歯科経営者に聴く ~第一線で活躍する院長から学ぶ~

医療法人社団 晋和会 市川矯正歯科医院・市川小児歯科医院 村松 裕之 理事長

JR八王子駅南口より徒歩3分、医療法人社団 晋和会 市川矯正歯科医院は、市川和博会長が1979年5月に開院した31年の長い歴史と実績を持つクリニックである。「一般」「小児」「矯正」が連携し、地域に密着し絶大なる信頼を受けている。
法人の理事長職は世襲、あるいは身内のドクターが継ぐ傾向にあるが、入職時から将来の継承者として会長の目に留まり、昨年めでたく理事長に就任された村松裕之理事長にお話を伺った。
その重責を担いつつ、医療の進歩や患者のニーズ、世の中の動向も加味しながら引継いだ法人運営に意欲的に取り組んでいる。ただ、そこに気負いはなく20数年患者と真直ぐに向き合ってきた真摯な心と尊敬する会長への思いが伝わってきた。「矯正治療は草花を育てるのに似ているんです。」と、笑顔で穏やかに語る理事長のお人柄が、院内に足を踏み入れた瞬間から漂ってきた。

医療法人社団 晋和会 市川矯正歯科医院・市川小児歯科医院 村松裕之 理事長

医療法人社団 晋和会 市川矯正歯科医院・市川小児歯科医院 村松 裕之 理事長

プロフィール

  • 1959年 東京都生まれ
  • 1984年 日本大学歯学部卒業
  • 1984年 1988年1988年
  • 1988年 歯学博士取得 生理学教室兼任講師
  • 1988年 (医)晋和会 市川矯正歯科医院入職
  • 1990年 同法人 理事・院長就任
  • 2009年 同法人 理事長就任
  • 【所属学会・資格】
  • 日本矯正歯科学会
    認定専門医、認定医
  • 東海大学医学部形成外科
    非常勤医員
  • 日本矯正歯科学会
  • 日本臨床矯正歯科学会
  • 日本小児歯科学会
  • 日本口蓋裂学会ほか会員
  • American Association of Orthodontists
  • World Federation of Orthodontists
  • 【研究分野】
  • 口唇口蓋裂治療
  • 外科矯正治療
  • 筋機能療法
  • 東洋医学
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【理事長就任に至るまで】

歯科医師を目指されたきっかけを教えてください。

実は2階にある一般歯科の関根先生とは親戚関係なんです。2歳上の兄貴みたいな存在で、昔は一緒に暮らしていた時代もあり、その彼が歯科医師を目指していたときに「じゃあ一緒にやろうよ」となったのがそもそものきっかけです。この医院は、私が入職したときは北口の三崎町にあったのですが、勤務して2年目に一般歯科、小児歯科、矯正歯科を併設した歯科医院として中町に移転し、その時の一般歯科は他の先生だったのですがお辞めになって、そこに関根先生が移ってきました。歯学部入学を果たしたものの、実際に彼と一緒に働けるとは思ってもみませんでしたね。更に2005年5月に現在の子安町に一緒に移転しました。
それと、子どもの頃に矯正治療で苦労した経験とか、もの作りへの興味があった、ということの総合的なきっかけになります。

大学時代はどのような学生生活でしたか。

まぁ、普通の学生だったと思います。試験前にだけ勉強するような(笑)。いずれ嫌でも歯科の仕事をする訳ですから、学生時代にしかできないことをしてみたいと思ったので、部活やアルバイトに一生懸命でした。陸上競技部に所属し、短距離をやっていました。短距離選手というと個人競技で自分との闘いであり、目標に対して達成感が得られるスポーツでありながら、陸上競技部という組織の一員ですから先輩や後輩との人間関係を築く、個人の努力とチームワーク力は現在に通じるものがありますね。
アルバイトは喫茶店や建築現場も体験しました。喫茶店ではどうすればお客様に喜んでもらえるだろうか、建築現場ではどうすれば職人さんがスムーズな仕事運びをできるだろうかと考えながら仕事をしました。当時は大したこととは思っていなかったことですが、これらの経験も下地となって、今に役立っているんだなと思います。若い頃に良い経験ができたと思っています。

歯科矯正学を専攻されたのは苦労されたご自身の体験からなのですね。

そうですね。私の口の中というのは失敗だらけなんです。ひどい治療をされましたし、自分もいい患者ではありませんでしたから、矯正治療もうまくいきませんでした。大学のときに矯正の手術を受けたりしたので、自然と矯正を選んでいました。自分自身が医師としてしっかり技術を身に付け、患者さんに満足を与えられる矯正をしたい。そんな思いでしたね。

こちらの医院に勤務された経緯をお聞かせください。

市川が大学の医局の先輩で、開業して10年少々のころに誘われました。先々のことをいろいろ考える先生なので、「将来は君がやればいい」と言われたんです。20年前から継承することを考えていたのですね。やはり、継承するにはそれだけ時間がかかると思っていたのでしょう。医院のすべてを知り、スタッフはもちろん、患者さんそして地域にも認知されてようやく継承したと言えますからね。

次期理事長候補でというご入職にプレッシャーや回避を考えたことはございますか。

プレッシャーとかは特にありませんでしたが、診療技術の向上は当然ですし、何より患者さんから信頼を得られなければなりません。また、院内の仕事にとどまらず地域の顔を保つ、つまり自他ともに「八王子ならこの医院」であるために、そして対外的にもここの理事長にふさわしい人間になろうと努力はしてきました。
自分で開業しようという考えは一切ありませんでした。周囲からは開業してみればという話もありましたが、私はこの医院で診療していくと思っていましたし、外にもそのようにPRもしていましたから。自分が診ている患者さんを投げ出して、開業しようとはまったく考えも及びませんでしたからね。

何より市川には、政治的なことから行政や歯科医師会に対することやら、運営や人との接し方、本当に多くのことを教えていただきました。今の自分があるのは先生のお陰ですし、本当に感謝しています。市川との出会いは、私の人生における最高の出会いだと思っています。まだまだですが遣り甲斐があります。

組織を束ねる難しさを実感されている真っ只中でしょうか。

組織はすべて人で成り立つものです。どういう采配をするか、人心掌握が一番難しいところですね。理事長という立場になると、自分が見なくてはならない守備範囲がより広がります。運営会議でも主導していかなければなりませんし、問題や課題の把握と解決、もっとしなければいけないと思っている最中です。ドクター、衛生士の各トップ、人生経験や歯科以外の仕事の経験が長い事務長のサポート体制で、さらに組織構築を強化していきたいと思っています。

【経営理念】

市川がこの地域で安心してかかれる歯科医院を作りたいという理念のもとに設立された医院です。
「技術とコミュニケーションの最高峰を実現する」という理念を引き継ぎながら、医療の流れと患者さんのニーズに合わせてゆくことに尽きます。

【診療方針】

矯正治療はいわゆる緊急性のある治療ではないんですね。インターネットで情報が流布している時代でもありますし、患者さんが希望する治療の方向性は実に様々です。だからこそ、患者さんのニーズを上手にくみ取って治療することを重視しています。矯正というのは一般的な教育ではゴールは一つなんです。画一的なゴールになってしまうのではなく、柔軟な対応をしていきたいと考えています。

オーラルエコロジーを維持・向上して、患者さんの口の中を健康に保つことと言うコンセプトで、予防やメンテナンスにも気を抜くことはありません。独立した予防ルームや歯磨きをし易い作りにもなっています。この広い待合室が土曜日にもなると座れない程の患者さんで溢れてしまいます。その様な中でも、お一人おひとりに丁寧な指導を心がけています。

非担当制を特色にされていることが意外に思ったのですが...

矯正の場合、治療方針が決まっていれば、ひとつの目で追わなければならない特別な時期などを除いては、方針に沿って治療をしていくことが可能です。基本的に我々の中では意志の統一ができていますし、ドクター全員が専門の教育を受けていて、独立しても仕事が出来るレベルなのでこの体制が可能になっています。

非担当制にする大きなメリットは、一人のドクターでは気づかないことを、他のドクターが「これは大丈夫ですか?」とフォロー出来る点にあります。

患者さんによっては一人のドクターに診てもらいたい、ちょっとあのドクターとは相性が悪いなどのご要望がありますので、それには勿論お応えしています。
総合的に考えると、患者さんが何かに不満や疑問を持たれても、わざわざ他の医院を探す手間もなくクリニック内で解決できるということになります。院内でセカンドオピニオンを受けられる体制でもある訳です。

形成外科とのタイアップもありますね。

はい。地域に根ざした治療が当院の果たすべき役割ですから。設立当初より東海大学病院の形成外科とタイアップして口唇口蓋裂の治療に取り組んでいます。もともと500人に一人の割合で生まれるため、この地域だけでも出生数が4,500あるうちの10人弱は市内で生まれている計算になります。患者さんは、産婦人科から大学病院に紹介され、そこから当院に紹介という流れです。口唇口蓋裂治療は難しいとされていますが、技術もかなり向上し、手術もうまくなっているので、見た目には分からないくらいまでになりました。

ぜひ矯正治療の主流や今後の方向性をお聞きしたいです。

矯正治療の主流で言えば、「動きがいい、歯の動きが早い、痛みが少ない、なるべく抜かない」が当院も含め、どの医院でも基本に据えていますね。「見えない」タイプなら裏側、あるいはマウスピース矯正が挙げられます。流行っているという以前に、良い治療法だと思います。

最近ではインプラント矯正をよく耳にすると思いますが、もう新しさはなくなってきているかもしれませんね。あとはスピード矯正です。時間がかかるという矯正治療のネックを改善する治療方法で、今後クローズアップされていくと思います。ただ、手術に近い処置になるので、技術的な面や環境を整えたりとハードルが高いんです。費用の面でも患者さんに敬遠されるものでしたが、それでも今後の普及は見込んでいます。私自身も普及させたいと思い、患者さんの負担を軽減する装置や静脈内鎮静を行う環境を整えました。寝ている間に2時間ぐらいでできます。この施術では外科や麻酔科の先生を招いて行っています。

【増患対策】

実績も豊富で地域にもしっかり根ざしていらっしゃる、増患対策の必要はなさそうですね。

いえ、そんなことはないですよ! 昔から患者さんを紹介してくださっている先生方もだんだんご高齢になりリタイアされるなど、お子さん方を診る先生も若い先生になって世代交代の時期を迎えています。私は歯科医師会で地域の会長も務めましたから、地域の会員の先生は全員知っているのですが、会員ではない先生方とどう接触していくかを日々考えています。
また、ホームページを見て来られる患者さんも多いですね。ここの一般歯科、小児歯科からの紹介率は3割弱とさほど高くないです。患者さん全体の約6割は成人と言うこともあるので、やはりホームページをよく見られていると思います。

患者さんからの紹介というケースもありますし、「患者さんからの声」をいただいて、皆さんに生の声を読んでいただくこともしています。
矯正治療は草花を育てるのに似ているんです。花なんか植えたばかりのときはまだ貧相だったのに、長い時間手をかけるだけ美しくなっていきますよね。患者さんの治療が終わったときに見せる笑顔は、私にとって何にも代えがたいものです。そんな思いが患者さんに伝えられることも大事なことだと思っています。

子どもの数が減るなか、小児専門は大変ではないでしょうか。

確かに子どもの数は減っています。とくに中心部なので少ないと思いますが、小児歯科専門となるとこの八王子でもここの一軒のみですから、わざわざお越しくださる患者さんも多いです。
一般歯科から多少治療困難なお子さんを紹介されるケースもあります。
小児歯科の治療自体は子どもがおとなしくしていればさほど難しくないんです。その分子どもをうまくコントロールでき、親を含めてお子さんの歯科的問題点を全人的に幅広く勉強していく体制が、院内にあるかが大切です。ですから小児専門という信頼性が浸透されていると思います。

【スタッフ教育】

基本的にはスタッフ内で行う形をとっています。年次的な計画に基づき進めていきますが、最初のコンセプトやシステム的なところは私が行い、技術的な部分や学会発表など、勉強レベルの話は、スタッフの中で発表していきます。段取りや細かな日常業務についてはチーフ衛生士が行います。個々にはマニュアルがありますが、総合的なマニュアルは特に作っていません。

【今後の展開】

分院を出すようなことは考えていません。この医院をより深く、永続していく方向でいます。私も将来は、市川のように後継者を育て継承するつもりでいます。

【開業に向けてのアドバイス】

矯正医として患者さんに専門的な話をするのは当然です。しかし患者さんが抱える問題は、実は不正咬合以外であることが多いんです。その問題点をいかに把握できるかが矯正治療のうえで大切で、歯科の全般的な知識がないとなかなか開業しても難しいのではないでしょうか。多少でも一般歯科診療を経験する、小児歯科的なことを知識として身に付ける、あとは地域性を知る、そういう矯正専門分野以外のことを意識して身に付けたほうが良いと思います。

矯正治療そのものは実は単純なものです。技術面での上手・下手はありますが、仕事に慣れてしまえば5~6年すれば大体身に付いていくものです。それよりも歯科的に限らず全身的な問題を抱えている場合がありますので、そういうことを意識していないとみえてこない部分があります。患者さんの個々のニーズに応えていくことも難しいでしょう。

新規で矯正専門としての開業は難しいかもしれませんね。資金調達が困難になっていますから。矯正はランニングが1~2年はかかってしまいます。それまで持ち応えられるかというのが重要な点ですね。私が継承したように、これからは矯正専門の先生がリタイアする医院を継承されるのも良い道だと思います。

【プライベート】

趣味はいろいろあります。写真撮影や山歩きなど自然と触れるのが好きですね。物静かというより、どちらかといえばアウトドア派なんです。趣味に没頭する時間がストレス解消になるのでしょう。普段から朝5時半に起床して23時半には就寝と、健康的な生活を送っています。これは昔も今も変わりません。子どもの頃から朝型タイプで、夜になると眠くなるということは、友人たちは皆知っています(笑)。

【タイムスケジュール】