときは衝撃的でした。インプラントはこんなにも素晴らしいものかと。そして義歯の心地の悪さを痛感したものです。インプラントは確かに高額ですが、それだけの価値を実感したことで、自信を持って患者さんに勧めることができました。

【増患対策】

看板に絶大なる自信が表現されていると感じました。

ありがとうございます。ただ、なぜうちにインプラントの患者さんが多いのか。当然、ホームページや看板を含め、多くの宣伝広告を出していますが、それだけではありません。保険の患者さんを大事にして患者さんと信頼関係を結んでいるからこそです。欠損部があった際にぜひ先生にインプラントをしてもらいたいと言ってくれる患者さんがすごく多いがために、インプラントの症例数が多いんです。

簡単にインフォームドコンセントが重要だと言いますが、インプラントに対して、20年前のイメージのままでいる方はまだまだいらっしゃいます。
その不安を取り除くため、CT撮影やクリーンルームの完備、10年保証という安心体制を整えています。ホームページや無料講演会も充実させていますし、ご興味のある方には資料送付やオンライン相談の受付も行っています。
また、遠方の患者さんには送迎や宿泊サポートといったサポートプログラムも用意して安心と安全を正確にお伝えしていることでしょうか。

【スタッフ教育】

開業当初は妻と二人での診療でした。それが患者さんへより良い治療を提供するためには、診療科目ごとにエキスパートが必要と考え、徐々にドクターを増やしていったんです。ドクターの人数が揃うとそれだけで武器になります。メーカー側も大事にしてくれますから。当院にはスリーエム社をはじめ、ノーベルバイオケア社やストローマン社のエキスパートが来て、最新の治療方法やインプラントの情報をいち早く教えてくれます。皆で勉強し、皆で新しい知識を入れるというのは、当院が常に成長を続けるドクター集団であり、医院を発展させる原動力につながっていくのです。

重複してしまいますが、保険診療もインプラントも同時に教育していきます。新人ドクターには徹底してインプラントにつかせ、先輩たちがどのように治療しているのかオペの現場に立ち合わせます。本を読むだけで学べるものではありませんし、体感しながら知識を身につけた方が、早く・深く理解できるものです。
大学では学問を教えてもらってきているのですから、治療の実践と人対人の接し方をしっかり教育しています。

本院とインプラントセンターと、ドクターが学べる環境は充実していますね。

img src="img/110101_085-09.jpg" class="left">そうですね。両方あることでスタートを同じくして、全部一緒に学んでいくことが可能です。大変ですが、若いときの苦労は後々必ず役に立ちます。年取ってからの苦労は苦悩や苦痛でしかありません。石にかじりついてでも頑張って欲しいものです。

12名のドクター全員が認定医とは驚きました。

当院では必ず新卒の段階から研修を受けさせ、患者さんの有無に関わらずインプラントの勉強を徹底してやらせます。そうもしなければ、これだけいい治療を自分の患者さんに勧められません。患者さんを見つけられるかはさておき、インプラントの技術は当然必要ですから。5年経てばノーベルバイオケア社とストローマン社の世界の2大メーカーから認定状が送られます。

患者さんが望めば新卒からでもインプラントはやらせます。ベテランの先生が付き、一緒に治療にあたるのでミスはありません。何年目だからインプラントができるというより、歯科医師にとって患者さんと信頼関係を結べる、支持されるということが何よりも大事ですから。その一方で何年経ってもインプラントの症例のない先生も中にはいます。

インプラントに偏るドクターは要りません。患者さんは決してインプラントがすべてという訳ではない。私がドクターたちに徹底して教えるのは、遣り甲斐を感じるようになると、仕事ではなく趣味として考えられるということです。

【今後の展開】

もうじき50歳を迎えますので、今後の展開はいろいろと構想中です。その一つが、きぬた歯科のブランドで協力し合って互いに伸びていけるような暖簾分けのシステムです。治療のクオリティを維持するため、当院での研修を受けていただきます。それで開業して失敗することはないでしょうし、世の中のためになると思います。また、皆で勉強していきたいですし、宣伝広告も一緒に出すことで経費削減にもつながります。患者さんが転居することになった場合も、当院の関連医院として同じクオリティの医院を紹介することもできますから、3者それぞれにメリットがあるわけです。私としては、開業を望むドクターに「じゃあ頑張れよ」といって送り出すだけでは寂しいんです。

【開業に向けてのアドバイス】

開業に向けてのアドバイスをお願いします。

開業する意志があるならば、そのまま開業まで学べる実力のある医院選びが大切です。そしてその勤めた医院にじっくり腰を据えて働くべきです。そして何度も言うようですが、歯科医師は患者さんの立場で患者さんの気持ちになって治療するものと、認識しているドクターほどうまくいくと思います。

【プライベート】

いいクルマに乗りたいとか、美味しいものを食べたいという欲求がないんですよ。お酒も飲めないので、遊びに時間やお金を費やすということがあまりないんです。ですので休日も講習会やセミナーに参加して自分のスキルアップのために過ごしています。

【タイムスケジュール】